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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第3章 異世界勇者到来
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第48話 新しい講師 ルーク先生

「よーし、これから特別講師を紹介する。」

次の日、俺たちが一番に言われたのはその言葉だった。

そしてその言葉の後直ぐに1人の男が現れる。


「僕はルークと言います。よろしくお願いします。」

ルークと名乗った男は軽く頭を下げる。

年齢は自分と同じくらいだろうか?俺もそれにつられて頭を下げる。


「昨日も言ったとおり俺だけじゃ変な癖がつきそうだからな。実力は確かだから安心してくれていいぞ。」

ヴェルさんがそう言った事で俺はルークさんを注視した。彼が実力を保証するのだ。きっとヴェルさんやイルさんと似た何かをもったいはずと思ったからだ。

しかしルークさんからは彼らと似たものなど感じられない。だか一つ言える事は見ただけでわかるほど強いと言う事だ。

俺のその視線に気づいたのだろう。

彼は苦笑いを浮かべながら、


「そんなに期待されても困りますよ。僕なんかヴェルさんやイルさんには到底叶いませんから。」


と言った。謙遜もいい所である。

俺が見てもはっきりと強者と分かるくらいだ。きっと想像もつかないような力を持っているのだろう。

そう思い俺はひとつ頼みをしてみる。


「あの、ルークさん。俺と1対1で手合わせをしてくれませんか?」

2対1でもよかったのだが、実力差をはっきりと読み取るために1対1を希望した。

その頼みを受けた彼は苦笑いの表情のまま、


「ええ、僕でよければ構いませんよ。」

と俺の頼みを快諾してくれた。

そうと決まれば早速手合わせだ。俺は腰の剣に手をかけた。

それと同じくしてルークさんも持ってきていた剣を鞘から抜き放つ。


剣は普通のものだな。何か特別なものとというわけではなさそうだ。


それに対して俺の武器は少し特別なものだ。光の精霊の加護を受けている。

勇者にはこれがふさわしい、そう言われて俺を召喚した人が渡してきた一品だ。


武器の上ではこちらが圧倒的に有利。それをどう跳ね除けるかが気になった。


「では、行きます!!」

俺はそう宣言して間合いを詰める。

よくよく考えてみれば、わざわざ宣言する必要はなかったのだが、これは気持ちの問題だ。


俺は素早く距離を詰め、そしてそのまま切り上げるように剣を振るう。全力の一撃ではなく、繋げることを前提とした動きだ。

ルークさんは間違いなく手練れ、初撃はまず当たらないだろう。

そう思ったからだ。


しかし、その予想は当たりとも外れたも取れなかった。

ルークさんは手に持つ剣を少しだけ傾けて俺の剣を受ける。

それだけで俺の剣は目標を捉えずに明後日の方向に向かう。綺麗に受け流されたみたいだ。


そしてルークさんは俺に向かって軽く剣を振ろうとしている。訓練のため、軽く峰打ちをするつもりなのだろう。


このままでは不味い。剣を流され体勢を崩された俺は強引に剣を引き戻し、ルークさんの剣を受ける。

そして、2つの剣が重なり合い金属同士がぶつかり合う甲高い音が聞こえる。


俺はルークさんの剣を受け止めた衝撃を利用して後ろに飛び、距離をとった。

武器の質では圧倒的にこちらの方が有利なはずだが、技量で完全に負けてしまっている。

いかに強力な武器でも、その力を完全に発揮できなければ意味がない。

彼は俺にそう教えてくれているみたいだ。


そう思うのもつかの間、今度は向こうから攻めてくる。

どうやら先程こちらが行ったものと同じ切り上げのようだ。

これは彼からの挑戦状だろう。

俺はそれに応えるべく、受け流しの体勢をとる。


そして切り上げが放たれる。

俺はそれを受け流す、、、、事はできなかった。

両者の剣が触れた瞬間、受け流す間も無く俺の剣は宙に打ち上げられていた。


そして呆気にとられている俺の首元に剣が突きつけられる。


わかってはいたがここまで差があるものなんだな。

それを理解した俺は口にする。

「俺の負けです。全く歯が立ちませんでした。」


降参宣言を受け入れてくれたのだろう。直ぐにルークさんは、突きつけていた剣を納める。

完敗だな。


「どうだった?」


勝負が終わったのを確認したヴェルさんがルークさんに話しかけている。

十中八九、俺の事がどうだったかということだろう。

それに対しルークさんは、

「いやー、今はまだ僕の方が強いですが、鍛えれば直ぐ追い抜かれるんじゃないですか?」

と俺の事を評価する。それはお世辞だったとかもしれない。

だが、この言葉は素直に嬉しかった。

そうやって感傷に浸ろうとするがそれは叶わなかった。

とうとう痺れを切らしたダインが入ってくる。


「それでは、早く今日の修行を始めましょう!」

先程の俺たちを見て触発されたのかその言葉はどこか興奮気味だ。

「ああ、そうだな。今日はルーク相手に戦ってもらう。俺はその間、ダメなところを逐一言っていくからそのつもりでな。」

今日はルークさんと試合をするのか。

俺は少し安心する。というのも、昨日のヴェルさんとの試合はすべての攻撃が済んでのところで躱されるだけで、どうにもやりにくかった。


しかしルークさんはさっきの戦いから察するに攻撃をその剣で受けるタイプの戦い方をするみたいだからだ。

全く当たらないのと、受け流されはするが一応当たるのでは気の持ちようが違うだろう。そう思ったからだ。


「では、始めましょうか。」


ルークさんが再び剣を構えて距離を取る。


「はい!よろしくお願いします。」


俺も先程と同じくらいの距離を取り、剣を構えた。

「よろしくお願いします。」

ダインは短剣を2本とも手に持ち、俺の少し後ろです構えている。

俺が前に出て、仲間が後ろから攻撃を加える。俺たちの良くやる戦い方だ。

俺は防御に専念し、ダインが攻撃に専念する。

片方の事しかやらない事でその精度を上げる。そんな作戦だ。


しかし今回はこの作戦は通用しないだろう。

俺は半ばそう確信している。理由は明白、先程受けに回った瞬間にやられてしまったのを思い出したからだ。


だが通用しないにしても、足掻くくらいのことはできるだろう。

俺は相手の出方を伺いながらジリジリと前にで始めた。



「くっ、」

訓練が始まり数日が経過した時、そんな声が聞こえてきた。

見てみると少しだけだが、ルークさんの肌に切り傷が見られる。

どうやら、躱されたと思ったがかすっていたみたいだ。



初めの予想通り、俺たちは戦略が通じないことを確認した後、2人同時に攻めることにした。


流石に2人がかりの連携攻撃は少しだけ効果があったようで、ルークさんからの攻撃の回数は激減していた。

その後直ぐにやられてしまい、勝つことは出来なかったが、確かな手応えは感じていた。

そこから先はトライ&エラーの繰り返しだ。

挑んでは負け、休憩しながら2人で対策を練り、また挑む。

そんな事を数日続けた結果、ついに俺たちの刃がその体に届いた。

その事を戦闘中にも関わらず喜んでしまったのが悪く、その後直ぐにやられてしまったわけだが、それでも大きな進歩に喜ばずにはいられなかった。

俺たちは横になりながらも、その顔は笑っている。

「まさかここまで早く成長するとは思いませんでしたよ。」


ルークさんが手を差し伸べながらそう言ってくる。

「「ありがとうございます!!」」


俺たちは素直に賞賛の言葉を受け取りながら、その手を取る。

そしてそれを見ていたヴェルさんが言う。


「じゃあ、そろそろ次のメニューに行っても大丈夫だな。」


俺たちの成長を認めてくれているのだろう。そんな事を言ってくる。


「次のメニュー、ですか、、何をするんです?」

ダインが疑問に思ったのだろう。そう質問している。俺はルークさんの方を見てみるが、彼も知らないようだ。

何だろうか、と手を顎に当てて思案している。

次のメニュー、確かに謎ではある。現在やっているのは強者との戦闘だ。

それを辞めてまでやる特訓とは何なのだろうか。


俺たちが不思議そうな表情を浮かべていると、ダインの質問を受けたヴェルさんが、


「ああ、明日からお前ら2人にはダンジョンに潜ってもらう。一応、俺も付いて行くけどそのつもりで準備をしてくるように。」


と言い放つ。ダンジョン?そういえば確か街の真ん中にあったな。


「ダンジョン、ですか?」

「そうだ、ダンジョンだ。」

「どうしてダンジョンなんですか?」

「いろいろなタイプの魔物がそこだけで大体経験できるからだ。」


そんな応答もあってか納得できた。成る程、ある程度技術を磨いたから次は本当の実戦という事なのだろう。

思えば今までは、実戦形式っぽく訓練をしていたが、実際はギリギリのところで止めたり、峰打ちしたりと、最低限の安全だけは確保されていた。


しかしそんなもの、魔物が保障してくれるはずがない。

だから明日から行われる訓練こそが、本当の実戦という事だろう。


「分かったな?わかったら今日は街に戻って明日の準備に時間を費やすんだ。」


ヴェルさんがそう言う。

今は丁度昼ごろだ。つまり今街に戻れば明日の準備は十分間に合うだろう。しかし少し遅れるとそれもわからない。


「「はい!分かりました!!明日もよろしくお願いします!!」」


俺たちはそう言って回れ右をして街へ向かう。

そして去り際に、


「あ、言い忘れてたけど、明日は冒険者ギルドの前に集合なーー」


という声が背中の方から聞こえてくる。

俺たちは手を上げながらそれに了解の意を伝えると、全速力で街に向かって走るのだった。



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