第40話 勇者?弟子入り?
私はヴェルの後ろにいる3人をよく見て見る。
冒険帰り、と言う感じがする3人だ。
普通と違う点があるとするならばえらくボロボロと言うところだろう。
「で?飛龍を持っているのは、まあいいわ。だけど後ろの3人は誰なの?」
私は威圧を込めた声でヴェルに聞く。しかし彼はそんな事を機にする様子もなく、
「おお、イル、助けてくれ!こいつが弟子にしてくれって煩いんだ。」
と、こちらに助けを求めてくる。
今現在、誰のせいで困っているのかを教えてあげたいくらいであるが、まあ事情くらいは聞いてあげてもいいだろう。
そう思い私は3人のうちの1人、先頭にいた男に声をかける。
「こいつの弟子になりたいというなら止めないけれど、見知らぬ人を家の中に入れるつもりはないから自己紹介くらいしなさい。」
まあ、自己紹介しても家には入らせないけど、、
「俺の名前は橘 賢哉、【勇者】だ、」
1人目はそれだけ言って黙ってしまう。
と言うかこいつ最近来たっていう勇者なのね。なんか思ってたのと違うしなんか、そんなに強そうじゃないわね。
「私はノーストリアです!魔法使いをやってます。よろしくお願いします!!」
2人目はそう言うと深くお辞儀をした。
あれね、礼儀正しいぶん勇者より好印象ね。
「僕はダインって言います、、よろしく、、」
3人目は少しぎこちなく挨拶を済ませる。
まあ、偉そうにしている感じがしないし勇者よりはマシだろう。
さて、こいつらの素性が分かったしもう特に用はないわね。
「うん、分かったわ。あなたたち帰っていいわよ。」
私の言葉が予想外だったのだろう。3人は各々の反応を見せる。
「おい、貴様ふざけているのか?」
と、どこまでも上からな勇者。
「あの、話くらい聞いてもらってもいいですか?」
と、頼み込むノーストリア。
「あの、、その、、」
と、どうしていいか分からずに周囲を見回すダイン。
みんながみんな別の反応をするのは見ていて楽しいわね。
それにしても、
「ヴェル、あなたこの人達に何をしたの?全く帰る様子が無いんだけど。」
こいつが買い出しに行っている間に何があったのかしら。
まあ、おおよそ飛龍に襲われて危なくなったところを助けられたとかそんなんでしょうけど、
その考えを肯定するようにヴェルが返事をする。
「なんか、食材が人を襲いながら飛んでたから加勢がてら叩き落としたらついて来たんだよ。俺は何も悪く無い!」
ああ、やっぱり。というかこいつ今飛龍を食材と言い切らなかったかしら?
私が勇者を無視してヴェルに話しかけたのが癪に触ったのだろう。
勇者を名乗った男は声を荒げて言う。
「そもそも、俺が用があるのはヴェルさんであって、お前になんか用は無いんだ!」
うん、だから用がないなら帰ってくれないかしらね?
一応、ここは私の家なんだけど。
「らしいわよ、ヴェル、話を聞いてあげたらどうかしら?」
「そもそも話って弟子にしてくれとかそんなんだったろ?俺にはそう言うの向いてないんだよ。」
「うん、ヴェル、ししょうにむかない」
私の投げかけにヴェルは向いてないからと応じず、休憩を終えたレンちゃんが会話に入って来てそれを肯定する。
そのやり取りを見ていたノーストリアが勇者に囁いているのが見える。
「あの、ケンヤくん。無理言っちゃうと迷惑だよ。」
小声のつもりだろうが丸聞こえだ。
しかし勇者は引くつもりはないらしい。彼はヴェルの方に顔を向けて声をあげる。
「どうしてもダメですか?」
こいつ、私に対しては偉そうにするのにヴェルに対しては下手に出るのね。
「ヴェル、べつに、いいんじゃない?とくに、ことわるりゆう、ない。」
レンちゃんが勇者を援護する。
「そうは言ってもなあ、師を仰ぐならもっと別のやつの方がいいと思うし、、」
「いいえ、俺は、いや俺たちはあなたに戦いを教わりたい!そうだろう、2人とも」
勇者は後ろを振り返る。しかし彼らは、
「え、えぇ、そうね。」
「僕も、出来ることなら。」
と、すこし歯切れが悪そうに肯定する。
………なんと言うか、気持ちに大きな差があるように見えるわね。
そんな2人の様子は全く気にせずに勇者は続ける。
「どうか、弟子にしてください!俺は強くなりたいんです!」
そして遂に勇者が頭を下げた。
流石にかわいそうに見えたのだろう。レンちゃんがヴェルに言う。
「もう、でしにしてあげたら?」
彼も相手が引く気がないのが伝わったのだろう。
少し考えるようなそぶりを見せてからこう口にする。
「分かったよ。」
「本当ですか!?」
「ただし、条件がある。」
ふむ、ここで無理難題を引っ掛ければ弟子入りを拒否できるって寸法ね。
ヴェルにしては考えたじゃない。
「なんでも言ってください、どんな条件でも、クリアして見せますから!!」
勇者は自信満々に答える。
そんな事を言ってしまっていいのだろうか?私ならその瞬間に満面の笑みで無理な条件を突きつけるわよ。
この流れでヴェルが同じ事をしないとは思えないわ。どうやら勇者の願いは聞き入れられなさそうね。
私は得意げになりながらそのやり取りを見る。ヴェルはどんな条件を突きつけるのだろうか?
それが地味に楽しみだった。
彼が考える無理難題って何なのだろう、その気持ちでいっぱいだった。
しかし私の期待は裏切られる。
彼が出した条件は、
「イル、あぁ、そこにいる女性な。そいつと戦って勝つことが出来たら弟子にしてやる。」
まさかの私に丸投げであった。
やっぱりこいつは【怠惰】なのね。
私はもう忘れかけていた事を今、思い出したのだった。
今夜中にもう1話は書きます。




