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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第3章 異世界勇者到来
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第39話 【嫉妬】の頼み

勇者が来たと言う日から数日が過ぎた。


私は勇者と会うどころか見かけてすらいない。

それもそうだろう。

なんせ私の家は森の中にあるのだ。知っていないとまず立ち寄らない。

そんなわけで私はいつもと変わらない日々を過ごしていた。


「じゃあ、いってくるわ。」


ソファーで寝転がっているとヴェルがそう言いながら私の家を出る。

怪我をしている間、私の部屋を貸してあげたと言うことで食材の買い出しを一週間任せたのだ。

買ってくる食材は完全にお任せなので帰ってくるまで何を作れるかさえもわからない。

まあ、作るのはクレアドーラだから私には関係ないけどね。


ヴェルが出ていった数十分後、不意に家の玄関を叩く音がした。

ヴェルが帰って来たには早すぎる為、依頼に出かけたルークか遊びに来たマナリア辺りだろう。

「はーい、今開けるわ。」

そう返事をしながらドアを開ける。


「イル、おはよう、、」


私の予想はいい意味で裏切られたわね。


「レンちゃんじゃない!どうしたの?何か用?お姉さんがなんでも聞いてあげるわ!!」

テンションが上がった私はそう口にする。だがいき過ぎているとは思わない。

その証拠に、


「うん、きょうは、あのときいってたおねがいをしにきた。」

とレンちゃんが言っている。

どうやらマナリアを見つけてくれた際のお礼を貰いに来たみたいね。

「そう、決まったのね。それで貴女は何を望むのかしら?」

私は手を大きく広げて答えを待つ。

ちなみにこのポーズに大した意味はない。寛容さが少しでも表現できればいいなという気持ちで取ったポーズだ。

レンちゃんはここ数日、ちゃんと考えて来たみたいだ。

迷いなく、しかし遠慮しがちに言ってくる。


「イル、たたかいかた、をおしえてほしいの、」


………ん?

たたかいかた、と言うことは戦闘指南をしてくれと言うことよね?

何かあったのかしら?

「構わないけど、そんなのでいいの?」

「うん、いい、わたしもたたかえるように、なりたい」

なんでもルークの時もマナリアの時も、自分が一番近くにいながら何もできなかったのが効いたらしい。

意思は固いようね。でも不思議だわ。


「戦い方ならヴェルに習った方が良いんじゃないの?私より彼の方が強いわよ?」

ヴェルと古い友人と言うことはそれなりに機会はあったはずだ。

それに最近彼は暇そうに依頼をこなしているだけだし、戦闘指南くらいはしてくれるだろう。

それに、

「イルのほう、がいい。」

「え!?」

私の思考はレンちゃんの言葉によって遮られ、霧散する。


まさか、レンちゃんが求めてくれてる!?

ああ、胸が高鳴るわ!!これが恋というやつなのね!!

私の気持ちの高鳴りが頂点に達しようとしたとき、

「ヴェルは、しんたいのうりょくによる、ちからおし、しか、しないから、さんこうに、ならない。」

無情にも現実に引き戻される。

えぇ、分かっていましたとも、私達の関係はそこまで深くないということは!!


「そう、それなら分かったわ。でも、あんまり期待しないでね。」

「うん、ありがと。」


そう言って私はレンちゃんを鍛えるための準備を始めた。







「レンちゃんは【嫉妬】持ちだったわよね?あれって結局どんな条件で何が出来るの?」

今の所、発動を確認したのは初めの一回だけ、それも私に対してのみだ。

あの時は避けるのに集中してたため、条件などを読み取ることは出来なかった。


「わたしの【嫉妬】は、ねたましい、とおもったものにたいして、ぼうぎょふかの、ほのおをはなつ。」


成る程、【嫉妬】の名に相応しい能力ってわけね。

そして、この能力なら今までの全てに合点が行くわね。

私が狙われたのはヴェルと親しげだったから。

戦えなかったのは悪人を妬むことができないから。

そう考えるとフレンドリーファイア御用達のスキルね。防御不可みたいだし。

しかし困ったわ。これじゃあこと戦闘において【嫉妬】は役に立たないわね。

「ちなみに聞くけど、レンちゃんは運動とか自信ある?」

この答えで今後の方針が決まるだろう。

自信あるなら戦士職に、無いなら魔法使いにってところね。

「ごめんなさい、うんどう、にがて、」

彼女は申し訳なさそうに俯く。

少しかわいそうに見えてきた。

「いやいや、気にしなくていいのよ!運動ができないなら勉強を頑張ればいいの!」

そう言って一冊の本を取り出す。

本のタイトルは『魔法基礎を学ぶ』だ。

最近、家にこもって暇なので魔法の勉強でもしようとマナリアに借りた本だ。

まあ、私が読んでもさっぱり理解できなかったから、私には魔法の才能がないのだろうけど。

「レンちゃんは体を動かすのがにがて、との事なので魔法で戦えるようになりましょう。」

私はその本をレンちゃんの手の上に乗せた。

又貸しなのだが、マナリアなら許してくれるだろう。

「ん、わかった、がんばる。」

レンちゃんは魔法を覚えることにしたようだ。

しかし問題もある。

「このまま魔法講義、と行きたいところなんだけど、私、魔法のことに詳しくないから嘘を教えそうなのよね。」

私が魔法を使えないのだ。


「え?じゃあどうするの?」

レンちゃんも不安そうに聞いてくる。このまま期待を裏切らせるのは酷だろう。私は妥協案を提案した。

「だから魔法のことに詳しい人に後日講師としてきてもらうとして、今日は別の訓練をしましょう。私は戦闘を行う際に必ず必要なことを教えるわ。」


戦闘というのは必ず、相手がいて、自分がいる。

これは絶対的な事だ。それが魔物であっても変わることはない。

だから私はレンちゃんに相手をよく見ることを覚えさせることにする。


戦闘中は相手の攻撃に目がいってしまいがちになるので、そこから意識を少しだけでも別のものへ向ける訓練だ。

訓練と言っても私がワザと小さく隙を作りながら軽く攻撃して、レンちゃんがそれを躱しながら、隙を見つけたら反撃するというだけのものだ。

慣れれば問題なく出来るのだが、慣れるまでが難しい。



「?、、?、、!、?、ん?」

レンちゃんも一連の攻撃を躱すだけ躱しながらも首を捻って唸っている。

まだ感覚が掴めていないようね。


「一度の休憩にしましょうか。」

それから数回ほど同じやり取りを繰り返したが勝手がわからなかったようだ。

少し肩で息をしながら悩んでいるレンちゃんにそう提案する。

彼女もこのままじゃあラチがあかないと思ったのだろう。その場にドテッと座りこんで

「そうさせてもらう、」

と休憩に入った。


もっといい方法は無いかしらね。私はそう考えながら彼女を見る。

しかし答えは出てこない。そんな時、


「おーい、今帰ったぞー!」

どこか間の抜けた声が聞こえてくる。

どうやら食材の買い出しが済んだみたいね。そう思い声の聞こえてきた方向を見やる。


そこには、何故か飛龍を尻尾を掴んで引きずってくるヴェルと、知らない3人組がいた。


いや、飛龍はともかく、流石に人間は食べないわよ?

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