第38話 異世界勇者の研修先
「そう言えば、今日この場に勇者のパーティが来るみたいですよ。」
初心者狩り(私が勝手に呼んでいる)の討伐報酬を受け取りにきた私はアリサさんからそんな事を聞かされる。
勇者パーティねぇ。有名なのかしら?
「マナリアは勇者パーティって知ってるのかしら?」
「勇者のパーティは【勇者】の称号を得た人が所属するパーティの事です。」
質問をするとマナリアが簡潔に説明をしてくれる。この子、とても便利ね。
「そんな人たちがここに何をしに来るのかしら?言ったらなんだけどここにはそんなに強い魔物がいるとか言うわけでも無いでしょう?」
この街で少しの間過ごしているけど問題なんかもあまり起こってない気がする。
「それは冒険者学校の実地研修の為です。現在の【勇者】は冒険者学校の生徒なのでこう言ったこともあるのですよ。」
また知らない単語が出てきたわね。冒険者学校?
冒険者育成機関か何かかしら?
「実地研修って事はここの冒険者として働きに来たってことよね?」
私はアリサさんに聞いてみるが、
「はい、冒険者学校では卒業の条件として一定期間以上の実地研修が含まれていますから。」
と何故かマナリアが胸を張って答える。質問には交互に答えるという取り決めでもしてあるのだろうか?
「へぇ、冒険者学校も色々あるのね。」
それ以上の興味が沸かなかった私は質問を中止する。私としては勇者が何をしていようが関係ないのだ。これ以上知っていてもなんの意味もないだろう。
「それはそれとして、報酬はまだかしら」
私は作業の手が止まっていたアリサさんにそう言って話題を断ち切ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺の名前は橘賢哉ごく普通の高校生だ。
いや、だったと言うべきだろう。
俺は今、地球のどこでもない場所、異世界にやって来ている。
可笑しいだろう?だが事実であるからこれ以上は言いようがない。
何故こんな所にいるのか?それは俺自身よくわかっていない。俺は川に落ちた、と言うか落ちるはずだった。
通学路で友人とふざけあった結果だ。これはまだわかる。
しかし俺が川に落ちる瞬間、突然水面に大きな穴が空いたように見えた。
そしてその穴に落ちたらこの世界ってわけだ。
しかも転移先では大勢に囲まれて拍手の嵐だ。
自分で言っていて訳が分からなくなる。
だが、これと同じ様な展開の小説は日本にいた頃よく読んだものだ。
かつては期待していた展開に、胸躍らなかったと言えば嘘になるだろう。
そんな訳で俺は今異世界に来ている。
なんでも聞いた話によると俺は【勇者】であるらしい。そんな所まで小説の様だな、と聞いた時は思ったけど本当みたいだ。
半信半疑の俺の元に1人の者が石版の様なものを持ってきて、それを俺の手に当てた。
すると突然、何も書かれていなかった石版には俺の名前やパラメータ、俗に言うステータスが表示されていた。そこには所有称号の欄に【勇者】と表示されている。
成る程。
俺はこの事実を受け入れ始めていた。
俺は【勇者】ではあるが今のままでは未熟ゆえに戦闘では使えないらしい。
どうすれば良いのかと聞いた所、冒険者学校と言うものがあるらしい。
冒険者になって直ぐに死んでしまわない為に、冒険者志望のものを鍛えてくれる施設らしい。
授業料は【勇者】故に免除してくれるとの事だったので、俺はそこに通うことにした。
元々学生なのだ。学校に通っても不自然じゃ無いだろう。
それから2年が過ぎた。
2年も通っていたと言うことで仲間と呼べる人もできていた。
この学校での日々は大変充実したものだったと言えるだろう。なにせ俺は【勇者】だ。直ぐに才能が開花し、学校ではトップの実力だ。
先生曰く、ミスリル級の冒険者に匹敵する。とのことだ。
しかし問題はある。
まだ実地研修を終えていないのだ。卒業の為には一定期間以上実地研修を行う必要がある。
この学校で学べることは全て学んだのだ。それならば早急に卒業するべきだろう。
そう思い俺は一緒にパーティを組んでいる2人に実地研修に行かないか、と声をかける。
2人ともふたつ返事で受けてくれた。
というか、いつ行くと言い出すかずっと待っていたそうだ。
言ってくれればよかったのに、、、
俺たちの行き先が決まった。
行くのは『テラ』と言う街だそうだ。そこの周辺はさほど強い魔物は出ない上に、冒険者の質も良いから万が一が無いらしい。
実地研修としては持ってこいの場所だ。
準備を済ませた俺たちは『テラ』に向かう馬車に乗る。
そこから数日、馬車に揺られ続けていると一つの街が見えてきた。情報から察するにあれが目的地だろう。
あの街から俺の異世界無双が始まるんだな。
俺はそう心を踊らせながら馬車の外を眺めるのだった。
今回から第3章です。
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