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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第2章 破壊王の魔道具屋
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第37話 とても暖かな勘違い



「そう言えばさっきの奴、オリハルコン級冒険者と言う割には弱かったわね。ルークといい勝負程度の実力しか無かったわね」


体感では少しだけだがルークにも劣っているような感じがした。

帰りの道中、ただ歩き続けるのも味気ない気がしたので私は疑問に思った事を口に出してみる。


「そうですか?十分強かったように思えますけど、、まぁ、イルさんの敵では無かったと言う事ですね。」

マナリアはそう返してくる。

そうは言っても弱すぎたわ。拍子抜けね。

そう思いながら次の話題に転じようとするとマナリアがさらなる情報を追加してくる。


「それに、彼がオリハルコン級冒険者だったのは数年前の事ですし、依頼とか受けなくなってなまってたんじゃないですか?」

なんでもジェイグは事あるごとにいろんなところに迷惑を掛けていた為、冒険者を辞めさせられたらしい。

それが数年前の話だとすると、あの弱さも納得ね。


1つ疑問が解消された私は次なる話題を彼女に振ってみる。

「そうそう、その長杖ロッド使ってみた感想はどうだったかしら?彼、かなりの自信作って言ってたわよ。」


帰り道も当然ダンジョンの為、魔物が襲って来る。その時に色々試していたみたいなので聞いてみる事にした。

するとマナリアは少し興奮したように、

「これ、かなり凄いですよ!!魔力制御や魔力効率が今までの比じゃありません!!」

と、使用感を語り始める。

そして、「さらに!!」というふうに色々な観点から長杖ロッドに賞賛の声を上げる。

あ、これ、長くなるわね。聞かない方が良かったかも知れないわ。

私は迂闊にそんな事を聞いてしまったのを後悔しながら、立ちふさがる魔物を排除すべく前に走りだした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


予想通り、彼女の自慢は本当に長かった。

まさか冒険者ギルドの前まで続くとは思いもしなかったわ。

私は少し疲れたように受付に向かう。

向こうもこちらに気づいたのだろう。私達を見て声をかけてくる。

「マナリアさん、無事だったんですね。良かったです。」

って、心配してたのはマナリアの事だけなのね。

私も一応はか弱い乙女なのだから、心配の1つや2つしてくれても良いんじゃないかしら?

私は少し落ち込みながらもそのまま歩を進める。

「アリサさん!!至急お願いしたいことがあるんですが!!」

受付前にたどり着いた途端にマナリアがそう叫ぶ。

へぇ、彼女の名前アリサって言うのね。見た目もかなり良いしかなりモテそうね。アリサって名前も女の子っぽいし、

などと、私が場違いな事を考えている間に話は進む。


「どうされましたか?そんなにあわてて。」

「取り敢えずこれを見てください!!」

「こ、これは、、朝方あなたと一緒にダンジョンの探索に向かった2人じゃないですか!?何があったんですか?」

「それはかくかくしかじか、、、」


………………私はいる必要あるのかしら?あとは彼女達に任せて帰っても良さそうね。


マナリアの説明は朝起きたところから始まって時間がかかりそうだし、そう思い私は縛っていた男をその場に置き去りにしてギルドを出る事にする。

しかし、

「あー、イルさん!ダメですよ!!報告はちゃんとしなきゃ!!」

呼び止められてしまった。どうやら逃げられないみたいだ。

逃げようと思っていたのがバレたせいかアリサさんの視線が痛いし、、、、


私は渋々、その報告会に参加する事にしたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれから数十分掛けて報告は終了した。

まぁ、ほとんど全部マナリアが話したんだけどね。

そして報告書をまとめたアリサさんが苦虫を噛み潰した様な表情で言う。


「まさか銅級冒険者の死亡率の高さにそんな理由があったとは、私達はてっきり彼らが未熟だからとばかり、、、」


あぁ、確か銅級冒険者になってすぐに死ぬ人が多いから加入試験の難易度を上げていたわね。

彼女はそれに意味がなかった事に気付いたみたいだ。


とはいえ、新規の冒険者の数が減ると言うことは次なる犠牲者が供給されにくいと言う面もあるので一概にはいえないと思うのだけれどね。

しかし彼女はかなりショックだったのだろう。


「では、私はこのまま業務に戻りますね。犯罪者捕縛の報酬は後日、お渡しします。」

そう言って引っ込んでしまった。少しくらいフォローを入れた方が良かったかもしれないわね。


「さて、報告も終わったけど、これからどうしようかしら。」

今回の件がほぼ全て終わったので私は少し伸びをしながら考える。


「あ、それならトロイヤさんのところに行きませんか?少し、用事があるので。」

マナリアはトロイヤに何が用があるみたいだ。

特に予定もないし付き合ってあげても文句は言われないだろう。


「えぇ、行きましょうか。武具を作ってくれたお礼も言わなくちゃいけないでしょうしね。」

今考えて見たら受け取るだけ受け取ってそのまま出てきちゃったからお礼も何も言っていないわ。

こんなに良いものを作ってくれたのだから、何か言ってあげないといけないわよね?


私達は各々の用事を済ませるためにトロイヤのいる店に行ってみる事にした。




彼はいつもの様にそこにいた。

午前中はぐっすり寝たのだろう。どこかスッキリとした顔をしている。


「なんだ、あんた達また来たのか?」

私達を見たトロイヤは「いらっしゃいませ」よりも早くそう聞いてくる。

「そうよ、何か問題でも?」


なんとなく客に対するその態度が気に食わなかったため、少し怒っている風に言ってみる。

「い、いや、問題はねえけどさ、、」

どうやら効いたみたいだ、少しどもりながらそう言ってくる。


「というか私達はお客さんなんだからそれなりの対応をしてください!!」

私とは違いマナリアは正面から不満をぶちまける。それを見て観念したのだろう。トロイヤは少しだけ不満そうに


「いらっしゃいませ、今日はどんなご用ですか?」

と口にする。

マナリアも用事があるって言ってたけど先に言わせて貰うわね。

「さっきあなたに作ってもらった武具を使って見たのだけれど、すごい性能だったわ。だからお礼を言いにきたの。」


私はそう告げる。するとトロイヤは少し面を食らったように、

「おいおい、それだけの為にわざわざ来たってのかよ。」

とこちらの方を見つめてくる。

「ええ、私の用事はそれだけよ。マナリアは他に何かあるみたいだけれどね」

私はマナリアに要件を言うように促す。すると彼女は直ぐに、


「私からもお礼を言います。そして付きましてはこれを使って首飾りを作って欲しいのです。」


と言い一本の爪を取り出した。

それはあの時狩ったクォーツドラゴンの物だ。

確かに彼女、杖を作るときは五本しか出してなかったわね。

「わかったがお代はどうするんだ?前回はお詫びってんでタダでやってやったが、今回はそうはいかねぇぞ?」


それを聞いたトロイヤはお金の話を持ち出す。代金を払えない奴に作るつもりは無いのだろう。

そしてマナリアがお金を持っていないことは会話の中で判明している。


ここの店での加工代は物にもよるが最低でも金貨500枚は必要だったはずだ。

それでも、それだけの物を提供してくれるし適正価格だと思われる。


故に値切りは出来ない。

「金貨1000枚、それがその仕事を受ける条件だ。」

彼としては連続での仕事は、余り受けたく無かったのだろう。その気持ちが値段によく表れている。


しかしマナリアは

「この中に金貨1000枚が入っています!これでお願いします!」

ドン!という音を響かせ袋を机に叩きつけた。

それを見たトロイヤは心底驚いたような顔をしている。

「お、おぅ、確かに、入ってるな。分かった。作ってやらあ。」

そう言って袋の中身を確認した彼は素材とお金を回収する。


「それにしてもこんな大金、どこで手に入れたんだ?言っちゃあ悪いがあんたに稼げるとは思えないぞ?」


「これはある方が善意で下さったものです。本来は家を買うつもりでしたが今回は諦める事にします。」


多分あれ、私があげたやつよね?あれは普通に報酬を二分しただけで善意とか関係ないんだけどね。

それにしてもマナリアは家は諦めるって、それじゃあ招待されるのは当分先になりそうね。

せっかく楽しく女子会が出来ると思ってたのに、それもお預けになるとは、、、はぁ、、





私が地味にダメージを受けている間に細かい話は終わったみたいだ。

トロイヤが素材を持ったまま店の奥へと行ってしまった。

彼がもう出てこない事を確認した私達は店を出る。


外に出るともう夕方だった。暗くなるまでまだ少しあるが私は彼女を宿まで送っていく事にする。


今日襲われたばかりだ、用心するに越したことはないだろう。

そう思ってのことだ。



帰りがけに彼女に聞いてみる。

「そう言えばどうして首飾りを作ろうと思ったの?」

疑問だったのだ。彼女はあの素材で首飾りを作ろうとすることに妥協はしなかった。

それも本来家を買う為のお金にまで手を出しての行動だ。正直理解に苦しんだ。

しかしマナリアはさも当然のように


「こうしておいた方がいい気がしたんです。」


と、物凄く曖昧な答えを口にする。そして、

「これ、お返ししますね。イルさんの魔力はとっても暖かくて心地よいものでした。」


首に下げていた円環の指輪(ウロボロス)を返却した。

私としたことがすっかり忘れてたわ。それにしても暖かい魔力って何かしらね?

私の表情からその疑問を感じ取ったのだろう。


彼女は陽だまりのような笑顔を咲かせながら、


「分からなくてもいいと思います。魔力とは本来無色なもの、そこに暖かいも冷たいもない。だから、私が感じたそれは、おそらく勘違いだったのでしょう」


と言った。


その笑顔は今まで見てきたどんな表情よりも美しく、そして人を引き寄せる魅力がそこにはあった。


これで第2章は終結となります。

少し物足りないとは思いますが、お付き合いいただきありがとうございました。


もし、よろしかったらポイント評価やブックマークをしていってください。



一応、第3章は異世界勇者の到来!?を予定しております。

近いうちに書き始めますので、これからもよろしくお願いします。

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