第36話 元オリハルコン級?敵の親玉?
先に仕掛けたのはジェイグだ。
彼は右手に持っている剣を下から振り上げる。
かなりの速度だが、その動きは単純だ。
私はその剣を少しずれるだけで躱してカウンターをたたき込もうとする。
しかし、
「かかったなあ!!」
ジェイグの剣は空中で突如軌道を変えて振り下ろしに変化した。
半ば最小限の動きで初撃を躱したせいで次の一撃が躱せない。
私は仕方なく攻撃のための用意をしていた手を上にかざし、その攻撃を受け止める。
かなりの衝撃が走るが籠手には傷1つつかない。流石はクォーツドラゴンとブラックドラゴンの素材をふんだんに使っただけある。
ジェイグは自分の攻撃が不発に終わるのを認識すると同時にバックステップで私から距離を取っている。
そしてどこか訝しげな表情を浮かべている。
「貴様、何をした!?俺の剣で傷1つつかねえなんてあり得ないだろうが!!」
ジェイグが叫ぶ。確かに彼の剣はそこそこいい物のようだ。しかしそれはルークの持っていた剣にも劣る程度の物でしかない。
しかしこの籠手はルークの剣を基準に作られている為、あれ以下の剣では傷をつけることも難しい。
「別に?ただ正面から受け止めただけよ?その剣がなまくらなんじゃないかしら?」
私は彼を挑発するような言葉を投げかける。
守りに入られると面倒だと思ったからだ。そしてその思惑通りジェイグは激昂し突進をしてくる。
勢いをつけて突きを放つつもりなのだろう。
動きが直線的な為避けてカウンターを放つことは容易だが、さっきのような事がないとも限らない。
その為私は少しだけ大きめに避ける。
ジェイグは突きが外れたと同時にその勢いのまま体を回転させこちらの方向に斬りはらいを払ってくる。
突きの後の僅かな隙を無くそうとしたのだろう。
その技にはどこか熟練のものが感じられる。
だが、
「今回ばっかしはそれは悪手ね。」
彼の突進突きからの斬りはらいは突きの速度を殺す事なく放たれている。
一見すれば無駄のないいい攻撃のように見えるが、突きの流れのまま迫ってくるそれはある程度戦える者からすれば軌道を読むのは簡単だ。
魔物や格下の相手なら通用するだろう。しかし、
「軌道と速度が分かっているならタイミングを合わせるのが簡単だわ。」
圧倒的な防御力を誇る籠手がジェイグの剣を大きく弾く。
そして剣を弾かれ体勢が崩れたジェイグに対し拳をたたき込もうとする。
これは完全に決まったわね。そう確信しながら放った一撃だったが、ジェイグはその体勢から体を捻って無理矢理回避を成功させる。
「あら、やるじゃない」
私は攻撃が外れた事に少し驚きながらもジェイグを注視する。
「へっ、そんな攻撃いくら打っても当たるわけねぇだろ!」
今度は相手の方から挑発的な言葉が送られてくる。
だが私は落ち着いたままだ。
さっきの攻撃は彼としてはかなり危ない一撃だったみたいね。
ジェイグを注視すると先程まで無かった体の傾きが見つかった。おそらく身をよじった時に痛めたのだろう。
それに加えて剣を持つ腕が少し痙攣している。剣を弾いた時の衝撃で痛めたみたいだ。
ジェイグはもう自ら攻める意思がないのかこちらの出方を伺うばかりだ。
このままじゃラチがあかないだろう。私は相手の挑発に乗る事にする。
しかし冷静さを欠いてはいない。私は相手の利き手側、つまりは剣を持つ手の方から重点的に攻める。
痛めている腕に伸ばした状態で力を入れさせてその剣を手放させるのが狙いだ。
現状相手は守りに入り、攻めきれてはいないのだがそれも時間の問題だろう。
その考えを肯定するかのようにすぐに限界はおとずれた。
私の攻撃を弾こうとぶつけた剣がジェイグの手を離れて飛んで行ってしまったのだ。
「くそっ!!」
彼は悪態をつきながら剣を拾いに行こうと試みる。
私達と彼の位置関係的にはそれは可能な事だろう。
しかし、
「忘れたの?あなたの敵が2人いるっていうことを」
ジェイグが背中を向けた瞬間、マナリアが彼に向かって魔法を放つ。
「ウィンドォ!!」
高らかに宣言された魔法はジェイグに向かって飛んでいく。マナリア特有の異常な初級魔法だ。
あの時見せてくれた時より威力が落ちているのは彼女が死なないように調整したからだろう。
その魔法はジェイグの足に着弾した。そして彼はそのまま前のめりに倒れる。
「がああ!?ざけるなよ!!」
ジェイグは口汚く罵りながら着弾点を確認し、そして青ざめる。
彼の足は膝のあたりから先が無くなっていた。
マナリアの魔法は凄まじい切れ味だったのだろう。
その切断面はかなり綺麗だ。
しかしそんなことは切られた側には関係ない。彼は狂ったかのように叫び始める。
「くそが!!殺してやる!!この卑怯者どもめ!!」
ふーん、卑怯者ねえ。
「あら?私達、何か卑怯なことをしたかしら?」
私はマナリアに目を向ける。
「いいえ?これっぽっちも思い当たりませんね。あ!!イルさんがつけている籠手は見た限りかなり卑怯な武具ですよ。それじゃないですか?」
彼女は冗談交じりにそう答えてくる。
全く、言ってくれるじゃないの。性能的にはあなたの持っている長杖も大して変わらないと言うのにね。
私達の態度がジェイグの火に油を注いだのだろう。
「ふざけるな!!2対1なんて卑怯そのものじゃねえか!!」
先程より少し大きな声で叫ぶ。
しかしその言葉は私達の心には届かない。
「そうは言うけどあなた達、彼女に何をしたか覚えてないのかしら?」
「自分達は平気でやるのに相手にやられたら卑怯とか、信じられませんね。」
私達はそう言ってジェイグを見下ろす。すると彼は
「あぁ!?そこの奴らの事を言ってんのか!?なら俺は知らねえし無関係だ!!」
と主張する。
これは救う必要はないわね。そう思った私は次なる行動を開始する。
「じゃあ、あなたは関係ないと言うのならこいつらは連れて行っても構わないわね?」
そう言ってジェイグを見る。
「ああ、俺は何も関係ない!!そんな奴らは知らねえ!!」
彼は再びそう主張した。
そう、なら安心したわ。私は気絶している男達をロープで引きずりながら言う。
「じゃあマナリア、帰りましょうか。この男が大声をあげたせいで魔物が集まって来始めてるし。」
「そうですね。イルさんのおかげで魔力が戻ったからといって戦闘はしたいと思いませんし。」
マナリアも異論はないようだ。
しかしそれを聞いたジェイグは怯えたように声を上げる。
「お、おい?お前らどこに行くつもりだ!?俺を置いて行くのか!?」
「えぇ、そのつもりよ。この犯罪者と関係が無いなら突き出す理由も無いし。処理は魔物達がやってくれそうだし楽でいいわ。」
怒りに満ちていたジェイグの顔が見る見る青くなっていく。
「分かった、正直に言う。俺はそいつらの親玉だ。だから連れて行け。」
彼はあっさりと白状する。骨のない奴だ。
「どうします?連れて行きますか?」
マナリアがそう聞いてくる。このまま放って置いたら確実に死ぬ事になるからだろう。
彼女は優しい人のようだ。その言葉にジェイグも希望を見出したような顔をしている。
しかし、
「いや、このままにしときましょう。別にこいつを連れていく必要があるかと言われたら微妙だし、それに荷物を増やすと危険が増すからね。」
私は躊躇いなくその希望を奪う。
そしてそのまま来た方向に向けて歩き始める。
マナリアも少しだけジェイグの方を見た後、すぐについて来た。
そして曲がり角を曲がり、ついに彼の姿は見えなくなる。
向こうも私達が見えなくなって不安が爆発したのだろう。
「待ってくれ。俺はこんなところで死にたくねぇ、おい!!」
といった後方から声が聞こえてくる。
しかし大声を出していたため魔物に発見されたのだろう。
「おい!!お前ら!近寄るんじゃねぇ!、、、こっち来んな」
聞こえてくる声はすぐにそんな内容に切り替わる。
そしてそのすぐ後、
「ぐわああああああぁぁぁぁぁぁぁ、、ぁ、ぁ」
と言う声がダンジョンの地下8階に響き渡る。
そしてそれを境に、うるさい声は2度と聞こえなくなった。
第2章のタイトルを少し変更しました。
理由といたしましては、
元々『怠惰の王は怠けない』を書く前に考えていた『破壊神は創りたい』と言うトロイヤがメインの話がありまして、作って置いてただ放置もあれだったのでトロイヤを登場させて章タイトルもそれに似せたはいいんですが、視点の問題で彼の頑張りや心情が描写されない事に気がついたので急遽変更になりました。
またかよ、と思うかもしれませんが、これからもこの作品をよろしくお願いします。
トロイヤさんのお話は気が向いたら書きます。
(そんなに長くないしね)
気が向いたらポイント評価、ブックマークをよろしくお願いします。




