第35話 増援
「イルさん!来てくれたんですか!?」
私の姿を確認したマナリアはそう声をあげる。
「当たり前でしょう?友達のピンチなんだから。」
たった一回、一緒に依頼に行っただけ、それだけの仲ではあるが私の友達である事には変わらない。
「友達、、私が、イルさんの、、」
それを確認するかのようにマナリアも呟いている。
しかし私達の再開を喜ばないものも存在する。
先程まで彼女に襲いかかっていた2人だ。
「貴様この女の仲間か?」
「あ、こいつだ!!そこの女に大金を渡していたのは!!」
出来れば1人ずつ喋ってほしいわね。
それにしても、やっぱり公共の場で金貨がたんまり入った袋を渡したのは失敗だったわね。
「そんな事どうでもいいのだけれど、あなた達、私の友達に手を出したんだから分かってるわよね?」
私は怒気を孕んだ声で男達を威嚇する。
しかし相手は腐っても魔物と戦う冒険者だ。少したじろぎはしたが、直ぐに心を立て直す。
それにしても、
ーーー雑魚ね。
彼らを見た私はそう判断する。
魔力が枯渇した魔法使い相手にここまで手こずっているのも納得だ。
魔力が戻ればマナリアだけでも何とかなりそうね。
彼女も自分の力で終わらせたいだろうし。
私はトロイヤから受け取ってカード化させていたマナリアの長杖を実体化させ彼女に向かって投げる。
その長杖は真っ直ぐに飛んでいき、彼女の足元に突き刺さった。そして、
「マナリア!!受け取りなさい!!」
私はいつも肌身離さず付けていた首飾りをマナリアに向かって投擲する。
そして彼女はそれを受け止める。
「イルさん?これは!?」
マナリアが首飾りを手にした瞬間、首飾りからマナリアに向けて魔力が流れ込んでいく。
その首飾りは天界を追われる事になった原因の1つ、着用者の余剰魔力を貯蔵し続け、また使用者の魔力が減少した時に魔力を供給してくれる神器、その名も『Sー円環の首飾り』だ。
私は魔法を使わないので首飾りには大量の魔力がたまっている。
「はぁ、暖かいです、、」
マナリアはその首飾りを持ち、うっとりとした表情を浮かべる。
しかしこのままでは不味いと思ったのだろう。
男の1人、剣を持っていた方がマナリアに切り替える。
だが、もう手遅れだ。
彼女は地面に刺さっている長杖を持ち呟いた。
「クリスタルランス………」
その呟きは小さなものだったが、何故かはっきりと耳に届いてきた。
そしてその刹那、彼女の後ろから先端が尖った水晶が生成され、そして射出される。
その量はもはや一本の剣でどうにかできる量ではない。
彼女に向かって走っていた男は「ぐぎゃっ」と言う小さな悲鳴を上げながら水晶の槍をその身で受けた。
「綺麗ね。」
私はその魔法に対し素直な感想を述べる。これは威力の事を廃して考えてもいい魔法だわ。
私がマナリアの魔法に見惚れている最中、迫ってくる物があった。
当然、もう1人の男の斧だ。
まったく、もう少し見ていたいものなんだけど。
マナリアの魔法を見ているところに水を差された私は少し怒り気味にその斧を受け止め、握り壊した。
「うえっ!?何で!?」
男はその光景を見て動揺した声をあげる。
そんな様子を気にせず私はその男の頭を平手で叩いた。
動揺のため回避行動が取れず、私の攻撃をもろに受けた男は叩かれた逆方向に吹っ飛び壁に叩きつけられる。
死んじゃったりしてないわよね?かなり手加減したのだけれど、これはやばいわね。
そう思い私は自分の腕にはまっている手甲を見る。トロイヤ作の魔道具だ。効果の程は一応聞いていたのだけど、これは予想外ね。
道中は全力で振るっていたから気づかなかったわ。
私はそれだけ確認してマナリアの方に歩み寄る。
多分大丈夫だろうが一応、念のためだ。
「大丈夫かしら?どこが痛いところがあったら遠慮なく言うといいわ。」
「い、いえ、大丈夫です。少し疲れはしましたけど、怪我はありません。」
どうやら無事みたいね。よかったわ。
「じゃあ、帰りましょうか。この者たちも突き出さなければいけないみたいだし。」
そう言って倒れている二人を見る。気絶してはいるが死んではいないようだ。
「そうですね。この人たちの悪行は絶対に見過ごせません。」
マナリアも異論はないようだ。
そうして私達が男達を縛り地上へ戻ろうと足を向けた時、
「おいおい、これはどう言う事だ!?」
急に現れた男がそんな声をあげる。多分だけどこいつらの仲間ってところかしらね。
「あ、あの人は!」
マナリアは見覚えがあるみたいだ。
「マナリア、あいつのこと知っているの?」
私はそう問いかける。すると彼女からではなく男の方から答えが返ってくる。
「俺の名前はジェイグ、オリハルコン級の冒険者だ。」
その男は自らをオリハルコン級の冒険者と名乗った。
しかしマナリアは言う。
「嘘を言わないで下さい!!あなたは『元』オリハルコン級です!もうその資格は剥奪されています!!」
『元』という言葉に怒りを覚えたのだろう。ジェイグと名乗った男は額に青筋を浮かべ、腰の剣を引き抜く。
「絶対に許さねえ、俺を侮辱した事を後悔させながら殺してやる」
そう言って剣を構える。
ふむ、マナリアには荷が重いわね。
そう思い私は担いでいた男を後ろに放り投げて前に出る。
「悪いけど、彼女には指一本触れさせるつもりはないわ。」
その言葉とともに戦闘の幕が上がった。




