第31話 初級魔法?手負いの竜
私達の時間稼ぎで、3分間が経過した。
それと同じくしてマナリアが、
「みなさん、準備完了です。離れてください!!」
と声をあげた。
私達はドラゴンの大振りの攻撃の隙をついて距離をとる。
「いいわよ!ぶちかましちゃいなさい!」
「はい!!」
マナリアが手をかざして大きな声で魔法名を宣言する。
「サンダー!!!」
その瞬間、かざされた手から一本の稲妻がほとばしる。そしてそれは目にも留まらぬ速さでドラゴンへ向かい、ズドン、という音とともに爆発をもたらした。
「これは、凄いわね………」
それが私の素直な感想だった。私に同意するようにルークも、
「全くですね。初級魔法でここまで威力が出せるとは」
と賛辞を述べた。
そんな私達からの賞賛を受けたマナリアは少し照れたように
「そ、そんな事ありませんよ。あんなのと面と向かってやり合える御二方の方がずっと凄いです。」
と謙遜の声をあげる
しかし私はそうは思わない。ルークも言ったが彼女が使ったのは初級魔法だ。
初級魔法は魔法使いが最初に覚える選択肢として挙げられる初歩的なものだ。しかしそれ故に効果が小さい
例えば今回の『サンダー』の場合、その効果は精々電撃を与えて痺れさせる程度のものだ。
確かに熟練の者が使えば電撃で持って対象を焼き焦がすくらいのことは出来るだろうが、流石に爆発を起こすなんて聞いたことがない。
そう思った私はさらに彼女を褒めたたえる。
「謙遜しなくていいのよ?今のはそれくらい凄いことだから。」
すると彼女はもう限界だと言わんがばかりに、
「それくらいにしてほら、回収に行きましょう。」
と強引に話題を逸らそうとする。そしてドラゴンの方へ歩いて行ってしまう。
それもそうね。私はドラゴンを見やる。
爆発によって巻き起こった土煙はもう晴れており、その姿はここからでも確認できる。
そのお陰で手遅れになる前に気づくことが出来た。
あれはまだ死んではいない。死にそうなのは確かであるがまだ戦う気が見て取れる。
その証拠としてこちらを見ている為にまだそいつが生きていると気づいていないマナリアに爪を振るおうとしている。
ーーこのままでは不味い。
そう思った私はマナリアに向かって全速力で走り出す。
それを見てルークも気がついたようだ、一瞬遅れて彼も走る。
そして私はマナリアの腕を引っ張り、その庇うように抱き寄せる。
どうやら間に合ったみたいだ。
腕の中の彼女を確認するが、何処にも傷はない。
しかしその代わりに、
「何するんですか。イルさん、、って、え!?」
そのドラゴンの鋭い爪は私の体を大きく抉り取っていた。
最近、似たような事があったわね。
あの時は間一髪でヴェルにかばわれたから私は無傷だったのだけれど、、、
痛みのせいかつい、そんなどうでもいい事を思い浮かべる。
意識が朦朧としてくる。しかしまだ倒れるわけにはいかない。
「よかった、無事みたいね。ちょっとここで待ってなさい、すぐに片付けてくるから」
そう言ってドラゴンに向かって歩き出す。
私が彼女に背中を向けたからだろう。彼女が息を飲む音が聞こえてくる。これは配慮に欠けたわね。
しかし時を同じくして到着したルークが止めようとしてくる。
「その傷じゃ、無理ですよ。そもそもあんなに硬いのどうやって倒すつもりですか!?」
まったく、ここまで来て戦うなど言うなんて、本当にひどいわ。
「ルーク!マナリアを連れて離れなさい!これは命令よ!」
彼は私の所有物だ。命令には逆らうわけにはいかない。
彼は恨みがましくこちらを見ながらもマナリアを遠くへ連れていく。
そんなやりとりの中、ドラゴンが律儀に待っているはずはない。既に攻撃の準備を終え、こちらへ爪を振るう。
私はそれを懐に入り込むように躱す。
体が軋む。背中から血が噴き出す感じがする。
長くは持たないだろう。
ルークが言っていたわね。どうやって倒すのかって、
確かにさっきまでなら倒せなかったでしょうね。
でも、今なら違うわ。
それを証明するかのように、私はドラゴンの体に刺さったままの聖槍に手をかける。
そしてそれをそのまま引き抜いた。
やっぱり抜けたわね。
私は自分の考えが正しかった事に心の中でガッツポーズをとる。
初めに抜けなかった時、つっかえると言うより引っ張られるように抜けない感じだったから、今なら抜けると思ったのだ。
やっぱり、筋肉の収縮で絡め取ってたみたいね。
マナリアが使ったのが雷魔法で助かったわ。
そう、心の中で感謝をつげる。
そして私は体に刺さっていた物が抜けて悶えているドラゴンの頭に向かって聖槍を突き立てる。
ルークの剣でも傷がついたのだ、聖槍なら貫くことは容易だろう。
実際、なんの抵抗もなく槍はその頭を貫いた。
しかしその瞬間、ドラゴンは最後の足掻きとして腕を振るう。
私はそれをなんとか避けることに成功したが、怪我をした体で動き回ったからだろう。足にうまく力が入らない。
ドラゴンを見ると今度は確実に絶命していた。
それを見た私は体を引きずりながらもドラゴンの死体に歩み寄る。
これをしなくちゃ、終われないのだ。
そしてそのまま、私はドラゴンの体に手を置き【強欲】の能力を発動させる。ドラゴンの体は一瞬にしてその場から消え、手にはカードの束が握られる。
私はそのカードを足についている入れ物に入れたのを確認して、そのまま意識を手放した。
この話を七割くらい書いた時にくしゃみをしてしまい手がスマホの上部へ激突しページがリロード、心が折れるかと思いましたよ。
ブックマークしてくださった方、ありがとうございます。




