第30話 最硬の竜
クォーツドラゴンの足元に散らばる死体を見た私はそれが正しいであろう答えを導き出す。
「成る程ね、クォーツドラゴンは金属の塊、それを食べて仕舞えば同様に自己強化につながるってわけね。」
通常、鉱石に含まれる金属はごくわずかだ。それ以外の部分はただの岩と変わらない。
それ故に多少の鉱石を食べただけでは大した量にならない。
クォーツドラゴンはその少量の金属を集めて体表に表している。
そして使えないと判断した部分は排泄物として体外に排出される。
しかし、これが純粋な金属を食べた場合どうだろうか。
答えは簡単である。全て体に吸収されるのだ。
ここまで行けばあとは誰でも理解できるだろう。
奴らが同種を食べることによってどれだけ強くなれるのかという事を、
そして何故ここでクォーツドラゴンが1匹を残して全滅しているのか、
何故その1匹は一般的なものと大きく異なるのか。
それにしても、
「あれだけの量食べたにしては体が小さいわね。」
死体から判断するに3匹は食べているだろう。
しかしその体は大きくなるどころか逆に縮んでしまっている。
「おそらく、密度を高めるためにあえてああしているのかと、、」
マナリアがそう意見を述べる。
多分それで間違いないだろう。
「確かにそれなら合点がいきますが、厄介ですね。」
ルークはその言葉を聞きそう判断する。
まさにその通りだ。密度が上がっているというのは単純に硬く、重くなるという事だ。
体自体も通常より強力である可能性が高いため、厄介極まりない存在とかしているだろう。
私は迷いなく聖槍を取り出す。
「あれ?イルさん、何処から取り出したんですかそれ。」
マナリアが驚き聞いてくるが正直に答えるわけにはいかない。
「収納系の特殊技能よ」
と言って誤魔化しておいた。
実際は結構違うものなのだが、まぁ収納系と言って差し支えないだろう。
「あれはかなり強そうだからね。一気にケリをつけるわよ。」
そう言って槍を構える。
かの竜はまだこちらに気づいていない。不意打ちで決めるのが一番だろう。
「多分何とかなるとは思うけど一応、あなたたちも戦う準備はしておいてね。」
そう言って私は走り出す。
狙うは心臓がある場所だ。頭の方が柔らかいのだが、
敵の能力が不明な今、頭を狙うのは危険だろうと判断してのことだ。
対して胴体ならそな長い体の側面から安全に攻撃出来る。加えて聖槍なら多少硬くても問題ない。
心臓も脳も、破壊すれば勝利ということには変わらないのだ。それならば安全策を取るべきだろう。
私はクォーツドラゴンに気づかれる前にその身に聖槍を突き立てることに成功した。
しかし、その槍は心臓に届く前に止まってしまう?
「な!?何て硬さなの!?」
体に槍を突きつけられたクォーツドラゴンはこちらに気づく。
私は慌てて槍を抜こうとするものの引き抜けない。
私は仕方なく槍はそのままにして後ろに飛びのいて一旦距離を取る。
クォーツドラゴンはこちらに体を向けて突進の体勢をとり、直ぐにこちらへ走り出す。
しかし、大量の金属を取り込んだせいかその動きは通常のものよりかなり遅い。
私は余裕を持ってその突進をかわす。
かわされたクォーツドラゴンは勢いあまって後ろにあった壁に激突していた。
奴がぶつかった壁は粉々に砕け散る。
重い分、力と耐久性は比べ物にならないほど強いみたいだ。
「ごめん、仕留め損なったわ。手伝ってくれるかしら。」
私は一緒に来た2人に声を掛ける。
「は、はい!!」
「了解しました!」
2人とも戦ってくれるみたいだ。
2人が戦闘態勢に入ると同時、クォーツドラゴンはこちらへ向き直る。
そしてゆっくりと近づいてくる。
「こいつの体はバカみたいに硬いけど、どっちか高火力の攻撃を持ってないかしら?」
私はそうたずねる。
「僕に出来るのは剣を振るうことだけです。正直、あの殻を突破できるかは怪しいですよ。」
と、ルーク
「高火力の魔法なら使えますが準備に時間がかかります。」
マナリアもそう答える。
「ちなみに、マナリアはどのくらい掛かりそう?」
返答次第では別の手を取る必要が有るだろう。
「3分は欲しいです。それまでには準備を終えてみせます。」
3分ね。かなり早いじゃない。これなら何とかなりそうね。
「ルークは私と一緒に来なさい。3分きっちり稼ぐわよ」
そう言ってこちらからクォーツドラゴンに近づいていく。
「分かりました。あれの動きは鈍重ですので何とかなるでしょう」
私を追うようにルークもこちらへ近づく
クォーツドラゴンが全力で手を伸ばせば届きそうな距離に入った途端、奴は咆哮を放った。
『GUAAAAAAAAAAAAAAAAA』
大きな振動が鼓膜を揺らし、その大音量を私の脳に伝えていく。
まったく、
「うるさいわよ!!」
私は咆哮中のドラゴンに対して実体化させたハンマーを振りかざす。
『Eー鋼鉄の槌』、最近非常に頼りなく思える鋼鉄製のハンマーだ。
今回も本来の仕事はできないだろう。
私はハンマーをドラゴンの頭目掛けて振り下ろす。普通であれば無意味な行為だ。
しかし、クォーツドラゴンの頭部は他の部位に比べて格段に柔らかい。
それを自分で理解出来ているのだろう。私のハンマーをわざわざ手を使って弾くと警戒するかのように少し後ずさった。
だがその瞬間、ルークが追撃を行う。
最速でドラゴンに接近しその顔めがけて剣を振るう。
流石に精霊剣であるルークの剣は皮一枚程度だがドラゴンを切り裂くことに成功していた。
顔を傷つけられたドラゴンは怒り狂い、ルークに目標を定める。
ルークはというと攻撃後すぐに離脱して距離を取っている。
流石はミスリル級冒険者だ、行動に迷いがない。
感心ばかりもしてられない、ルークでも一対一じゃあ部が悪いだろう。
そう思い私はカードを取り出す。
『Eー濃硫酸』、力での破壊を半ば諦めていたので私は薬品の力に頼ることにする。
だが、おそらく普通にかけてもほとんど、いやもしかしたら全く効果はないのかもしれない。
だから私は先ほどルークがつけた傷口を狙うことにする。
ドラゴンは今もルークを必死に追いかけている。
今ならこれを叩きつけることは簡単だろう。
そう考え私はそれを実体化させる。
濃硫酸は瓶詰めの状態で出て来た。まあ、カード化した時瓶ごとしたから当然なんだけどね。
私はルークを追いながらこちらへ近づいてくるドラゴン相手にその瓶を投擲する。
それは狙い違わずドラゴンの頭に直撃し、割れる。
しかし、思った程効果は現れない。
苦しそうにはしているがそれだけだ、金属を溶かすことも、吸って倒れることもない。
だが、こちらへ注意を向けること位は出来たみたいだ。
さっきまでルークだけを見ていたドラゴンはこちらにも目を向けてくる。
しかしそのせいで動きにどこか迷いができて鈍くなっている。
これなら3分、簡単に稼げそうね。
私は新たな武器を取り出し、ドラゴンに向けた。




