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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第1章 強欲は欲深い
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第25話 強欲は欲深い

前回の話、フィスティナの最後の台詞の後をほんの少しだけ修正しました。


物語としては何の影響もありませんが不自然だったので一応。

ヴェルが倒れた後、まず私はすぐに倒れている青年を拘束し、レンちゃんはヴェルの応急手当てをした。


幸い傷は深いものの命に別状はない様だ。


レンちゃん曰く、ヴェルが気絶したのは【怠惰】の反動の方が原因らしい。

何でも【怠惰】の特殊技能スキルは強力な分、体力消費が大きいらしい。


私達は2人を私の家に運ぶことにする。


人間である青年はともかく、ヴェルは魔族の為そちらの方がいいだろう。

何せ私の家は魔素が湧いている。

何を隠そう魔族や魔物は魔素を強く浴びることで活性化するのだ。


その証拠に私の家に着いた時から、ヴェルの顔色が少し良くなったような気がしなくもない。


私はまだ使っていない部屋に動けない2人を寝かせて看病の準備をするのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


完全に不覚をとった。


そもそも一番長く戦闘を行なっていた私は、その疲れもあってヴェルの看病の途中にぐっすりと眠ってしまった。


目を覚ました時、私はやってしまったことに気がつく。

何故なら、無駄に暖かい目をしたヴェルがこちらを見守っていたからだ。


それを知覚した瞬間私は事もあろうかとか逃げるように走り去ってしまう。

これでは私がヴェルに思うところがあるみたいではないか。


いや、これは疲れているせいね。なんせさっきから顔が熱いもの。

あのまま寝てしまったから風邪をひいたに違いないわ。

そう結論づけた私は別のことを考える。


ーー私達にはまだやる事が残っていたわね。


そう思い私は先ほど飛び出してきてしまった部屋に戻るのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「で?あなたは一体どうしてくれるわけ?このまま何もありませんじゃ、すまされないわよ。」

私は目を覚ました青年に強く言い放つ。


「そんな無意味なことをやってないで俺を殺せばいいだろう?」

青年は自分を殺せと主張する。

全く、それこそ無意味なことをだわ。


「まあまあ、2人とも落ち着けって。ほら、みんなこうして無事なわけだし、それでいいだろ?」

今回一番の被害者は楽観的な態度をとる。被害者がそんなんだからこの世から犯罪は無くならないのよ。

私はそう心の中で愚痴を言う。


「とりあえず、のろい、とくこと、せんけつ?」

レンちゃんは問題の根本を断とうと提案してくる。

私としてはそれに賛成だったりする。

殺すのは忍びないし、このまま逃すとまた襲ってきそうだ。

そもそも呪いをかけられた事が今回の騒動の原因ならそれを取り除くのが一番いいはずだ。

青年もその言葉を聞いて声をあげる。

「な、何!?呪いを解く事が出来るのか!!?なら頼む、俺に出来る事ならなんでもする!!」

お、どうやら食い付いたみたいだ。

それにしても、なんでもねえ。

「ところでだけど、この中に解呪が出来る人っている?」

レンちゃんが提案してきたから多分彼女は出来るのだろうけど。

「俺には無理だな。魔法とか呪いとか、正直よくわからん。」

「わたしも、たぶん、むり。かけるほうならできるけど。」

「お、おい!!誰もできねぇのかよ!!」

わたしの質問に各々返答をする。

と言うかレンちゃん、あなた出来ないのにやろうって言ったのね、、、、、

しかもその言葉に青年も掌を返しかけてるし、ここは1つ安心させる言葉をかけておいた方がいいわね。

また暴れられてもこまるし。

「解呪ならわたしが出来るから安心してよくってよ。」

それを聞いた青年が再び、わたしの前に身を投げ出してくる。

「頼む、母さんに掛けられた呪いを解いてくれ。虫のいい話だってことはわかってる。それでも、頼む」

流石に少し可愛そうね。

「分かったからあなたのお母さんの所まで案内してくれるかしら?」

私達は青年の案内の元、彼の家に向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「母さん!!」

そこには1人の女性が横たえられていた。呪いに必死に抵抗しているのだろう。息遣いは荒く、こちらに気づく様子はない。

「早く、早く母さんを救ってくれ。」

悲痛な叫びがわたしの鼓膜を揺らす。

こちらとしてはそれをすること自体は問題ない、だが、しかしこれは、、、


いや、まずはこの子の母親を助けてあげる事が先決だろう。

私は一枚のカードを取り出し実体化させる。

十分に休んでいたとはいえ私の体には疲れが溜まっている。実体化には成功したが足元がふらついて倒れそうになる。

「おっと、気をつけろよ。」

ヴェルが腕を掴み引き止める。

「イル、だいじょーぶ?」

イルちゃんも下から一生懸命支えてくれる。

全く、気をつけろですって?貴方にだけは言われたくないわよ。

心の中で悪態をつきながらも私は実体化させたそれをみる。

「あの、それは一体、、」

一目で普通の物ではないと気づいたのだろう。青年が声をかけてくる。しかしそんなものは無視だ。

これの正体を知られると面倒ごとになりそうだし、


私が顕現させたのは盗んだ神器の1つ、聖杯だ。

私がそれを手に持つと同時、その中に水がなみなみ湧き出てきて溢れる寸前で止まる。


そしてその水を青年の母の口の中に注ぎ込もうとする。

しかし上手く飲ませる事ができない。

息が荒くなっていて安定しないのだ。

これは仕方ないわね。そう思った私は聖杯の水を口に含んだ。


そしてそのまま青年の母に口づけをする。

まあ、言って仕舞えば口移しだ。

あら?お子様には刺激が強かったようね。

青年は必死に見ないように後ろを向いていた。仕方のない事だろう。レンちゃんが興奮気味に見ているのが気になるけど。

それを見た瞬間、事は起こった。


それは本能だったのだろう。

聖杯水をさらに求めた青年の母は私の口の中に舌を入れ始める。


ちょっと!?何やってんのよ!?


私は必死に抵抗するが疲れている体が言うことを聞かない。助けを求めようにも口が塞がっている。

それから数分、私は向き合っている女性のされるがままになるのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「本当に、申し訳ございません。」

意識が覚醒した彼女が発した第一声がこれだった。

先に口づけをしたのは私だしそこまで悪いと思ってないけど、相手としては謝らないと気が済まないみたいね。

「お姉さん、母さんを救ってくれてありがとうございました。」

元気になった母を見て落ち着いた青年はお礼を言ってくる。

そんなもの必要ないのに、そう思った私は1つ、質問をする。


「そんな事はいいから、分かってるわよね?お母さん、望み通り助けてあげたけど、あなたは何を差し出すのかしら。」

「そ、それは俺の「命なら、要らないわよ。」」

質問に対し予想された答えを予め潰しておく。

こんな奴の命を貰っても嬉しくない。それに母親の目の前で子供を殺すのは極悪非道の者のする事だ。

私の趣味にも合わない。

「じゃあ、俺が今まで使ってきた剣はどうだ?すごい切れ味だ。きっと役に立つはず。」


青年は次の品物を提示する。しかし残念だ。


「それなら、あなたが倒れている間に迷惑料の料金として貰ったわよ。それに、あなたはその剣を使って母を救う事が出来たのかしら?私はやった行為と同価値以上の物しか認めないわよ。」


それを聞いた青年は絶望の表情を浮かべる。もう、差し出せる物に心当たりがないのだろう。それを見ている彼の母親も心配そうな顔をしている。

「そんな、じゃあどうすれば、、、」

彼は諦めこそしないものの何も出来ずにいるようだ。

そんな彼を見かねたのか母親の方が声をあげる。

「では、私達は2人を御受け取りいただくと言うのはどうでしょうか。」

青年が咄嗟に母を見る。その表情は決意に満ちていた。

うん、それが彼らに差し出せる一番の物だろう。

1つでは足りないなら全て差し出す。質より量で、と言う事だ。

私としては青年の方に提案して欲しかったが、それは許容範囲内だろう。

「いいわ、それにしましょう。あなたたち2人のその身を含めた所有物全て、それを持って解呪の代金とするわ。」

私はそう宣言する。しかしこのままでは、彼らは具体的にどうすればいいのか分からないだろう。


考えているとするなら奴隷になるのでは、と言うところだ。

まあ、間違いではないのだけれど、、


「あなたたちには明日から私の家の使用人として働いてもらうわ。その身を捧げた以上、サボる事は許さないわよ。」

それを聞いた彼らの表情は少し明るくなる。


これで、今回の騒動はひとまず終幕という事でいいだろう。

「さて、みんな、私の家に帰るわよ。」


彼らの2人ではなく、途中から私達の様子を静かに見守っていたヴェルとレンちゃんにも声を掛ける。

そうだ、今日は元々私の家の紹介だったのだ。幸い、私の家は広い。少しくらい増えても問題ないでしょう。

そう思い私はみんなを引き連れて歩き出す。


この家を出る際、隣を歩くヴェルが、


「意外と優しいところあるんだな。」


と私に声をかけてくる。さて?何のことやら、


「私は【強欲】よ?欲しいものを手に入れただけだわ。」


今夜はパーティね。

そんな事を考えながら、私達は帰路に着くのだった。

これにて第1章が完結となります。

このまま第2章に入るつもりなのでこれからもよろしくお願いします。


※第1章のタイトルを少し変更します。

実は少しだけ掲載当初に考えていた結末と変わりまして、不自然になると判断してのことです。


ブックマークしてくださった方、ありがとうございます。

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