第24話 怠惰の罪そして覚醒
キマイラ
それは喰らった魔物の身体を取り込み続ける魔物の名前だ。
キマイラは個体ごとに特性が異なる為、明確な対処法がない。しかし生まれてすぐのキマイラはそこいらの魔物より劣る為、滅多に大きくなることはない。
それを知っている俺は考える。
キマイラ、俺も数回だが見たことがある。フィスティナに借りた本で読んだこともあり、そこまで脅威だとは思わなかった。
その為俺は、
「キマイラ?多分大丈夫だろ」
と返答してしまう。今思えばこの街の人が慌てているというだけでやばい事はわかっただろう。
しかし当時の俺は自分の経験、それも途轍もなく浅い経験を基に判断を下してしまった。
村がやばいと聞かされ少し焦ったりはしたが、あの村には大罪系である【強欲】を持ったフィスティナがいる。
ここ数ヶ月の研究でそこそこ戦える事が分かっているから、彼女に任せればいいと思ってのことだ。
「ヴェル、はやくもどったほうが、いいんじゃないの?」
レンが心配そうにこちらを見てくる。
「ここから急いで言っても二週間近く掛かるだろう?それなら行っても行かなくても同じだ。」
そう、そうだ。
村が危険と言われても今、俺たちがどうこうできるとは思えない。
と言うか行くだけ無駄だということだ。
二週間も経てば全て終わっているのだから。
「門番さん、伝えてくれてありがとな、でも俺たちに出来ることは無さそうだからゆっくりして行くよ。」
先程からこちらを伺っている門番の人に言う。
それを聞きその男は自分の持ち場に戻って行った。
戻る最中、チラチラとこちらを見ていたのが思い出される。本当に心配してくれているのだろう。
「レン、今日はもう宿に戻ろうか。そして明日この街を出よう。」
大丈夫だとは思ってはいるが、自分の村が危険と聞かされて観光を続ける気は起きなかった。
「うん、はやく、かえろう」
レンも同じのようだ。
それを確認した俺は宿に戻り変える支度をするのだった。
次の日の朝、まだ日が昇りきっていないうちに街を後にした。
まだ小さいレンは眠そうだったが、文句を言わずについて来てくれた。
帰りがけにいつもの門番が声をかけてくる。
「帰るのか、気をつけてな。」
それに対し軽く手を振って歩き出す。
帰りの二週間、俺たち2人はずっと落ち着かない気持ちのまま過ごすのだった。
村に戻って来た時感じたのは違和感だった。
静か過ぎる。
昼間だというのに誰も外に出ていない。いつもなら暴れまわるフィスティナや農業を営むおっさんたちがいるはずだ。
おかしい。
なにが原因だ。そう思い村の中を走り自分の家にたどり着く。
そしてそのままドアを勢いよく開ける。
「父さん、母さん!!」
そこには誰も居なかった。
何故、という気持ちが湧き上がる。
それと同じくしてレンが隣の家のドア開ける。
「どう、して。」
レンの家にも、誰も居なかった。
これは明らかに異常だ。
建物の外だけでなく、中にも人がいない。
それに気づいた俺たちが次に向かったのは領主の屋敷だった。
フィスティナなら、【強欲】を持つ彼女なら何か知っているかもしれない。
そう思い走った。息が切れても、躓いて転んでも、それでも止まら事なく走り目的地へ向かう。
そして
「ひっ、」
レンが声をあげる。
目の前の惨劇を目の当たりにしたからだろう。
領主の屋敷、その庭では、
村人達の死体が、無数に横たえられていた。
見た感じ死んでからそこまで時間が経っているようには思えない。
おそらく、数日だろう。
ここ数日で何があったというのか。それは考えても分からない。
レンはその状況をみてその場にヘタリ込む。当たり前だ、こんなものを見て平気な奴の方がどうかしている。
俺もそれを見て吐き気を催す。
だが、吐いている場合ではない。
俺は綺麗に並べられている死体を1つ1つ見る。
あいつがそう簡単に死ぬはずがない。
死体を見ない限りは認めない。
そのつもりで死体を確認する。
その中には俺やレンの両親のものも確認された。
しかし、
「はは、やっぱり無事なんじゃねえか………」
フィスティナの物は確認出来なかった。
彼女はまだ生きている。
この状況をみた時、不思議だと思ったんだ。
どうして死体が綺麗に並べられているのか、
まだ生き残りがいるはず、そう感じていたのだ。
ここにくるまでには人は見なかった。ならばそして、死体の中には彼女のものはない。
そこから導き出せる答えはただ1つだ。
俺は庭を走り抜け壊れている扉から中に入る。
そこは血の海だった。
凄惨な事が繰り広げられたのだろう。
壁や床は元の色の方が少ないように見えた。そしてその中で一際異彩を放っているのはキマイラの死体だ。
そのキマイラの見た目は異常だった。
全長はゆうに6メートルは越えており、その身は無数の魔物を無理矢理繋ぎ合わせたようだった。
ヘビの尻尾、竜の頭、蝙蝠の翼に虎の前足など数え切れないほど混ざり合っている。
しかしもう絶命してしまっているのだろう。そいつは動くことはない。
俺はフィスティナを探すべくその横を通り抜けて彼女の部屋に向かう。
「フィスティナ!!」
勢いよくドアを開ける。
「ああ、、ヴェル、、帰ってきてくれたのね、、」
そう言う彼女の声は今にも消えてなくなりそうだった。
見るとフィスティナの身体は傷だらけだった。
手足には鋭利なもので引っ掻いたような後があり、その身体には大型の獣に噛み付かれた後も見て取れた。
「もう、、あなた、った、ら、、一月で戻って、きて、くれるって、、言ったのに、、3日も、、遅れるなんて、、」
そう途切れ途切れに彼女は言う。
「おい、もう喋るな、傷が広がるだろう!!」
「いい、のよ、、もう、、助かりそう、、に、ないし、だったら、、最後に、めいっぱい、おはなし、を、」
そう言う彼女は喋ることをやめない。
「ヴェル、、みんなを、守れなくて、ごめんね、、せめてもの、、葬いとして、、綺麗に、して、おいたのだけれど、、」
「そんなことどうでもいい!!頼むからもう喋らないでくれ!!」
俺は叫ぶ。
「ふふ、、ヴェル、は、やさし、いね。でも、、もう、いいの、よ、」
彼女は、フィスティナは止まってくれない。
それを見た俺の頬に熱いものが伝わる。
「でも、最後、に、ワガママ、言わ、せて、ほし、いの、だ、けれ、ど、」
言葉が途切れる感覚が狭くなっていく。
もう、先は長くないのだろう。彼女自身、それを分かっているのだ。
それを認められない俺はただ叫ぶ。
「お前の頼みなら何でも聞いてやる。だから、最後なんて言うんじゃない!!こんな最後認められるか!!」
こんな別れ方は嫌だ、そう思って俺は叫んだ。
「聞いてくれる、の、ね、あり、がとう、ヴェ、ル、」
彼女の声が次第に小さくなっていく。そして彼女は目をつぶりそして言った。
「私をね、ヴェルの、お嫁さん、に、」
それはこの場で頼むには無理が過ぎる、フィスティナらしい言葉だった。
そしてそれが最後の言葉だった。
「おい、フィスティナ!?目をあけてくれ、頼むよ、なあ、、、うわあああああああああぁぁ、、」
彼女はそれ以上動くことはなかった。
俺が門番の人に村が危ないと聞いてすぐに駆けつけていれば間に合っただろう。
この二週間、村人達は領主の屋敷で籠城して時間を稼いでいたみたいだ。そして扉は破られた。
みんなは必死に戦い、そして多大な犠牲を出しながらも勝利したのだ。
そして、唯一生き残ったフィスティナは自分の体を顧みずみんなの死体を、、、
俺が、あの時、、早く帰ることを決意していれば、、
全員は救えなかっただろうがフィスティナだけは救うことができたであろう。
そう、結論づけた俺は大きく声をあげる。
「あああああああああああああああああああ」
彼女が死んだのは俺のせいだ、俺が、俺が街でゆっくりしてかたら、
そう思う俺に世界が追い打ちをかける。
『【怠惰】の称号を獲得しました。特殊技能が解放されました。加えて、称号【怠惰】は【怠惰の王】に進化しました。それに伴い、特殊技能が拡張されました。』
その言葉は俺の罪を明確に表したものだった。
何が大罪系だ、何が名誉な称号だ。
かつての自分に恨みを覚える。こんなもの名誉なんかじゃない。
文字通り、ただの大罪だ。
そう思い俺はフィスティナを抱きしめて泣き続けた。
その後俺は名前を変えた。
元の名前であったヴェルに、彼女の名前の一部のフィスを付け加えてヴェルフィスと名乗るようになった。
もう、2度と同じ過ちを犯さないように。
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夢を見ていた。幼い頃の夢だ。
あの懐かしい日々、俺の過ちによってもう2度と戻ることのない、そんな世界の夢だ。
目が覚めてふと、横を見てみる。
そこには新しい【強欲】が幸せそうな顔をして眠っていた。
過去話は取り敢えず今回で終わりです。
書いてる最中悲しくなって何度路線変更しようとしたことか、、
次回は一章最終話になる予定です。
例のごとく長くなって分割するかもしれないですが、、
ブックマークしてくださいさった方々、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




