第21話 強欲は戦う
近くで対峙して青年の剣を見るが明らかに普通のものでは無い。
彼自身の行動も謎だし、ここは一つ問いかけて見ることにする。
「あなた、どうしてこんなことをするの？」
天使に襲われるならまだしも人間に襲われる理由は微塵も思い浮かばない。
相手が襲いかかってくる理由がわからないのだ。
しかし、その問いかけに帰ってきたのは鋭い剣閃だった。
それに対し私は右手に持っていた剣で迎え撃とうとする。
だがキィン、という高い音とともに私の持っていた剣ほ刃先が宙を舞った。
それはクルクルと飛んだ後後方の地面に突き刺さる。
何！？あの剣の切れ味！？
私の剣は寸断されたのに対し向こうは刃こぼれ一つない。明らかに私の剣より格が上だったのだろう。
折られた剣は『Eー鋼鉄の剣』だ。
ランクとしては低い方であり、切れ味はさほど良くないが鋼鉄製なだけありそこそこ丈夫な剣だったはずだ。
それが一撃で切断されたことに驚いた私は相手が放ってくる追撃の対処に思わず左手の盾を突き出してしまう。
その盾は『Ｅー鋼鉄の盾』、先程折られた剣と同じ鋼鉄製の武具だ。
なんの抵抗もなく折られた剣を見るにこれは明らかな悪手である事は一目瞭然だった。
そして剣と盾がぶつかり合う。
一瞬だけ相手の剣が止まった気がしたが、それだけだ。盾は見事に切り裂かれその剣は私の腕に届き切り傷を負わせる。
「痛いわねぇ！！」
腕を斬られた私は咄嗟に青年の腹に蹴りを入れて距離を取る。
今ので左腕はこの戦闘中はほとんど使い物にならなそうだわ。
私はドクドクと血が流れ出ている腕を見てそう判断する。そしてそれと同時にどうやったら勝てるか思案する。
先程の蹴りだが、見た感じ少しではあるがダメージが入ったように見える。相手は攻撃力はかなり高いが防御力は並み程度のようだ。
それならばまだ勝ち目はある。防御に徹して隙を見せるのを待てばいいのだ。
そう思い私はカードを束で取り出す。
そして青年を挑発するような視線を向ける。
すると直ぐに、
「悪魔、アクマァァァァァ！！」
という言葉とともに突進してくる。
私は取り出したカードを前方に投げ、実体化させる。
「ガフッ！？」
突然目の前に現れたそれに対処出来ず青年はその勢いのままぶつかり弾かれる。
それはギルド加入試験の際、大量に手に入れた『Dーフォートレス・キャンサーの甲殻』だ。
蟹の殻にぶつかった青年は直ぐに立ち上がり軽く剣を振るう。
それだけで高い防御力を誇る殻が切断される。
硬いといっても所詮鋼鉄級、足止め出来るのは一瞬だけだ。
だがそれでいい。
切断された甲殻の隙間から青年が私の方を睨み、そして焦ったように身をかがめる。
蟹の殻を目隠しとしてナイフを投げつけたのだが間一髪避けられてしまった。
チッ、と舌打ちしながら私は後ろに飛び構える。
青年は再び突進の構えだ。
そして直ぐにこちらへ走ってくる。
私は同じように蟹の殻を実体化させる。
しかし今度は青年にぶつかることも足止めする事も敵わなずに断ち切られてしまう。
対応が早い。しかし私は慌てずに次なるカードを投げ、実体化させる。
青年も同じ様に剣を振り、それを切ろうと試みる。だがその剣はそれを切り裂く事は出来なかった。
私が実体化させたのは『Ａーブラックドラゴンの鱗』、蟹の殻などとは比べ物にならない代物だ。
そして青年が決定的な隙を見せた。
私はつけている指輪の力を解放する。
その直後、青年の周りに薄い膜が現れる。
青年は剣でそれを斬りつけるがその膜は未だ健在だ。当然だろう。その膜は神器の力によって生み出されたものなのだから。
幾らあの剣が高性能でも、神器による物理結界までは斬れないようね。
そう確信し近づき声をかける。
「ねえ、もう一度聞くけどどうして私達を襲ったの？理由次第では許してあげてもいいわよ？」
確か戦いの最中一度だけ発した声の中に悪魔がどうとか言っていた気がするわね。
結界から出られない為か青年は口を開く。
「理由？理由だと！？お前ら悪魔が俺の母さんに呪いを掛けたのがいけないんだ！！術者を殺せば呪いはそれ以上効果を発揮しない。だからお前らを殺すんだ！！」
成る程、まあ分からなくは無いわね。呪いを解くには術者を殺すのが手っ取り早い、効果がそこで打ち止めになるからだ。
と、納得して油断し掛けた時、青年が結界目掛けて大きく剣を振りかぶった。そこには尋常じゃ無い力が込められているのがここからでも良くわかる。
不味い、この結界は超強力ではあるが絶対では無い。許容量は確かに存在するのだ。
そして青年が剣を振り下ろす。
パリン、という音とともに彼を覆っていた薄い膜は姿を消す。私は咄嗟に身構える。
しかし青年は私のところに直ぐに突進してこなかった。どうやらさっきまでの攻防を思い出し策を練っているみたいだ。
そして青年は行動を開始する。
狙いは、少し離れたところでこの戦いを見ていたレンちゃんだ。
彼女は現在炎が出せないらしい。
それが意味するのは戦えないという事だ。
私も全力でレンちゃんの元へ向かう。
当の本人は鬼の形相で近づいてくる青年に気圧され、うまく逃げられないみたいだ。
青年がレンちゃんに斬りかからんと剣を高く掲げる。
私は咄嗟にレンちゃんを抱き寄せ、青年に背を向ける。
あぁ、痛いんでしょうね。
私は来るであろう衝撃に備える。しかし次の瞬間体に起きた感覚は予想していたものとは大きく異なるものだった。
何か濡れるような感覚。見てみるとレンちゃんが泣きそうな表情を浮かべている。
何があったのか、私も青年の方に顔を向けた。
そこには、
肩から胸の上部まで体を切り裂かれたヴェルと、
ヴェルによって地に倒れ伏している青年の姿があった。
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