第2話 強欲は助けられる
結論から言わせてもらおう。
無理だった。
当然だろう、相手は6人もいたのだ。勝てると思うほうがどうかしている。
まぁ、捕まってもいないのだからまだやりようはあるかもしれないがそれも時間の問題だろう。
「くそっ、この卑怯者め」
「盗品を何のためらいもなく使うなんて、なんて奴なの!?」
「貴様も天使の端くれなら正々堂々と戦え」
、、、とまぁ結界の外では逃亡者捕獲部隊が好き勝手に言っている。
正々堂々とか、6対1の時点で正々堂々かどうか怪しいと思うのだが、
「お前ら落ち着け!!情報通りならこの結界には時間制限がある。このまま包囲を続けるんだ!!」
うん、まったくもってその通りのためこちらとしては困っている。この結界は発動から1時間きっかりその場に残り続ける。逆に言うと1時間で自動で解けてしまうのだ。
一応部隊長というだけあって盗品の能力くらいは把握しているみたいだ。
見かけによらず情報収集は怠らないタイプであるようだ。
この結界を発動させたのは20分前だからあと40分ほどは残っているが、その間にどうにか次の手を考えなければならない。
っと次の案を考えているときだった。
「ん?お前ら女の子を大勢で囲んで何やってるの?」
見知らぬ男がいた。
おそらく人間族の若者だろう。年齢は20前後と思われる。身長は170cmくらいだ。
髪の色は黒に近い紫いろだ。
顔は全体的に整っているが目つきはかなり悪かった。
「誰だ貴様は!!」
下っ端の1人が怒鳴る。
その男は、動じることなく
「ん?俺か?俺の名はヴェルフィスという」
と自己紹介をしたあと
「で?お前らは1人によってたかって何をしているの?」
と言った。それに対し部隊長は
「我々が何をしているのかなど貴様には関係ないことだろう。痛い目を見たくなかったら早くここから去るんだな。」
と少し苛立った声を上げた。
大事な任務に水を差されて気分を害されたのだろう。
「う~ん、ちょっと話にならないなぁ・・・ちょっとそこの君!!」
えっ!?こっちにふるの?
「ひゃっ!?、ひゃい!!」
少しびっくりしたので声が上ずってしまった。少し恥ずかしかった。
そんな私の様子を気にすることなくその男は、
「1つだけ聞くけど今困ってる?」
と質問してきた。しかし困っているかだって?そんなこときまってるじゃない!!私は
「えぇ、とっても困っているわ。この人たちに囲まれてどうすればいいか考えていたところなの。」
と答えた。その言葉を待っていたかのように男は
「じゃあこいつら倒しちゃうけど問題ないな?」
と笑った。
その言葉にその場にいた天使たちは激昂し、
「人間風情が」「身の程をわきまえろ」「楽には死なさんぞ」
等と罵声を浴びせかける。また部隊長も
「全員、この男をとらえろ!!殺しても構わん」
と部下たちに命令をしている。普通なら1人は私の監視に回すんだけどね。かなり頭に血が上っているようだ。まぁ、この結界は解除されるまですべての物の出入りを禁止するから逃げられないんだけどさぁ・・
などと天使たちの怒り具合を考察していると早速1人が男に斬りかかった。
「我らを侮辱した罪そのみでうけてもらうぞおおぉぉ!!」
その剣はまっすぐ男に向かっている。
「あ、危な・・・」
とっさにそう言ったが次の瞬間私の心配は杞憂であったことが分かった。
部隊長を除く天使たち5人がその場に倒れ伏したからだ。
「さて、一番偉そうなあんたは残したけどなんでこんなことをしているか教えてもらっても?」
男は笑みを浮かべながら問いかける。
「き、貴様、何をした!?なぜこいつらは倒れている!?そしてなぜ起きない!?」
確かに、それは私も気になる。斬りかかろうと近くにいた奴はともかく離れている奴も同様に気を失っている。だれがどう考えてもこの状況はおかしいのだが、その男はこともなさげに
「ん?少し気持ちよく眠ってもらっているだけだ」
と答える。それに納得できてない部隊長が反論しようとするも
「ば、ばかなそんなことg・・ぐはぁ」
めんどくさくなったのか男がそれを許さない。とてつもない速度で近づき、殴った。
「おい、俺の質問に答えてもらってないぞ。お前らはなぜ1人を大人数で囲んでいたんだ?」
質問に答えないことに苛立ちを覚えているようだ、少し怒気をはらんだ声が響く。
「はぁ、はっ、そ、そんなこと決まっているからだろうがっ!!その女が天界の倉庫から神器をぬすみだしたからだよ!!」
殴られて気が引けたのかそれとももともと言うつもりだったのかは分からないが、部隊長は隠すことなく私のやった悪行をばらしてくれたのだった。