第18話 強欲、家を買う
今回のサブタイは最近書店でみた本のタイトルを少し拝借しました。
私達が応接室をでた後、先程まで黙り込んでいたヴェルが口を開いた。
「お前、マジで悪魔だな。何で熾天使やってたか疑問に思ってきた。」
失礼なやつね。私はアイザック達がこのままでは不味い事になると優しく、そう、あくまで優しく教えてあげただけなのだ。
それなのに私を悪魔だのなんだの言うこいつにはなんなのだ、そう言う風な感情が湧き上がって来る。
いけないいけない、こういう時は深呼吸して心を落ち着かせなければ。
スゥー、 ハァ〜
よし、落ち着いた事だしヴェルにも説明をしておくべきだろう。
「あのねえ、ヴェル、貴方分かってるの?私達は詐欺に遭いそうになってたのよ?それも、もののついで感覚で。」
これは真実だ。そもそもさっきの交渉が要件ならば私一人だけ連れていかれていたはずだ。
しかしアイザックは迷う事なく二人とも来る様に言ってきた。ヴェルは遠くでクエストボードの依頼を見ているだけなのに、だ。
と言うか、ヴェルの方が重要と言わんがばかりに丁寧に対応されていた。
恐らく昨日の出来事は上に報告されたのだろう。
【怠惰】が登録に来たのだからそれは当然だ。
おおよそ、大罪系の癖して無警戒なこいつを見て今後どの様に利用しようか、とかを考える為に呼び出されたのだろう。
しかしあくまで建前上依頼の資格云々の事で呼びつけたので、依頼の要件を先に済ませるしかない。
そこで何も考えてなさそうなヴェルを見て竜の牙を買い叩けるとでも思ったのだろう。
ヴェルの提案にあっさりと乗ったのがいい証拠だ。
まぁ、結局その後、建前上連れて来るしかなかった私から反撃を受けてしまったわけなのだけど。
その事を説明し終えた私は今回の報酬を山分けしようと提案する。
しかしヴェルは、
「ああ、俺はいいよ。イルの力で手に入れた様なものだしな。」
そう言って受け取りを辞退しようとする。
それでは流石に私の方が納得がいかない。
そもそもあの牙はヴェルが倒した黒竜のものだ。
私は半分貰えればいい方のはずだ、とザックリ計算をしていた。
それを踏まえての値段交渉だったのだ。
取り敢えず半分貰えれば一軒家が購入でき、家具が揃えれるくらいの値段、それを目指していた。
その為、実際はこんなに必要は無かったのだ。
だから、
「そう、でもこれは受け取っておきなさい。きっと役に立つわ。」
私はそう言って金貨袋を1つヴェルに押し付けた。
「いいのか?」
驚いた顔で此方を見て来るヴェル。
「あなたは私をなんだと思っているわけ!?人に獲って貰った素材で大金手にしてそれを全て自分の懐に入れるほど汚くはないつもりよ!!」
私はそう強く言い放った。
【強欲】とはそういう事ではない。汚い金など手にしても全く満たされないのだ。交渉して増やした分はありがたくいただくけどそれ以外は、話が別よ。
「だからそれはあなたが売ろうとしていた金額分、金貨1000枚分、これなら文句ないでしょう?」
そう言って強引に話を終わらせる。
ヴェルも一応は受け取ってくれるみたいでその袋を荷物袋にしまっている。
これにて一件落着ね。そう思った私は次の目的に向かって歩き出す。
「じゃあ私はこのお金を持って不動産屋にいくわ。あなたはどうする?金貨1000枚あれば十分な家が買えると思うし、ついてくる?」
一応聞いてみる。
「それもいいかもしれないが俺はここで依頼でも受けているよ。冒険者ランクを上げれば高報酬の依頼も受けれる様になるからな。」
そう、ヴェルはついてこないのね。
ならここからは別行動ね。
少し残念に思いながらも私はヴェルと別れることにする。
「じゃあまた後でね、家が決まったら報告に来るわ。」
「おう、じゃあまた後で。」
挨拶を終えた私達は、それぞれ別の方向に歩き出した。
不動産屋についた私はそのまま迷わず店の中に入る。
他にも何件か不動産はあるらしいのだが、こんなところで迷っていても仕方がない。
どうせ迷うなら物件選びで迷うべきだ。
「いらっしゃいませ。本日はどの様な物件をお探しで?」
店に入るとすぐに一人の男が近づいてきて挨拶をする。
男は中肉中背で仕立てのいい服を身につけている。どうやらここの店は儲かっている様だ。
「少し大きめの住居が欲しいのだけれど、取り扱っているかしら?」
私は要件を簡潔に告げる。
その言葉を聞いた男は私を机と椅子がある場所へ案内し、物件リストと思われる書類の束を取り出した。
「大きい、と言われますとここら辺ですね。」
男はそう言って書類の束から一部分を引き抜く。
私は渡されたものを1つ1つ確認していく。
確認するのは主に立地、そして値段だ。
間取りなどは確認しても素人の私に良し悪しは分からないし、別にこだわりがあるわけでもない。
20分後、渡されたものを全て確認し終えた私は感じた疑問を投げかける。
「3軒ほど、他のより明らかに安いものがあったのだけれども、あれは曰くつきの物件だったりするのかしら?」
そして私はその物件について書かれた三枚の書類を並べる。
すると男はやはり、といった表情で、
「こちらの一軒はそうですな。何でも著名な魔法使いが実験に失敗したとかで、自身をアンデットにして不死になろうとしたみたいですが、結果はアンデットでも死霊になるわその場から離れられないわで今でも住みついているらしいのです。」
成る程、幽霊、と言うかアンデットが出る事が確定している為安くなっている、ということね。
死霊は実体が無く倒すのは困難を極めるし誰も手を出さなそうだ。
「そしてこちらですが、こちらは単純に使い勝手いいが悪い様です。見取り図では確認は出来ませんが、どうやら昔ここに住んだ斥候職の方が家を色々改造したらしくて、一般人が住むには厳しすぎるみたいです。」
はあ、家がトラップ部屋の様になっているわけね。納得したわ。
確かに、いくら安くてもそこに住んで怪我をしたら意味ないしね。
「そして最後ですが、これは立地が悪いです。一応はこの街の物件ということになっているのですが、実際は街の外、南の森の中にあるのです。森は余り強い魔物は出ませんがそもそも街への行き来が面倒だとかで安くなっております。」
ふむ、家自体は問題無いけど場所が悪い、と。
これで一応大体全部見たわね。
まあ、実は初めに見たときからどれにするかは決まっていたのだけれど、万が一があってはいけないからね。
そして私は一枚の書類を手に取り言う。
「丁寧に説明してくれてありがとうね。おかげでこの物件にする決心はついたわ。」
それを見た男は驚きの表情を浮かべた。
「よ、よろしいのですか?」
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