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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第1章 強欲は欲深い
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第16話 強欲は目標を立てる

体に違和感を覚え目が覚めた。

外の様子はわからないが感覚的に朝だろう。

そのことの確認は取れないためこれ以上考えても仕方がない、今は体の違和感のほうが問題だ。

そう思い自分の体に目を向ける。

そこには、




可愛らしく寝息を立てて寝ているレンちゃんの姿があった。

・・・どうしてここで寝ているのだろう。昨日の夜部屋はたくさんあるからみんな別々の部屋で眠ることになったはずなのだが。

周りを見渡してもここは私が寝る前に見た部屋と何ら変わりがない。

ということはレンちゃんが自ら私の布団に入ってきたということになるのだけれど。

寝る前にはヴェルの布団に潜り込まんがごとしの勢いだったのだが、まさか私のほうに来るなんて、

そのように考察を続けていると不意にレンちゃんが声を上げた


「う、う~ん、おねえちゃん・・・」


声を発しはしたが一向に目を開ける様子がないためこれは寝言なのだろう。

しかしよく見たらレンちゃんの目元には涙が流れたような跡がある。

否、今現在また小さくだが流れ始めた。

どうしていいかわからない私はただただレンちゃんの頭をなでてあげることしかできなかった。




「ごめんなさい、」

目が覚めて状況を理解したレンちゃんは真っ先に私に向けて謝罪の言葉を口にする。

「気にしなくてもいいって、言ってくれれば私が抱き枕にでもなってあげたのに。」

私はさっきまでのことは気が付かなかった、そういう態度をとるために調子のいい言葉を投げかける。

「・・・・・」

ちょっとやりすぎたかも、初めてあったとき並みに冷たい視線を感じる。

「そ、それはそうと朝ごはんにしましょう。レンちゃんはまだ眠いでしょうからそのまま寝てていいわよ。」

そう言って私は台所に向かう。

部屋からでた私を確認したレンちゃんはまだ眠かったのか、そのまま横になった。



朝食はいままで温存してきた天界産の食べ物を中心に作った。

正直もったいないのだがさっきのレンちゃんを見たらおいしいものが食べさせたくなった。

これが母性本能をくすぐられたという奴だろう。

朝だから軽めと思いサラダをつくった。加えてスクランブルエッグだ。


「朝食できたわよー」


私はまだ部屋で寝ている二人を呼ぶ。

「ごはん~」

レンちゃんが先に出てくる。というかヴェルのほうはいつまでたっても出てこない。

「ちょっとヴェル!!いつまで寝ているの!?早くでてきなさい!!」

少し声を荒げてヴェルの部屋の扉をたたく。

ヴェルはさっきの声にびっくりしたのか慌てて部屋から出てくる。

「悪かったって、そんなに怒るなよ」


そう言って反省の言葉を口にするがこの調子だとまたいつかやりそうな気がした。

「じゃあ、食べるわよ。」

こいつは曲がりなりにも【怠惰】だ。

朝起きてこないくらいならまだかわいいほうと言える。

このくらいでいちいちグチグチ言う私ではない。


「どう、おいしい?まずかったら無理して食べなくてもいいからね?」

何も言わずに食べているレンちゃんに聞いてみる。

「だいじょーぶ、すごく、おいしい」

レンちゃんは照れてながらも答えてくる。

本当にかわいいわ。この子どうにかしてお持ち帰りできないものかしら。

「よかったわ。まずいとか言われたらどうしようかと思っていたところよ。」

天界の食べ物は魔族の口にも合うみたいだ。


「ところで、これからふたりはどうするつもりなの?」

食事を済ませるとレンちゃんが聞いてくる。

そういえばどうするつもりなのだろう。当面の目標的なものはなかった気がする。しいて言うならレンちゃんのお宅訪問が目的のようなものだったし。

「あぁ、このままじゃ俺たちはほぼ無一文だからな、せっかく昨日ギルドに登録したし依頼をしながらお金を稼ごうと思う。」

なるほど、私も手持ちはほとんどないしそれは急務ね。

「ちなみに、お金をためる目的とかはあるの?」

目標もなくお金を集めるのは性に合わない。何か1つくらい目的があってもいいだろう。

「ああ、レンもこの街に定住したしな。俺が元居た街からも近いし家を建てようかと思う。それまでは宿暮らしだな。」

家、いいわね。天界を追われたし新しい定住地が欲しいとは思っていたところだし。

「わかったわ、それでいきましょう。」

その意見に納得した私は同意の意を示す。

これで私たちの今後の方針は決まったわね。若干一名、不満げな顔な悪魔がいるのは気になるところだけど・・・・

「ここにすめばいいのに・・・・」

レンちゃんがヴェルには聞こえないほどの小声ですごく残念そうにつぶやく。


あぁ、ここに住むのもいい気がする。そう思わせるような魅力がレンちゃんにはあった。

しかしそれは私のプライド的な何かが許さない。

こんなに小さな子の資産で暮らすのは精神的にきついものがあるのだ。







「じゃあ、レンちゃんまたくるからね。用事があったら冒険者ギルドとか言ってくれれば私たちに連絡が入ると思うわ。」

私たちはそう挨拶をして遺跡を後にしようとする。

「うん、またきてね。わたしはいつもここにいるから。」

レンちゃんも快く挨拶を返してくれる。

初めて会った時の殺意が嘘のようだ。

「じゃあな、レン、家を手に入れたらまた遊びに来るよ。」

ヴェルが次に来るときは家を手に入れた時だと約束する。

私としてはちょくちょく来るつもりだけど彼は次に来るのはずいぶん先の予定らしい。

こんなにかわいい子にそんな長い間会えないなんて耐えられるわけがないじゃない。

私はヴェルに秘密で会いに来ることを決意した。


「あ、そうだ、イルにはこれをわたしておく」

私にプレゼントがあるなんて、最後の最後までかわいい子ね。

そして渡されたのは例の印が刻まれた金の小づちだった。

「これは?」

おおよそわかってはいるが一応聞いておく。

「それは、わたしにあいずをおくるこづち、ふればおとがでてわたしにつたわる。でもだんじょんのなかじゃないと、こうかがないからきをつけて。」

やっぱりヴェルがもっていたやつと同じ効果の者みたいだ、形状は違うけど。

「ありがとう、何か用があったらダンジョン内でこれを鳴らせばいいのね、覚えておくわ」

私はレンちゃんにお礼を言う。

これがあれば私一人でも簡単に会いにこれる。

私はこれからのことに胸を躍らせるのだった。











冒険者ギルド

そこは朝ということもあってそこまで人がいなかった。

どうやら冒険者は夜にお酒とかをよく飲む関係で朝が弱いようだ。

「おはようございます。」

ギルドに入ると同時受付の人から声をかけられる。

昨日私たちの面倒を見てくれた人だ。


「すみません、依頼を受けたいんですけどどうすればいいんですか?」

さすがヴェル、ためらいがない。私が依頼の受け方を考える前にもう聞いている。

「依頼ですね。あちらのボードに貼られている依頼で条件に合うものを持ってきてくだされば受けられますよ。」

その言葉を聞いたヴェルはためらいなくそちらのほうへ歩き出す。

全くこいつは、お礼も言わずに、

「すみません、わざわざ教えてくれてありがとうございます。」

受付にお礼を言い私も依頼の貼られているほうへ行ってみる。

そこには多くの依頼が丁寧に張り付けられていた。

どの依頼を受けようかと私が一枚一枚確認していく。

当然のことながら銅級の冒険者に受けられるものは限られている。

薬草の採取、鉱石の採掘、資材の運搬

基本的には雑用がやるようなものが多い。冒険者らしくて銅級が受けられるものといえば、

ゴブリンの討伐、スライムの討伐、

とかくらいだ。報酬もそれほど高くない。

この中からどれを受けようかしら、そう思いながら私たちが受けられる範囲で依頼を吟味する。

すると突如ヴェルが自信満々に

「これなんかどうだ!!」

と、依頼を指さす。えっとなになに?

「  依頼 ブラックドラゴンの牙の納品  報酬 金貨1000枚 

      備考 東にある要塞の北の山にブラックドラゴンが多数生息しているとの情報が入った。かの者の牙は強力な武器の材料になるため採取してきてほしい。 最低必要資格 ミスリル級  」


こいつは書いてあることが読めないみたいね。

ミスリル級以上の依頼をどうして私が受けることができると思っているのかしら。そうおもいヴェルに説明をする。

「あのねぇ、ヴェル、これはミスリル以上でないと受けられないわけ。私たちじゃ資格不足なのよ。」

そう説明をするがヴェルの表情は変わらない。

「何言ってるんだ。ブラックドラゴンの牙ならお前が持っているだろう?それをそのまま渡せばいいじゃないか。」

「あ!!」

それは盲点だった。いくら依頼をミスリル以上しか受けられないとは言っても目の前にその物があれば話は別かもしれない。

こいつにしてはいい着眼点だった。 早く家が欲しい私としても心惹かれる提案だわ。

そう思いその依頼書をクエストボードから剥がし先ほどの受付までもっていく。




「あの、これを受けたいのですけれども。」

そう言って受付に依頼書を渡す。それを受け取った彼女は依頼書を一目見て

「だめですよ!これはミスリル級冒険者以上でないと受けられないって書いてあるじゃないですか。」

そうダメ出しをする。

ここまでは予想通りだ。しかし

「そう、これを見ても同じことを言えるかしら?」

私はこっそりカードを実体化させカウンターの上にブラックドラゴンの牙を置いた。

「こ、これは!!?」

それを見た彼女は驚きの表情を浮かべる。その後

「ちょ、ちょっとお待ちください。」

と言って慌てて建物の奥へと走っていった。



数分後、受付嬢は一人の男性を引き連れて戻ってきた。

そしてその男性はカウンターの上の牙と私を見るなり、


「私はこのギルドのギルド長を務めるアイザックという。いきなりで悪いがちょっと奥まで来てもらってもいいかね?少し話がしたいのだが。」


と言った。

ふむ、ルール違反に対する注意勧告でも受けるのだろうか。

しかしここから逃げて登録抹消とかされるとお金稼ぎができないため、私は渋々ながらもアイザックと名乗った男についていくことにした。

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