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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第1章 強欲は欲深い
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幕間 おかしな2人組

今回は別視点です。

私の名前はアリサ冒険者ギルドの職員だ。


その日も私はいつものように業務を行っていた。

昼頃になるだろうか、一組の男女がギルドを訪ねてきた。

その二人はどうやら冒険者になりたいらしい。

このギルドではほかの街より加入試験の難易度が高い。

そのためここで試験を受けようという輩はまれである。


それでも一定数、いるにはいるのだから私は何の疑問も抱かずにその二人を試験会場に連れていく。


そこでは先ほど同僚によって連れられた女性が試験を受けている。相手は三匹の狼だ。

相変わらず、試験の内容的にどうなのかと疑問を抱かずにはいられない。

冒険者試験で銀級冒険者でもてこずる狼の魔物相手に3対1とは、ギルド長の正気を疑う難易度設定だ。


逆らうつもりはないがもう少し簡単にしてあげてもいいんじゃないのかと思う。


どうやら終わったようだ、遠目からみていただけだが見事な戦いぶりだったと思う。

そしてその戦いを見ていた二人のうちの女性のほうが難易度が高くないかと聞いてくる。

懇切丁寧に説明はしたがおかしいと思うのは私も同じだ。


折を見てギルド長に相談してみるのもいいかもしれない。


しかしこの二人、先の戦いを見ても試験を受けるようだ。よほどの自信があるのかただの馬鹿なのか、それにしても武装がほとんどない為おおよその実力すら判断しにくいものだ。


男のほうが闘技場の真ん中でこちらに手を振っている。どうやら準備はできたみたいだ。

そう判断した私は遠くから隠れてこちらを見ている試験官に合図を送る。

その少しあと、闘技場のゲートが開かれる。

そこから出てきたのは【レッドグリズリー】

明らかに試験として戦うには強すぎる敵だ。これを相手取るには最低でも銀級上位、安全性を考慮するならば金級は欲しい相手だ。それをまだ冒険者でもない相手に、試験官は何を考えているんだ。

一応安全性を考慮して無理そうと判断されたら周りに待機している騎士が止めに入るようになっている。

しかし相手がレッドグリズリーとあっては事故も起こりかねない。


あれは止めたほうがいいのではないか、現在男は真っすぐ突進を繰り出している。戦術も技術もあったものではないただ力に任せた突進だ。これは即座に止めるべきだ。そう思い騎士に視線で合図を送ろうとする。しかしそれはかなわなかった。


私の視界に突如赤い毛の熊が飛び込んできた。

突然の出来事に私は視線を男のほうに戻す。

そこでは、男がレッドグリズリーの足をつかんで振り回している最中だった。

「あ、ありえない……」

つい声に出してしまった。隣にいる女性はあきれたような顔をしてその光景を見ていた。


結局、その男は無傷で戦いを終えた。明らかに異常な身体能力だ。

武装していないのも納得言える。

あそこまで身体能力が高いなら鎧などの類は邪魔になることが多い。それならいっそということだろう。

別にこの考え方はあまり珍しいものではない。

モンクの職業のものがよくとる行動だからだ。

それに納得したので私は意識を戻す。


どうやら次は女性のほうが試験を受けるようだ。

もう勝手に闘技場にスタンバイしている。

そして闘技場のゲートが開かれる。そこから【フォートレス・キャンサー】が姿を現す。

その数、、、23!?

明らかに多い。おそらく先ほどの連れとみてこのくらいは問題ないと思ったのだろう。

しかし、フォートレス・キャンサーは防御力の高さは金級冒険者でもてこずるくらいだ。

先ほどの女性も男性と同様素手であった。

どうやってあの装甲を突破するつもりだろうか。

まさか彼女もとてつもなく身体能力が高いとかかなと思う。

そう思ってみていると、

その時信じられないことが起こった。


その女性は何もない虚空から一本のハルバードを取り出して大きく振りかぶっていた。

あの大きさの武器をどこに隠し持っていたのだろうか。

考えても答えは出てこない。しかし心当たりはある。

非常に稀ではあるが特殊技能(スキル)によって物を収納することができる人は確かに存在し私も実際に見たことはある。

だが私が実際にみた収納とは大きく洋装が異なっている。

聞いた話によると、収納の能力は別の次元につながる穴をあけるだけの能力であるため出し入れするのに手間も時間もかかるらしいのだ。

お世辞にも戦闘用技能とはいいがたい。

しかし目の前の女性がやっていたことは全く異なっていた。

ほぼ一瞬にして武器を取り出して見せたのだ。そしてその武器を持ってフォートレス・キャンサーの殻を打ち破って見せたことからあれが幻術の類ではないとも教えてくれる。

だが味方を目の前でやられた蟹たちは反撃に出る。

フォートレス・キャンサーがあのような行動をとるなんて聞いたことがないが実際に起こっているのだからそういうものなのだろう。

その女性も驚いてはいたが対応はできている。

しかし一度目とは違いあの甲羅を破壊できずに攻めあぐねているみたいだ。


そこからは持久戦だったが明らかに部が悪いように見える。

そろそろ止めたほうがいいかもしれない。そう思いながらタイミングを見計らっていると突然、

その女性は手にしていたハルバードを投擲した。

奇策ではあったがうまく防がれたみたいだ。

武器も手放したしもう無理だろう。そうして騎士に合図を送ろうとしたところで思いとどまる。


先ほどの武器のように別の武器を取り出すつもりなのかもしれないと思ったからだ。


その予想は当たっていた。その女性は虚空に手を掲げてそのまま振り下ろす。

すると、その手には見たこともないほど美しい槍が握られており、フォートレス・キャンサーの殻は一刀両断されていた。


そこから先は蹂躙だった。フォートレス・キャンサーの防御は女性が手にしていた槍には意味をなさなかったからだ。先ほどの男性も異常だったが、こちらも大概のようだ。




ギルドに登録する最後の手続きとして書類を書いてもらう。ギルドカードは身分証明書として使うこともあるため、名前などは聞いておかなければならないのだ。


それを記入している最中、女性のほうが手を止めてこちらをうかがうような目で見てくる。

どうやら書けないことがあるらしい。

特に書きたくない部分は書かなくてもよい。そう伝えるとその手は再び書類に向かう。

そして少しあと、書き終えたようでこちらに渡してくる。


私はその書類を確認する。書けないところは空欄でよいといったが、氏名など確実に書いてもらわなければならない項目もある。そのため確認は必須なのだ。

その女性の書類は種族と所有称号の部分が空欄だった。

所有称号が空欄なのは珍しくない。そもそも持っていない人も結構いるからだ。

しかし種族が空欄なのはどういうことだろう。そう考え始めたタイミングで男性のほうが終わったようでこちらに書類を手渡す。

私はそれを食い入るように見る。先ほどの女性同様何かあるはずだ。

見落とすわけにはいかない。

上から順に確認して中間に差し掛かったあたり、所有称号の欄だ。

そこには【怠惰】と書かれていた。ほかにもいくつか書かれていたがそんなこと問題ではない。

私は恥ずかしげもなく声を上げてしまった。

これを見ると女性のほうも隠しているだけで人には言えない称号を持っているのだろう。

そのことは私の中ではほぼ確定事項だった。このことはさすがにギルド長に報告をしないといけないだろう。試験の難易度の話もそこですることにしよう。私は目の前の問題から少し目をそらすことによって精神の安定を図ることにした。




その後ギルドの加入手続きは恙なく完了した。

そのすぐあと、彼らは帰って行ってしまった。外を見るともうそろそろ夜になる。


彼らも家にでも帰るのだろう。

異常な二人も夜になったら家に帰る。


普通のことなのになぜか私はそのことに非常に安心感を覚えたのだった。




ギルド職員のアリサちゃんから見た2人の見え方の話ですね。

まぁ、家に帰るといってもその家はダンジョンで知らなくてよかったね、というオチです。

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