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怠惰の王は怠けない  作者: Fis
第1章 強欲は欲深い
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第14話 強欲は試験を受ける

今回少し長めです。

【フォートレス・キャンサー】

私の目の前に大量にいる蟹の名前だ。

鋼鉄並みの硬度殻を身にまとっており、敵の攻撃をやり過ごしてから攻撃してくる魔物だ。

それほど強い魔物ではないが今回は数が多すぎる。

「お~い!!終わったらそいつは確保しておいてくれ~」

ヴェルが場違いな言葉を投げかけてくるがそんなの無視だ。


数匹だけならまだしも二十匹もいる今、油断したら私のほうがやられてしまう。


私は一枚のカードを取り出し一本の武器を顕現させる。

斧の先端に槍がついた形状、俗にいうハルバードという武器だ。

あの固い殻を破るには剣な弓などは相性が悪い。

フォートレス・キャンサーはその特性上、相手の攻撃をはじめは受けようとする。

その一撃で勝負を決めるのが蟹狩りの基本だ。


「はあああああ!!」


まず手始めに私はハルバードを大きく振りかぶり近くにいた蟹にたたきつける。


メキ、グシャ、


という音を立てて蟹の甲羅が叩き割れる。

これを後約20回続けるだけで試験は完了だ、そう思い次の目標に目を向ける。

しかし、蟹たちは予想外の行動をとった。


防御のために縮めていたハサミを大きく開き攻撃態勢をとったのだ。


どうやら先ほどの光景を見た蟹たちは受けきれないと判断したようだ。

確かに【フォートレス・キャンサー】は初めの攻撃は受ける。

しかしそれは自分のの防御力に圧倒的自信を持っているからだ。


だから【フォートレス・キャンサー】は一撃で倒せる攻撃力を持っているなら怖くない。

しかしそれを目の前で砕かれればどうだろうか、そうなればもはや蟹たちは防御に徹する理由はないのだ。

ちなみに、通常【フォートレス・キャンサー】はその巨体故に群れない。そのため、【フォートレス・キャンサー】はどんな状況であれ初撃は必ず受けると思っている者が非常に多い。


今現在、大焦りで蟹の攻撃を捌いているイシュルもその一人だ。


「ちょ、ちょっとぉ!?こんなこと聞いてないんですけどぉ!?」


確かにこいつが群れで出てくるなんて聞いたこともないけれど、仲間を粉砕するとこんな行動をとるの!?

私は蟹鋏による殴打を辛うじていなしながら脳内で不満をたらす。


蟹の攻撃は遅いが殻が固い。


小手先の技など入ったところであまり意味をなさない。

かといって簡単に大振りの攻撃を入れさせてくれるほど甘くない。

これが1体1なら話は別なのだが今回は状況が悪い。


1対20なんてまともにやって勝利を収めるのは無理がありそうだ。


実際は蟹どもは体が大きいせいでそこまで状況は悪くはないのだが、それは誤差の範囲だろう。

このままではジリ貧で負けてしまう。


そう思った私は正面にいた蟹にハルバードを投擲する。


そのまま直撃して腹にでも刺さってくれれば楽になるのだが、とっさに体の前でクロスした蟹鋏で防御に成功したようだ。

当たってくれればいいなと少し期待したのだが、別に防がれたところで問題はない。


私は次なるカードを取り出し、顕現させる。

それが現れると同時、後ろから迫りくる蟹に向けて振り下ろす。


その程度の振りでは蟹の防御を突破できない。これまでの戦いでそう学習していた蟹はそのまま突っ込んでくる。

しかし、私の武器が蟹の体に到達すると同時、何の抵抗もなくその殻を切り裂いた。


そして私の手には、何物をも貫くとされる聖槍が握られていた。


「ここからは、手加減なしよ!!さっきまでのお返しさせてもらうわ!!」


この槍の前には防御は無意味だ。

ここから先は楽させてもらうわよ。


その後【フォートレス・キャンサー】自慢の防御力は何の防御もなさずに次々貫かれていった。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「よし、今日はカニ鍋だな。」

試験を終えてヴェルのほうに戻るとそう声をかけられる。

「回収を促されたときはまさかと思ったけど、やっぱり食べるのね。」

まあ、カエルやら食人植物よりかはいいわ。ただの大きな蟹ってだけだし、


「それにしても、どうして初めから槍を使わなかったんだ?そうすれば楽に勝てただろうに。」

あ~、やっぱり気になるわよね。でも、

「どうでもいいじゃない、勝てたのだから。」

そこは企業秘密だ。

実は物体のカード化やカードの具現化には体力を削る。そしてそれは顕現させるものが強大であればあるほど多くだ。

自分の能力の弱点は極力隠しておくものだ。

ヴェルは信用できるだろうが彼がついぽろっとこぼしてしまうかもしれない。


用心するに越したことはないのだ。


「それで?これで晴れて冒険者ってことでいいのよね?」

私は何故かそこで呆けているギルド職員に話しかける。


「え?えぇ、大丈夫です。ですが書類などを作らなければならないので、こちらに記入していただけますか?」

そう言って渡してきたのは1枚の紙だ。見てみると氏名、職業、種族、所有称号などの欄がある。

登録に必要なのだろう。

私はその書類の指示通りに記入をしようとして手が止まる。

これ、いろいろ正直に書いていいものなのか。

そう思い職員の人に目を向けると、

「あぁ、書けない部分は空欄でいいですよ。」

そう言われた。では遠慮なく空欄を使わせてもらおう。

私は種族、所有称号の欄を空欄にして提出した。

これなら何も問題ないだろう。しかしヴェルは、

「ちょ、所有称号【怠惰】って!?これ本当なんですか!?」


馬鹿正直に書いたらしい。すごく驚かれている。

これ、大罪系持っている人は加入不可とか言われたらどうするつもりなのだろうか。

「ああ、本当だ、ギルド加入になにか問題があるのか?」

「い、いえ、問題はありませんが・・・」


どうやらセーフみたいね。まあ、それを知っていても私は【強欲】のことは隠しただろうけど。

「じゃあ、頼んだわね。」

しかしこれ以上ヴェルのことを言及されると問題が起こりそうだ。私は早く登録を済ませるように促す。


「はい、わかりました。少しお待ちください。」

登録の催促をされたその職員はなにやら謎の装置を操作している。

そして数秒後、

「登録が完了しましたよ。これがギルドカードです。再発行には費用がかかるのでなくさないでくださいよ?」

私はそう言って手渡されたカードを確認する。

そこには先ほど書き込んだ情報と右上には「銅級」と書かれていた。

「あの、この右上の、」

疑問に思って聞こうとするといい終わる前に、

「それは冒険者の等級を表しています。等級が低いと難度が高い依頼を受けられなかったりするので注意してください。等級は依頼をこなしていると自動的に上がっていきますのでたまに確認するのを進めますよ。」

と説明を入れてくれる。


その後少し話を聞いた話では冒険者の等級は銅級から始まり、


銅→銀→金→ミスリル→オリハルコン→ヒヒロイカネ


と6つに分かれているそうだ。

まぁ、ダンジョンに入るためだけにギルドカードを手に入れた私たちにはあまり関係のない話ではあるが覚えるだけ覚えておいて損はないと思う。

相手が何級かで実力が分かるときもありそうだしね。


「じゃあ、改めてお宅訪問に行きましょう。もうそろそろ夜になるわ。このままじゃ私たち宿なしよ」

ギルドカードを手に入れたからあの遺跡内部にも入れるはず、遺跡に入り合図さえ送れば向こうが気づいて迎えに来てくれるらしいから遺跡に向かって歩き出す。

「そうだな、いい食材も手に入ったし早く会いに行こう。」

ヴェルも私の後を追って歩き出す。


それにしても、ヴェルの友人ね、【嫉妬】の悪魔とか言ってたけどどんな奴なのかしら。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


遺跡の前は日が暮れているとあって人が少なく早く内部に入ることができた。

昼時に私たちを引き留めた騎士たちがもう登録を済ませてきたのに驚いていたのはご愛敬だ。

しかし、

「合図を送るってどうやればいいの?大きな声でも上げるの?」

そこはいまいちよくわかってない。手紙には挨拶とこの場所しか書かれていなかった。合図のことには触れてあったが何をすればいいのかということは読み返しても発見することはできなかった。

その疑問を口に出すとヴェルは当然分かっているというような顔をして荷物の中に手を入れる。

「ああ、これを鳴らすんだ。」

そう言って取り出したのは一つのベルだった。

一見普通のベルに見えるが表面にはこの遺跡の入り口にあった印が描かれている。


なるほど、これでヴェルはこの遺跡が友人のものだと特定したわけね。

そしてベルが鳴らされる。


キン、キン、


と、その見た目にふさわしくない高音が鳴り響きその音があたりに反響する。

そして反響音が聞こえなくなるのとほぼ同時に、


「ヴェル、よく、きてくれた。」

という聞きなれない声が聞こえる。

少し幼いような、それでいて落ち着いているような声だ。

「ようこそ、わたしの、いえに。」

再び声が聞こえる。

私は声の聞こえた方向に目を向ける。

そのさきにいたのは


可愛らしい少女だった。



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