第10話 強欲は決意する
想像をはるかに超えて黒竜の肉はおいしかった。
ただ一つ不満を言わせてもらうなら、
「なんで肉オンリーなのよ!!」
「仕方ないだろう?そもそも俺はこの街を出るつもりだったんだし、飛竜のせいで大体の店は閉まっていたからな。」
それはそうなのだけれども、何か納得がいかない。
まぁ、人に捕らせた肉を我が物顔で食べているのだから強くは言えないんだけど・・・
せめて野菜の一つくらいほしいところだわ。
肉はおいしいけど少し胸焼けがしてきたわ。
「それはそうとお前はこれからどうするつもりだ?」
ヴェルが唐突に聞いてくる。
「どうするって何のことかしら?」
「俺は明日改めてテラに向かうつもりだけどイルは違うだろう?住居とか当てはあるのか?」
そういえば考えるのを忘れていたわ。
どうしようかしら。
「あの、もしよかったらなんだけどな」
今後の方針を考えようとすると、ヴェルが少し気まずそうにきいてくる。
「俺と一緒に来てくれないか?」
予想外の内容だった。
ヴェルにとっては私は道の途中であっただけの存在だ。
これまで頼みを聞いてくれただけでも非常に助かったのに今後のことまで面倒を見るつもりなのかと思い、ヴェルの表情をうかがってみる。
しかし、ヴェルはおせっかいなどで言っているような表情をしていなかった。
彼はすごく苦しそうな表情をしていた。さらに、こちらが気を悪くしていないかとでも考えているようだ。
これ以上は見ていられない。
「こちらから頼みたいくらいよ。これからよろしく頼むわね。」
おそらくヴェルが一番望んでいると思われる答えを返す。
彼はそれを聞いた瞬間、数秒だが固まってしまった。
あれ?なにか間違えたか?そう思ったが杞憂だったようだ。
彼は数秒後とても明るい笑みを浮かべて
「あぁ、これからよろしくな。」
といったのだった。
街の外
私たちは街道を歩いていた。
テラへ着くには徒歩で3日かかるそうだ。
って3日!?
「あなた今3日かかるっていった!?」
「あぁ?何か問題でもあるのか?」
問題大有りよ!!
「旅の途中の食事はどうするつもりなの!?まさかとは思うけど昨日捕った肉の残りで何とかするつもりじゃないでしょうね?」
そもそもそのつもりならなぜこいつは昨日食料を持たずに歩いていたのか?
「あぁ、勿論そんなつもりはないさ。言ってなかったがこの街道にはそこそこ魔物が出るんだ。」
魔物?何か関係があるのだろうか?
ってまさか、
「あなた、魔物を狩って食べるつもりなの?」
馬鹿げてるわ。あんなに美味しくないものを食べようとするなんて。
「そのつもりだが、何か悪かったか?」
「悪いも何も、あいつら美味しくないじゃない!!」
「そうはいっても食うものは他には用意してないしなぁ。3日分の食料となると荷物になるから持ってけないしな。」
「ばかーーー!!なんで出発前に私に相談してくれないのよ!!私の能力忘れたの!?」
「あ、」
「『あ、』って言った!?今。」
「しょうがないだろう?旅の準備自体は終わっていると思ったんだよ。」
完璧に忘れていたようね。まあ、昨日出会ったばかりだから仕方のないことなのかもしれないけど。
しかしこれは由々しき事態だわ。
あのまずい魔物たちを食べさせられるのだけは避けなければならない。
しかし、黒竜の肉は昨日食べまくって今日も食べれるかといわれると微妙だ。
仕方ない、今回ばかりは出費を抑えるわけにはいかないようね。
「まったくもう、仕方ないわね。」
そう言って私は1枚のカードを取り出す。
『B-知恵の実』
天界の庭に大量に実っていたから少し拝借してきたものだ。
「今日から3日間は私が食料を出すわ。堕天してもう補充ができないからできるだけ食べたくはなかったのだけれども、この際そんなことも言ってられないわ。」
「いいのか?天界のものって基本的に採取が禁止されているから貴重なものなんだろう?」
「魔物を食べるよりはましよ。」
あんなものを食べ続けたら気が狂いかねない。
昔一度だけ牛のような魔物を食べたことがある。
非常にまずかった。
肉は固いし、野生のけもの特有の臭みがひどい。その上ゴムのような味がする。
二度と食べないと誓ったわ。
「しかしなぁ、魔物ってそんなにまずいか?そこそこ特徴のある味だとは思うんだけど・・・」
ヴェルは悪食みたいね。これは早急に正さないといけないわ。
「あんなものを好き好んで食べるなんてどうかしているというレベルね。」
「そうか?あれなんて結構うまいんだけどな。」
そう言ってヴェルは遠方を指さす。
そこにいたのは、
どうみても食べられないと思われる巨大なスライムだった。
まさか、あれを食べる気なの?こいつ




