第1話 プロローグ
私、熾天使イシュルは走っていた。
理由は簡単、逃げるためだ。追いかけてくる相手はつい先日まで同僚であった天使たちだ。
どうしてこうなったのかなど考えるまでもない。理由は単純明快、
私が盗みを働いたからだ。
しかし、私は仮にも上級天使に位置する熾天使だ。ただ盗みを働いただけではここまで逃げる必要はないだろう。ただ、今回ばっかりは盗んだものが悪かった。通常こんなものを盗む者などいるはずがないし、そもそも『それ』がある場所にたどり着けるのはごく一部の者だけだ。神々も警戒はしていなかったのだろう。
ただそれ故に盗まれたと知った時の行動は何よりも早かった。
「そっちだ、逃がすな」
部隊長が声を上げる。
「くそっ、」
逃げている間ずっと思っていることだが、こいつら本当にしつこい。
そんなに大事なら倉庫の奥底に放置なんてしなければいいのに、というのが正直な感想だ。
この限界に近い状況でそんなくだらないことを考えていたのが悪かったのか、私は地面の小さなでっぱりに足を取られた。転びそうになったがそれは辛うじて回避する。しかし、
「逃走劇はもう終わりかな?」
この絶好の隙を見逃すほど相手も無能ではなかったらしい。この一瞬で完全に包囲されてしまった。
「どうやらここまでみたいね」
どうせ逃げられないのだ
「そうみたいだな、お前はたった一人でよく頑張ったよ。しかしお前は幸運だ最後に私に殺されるのだからな」
なら最後まであがいてやる。
「逃走劇はここまでだけど、私は諦めるなんて一言も言ってないわよ。」
「なっ!?」
私は包囲を突き破るべく走り出した。