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ミッション15—1 道案内の先に

 レイヴン曰く、金がない。

 戦争の準備というのは金がかかるもので、レジスタンスの金庫は危機的状況だ。

 そこでファルたちには、『稼げそうなこと探してこい』という無茶振りが下された。


 なんとかして無茶振りに応えるため、ファルとヤサカ、レオパルトの3人は、八洲西部筑紫島の都市羽片(はがた)にやってきている。

 羽片の街を歩きながら、3人はともかく稼ぐ方法を探すだけだ。

 

「稼ぐ方法……稼ぐ方法……ああダメだ! 犯罪行為しか思い浮かばない!」


「犯罪行為? 例えばなんだ?」


「空き巣、銀行強盗、ネット詐欺、振り込め詐欺、保険詐欺、偽札作り、ぼったくり、武器売買、密輸――」


「ファルくん、なんでそんなにスラスラと犯罪行為が思い浮かぶのかな……」


「偶然だな。僕もファルと同じことを考えてた」


「もう、レオパルトくんまで……」


「じゃあヤサカ、犯罪に手を染めずに金が稼げる方法、なんかあるのか?」


「ううん、例えば投資がうまいプレイヤーさんを見つけるとか、イベントをやって参加費用を稼ぐとか」


「なるほど、投資家を雇ってインサイダーをやるんだな」


「架空のイベントで参加者を募るのか。良い方法だ」


「あれ? 結局犯罪になってる?」


 まともな方法で金を稼ぐつもりがないファルとレオパルト。

 ヤサカは思わずため息をつき、先行き不安に陥った。

 

 とはいっても、金を稼ぐ方法がそう簡単に見つかるわけがない。

 犯罪行為で稼ぐにしたって、相応の準備が必要なのである。

 ファルたち3人は、結局は羽片の街を歩くだけだ。


「とりあえず、人の多いところに行くか」


「そうだね」


 休日の羽片の繁華街は多くのNPCが行き交い、中にはプレイヤーの姿もある。

 そこならどこかに良い稼ぎ場所があるだろう。

 そんな曖昧な思いを抱きながら、3人は繁華街へと向かった。


 繁華街に到着すると、大勢のNPCに紛れ、ファルたちは辺りを見渡す。

 バイトの募集、求人広告など、収入になりそうなものはすべて確認だ。


「手っ取り早く稼げる仕事はどこにもないな」


「やっぱり、犯罪に走るしかないんじゃないか? 俺たちとっくに犯罪者みたいなもんだし、別に良いだろう」


「ファルくんとレオパルトくんが正しいのかな……」


 ついにヤサカまで、犯罪行為への忌避感がなくなってきた。

 それ以降、ファルたちは自然と銀行や郵便局ばかり眺めるようになってしまう。

 

 思考が犯罪者になりかけているファルたち。

 そんな時であった。

 1人の女性がファルに近寄り、話しかけてくる。


「お兄さ~ん、道を教えてくれませんか~?」


 妙に甲高い声、演技のような口調。

 だが頭につけたリボンが似合う、可愛らしい見た目の、歳はファルたちと同じくらいの少女。

 ファルたちはどこかで、彼女の顔を見たような気がする。


「すみません、あなたは?」


「私ですか~? わたしはヨツバです~」


「ヨツバ……まさか、人気アイドルグループ『ぷりてぃースターズ』の?」


「嬉しいです~! 私のこと~、ご存知だなんて~!」


「え? マジで!? ぷりてぃースターズのヨッツー!?」


「すごい! 有名人だよ!? まさか、こんなところで偶然会えるなんて……」


 現実世界では、1週間もテレビを見れば1度は目にする機会があるであろう、人気アイドルグループ『ぷりてぃースターズ』。

 ヨツバはそのメンバーであり、人気投票でも上位の常連。

 正真正銘の有名人に、このような場所で出会うなど、驚きだ。


 実のところ、美少女具合で比べればヤサカの方が上だろう。

 だが有名人オーラを醸し出すヨツバに、ファルとレオパルトは緊張してしまった。


「ええと……あの……」


「有名人だなんて~そんなことないですよ~」


「その……ううんと……」


「それでも~、有名だなんて仰っていただけると~、すごく嬉しいです~。ありがとうございます~」


「……なんでしたっけ? 道案内?」


「ああ! そうです~! 実は~道に迷っちゃって~」


 上目遣いでファルとレオパルト2人の顔を覗き込むヨツバ。

 これに対し2人は、瞬時にキメ顔に切り替え、自分たちが思う最高にカッコイイ声で答えた。


「それは大変だ」


「ああ、大変だ」


「俺たちが案内しましょう」


「目的地は? 目指す場所は?」


「羽片の駅です~。道に迷っちゃって~、どうしようもなくて~、困っていたんです~」


「よしレオパルト、駅までの最適なルートを」


「分かった。2分以内で割り出す。いや、1分以内で割り出す」


 有名アイドルを前にして、ファルとレオパルトはおかしなエンジンがかかっている。

 ヤサカはファルたちのノリについていけない様子だ。


「最適なルートを割り出した。これがそのルートだ」


「どうぞ、駅までの道順です」


「ううんと~、実は私~、すごく方向音痴なんです~。できれば~、一緒に駅まで連れて行ってくれると~、嬉しいです~」


「もちろん」


「まずはこの道をまっすぐ。あの交差点までまっすぐ」


「ありがとうございます~」


 まさか人気アイドルを道案内するような日が来るとは。

 ファルとレオパルトは内心、興奮状態だ。

 興奮状態を外に出さぬように、2人は必死で気取っているのだ。


 対照的なのはヤサカである。

 彼女はヨツバの表情、瞳の奥を見つめ、何やら不審なものを感じ取っていた。


 とはいえ、ヤサカも正面切ってヨツバを疑うようなことはしない。

 ヨツバを連れ、ファルたちは駅に向かって歩きはじめる。


 駅までの距離はわずか300メートル程度。

 道案内はあっという間に終わった。


「ここが駅です、ヨツバさん」


「わ~、すごいですね~、もう到着しました~」


「それでは、ここでお別れ――」


「あの~、お兄さんたちはこれから~、予定とかあるんですか~」


「私たちは――」


「予定はありません! なあレオパルト?」


「その通りだ。予定はない」


「ファルくん!? レオパルトくん!?」


 困惑するヤサカを横目に、ファルとレオパルトの鼓動は早くなるばかり。

 トップアイドルに、これから予定はあるのかと聞かれたら、ないと答える以外に選択肢はないであろう。


 ファルとレオパルトの答えに、ヨツバは一瞬だけニタリと笑う。

 しかし直後には満面の笑みを浮かべ、言った。

 

「ちょうど良いです~! 実は~、あそこにあるライブハウスで~、ライブをやるんです~! せっかくですから~、1人5000圓なんですけど~、見に来てくれませんか~?」


 この言葉を聞いて、ヤサカは理解する。

 ヨツバは最初からライブに誘うのが目的で、ファルたちに道案内をお願いしてきたのだ。

 

 さて、ファルとレオパルトはどう答えるのか。

 短い時間とはいえトップアイドルとの時間を過ごした2人は、ヨツバの手の平で踊るのだろうか。


「見に行きます!」


「行くに決まっている」


 ヨツバの手の平でブレイクダンス中のファルとレオパルト。

 2人はまんまと、ヨツバの策略にはまってしまったのだ。

 金の亡者であるファルに、ヨツバは5000圓を払わせてしまったのだ。


 あまりにチョロすぎる2人に、ヤサカは再び大きなため息をつく。

 大金を稼ぐ方法を探しに来たはずが、金を払ってアイドルのライブを見に行くことになってしまったのだから、ヤサカがため息をつくのも当然だろう。


「ありがとうございます~! イケメンなお兄さんたちがいてくれれば~、私も楽しくライブができます~!」


「イ、イケメンだと!?」


「では~、ライブハウスはこっちです~」


 そう言って、ヨツバはファルたちをライブハウスへと案内した。

 ライブハウスは、駅から少し離れた雑居ビルの一角。

 決して目立つような場所ではない。

 

 300メートル程度の駅の場所すら分からない方向音痴が、なぜ、こんな目立たぬライブハウスにファルたちを案内できたのか?

 そんな疑問を抱く余裕は、ヤサカにはあってもファルとレオパルトにはなかった。

 今の2人は、トップアイドルに出会えたことに有頂天となり、ほぼ思考停止状態なのである。

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