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ミッション14—6 新しい生活

 イミリアの聖人ああああ。

 人殺しサイコ筋肉あああい。

 2人ともこの世から消え失せた。


 ニートああああ。

 好青年あああい。

 これが今ファルたちの前にいる2人である。


 あまりの衝撃に言葉を失うファルとレオパルトだが、ラムダはいつもの調子だ。


「人間って、見た目だけや行動だけじゃ分からないですね! やっぱり心の中まで見ないと、その人の本当の姿は見えてきません!」


「いや、あの2人は特殊な例だと思うが」


「ファルさんよ、ファルさんも見た目や行動じゃ判断できない人ですよ!」


「その通りだ。僕も同意見だ」


「レオパルトさんよ、そんなあなたも見た目や行動じゃ判断できない人です!」


「待てよ、ラムダだって見た目は美人なのに、実際はとんでもないヤツだろ」


「じゃあわたしたちは、全員特殊な例です! ああああさんやあああいさんは他人事ではありません!」


「……なんでだろう、そんな気がしてきた」


 何はともあれ、ああああとあああいは別人となったのだ。

 特に、ああああが聖人でなくなったのは大きい。


「ともかく、ああああはクソニート化した。あれなら反戦運動とか絶対しないだろうし、やったとしてもSNSでのたまうだけだろ」


「ああああの説得は成功だな。任務は終わりだな」


「問題はどうやってここから逃げるかなんだが……」


 ファルはちらりと、あああいに視線を向けた。

 そこにいるあああいが、もし人殺し筋肉であれば、ここから逃げることは困難であっただろう。

 しかし今のあああい相手ならば、簡単に逃げられる気がする。


 いや、逃げる必要もないかもしれない。

 はっきりと、ファルはあああいに質問した。


「あああいさん、俺たちもう家に帰って良いですか?」


「え? ああ、もちろん。ただ……この隠れ家を警察に伝えて欲しくないのだけど……」


「言わない言わない。あああいを誘拐したことも言わない。だから安心してくれ」


「それは助かるな」


 やはり、好青年あああいはファルたちの帰宅を許してくれた。

 そりゃそうだ。

 逃げたらミンチにしてやるとか言っていたクレイジーサイコ人殺し筋肉野郎は、もう消えたのだから。


 一方、レオパルトはある疑問を口にする。


「ああああはどうする? あああいさんの隠れ家でニート生活中だが、どうする?」


「それは――」


 少し困ったような顔をして、ああああが引きこもる部屋を眺めたあああい。

 彼はすぐに笑って、爽やかに答えた。


「ああああさんは、この隠れ家のあの部屋が気に入ったみたいだし、ボクが世話をするよ。警察に命を狙われる者同士だからね、助けないと」


 なんてお人好しなのだろうか。

 親しくもない居候、しかもニートを支えようというのだ。

 もはやあああいの方が聖人である。


 あああいの優しさに心を打たれながら、面倒ごとを終えたファルたち。

 彼らがこの場所にいる理由は、もうない。

 3人は帰りの支度をはじめた。


「あああいさん! 楽しかったです! またカードゲームをしましょう!」


「お姉さんは本当のボクを取り戻してくれた恩人だからね。もちろんさ」


「そんな大げさですよ! 一緒にお話して、カードで遊んでただけです! ヒャッハーって叫んでただけです!」


「そうだね。また、いつか会える日を楽しみにしてる」


「わたしも楽しみにしてます! それじゃあ、さようならです! ヒャッハー!」


「さようなら! ヒャッハー!」


 独特な別れの挨拶を交わすラムダとあああい。

 ファルとレオパルトは、訳も分からずあああいの隠れ家を後にした。


 時間は深夜。

 暗闇の中でワゴン車を走らせ、ファルたちはとりあえず江京に向かう。

 江京に向かう間、ファルは電話でヤサカに報告だ。


「もしもし、ヤサ――」


《ファルくん! 大丈夫!?》


「大丈夫だ。レオパルトもラムダもいつも通り」


《良かった……ずっと連絡が途切れてて、3日も行方不明で、心配したよ……》


「悪い悪い、ちょっと面倒ごとに巻き込まれてな」


《そうだとは思ってたけど……ファルくんたちが無事で良かった》


 安堵のため息が、電話の向こう側から聞こえてくる。

 ファルたちは50時間以上もあああいの隠れ家にいたのだ。

 その間、ファルたちの行方を知らないヤサカがファルを心配するのも当然だろう。


 ヤサカをさらに安心させるには、さらに詳細な情報を伝えるべき。

 滔々と、ファルは報告を口にする。


「途中であああいが乱入してきたんだ」


《あああい!? 皆殺しあああいが乱入してきたの!?》

 

「そのあだ名に懐かしさすら覚える……。ええと、乱入してきたあああいはああああを誘拐。俺たちはああああを追うためにあああいと一緒に逃走。あああいは自分の隠れ家にああああを監禁して、俺たちもあああいに脅迫されて帰れなくなった」


《なんだか、ああああとあああいの違いが分からなくなってきたよ……》


「ただ、警察の追跡はなかったから、平和だった。で、隠れ家生活の結果だけ言うが、ああああはクソニートになって反戦活動を放棄、あああいは好青年になってああああの面倒をみることになった。俺たちはあああいの隠れ家から解放されて、江京に向かってる」


《展開が唐突すぎてついていけないよ……》


 これにはファルもヤサカに同情してしまう。

 なぜなら、唐突な展開にファルもついていけてないからだ。


「意味が分からないだろうけど、つまりああああとあああいの心配はないってことだ」


《ううん……ファルくんがそう言うなら、私はファルくんを信じるからね》


 いまいち納得のいかない様子のヤサカ。

 だが問題はない。

 ファルは真実しか述べていないのだから。


 さて、ファルからの報告は以上だ。

 次はヤサカからの報告である。


《ファルくん、私からも報告だよ。ああああさんの暗殺未遂事件では、28人のプレイヤーが解放されたみたい》


「まあまあだな。これでプレイヤー解放人数の合計は、何人だ?」


《最近は作戦外でログアウトされてるプレイヤーも増えてるみたい。その人数も含めると、プレイヤー解放人数はこれで合計591人だね》


「そうか。先は長そうだな」


《でも、戦争の準備は順調だよ。もしファルくんの作戦がうまくいけば、プレイヤーを一気にログアウトさせられる》


「いきなり数百数千単位でプレイヤーがログアウトしたら、田口さんも驚くだろうな」


《うん。驚かせてあげたいね》


 小さな障害とはいえ、ああああの反戦運動は封じ込めた。

 これでファルたちの作戦は一歩前進したのである。


《あ、そういえば田口さんで思い出した》


「どうした?」


《また1人、ログアウトが不完全で昏睡状態のプレイヤーさんがいたんだって。やっぱり脳に異常はないみたいなんだけど……》


「原因は分かってないのか?」


《サダイジンちゃんも、分からないって》


「ゲーム製作者が分からないんじゃ、ちょっとお手上げだな」


《そうだね。捜査本部とキョウゴさんたち、それにサダイジンちゃんが原因を調べてるけど、ファルくんも何か分かったら、教えてね》


「了解」


 なんとも不可解な出来事だ。

 これは原因究明が急がれるであろう。

 

《ファルくん、あとどのくらいで江京に着くかな?》


「そうだな……ラムダ、江京までどのくらいだ?」


「1時間半ぐらいです! 飛ばせば1時間切りますよ!」


「1時間半だそうだ」


《分かった。臨海ヘリポートに行けばクーノのお迎えがあるから、そこに向かってね。それじゃ、また後で》


「ああ、じゃあな」


 そこで、ヤサカとの電話は切れた。

 ファルは車の窓から空を見上げ、あああいの隠れ家での出来事を思い浮かべる。


「なんだったんだろうな、この3日間は」


「ああああさんとあああいさんが自分に素直になった3日間です!」


「素直になりすぎな気がするが」


「僕は、まるで夢でも見ていた気分だ」


「確かに、現実感ないよな」


「ファルさんよ、変なこと言いますね! ここはゲーム世界です! 現実感があるわけないです!」


「ラムダって、ちょくちょく真理を口にするよな」


 ふんわりとした出来事について、ふんわりとした会話を交わすファルたち3人。

 ちょっとした面倒ごとは、意味の分からない展開によって終わり、ファルたちは日常に戻ろうとしているのである。

第14章 完

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