ミッション14—1 賑やかな食堂
バカンスを終えたファルたちは、救出作戦を再開した。
政府やNPCの監視が強まり、プレイヤー同士で集まることが難しくなったため、1度の作戦で解放できるプレイヤー人数は十数人程度。
2週間で58人解放と効率は悪くなったが、1人も解放しないよりはマシだ。
一方で、八洲の政治には大きな動きがあった。
スキャンダルが重なり支持率が低下していた総理大臣が辞職したのだ。
後任はなんと、プレイヤーの秋川である。
さて、八洲の総理大臣がプレイヤーとなる中、ファルはいつも通り。
彼は朝食を求めて護衛艦『あかぎ』の食堂へと向かう。
ところが、食堂の入り口はいつも通りではなかった。
アマモリとシャムを先頭に、15人のレジスタンスメンバーが食堂入り口を封鎖していたのである。
「あれ? どうかしたのか?」
「ファルお兄さんが来ましたの!」
「来たぞ! ファルが来たぞ! 絶対にここを通すな!」
「はい?」
スクラムを組みファルの行く手を遮るレジスタンスメンバーたち。
ファルはレジスタンスメンバーを突破しようと足掻くが、筋肉の壁は固い。
「なんなんだ!? 俺の朝食を邪魔する気か!?」
「そうだ! これ以上、ヤサカお嬢にお前の朝食を作らせてたまるか!」
「ヤサカお姉様の料理ステータスを守れるのは、わたくしたちだけですの!」
「ファルが諦めるまで、俺たちはここでファルを食い止める!」
「いや、そんなくだらないこと長続きしないと思うけど」
「できる! 俺たちにはできる! なぜなら俺たちは、レジスタンスだからだ!」
「おい! どうでもいいことにレジスタンスするな!」
是が非でも、レジスタンスメンバーたちはファルを食堂に入れようとしない。
これにファルは負けじと、メニュー画面を開く。
「どうしても俺を食堂に入れないっていうなら、容赦しないぞ」
「気をつけるですの! ファルお兄さんが、コピーNPCの準備をはじめましたわ!」
「やる気だな!? コピーNPCなんかで俺たちを突破できると思うな!」
「じゃあ試してみるか。出でよ! 俺のコピーおっさん――」
護衛艦『あかぎ』の食堂前で、ファルたちは戦闘態勢。
だが、彼らの戦いがはじまることはなかった。
人混みをかき分け、ファルとレジスタンスメンバーたちの間にヤサカが立ったのである。
ヤサカが現れた瞬間、ファルの勝利が確定した。
というのも、ヤサカが両手に持つ皿には地獄が盛り付けられていたのだ。
「はい、ファルくんの朝食だよ」
「ありがとう、ヤサカ」
ヤサカに対し感謝の言葉を述べながら、これ見よがしに地獄を頬張るファル。
レジスタンスメンバーたちは肩を落とす。
「……俺たちは勘違いしていたみたいだ」
「そうですわね……。レジスタンスの対象はファルお兄さんではなく、ヤサカお姉様だったみたいですわね……」
そんなことを呟きながら、すごすごと解散するレジスタンスメンバーたち。
ファルとヤサカは彼らを横目に食堂へと入り、席に座った。
「これでみんなも理解できたはずです! ヤーサは誰にも止められないんです!」
「諦め、大事」
「詳しいことは知らないんだぞ。でも、レジスタンスはファルさんとヤサカさんに負けたんだぞ」
「当たり前だよォ、ヤサちゃんに勝てる人間なんてェ、この世にはいないんだよォ」
食堂前の戦いの顛末を見た、ティニーたちの感想。
魔法少女サダイジンも、あっという間にティニーたちに馴染んでしまったようだ。
彼女らに続き、レイヴンとコトミ、ミードンがファルに挨拶する。
「よう」
「おはよう」
「おはよう! にゃ!」
「おはようございます。コトミさん、田口さんからの連絡は?」
「今日はないわね。恭吾さんからも特に連絡はないわよ」
「そうですか」
「代わりに、別のヤツから連絡が来てるぜ」
「別のヤツ?」
首をかしげるファルに対し、レイヴンはノートパソコンのモニターを見せた。
ヤサカやティニーたちも、ファルの周りに集まりモニターに注目する。
モニターには、数日前にイミリアのテレビや新聞に連日顔を出していた人物が。
「秋川総理大臣……!?」
《君にその名で呼ばれるのは、これがはじめてだな》
「え?」
《君にとっては、ミストという名の方がしっくりくるだろう》
「やっぱり……ミストさんの正体は秋川さんだったんですか……。それにしてもまさか、ミストさんが総理大臣になるなんて驚きましたよ」
《問題のないところに火をつけて、スキャンダルで総理を辞任させたのだよ。幸いなことに、私のNPC支持率は高い。それほど苦労はなかったさ》
微笑むミスト——秋川に、ファルは恐怖心を抱く。
苦労なく総理になるために、秋川が何をしてきたのか、想像するだけで恐ろしい。
秋川はファルの恐怖心など気にせず、話を続ける。
《ところで、救出作戦に行き詰まりが見えているようじゃないか。このままの調子では、プレイヤー全員解放に何年かかるか分からない状態とレイヴンから聞いている。ゆえに、新たな救出方法を探っているとも》
「はい」
《どうだね? 新たな救出方法は見つかったか?》
「実現できるかどうかは別として、ひとつ思いついたことがあります」
《聞かせてくれ》
モニターの向こうで答えを待つ秋川。
ファルは気後れすることなく、はっきりと答えを口にした。
「一番人に迷惑をかけて、一番道具を使って、一番人が死ぬものってなんだろう、って考えたんです。そしたらひとつ答えが出ました。戦争です。世界大戦的なものを起こせば、一気にプレイヤー解放が捗るんじゃないかって」
「ふぁ、ファルん!? 戦争を起こすつもりなの!?」
「ああ。戦争って非日常の極致だろ。戦争が起きればゲームっぽいクエストも増やせるだろうし、やり方によってはプレイヤーたちのゲーム感覚を刺激できるしな」
「で、でも、2年前の戦争では、プレイヤーがイミリアを現実世界と思い込む要因になったんだよ?」
「中途半端で短い戦争するからだ。世界大戦レベルで、クエストやり放題で、10回20回とリスポーンすれば、現実感覚なんて吹き飛ぶ。何より、俺たちにはチートがあるだろ。俺たちレジスタンスが積極的に戦争を演出すればいい」
「そんな……めちゃくちゃだよ……」
「すごいです! 当たり前のように戦争を利用してます! やっぱりファルさんが一番ヤバい人です!」
「悪霊も、真っ青」
さすがのヤサカたちも唖然としてしまっている。
新たなプレイヤー救出方法は戦争です、と言われれば、驚くのが当然だ。
しかし秋川は驚かない。
むしろ、彼はファルを褒め称えた。
《2年前の戦争では、プレイヤーたちにイミリアが現実であるという幻想を植え付けさせた。だが今度は、戦争でプレイヤーたちにゲーム感覚を呼び起こし、プレイヤーを解放させると。素晴らしいじゃないか。手伝おう》
戦争に乗り気な秋川。
彼は自分の立場を利用する気満々だ。
《これから私は、八洲のNPCを扇動し、メリアやベレルを挑発し、すぐにでも戦争の下準備を終わらせよう。人間の心と違い、NPCは扱いやすい。レイヴンやキョウゴが手を貸してくれれば、それほど時間はかからないはずだ》
「ヘッヘッヘ、じゃあお望み通り、手を貸してやるぜ」
「すぐに恭吾さんに連絡するわ。たぶん、レオーネ・ファミリーも協力してくれるはずよ」
護衛艦『あかぎ』の食堂で、戦争を起こすための話し合いが進められる。
八洲の総理大臣とレジスタンス、サルベーション、レオーネ・ファミリーが手を組めば、戦争を起こすのは難しいことではない。
この光景に、ファルは新たな作戦がはじまったと喜ぶが、ヤサカたちは瞬きを繰り返すだけ。
サダイジンはゲーム製作者として、ファルたちに助言を与えた。
「NPCの戦争気分を高める簡単な方法があるんだぞ」
「どんな方法だ?」
「だぞ、心霊現象や怪奇現象でNPCを怖がらせるんだぞ」
「戦争に全く関係ない気がするんだが」
「戦争気分はNPCの恐怖ステータスに依存するんだぞ。どんな理由でも恐怖ステータスが上がれば、みんな自然と戦争に向かうんだぞ」
「おいおい、ゲームシステム的に大問題だろ、それ」
「イミリアは無理を重ねて作ったゲームだぞ。実は欠陥だらけなんだぞ」
「そんなことをドヤ顔で言われても……」
なんにせよ、ファルの考えた新たな救出作戦がはじまったのだ。
イミリアに戦争を起こすという、とんでもない作戦がはじまったのだ。




