表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここゲーム世界ですし、死んでログアウトするのが目的ですし  作者: ぷっつぷ
第13章 ゲームは少数で多数に勝つのがセオリーですし
90/173

ミッション13—5 葦原艦内の戦い

 相手はガロウズと複数のアレスター。

 逃げ場はない。

 下手をすれば、全滅の可能性すらあるだろう。


 だが逃げ場さえあれば、ファルたちにも希望はある。

 それゆえ、レイヴンは次の指示を出した。


「ラムダ、よく聞け」


《なんでしょうか!?》


「ガロウズとアレスターは俺が引きつけておいてやる。お前は甲板のヘリポートにヘリを用意するんだ。いいな?」


《この戦艦はどうするんですか!?》


「放棄する。どうせこいつの足じゃ逃げきれねえだろうからな」


《うう……葦原とはここでお別れですか……寂しいですけど、分かりました!》


「よし。おいクーノ、お前はヘリのパイロットだ。敵艦隊はまだ近くにいるが、逃げられるな?」


「クーノの操縦ですよォ? 信じてくださいよォ」


「任せたぜ。キョウゴさんたちは、サダイジンやファル、ティニー、レオパルトをヘリまで守ってもらう。ヤサカもだ」


 次々と指示を出すレイヴン。

 しかしファルにはひとつ疑問があった。

 その疑問を、ファルはレイヴンにまっすぐぶつける。


「ガロウズとアレスターを、1人で引きつける気ですか?」


「ああ、そうだ。死んでばっかりでステータスガタ落ちの俺だが、死ぬ寸前に自殺すりゃリスポーンもできる。心配すんじゃねえよ」


「俺も行きます」


「ダメだ。ファルじゃガロウズやアレスターには勝てねえ」


「それはレイヴンさんも同じです。俺にはチート能力があります」


「だからなんだ? 格好つけるのはいいが、戦いに慣れてねえお前にできることはあるのか?」


「あります」


「ヘッヘ、大ボラ吹きやがる」


 レイヴンの口は笑っていても、目は笑っていない。

 彼は本気で、ファルを止めようとしている。

 だが、ファルと同じ思いを抱く人物が、この場にはもう1人いた。


「私も行きます」


 ヤサカだ。

 

「私が一緒にいれば、ファルくんの補助になりますよね」


「ったく……ヤサカにはサダイジンたちをヘリまで護衛――」


「キョウゴさんやデスグローさんたちがいれば、護衛は十分だと思います。それに、私がいれば、レイヴンさんがすぐ死ぬ可能性も低くなりますからね」


「ファルもヤサカも大口叩きやがって……。分かった、ついてこい。後悔すんじゃねえぞ」


 ため息をつきながらも、レイヴンはファルとヤサカの同行を許す。

 少し呆れたような表情をするレイヴンの目は、今度は可笑しそうにしていた。


 役割分担はこれで完了。

 戦闘指揮所を飛び出したファルたちは、通路の水密扉を閉鎖しながら目的地へと向かった。


「みんなで逃げるんだぞ。瀬良(カミ)兄には負けないんだぞ」


「私の背後霊、みんなを守る」


「ファル、ヤサカ、生きて帰ってこい。必ず帰ってこい」


「やめろレオパルト、死亡フラグを立てるな」


「大丈夫だ。どうせ死んでもログアウトされるだけだ。フラグの立ちようがない」


「まあな。お前らこそ死ぬなよ」


「てめえ! 俺様が死ぬわけねえだろ! バカにしてんのか!?」


「スグローは死んでも良いんだぞ」


「あんだと!? もう一度言ってみろ!」


「いいから、さっさと行け!」


 ラムダと合流しヘリに乗るため、レオパルトたちは船尾へと走っていく。

 ファルたちは船尾につながる通路で唯一、水密扉で閉鎖されていない通路に布陣した。

 通路にて戦いの準備を整えたファルたちは、武器を構えて敵の到着を待つ。


「おいファル、さっきお前に、何かできることはあるかって聞いたよな。そん時お前は、あると答えた。その内容、聞かせてもらうぜ」


「じゃあ、聞いててください。俺のチートでアレスターをコピーします。で、そのアレスターを大量増殖させて、アレスターに攻撃させます。ついでに地獄ダンジョンでコピーした鬼も使います。それだけです」


「ほお、シンプルだが面白そうだ。ヤサカがファルのこと気に入ってるのも納得だぜ」


「レイヴンさん!? 変なこと言わないでください!」


「ヘッヘッヘ」


 思わぬ言葉に頬を赤らめるファルとヤサカ。

 だがおかげで、場の空気は和んだ。

 

 数分後、肩の力を抜くファルたちのもとに、いよいよアレスターがやってくる。

 

「来やがったぜ。おいお前ら! ここの通行料はバカ高いぜ!」


 大声を張り上げたレイヴンに対し、アレスターは殺意を隠さない。

 鎧に身を包んだアレスターは防御力に自信があったのか、隠れることもなく通路を歩き、ファルたちに攻撃を仕掛ける。

 

 だがアレスターの攻撃は、ヤサカが張ったシールドに遮られた。

 これに苛立ちを覚えたアレスターは、シールドの内側に入り込もうとさらに通路を進む。

 すべてレイヴンの想定通り。


「通行料を払わねえなら、吹っ飛んでもらうぜ」


 ニタリと笑って、手にしたスイッチを押すレイヴン。

 すると、廊下に仕掛けられていた爆弾が一斉に爆発、アレスターは炎に包まれた。


 爆発の炎が消えた直後だ。 

 ヤサカはナイフを、レイヴンは91式小銃を握り、混乱するアレスターたちに突撃する。

 

 いくらアレスターでも、ヤサカの素早さステータスには追いつけないらしい。

 素早い動きでアレスターの脇腹や首筋を捉え、ナイフを振るヤサカ。

 彼女のナイフの刃は、アレスターの鎧の隙間に器用に食い込み、次々とアレスターの息の根を止めていく。


「邪魔だ! 大人しくしてやがれ!」


 雄叫びをあげ、銃床でアレスターの顔面を殴ったのはレイヴンだ。

 レイヴンはさらに、銃床で殴られバランスを崩したアレスターの両足を撃ち抜く。

 そしてそのまま、レイヴンはアレスターを羽交い締めにした。

  

「ファル! こいつをコピーだ!」

 

「は、はい!」


 死んだNPCはコピーできない。

 だからこそ、レイヴンはアレスターを生け捕りにしてくれたのである。

 このチャンス、逃すわけにはいかない。


 しかし、通路にビープ音が鳴り響きはじめた。

 ありとあらゆる警報が、危険な存在の接近を伝えている。


 次の瞬間、1発の銃弾が通路を飛び抜け、レイヴンが羽交い締めにしていたアレスターの頭を撃ち抜いた。

 銃声のした方向を見ると、そこには銃を手にしたガロウズの姿が。


「おっと……ヤバイのが来た……」


「ガロウズのお出ましか」


「私がガロウズの相手をするよ! その間に、お願い!」


「分かってる! 気をつけろよヤサカ!」


「死ぬんじゃねえぞ! ……さて、新しい獲物捕まえねえと」


 せっかくレイヴンが捕らえてくれたアレスターは、ガロウズに処分されてしまった。

 急ぎ次の標的を捕まえるため、レイヴンは再び銃床を振り上げる。

 レイヴンが次の標的を捕まえるまで、ファルはヤサカの支援だ。


 右手のナイフでアレスターを斬りつけながら、左手のサブマシンガン――MP70でガロウズの動きを止めるヤサカ。

 時折ヤサカはガロウズも斬りつけるのだが、ガロウズはびくともしない。

 あの調子では、いくらヤサカでも長くはもたないだろう。


 そこでファルは、メニュー画面を起動し大量の鬼を増殖させた。

 バグのせいかコピー鬼はすべていちご模様になってしまったが、そんなことはどうでもいい。

 コピー鬼たちはガロウズのヤサカに対する攻撃を止めるため、肉の壁となる。


 棍棒を振り回すいちご模様のコピー鬼は、アレスターを吹き飛ばしガロウズに襲いかかった。

 それでもいちご模様の鬼たちは、ほとんどその場を動かぬガロウズに的のように撃たれ、あるいは藁人形のように斬られ、あっという間に半減。

 これでは時間稼ぎにしかならない。


 いや、時間稼ぎだけで十分だ。

 あっさりとやられていくいちご模様のコピー鬼に唖然としていたファルに、レイヴンが叫ぶ。


「ファル! 捕まえたぞ! コピーしやがれ!」


 新たなアレスターを羽交い締めにするレイヴン。

 ガロウズは再び、レイヴンが羽交い締めにするアレスターに銃口を向ける。


――ガロウズは俺のコピー能力に気づいてるのか?


 そうとしか思えぬガロウズの動き。

 ところが今回は、ヤサカがいるのだ。

 ヤサカはガロウズの腕を蹴り払い、ガロウズの攻撃を阻害した。


 すぐさまアレスターに触れ、アレスターをコピーしたファル。

 ファルは流れるようにメニュー画面を開き、アレスターが描かれた場所を連打する。


「コピーアレスター! あいつらを攻撃しろ!」


「「「「了解!」」」」


 50体以上のコピーアレスターが、狭い通路を敷き詰めガロウズに群がった。

 ステータスの高いアレスターたちの襲撃に、ガロウズも対処に一苦労。

 

「今だよ! 逃げよう!」


 コピーアレスターの集団を抜けファルたちのところまでやってきたヤサカの言葉。

 ファルとレイヴンも彼女の言葉に従い、ガロウズに背を向け甲板へと向かう。

 

 ファルたちの背後では、ガロウズが恐ろしい勢いでコピーアレスターたちを斬り殺している。

 鮮血が舞い、腕が飛び、首が落ち、銃弾が肉に食い込む光景。

 ガロウズはほぼ無傷。


 近接戦闘でガロウズに勝てるわけがないのだ。

 逃げる以外に、方法はないのだ。

 ガロウズとは戦わぬのが、勝利への近道なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ