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ここゲーム世界ですし、死んでログアウトするのが目的ですし  作者: ぷっつぷ
第12章 地獄で会おうぜ、ベイビー
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ミッション12—7 地獄

 どうにも、地下へと続く洞窟はダンジョンの扱いではなく、ダンジョンへと続く道でしかないらしい。

 1匹のモンスターと出会うこともなく、ファルたちは地下深くへと進んでいった。


 なお、未知のダンジョン攻略ということで、さすがに水着は危険と判断、ファルたちはいつも通りの格好に着替えた。

 残念なことである。


 時速40キロ程度の移動で2時間は経っただろうか。

 徒歩であれば半日はかかるような距離だ。

 ラムダのチートがなければ、この未知のダンジョンは徒歩で進むのが普通であるから、スタート地点に立つだけでも過酷なダンジョンといえよう。


《ファルさんよ、地下に続く道がやっと終わります! いよいよ新ダンジョン到着です》


 無線から聞こえてきたラムダの報告。

 その無邪気な口調は、一瞬にして驚きに満ち溢れた。


《うわお! なんですかこれ! すごいですここ! 新ダンジョンすごいです!》


「ラムダ? お前には何が見えてんだ?」


《こちらキョウゴ。外の様子を確認したが……これは……》


「キョウゴさんまで……そんなにすごいダンジョンなのか?」


 ファルたちが乗ったハンヴィーの前を走る、戦車とストライカーからの報告に、期待と不安が高まるファル。

 ラムダとキョウゴは一体何に驚いたのか。

 その答えは、すぐに判明した。


 ハンヴィーは地下へと続く道を抜け、ダンジョンの入り口に到着。


 するとそこに広がっていたのは、血と炎に包まれ、赤黒く煮えたぎった世界。

 どこまでも続くおどろおどろしい空間に、鬼が跋扈し死者の叫びがこだまする世界。

 それはまさに地獄。


「なんだここ!? 見るからにヤバい場所なんだが!?」


「ダンジョンっていうより……裏世界って感じだね。これが、イミリアの地獄?」


「霊力、強すぎる……」


「ティニーさん、大丈夫ゥ? なんだかァ、ちょっと顔色が悪いよォ?」


「心配いらない。すぐ慣れる」


「無茶はしない方が良い。辛ければ僕たちを頼ってくれて良い」


「レオパルトくんの言う通りだよ。無理しないでね」


「うん」


 少しばかりぐったりとしながら、SMARL(スマール)を強く抱きしめるティニー。

 さすがに死者の世界では、ティニーの霊感が強く反応しすぎてしまったようだ。

 というか、ティニーが霊感持ちだというのを、みんな当たり前のように受け入れていた。


 さて、新ダンジョンの正体は、地獄ダンジョンだったのである。

 現実世界を再現したイミリアの世界観とは打って変わり、あまりに現実離れした、おぞましい世界観だ。

 そのくせ質感や空気感は現実世界と同じように作られているため、底知れぬ不気味さがファルたちの心に覆い被さってくる。 


「地獄世界とか、想定外すぎるんだが。まさか難易度まで地獄じゃないだろうな?」


「そうじゃないと良いんだけど、油断はできないかもね」


「だな。ティニー、その体調でSMARL撃てるか?」


「撃てる」


「ホントか? 無理してるわけじゃないな?」


「SMARL撃てば、元気になれる」


「ロケラン撃って元気になる健康法なんて、聞いたことないが……ティニーならあり得そうだ」


 ファルたちがそんな会話をしている最中であった。

 車列の先頭を走る戦車に乗ったラムダから、報告が入る。


《棍棒持った鬼が迫ってきます! なんだか怖い顔してます! あの顔は、わたしたちを殺しにきてます!》


 ラムダの楽しげな口調では分かりにくいが、たぶんそれは恐ろしい光景なのだろう。

 地獄へやってきた招かれざる客たちを追い出そうと、怒れる鬼たちが攻撃を仕掛けてきたのだろう。


《キョウゴだ。鈴鹿(ラムダ)君、もう少し詳しく教えてくれ》


《分かりました! ええと、赤鬼が100匹以上、青鬼が200匹以上、いちご模様の鬼が50匹以上です!》


《多いな……》


「ちょっと待て、いちご模様の鬼ってなんだ?」


《全ての鬼を相手にしていてはキリがない。鈴鹿(ラムダ)君、戦車砲で鬼を攻撃しながら、全速力で駆け抜けろ。幸い、我々はどこかに繋がる道を走っているようだからな》


《了解です! 最高の命令です! 時速60キロで戦車砲をぶっ放しますよ! 突っ込みますよ!》


「おい! いちご模様の鬼ってなんだよ!?」


《我々は鈴鹿(ラムダ)君の戦車を追う。三倉(ファル)君たちも付いてくるんだ》


「もちろんです。で、いちご模様の鬼ってなんです?」


「ファルくん、もうそれはいいよ! 見て! 後ろからも鬼が来てる!」


「マジだ……クーノ! キョウゴさんたちにちゃんと付いて行けよ!」


「当然だよォ。鬼が襲ってきたらァ、お願いするねェ」


「鬼は(あやかし)。妖は私の専門。任せて」


 地獄で何百もの鬼と戦うというこの状況。

 ゲーム感覚的にも危機的状況だが、ファルたちはどことなく楽しそうであった。


 これからの方針が決まると、早速ラムダの乗った戦車が主砲を撃ち放つ。

 主砲から放たれた砲弾によって鬼は吹き飛び、道が開けた。

 そこに時速60キロの戦車が突っ込み、その後ろをストライカーとハンヴィーが追う。


 1200馬力の戦車を前にしては、いくら屈強な鬼たちでもどうしようもない。

 鬼たちは戦車からの攻撃に吹き飛ばされ、あるいは単に轢かれるだけ。


《鬼が空を飛んでます! 楽しいです! 突撃ですよ突撃!》


「地獄で鬼が戦車に殺される……なんだこの光景……」


「後ろから来てた鬼さんたちィ、だいぶ引き離したねェ」


「まさか地獄に戦車で突っ込んでくるヤツなんか想定してなかったんだろうな。鬼にとっての地獄だな、これじゃ」


 道に転がる鬼の死体を見て、呆れ顔のファル。

 地獄で死んだ鬼は天国に行くのだろうか?


 ついでに、いちご模様の鬼は実際にいた。

 白い肌にたくさんのいちご模様が描かれた鬼が、実際にいたのだ。

 だからなんだ、というわけでもないのだが。


 地獄を爆走するファルたちに、鬼もなんとか襲いかかろうと必死のようである。


「鬼だ。右側面から鬼だ」


 レオパルトのその言葉を聞き、ファルは右側面に現れた鬼の集団を発見。

 直後、ティニーは気だるい体を持ち上げ、鬼たちに向けてSMARLを放った。


「妖退散」


 なぜだろう、SMARLを放つティニーはとっても楽しそうな無表情だ。

 やはりロケラン療法はティニーに効果があるらしい。

 鬼より怖い。


 ティニーが元気を取り戻したおかげで、ファルたちを側面から攻撃しようとしていた鬼は粉々に飛び散った。

 さらに、ストライカーに装備された重機関銃の12・7ミリ弾が鬼に襲いかかり、鬼はファルたちに手も足も出ない。

 

 戦車と装甲車、ロケランに薙ぎ払われ、そもそも車の速度に追いつけぬ鬼たち。

 地獄ダンジョンといっても、想定されていない攻略法の前には無力のようだ。


 凄惨な光景を眺めながら、レオパルトは口を開く。


「順調だ。これなら無傷でボスのもとまで行けそうだ」


「ああ。地獄に叩き落とされそうなやり方で攻略してるからな」


「トウヤ、ここ地獄」


「知ってる。ところで、この道ってどこに向かってるんだ?」


「たぶんだけど、あの黒い雲が集まってる、お城みたいな山じゃないかな」


「あれか。いかにもボスがいそうな、トゲトゲした山だ」


 いささか自己主張が激しい山が、道の先にある。

 地獄ダンジョンのボスは間違いなく、その山にいることだろう。


 この先、一体どのようなボスが待ち構えているのだろうか。

 そんなことをファルが考えていた時である。

 銃弾と砲弾の雨を凌いだ1匹の鬼が、ハンヴィーに掴みかかってきた。


「ほうほうゥ、骨のある鬼もォ、いるみたいだねェ。ヤサちゃん、駆除お願いィ」


「うん、すぐ終わらせるよ」


 そう言って、スナイパーライフルの銃口を鬼の頭に突きつけたヤサカ。

 だが彼女が引き金を引く前に、ファルは叫んだ。


「待ってくれ! その鬼、ちょっとコピーさせてくれ!」


 ダンジョンモンスターもNPCとカウントされるため、ファルのチート能力でコピーすることができる。

 この鬼も例外ではないはず。

 

 ヤサカはファルの叫びに従い、引き金から指を離した。

 この間に、ファルは手を伸ばし鬼に触れる。

 メニュー画面を確認すると、やはり鬼は保存可能のようだ。


「よし! 保存した! ヤサカ、撃っていいぞ!」


 ファルが鬼から離れそう伝えると、ヤサカは躊躇なくスナイパーライフルの引き金を引く。

 鬼は頭を撃ち抜かれ即死、地面に転がりすぐさまはるか後方へ置いてけぼりにされた。


「鬼なんかコピーしてェ、どうするのォ?」


「さあな。なんかには使えるかもしれないだろ」


 戦車と装甲車、ロケランには勝てない鬼も、ステータスは人間の倍近く高いのだ。

 ボスを倒すために増殖させるコピーNPCは、人間のNPCよりも鬼の方が圧倒的に強いはず。

 コピーしておいて損はない。


「この調子だと、あと数分でボスの所に到着か……」


 戦車、ストライカー、ハンヴィーの3台は、鬼を轢き殺しながら、徐々に山へと近づいていた。

 ファルは今、ダンジョンのボスもこの鬼たちと同じくらい簡単に倒せることを祈っている。

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