ミッション11—4 プレイヤーはゾンビより怖い
いよいよデールトンのNPCは全滅したのか。
数千のゾンビたちがショッピングモールに群がりはじめた。
クーノが来るまでは、このショッピングモールの屋上で耐えなければならない。
ヤサカはスナイパーライフルで、ガスコンロの4人はアサルトライフルで、屋上から地上にいるゾンビを撃ち抜いていく。
極め付けは、ティニーのSMARLとあああいのガトリング――GB5ミニガンだ。
2人の攻撃によって、大量のゾンビが粉々に吹き飛ぶ。
この調子ならば、クーノが到着するまでは耐えられるだろう。
「ここは屠殺場だ! ヒャッハー! ゾンビ肉の直売だぜ! ヒャッハー!」
「爆発で、ステーキ完成。エヘヘ」
「こうやって見ると、ティニーもあああいと同じで、なかなか危ない奴だよな」
「ティニー女神様は派手な爆発が大好き! にゃ!」
「それに比べてヤサカを見ろ。スナイパーライフルで確実にゾンビにヘッドショット決めてるぞ。クールだな」
「ヤサカ女神様は百発百中の名手! にゃ!」
「ガスコンロさんたちは……ゲームで見たまんまだ。攻撃はろくに当たってないけど、楽しそうにゲームしてる」
「神様、質問なのだ!」
「どうした? ミードン」
「なぜ神様は女神様たちを観察してるだけなのだ? なぜ攻撃に参加しないのだ? にゃ?」
「いや……ちょっとグロすぎてな……死んだゾンビから腸が飛び出てるの見たら、立ちくらみが……」
「それは大変! この未来の英雄ミードンが、神様を治療する! にゃ!」
「ありがとうな、ミードン。かわいいな」
「にゃ~」
ゾンビへの攻撃を放棄しミードンと遊びはじめたファル。
ただし、元から戦力としてカウントされていないのか、ファルが遊んでいようとヤサカたちはあまり気にしていない。
ヤサカが気にしているのは、もっと重大なことだ。
彼女はスコープを覗き、排莢しながら呟く。
「ゾンビが増えてるね。銃声が原因、かな?」
このヤサカの考えは正しい。
どうにもゾンビたちは音に反応しているらしい。
銃声のような響く音は、ゾンビへのシグナルに他ならない。
だからと言って、銃を撃たずに近接攻撃でゾンビは倒すのは無理がある。
ここは往年のゾンビものらしく、チェーンソーで戦う手もあるのだが、いかんせん敵が増えすぎた。
とはいえ、こちらには武器出し放題のティニーがいるのだ。
弾丸が尽きることはない。
撃って撃って撃ちまくれば、ゾンビが屋上にやってくるまで、かなりの時間が稼げる。
「何千体もいやがる! ゾンビまみれだ! どこ撃ってもゾンビが吹き飛ばせるぜ! ヒャッハー!」
「悪霊退散。除霊。悪霊退散」
ティニーとあああいの攻撃は容赦がない。
人間など簡単に吹き飛ばすロケット弾と、毎分約3000発の弾丸が発射されるガトリングの攻撃だ。
ゾンビは次々と肉の塊に解体されていった。
こんなことをしばらく続けていると、あああいのアドレナリンが沸騰しはじめる。
彼はガトリングを乱射するだけでは飽きてしまったようだ。
「もっとゾンビが密集してるとこに弾を撃ち込みてえな……おい! そこの白衣着た野郎ども! こっちこい!」
「は……はい……」
ティニーがチートで出現させた武器を持ちながらも、ゾンビを恐れ攻撃に参加していなかった白衣のプレイヤー2人組。
そんな2人はあああいに呼ばれ、体を震わせながらあああいの前に立つ。
「おいクズども。あのゾンビはお前らが元凶なんだってな?」
「……ああ」
「じゃあ、もっとゾンビと仲良くしてやれよ。グヘヘヘハハハ!」
汚く凶悪な笑い声をあげたあああいは、白衣2人組を屋上から突き落とした。
突き落とされた白衣2人組は、一命は取り留めたものの、ゾンビに囲まれてしまう。
「やめろ……来るな! 来るな!」
「助けてくれ! 誰か! 助けてくれ!」
叫び声を聞き、ヤサカは2人を助けようとするが、もう遅かった。
2人はティニーから渡された銃で必死に抵抗するも、何百というゾンビに押し潰されてしまう。
そして、2人はゾンビの餌となったのである。
「ヒャッハー! これを待ってたんだぜ!」
白衣2人組の死体に群がる数百体のゾンビ。
あああいはそのゾンビたちに向けて、ガトリングの引き金を引いた。
銃とは思えぬ凄まじい発砲音とともに、ゾンビが肉の破片となって飛び散る。
なんとも凄惨な光景だが、あああいの表情は満足そうだ。
「あいつやべえ……」
恐怖とドン引きで顔が引きつるファル。
ヤサカやガスコンロたちも唖然としていた。
冷静な面持ちでいるのは、ティニーぐらいである。
このままあああいに殺されるのはごめんだと、ファルたちが思いはじめたその時。
空から『フクロウのエンブレム』を付けたヘリ――NH900が現れた。
ショッピングモールの屋上に着陸したNH900の操縦席からは、クーノがこちらに手を振り、無線で語りかけてくる。
「お待たせェ。燃料補給のせいでェ、ちょっと遅れちゃったァ。ごめんよォ」
謝るクーノだが、ファルたちは彼女の到着に喜ぶ。
これでやっと、家に帰れるのだ。
ただし、出発はまだできない。
NH900が作り出す風に長い黒髪をなびかせながら、ヤサカは声を張り上げクーノに伝えた。
「クーノ! まだラムが来てないんだ! もう少し待てるかな?!」
「オッケー、待つよォ」
行方が知れぬラムダを待つファルたち。
数分経った頃だろうか。
町の方から、何やら獣の唸り声のような発砲音が聞こえてくる。
何事かと思い音のした方向を見るファル。
するとそこには、ゾンビを蹴散らしながらこちらへ向かってくる自走対空砲の姿が。
「まさか……ラムダか! ラムダが来たぞ!」
ファルの言う通り、自走対空砲を操るのはラムダだ。
彼女は35ミリ機関砲でゾンビをバラバラにしながら、自走対空砲のエンジンを唸らせているのである。
自走対空砲はショッピングモール前のゾンビたちをなぎ払い、ほぼ全滅させてしまった。
そしてショッピングモールの目の前にまでやってきた自走対空砲は動きを止め、中からラムダがひょっこりと顔を出す。
「ゾンビとの戦いです! 楽しいです!」
「おいヤサカ! ラムダだ! ロープを垂らしてやれ!」
「うん! ラムダ! このロープに掴まって!」
「了解です!」
ラムダがロープに掴まったのを確認すると、ガスコンロの4人がロープを引っ張りあげた。
行方不明であったラムダも、ようやく合流である。
「ようラムダ。お前無事――」
ラムダの姿を見て、ファルは言葉を失った。
どうやらラムダ、だいぶゾンビに襲われたようである。
彼女の服はほとんど溶かされ、今のラムダは下着姿と言っても過言ではない。
「ヤーサ! ティニー! ミードン! 会えて嬉しいです! あれ? ファルさんよ、わたしの姿を見て興奮してますね! いつも通りで何よりです!」
「お前にとって、いつも通りの俺は変態なんだな」
そう言いながら、反論できないファル。
まあ、なんでもよい。
ラムダが無事に合流できたことに、今は喜べば良い。
ついに合流を果たした4人と1匹は、早速NH900に乗り込んだ。
もちろんファルたちだけでなく、ガスコンロの4人もだ。
ただし、あああいだけはNH900に乗ろうとしない。
「ヒャッハー! ゾンビ狩りは気持ち良いぜ! 股ぐらがウズウズしちまうぜ!」
「おいクーノ、アイツは置いてけ」
「良いのォ?」
「あんなヤバイ奴と一緒にはいたくない」
「ほうほうゥ、分かったよォ。それじゃァ、出発ゥ!」
ゾンビ狩りに夢中なあああいは放っておいて、大空に羽ばたくNH900。
その瞬間、ファルの肩の力が抜けた。
「はあぁ……やっとゆっくり休める」
「みんなお疲れ様。大変だったね」
「眠い」
「ティニー女神様に同意! ミードンもとっても眠いのだ! にゃ!」
「ゾンビの群れが見えます! すごいです! ゾンビゲームも楽しかったです!」
相変わらずまとまりのない感想。
NH900を操縦するクーノは、ガスコンロの4人に質問した。
「みなさんはァ、メリアに住んでるんですかァ?」
「ああ、はい。途中で降ろしてくれると助かるんですけど」
「了解了解ィ、燃料補給で1回着陸するからァ、その時に下ろすねェ」
そのクーノの言葉に表情を明るくするガスコンロの4人。
彼らもまた、ファルたちと同じく肩の力が抜けていた。
クーノは操縦席から体を乗り出し、今度はファルに質問する。
「ファルさん、質問しても良いかなァ?」
「なんだ? ヤサカのパンツの色なら白だぞ」
「さすがァ、ファルさんは分かってるねェ」
「ついでにティニーのパンツの色は黒、ラムダは青だ」
「おうおうゥ、良いねェ良いねェ!」
自分を抱きしめ興奮に身を任せるクーノ。
対してファルは、鋭く冷たい視線を集めていた。
「ファルくん、これで何度目かな? 何度言えば分かるのかな?」
「ファルさんよ、ファルさんには他人のパンツを見る才能がありますよ!」
「淫乱の霊、取り憑いてる。除霊しないと」
「あの……待ってくれ……せっかく助かったんだ……。せめてヘリから落とそうとするのは……やめてくれないか……?」
「バカあああああ!!」
「俺が悪かった! すまない! 悪かったって! やめろ! やめろおお!」
「災難だねェ。ムフフゥ」
「あかぎに帰ったら、クーノもお仕置きだからね」
「……おうゥ」
ガスコンロの4人は反応に困っているが、ファルたちの平和(?)な日常が帰ってきたのである。
第11章 完




