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ミッション1—6 黒仮面から逃げ切れ!

 美少女に手を引かれたまま、廊下に出たファル。

 廊下の壁に釘付けされていたデスグローは、姿を消していた。


 振り返ると、黒仮面はこちらを睨みつけ、追ってくる。

 だが、どこからともなく現れた2人の兵士――プレイヤーが黒仮面を足止め。

 ファルと美少女は廊下を駆け抜ける。


 ここで、ファルはようやく正気を取り戻した。


「お、おい! お前たちは!? あの黒仮面は何者だ!? なんなんだ! 何が起きてるんだよ!」


「私たちはレジスタンス。あの黒仮面はガロウズ。今、君たちはイミリアの番人に攻撃されているんだよ」


「はあ? レジスタンス? ガロウズ? 番人? 何言ってるんだか分からないんだが!?」


「詳しい話は後でね。今はここから逃げることだけ考えて」


 知らない単語を羅列され混乱するファルと、あくまで冷静な美少女。

 対照的な2人は、共に廊下を走るだけだ。


「待ってくれ! 休憩室にティニーたち……俺の仲間たちがいる! あいつらも連れて行かないと!」


「どの部屋?」


「あの部屋だ!」


「分かった」


 ファル1人で逃げるわけにはいかない。

 美少女もファルの言葉を聞いて、すぐさま休憩室に向かう。

 果たしてティニーたちは無事なのだろうか……。


 MP70を手にした美少女は、休憩室の扉を蹴破る。

 休憩室に入り込んだファルは、早口でまくし立てた。


「ティニー! ラムダ! コトミさん! ミードン! 敵の襲撃だ! ダイキュウさんたちはみんなやられた! 逃げるぞ!」


「ファルさんよ、どういうことです!? 何があったんです!?」


「このミードンがこれしきの緊急事態――」


「トウヤ、女の子と一緒」


「にゃにゃ!」


「本当だ! ファルさんよ、あなたはボッチじゃなかったのですか!? わたしは驚いていますよ!」


「お前ら、どうでもいいことで盛り上がるな! さっさと逃げるぞ!」


東也(ファル)君の言う通りよ。ほら、早く逃げましょ!」


 何が起きているか分かっていないにしても、緊張感のなさすぎるティニーとラムダ。

 さすがにコトミは状況を理解したようだ。

 一行はファルの言葉通り、倉庫から逃げ出すため武器を手にする。


「あの2人もやられちゃったか……ガロウズが来た! 早く!」


 廊下を見張っていた美少女が叫ぶ。

 彼女の言う通り、電球が点滅する廊下の先に、紫の光を纏った剣を持つ黒仮面――ガロウズがゆっくりとこちらに迫ってきていた。


 まるで死が近づいてくるようだ。

 会議室での出来事を思い出し、再び恐怖するファル。

 一方でティニーは、無表情のままSMARL(スマール)を構えた。


「任せて。除霊する」


 そう短く言って、引き金を引くティニー。

 瞬間、狭い廊下をロケット弾が飛び抜け、ガロウズの手前の床に着弾、大爆発を起こす。

 さらにティニーは、クイックモードで新たなSMARLを出現させ、リロードの手間を省き2発目のロケット弾をガロウズに撃ち込んだ。


 最終的には4発連続でロケット弾が撃ち込まれた。

 廊下は破壊され、建物は一部が損壊し、熱気が辺りを包み込む。

 なんとも満足そうな表情をするティニー。美少女は開いた口がふさがらない。


「SMARLを4つも持ってるなんて……」


「まだ20個以上残ってる」


「に、にに、20個以上! どうしてそんなに――」


「SMARLは私の全て」


「一体、どいうことなの?」


「ティニーに何聞いても無駄だぞ」


 目を丸くした美少女に、ニタリと笑ってそう言ったファル。

 ティニーのロケラン連射のおかげで、多少なりとも余裕ができたのだ。

 ただし、その余裕はすぐに消え去るのだが。


「見てください! さっきの黒いの、まだ生きていますよ!」


「なに!?」


 ラムダの指さす先。崩れたコンクリートと黒い煙の中から、紫色の光が浮き上がる。電子機器は狂ったまま。

 そして、ガロウズの仮面がファルたちを睨みつけていた。


「おいおい、マジかよ! 化け物かよ! チタン製の体なのか!?」


「そんな……私のSMARLが効かないなんて……」


「やっぱり、あれじゃ死なないよね……みんな逃げよう!」


 あまりにも強すぎる。

 美少女の言う通り、ここは逃げるしかないだろう。


「待ってください! わたしが黒くて硬いのを足止めします!」


「ラムダ! お前には無理だ!」


「そうよ! ラムダちゃん、おとなしく逃げましょう!」


「すぐ終わりますって!」


 なぜか満面の笑みを浮かべるラムダは、悠長にもメニュー画面を起動する。

 一体何をするのかと思えば、彼女は狭い廊下にワゴン車を出現させた。

 ワゴン車は廊下を完全に塞ぎ、ガロウズの行く手を阻む。


 再び、美少女は信じられないと言わんばかりの表情をしていた。


「なんで……ワゴン車が突然……」


「わたしは異次元を通してあらゆる物を召喚することができるのですよ!」


「そんな能力がこのゲームにあったなんて……」


「おい、ラムダの話を鵜呑みにするな」


 危うく美少女が勘違いをするところであった。

 まったく、どうしてラムダの言葉は微妙に事実を捻じ曲げるのか。


「ともかく逃げよう!」


「そうだね。じゃあ、こっち! 屋上に私たちのヘリが待ってるから!」


「ヘリ!? ヘリで来たのか!?」


「うん。ほら、行こう!」


 言われるがまま、美少女の後を追って屋上へと向かうファルたち。

 ラムダの足止めのおかげか、ガロウズの姿は見えない。

 しかし、鉄がひしゃげるような音が響き渡る。


 おそらくガロウズはワゴン車を突破したはず。

 あまりゆっくりもしていられない。


 ファルたちは屋上に到着した。

 屋上には、回転翼を回したままの2機のヘリ――NH900とUH600が待ち構えている。

 中型ヘリのUH600は、デスグローと2人のサルベーション隊員を乗せ、空に飛び立っていった。


「あのヘリに乗って! 早く!」


 残された大型ヘリNH900に案内されるファルたち一行。

 ティニーとラムダ、ミードン、コトミがヘリに乗り込み、ファルもヘリのハッチに手をかける。

 と同時に、屋上にガロウズが到着した。


「先に逃げて! ここは私がなんとかする!」


 美少女はMP70をアサルトライフル――MR4に持ち替え、ファルに背を向けガロウズとの戦いに挑もうとする。

 それを見て、ファルはヘリに乗る気にならなかった。


「ここは俺に任せろ!」


「ダメだよ! 君は逃げて!」


「命の恩人を置いていけるか! 逃げるならお前も一緒にだ!」


「で、でも相手はガロウズだよ!?」


 まさかの言葉に困惑気味の美少女だが、ファルの視界には入っていない。

 ファルは今、メニュー画面を起動しコピー武装警察官NPCの欄を連打しているのだ。


 次々と増殖するコピーNPCたち。

 屋上は完全に、59体のコピーNPCたちに支配された。


「あの黒いヤツから俺たちを守ってくれ!」


「「「「「「「「「「了解シマシタ」」」」」」」」」」


 ファルの命令に従い、59体のコピーNPCが一斉に喋り、一斉にガロウズを攻撃する。

 これで、何も美少女がガロウズと戦う必要はなくなった。

 あとはもう、コピーNPCを見て呆然とする美少女を連れて逃げるだけだ。


「行くぞ!」


「あ、うん! 逃げよう!」


 ファルと美少女がヘリに乗り込むと、ヘリのハッチは閉められた。

 ヘリは直ちに高度を上げ、倉庫はだんだんと遠ざかっていく。

 屋上でコピーNPCを排除し続けるガロウズは、いつまでもファルたちを睨み続けていた。


「なんとか逃げ切ったな……」


「でも、本拠地なくした」


「仕方ないですよ! 今は生き延びたことを喜びましょう!」


 ヘリの機内、簡素な造りの席に座り、一安心のファルたち。

 狂っていた電子機器のビープ音も鳴り止む。

 コトミは厳しい表情を浮かべながらも、すぐにいつもの微笑みを浮かべ、美少女に話しかけた。


「助けてくれてありがとう。私のプレイヤー名はコトミよ。あなたのお名前は?」


 そうだ、ファルたちはまだ美少女の名前を知らなかったのだ。

 美少女は武器をしまうと、ファルたちの顔をじっと見て答えた。


「私の名前はヤサカ」


「わたしはラムダです! ラムって呼んでくれても良いですよ!」


「ミードンである! 未来の英雄、世界を救いし者である!」


「ティニー」


「コトミさん、ラム、ティニー、ミードンだね。覚えた。君の名前は?」


「え?」


「だから、君の名前」


「あ、ああ。俺は三倉――」


「ダメだよ。ここはゲーム世界なんだから、本名じゃなくてプレイヤー名で名乗らないと」


「そうだったな。すまん。俺はファルだ」


「ファルくんだね。よろしく」


「よろしく」


 明るい笑顔で自己紹介する美少女――ヤサカに、ファルの胸が高鳴る。

 サルベーション本隊が壊滅し本拠地を失ったというのに、呑気な感情であるのはファルも承知の上だ。

 それでも、ヤサカの笑顔に心を奪われてしまったのだから、ファルにはどうしようもない。


 ヤサカはファルのすぐ側まで近寄り、顔を近づけてくる。

 胸の高鳴りを抑えるので必死なファルだが、ヤサカの興味は別にあるようだ。


「さっきのNPC、どうやって出したの? ティニーも、なんでSMARLをそんなにいっぱい持ってるの? ラムはどこから車を召喚したの? 君たちは、何者なの?」


 倉庫での出来事が気になって仕方がない様子のヤサカ。

 詳しい説明をすると長くなるので、ファルはテキトーな言葉を返す。


「相手の正体が分からないのはお互い様だろ」


「……そうだね。私たちの本拠地についたら、私たちの正体を教えてあげる。だから、君たちの正体も教えてね」


「ああ、分かった」


 人差し指を立てるヤサカに、ファルも頷く。

 その直後だった。ヘリの操縦室から1人の少女が顔を出し、自己紹介と共にファルに質問してくる。


「はじめましてェ、クーノですゥ。ファルさんだっけェ? 質問があるんだけどォ?」


「なんだ?」


「ヤサちゃんのパンツ、見えたはずだよねェ。何色だったァ?」

 

「青」


「な! なな……!」


「そうかァ、青だったかァ。ありがとうねェ」


「な……な……なんで……なんで知ってるの!?」


「いや、さっき見えちゃったんで」


「だからって当たり前のように答えないでよ! バカ!」


 ヤサカの叫び声が機内に響き渡る。

 おそらく、これでヤサカのファルに対する警戒心は上がったことだろう。

 そして、ファルの道徳心ステータスが大きく下がったことであろう。

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