ミッション10—1 逃走方法を探れ
雨の中、MRAPを捨て、ジープに乗り換え、森を抜け、エレンベルクに帰ったファルたち。
手配度は4まで上がっている。
ベレル警察に警戒しながら、ファルたち一行はホーネットの家に向かった。
ホーネットの家に到着すると、ヤサカがホーネットに対し現状を説明。
ヤサカの説明にホーネットは苦笑しながら、ファルたちを家に匿ってくれた。
やはり友達は頼りになる。
さて、この最悪の状況をどう乗り越えるのか。
それを探るため、ミードンを通してレイヴンやコトミと相談だ。
「――ということなんです」
《そりゃ参ったな。いやな、さっきミストさんから連絡があってよ、ベレルで警察どもの動きが活発になってるそうだ。軍にも動きがあるらしく、何事かと心配してたが、お前らの捜索隊だったか……こりゃベレルから逃げた方が良いと思うぜ》
「ちょっと待ってください。おかしくないですか? なんで俺たちのために、ベレルがそんな血眼になるんです?」
《どうにもお前ら、カミを怒らせちまったらしいぜ。お前らはカミの敵だ。カミの敵ってことは、イミリアの敵だ。そりゃベレルも血眼になってお前らを探すだろうよ。そもそも、八洲はミストさんがいたから自由だっただけで、お前らは重要指名手配犯なんだぜ》
「どんどん面倒になっていく……」
《だな。同情するぜ》
「クーノは、私たちのところに来られるんですか?」
《厳戒態勢の国にヘリを密入国させるなんざ、いくらクーノでも無理だ。ラムダのヘリで脱出も無理だろうな》
「無理なんですか!? ベレル空軍に追われながら、フレアを放出するヘリを期待してたのに……すごく残念です!」
「おい、どうしてそんなことを期待してたんだ? このアドレナリンハッピーめ」
「脱出は難しそうですね……」
「というか手詰まりだろ。やばいよ、死神が見えるよ」
「大丈夫、除霊する」
「ティニーは死神も退治できるのか~。すごいな~。閻魔大王様も退治できるかもな~」
思った以上に最悪の現状。
半ば絶望したファルは、頭を抱えて現実逃避中。
一方でヤサカは希望を捨てていない。
「他に、ベレルを脱出する方法はないんですか?」
この質問に答えたのはコトミだ。
彼女は心配そうな表情をしながら、ファルたちに言う。
《ひとつだけ方法があるわ。ただ、これも危険な方法ではあるんだけど……》
「どんな方法ですか?」
《メリアで活動しているサルーベション本隊が、力になってくれるはずよ。柳川警部はメリアで協力者も得たらしいから、メリアまで逃げればなんとかなるかもしれないわ》
「メリアに脱出ですか……」
危険ではあるが、無理ではなさそうな話だ。
コトミの言った脱出方法に、ヤサカは乗り気である。
ヤサカは振り返り、ソファで横になりながらテレビを見ているホーネットに話しかけた。
「ホーネット、メリアへの密入国はできるかな?」
「ええ? まあ、できるんじゃない? 国境近くのヘレンシュタットに行けば、密入国専門のブローカーもいるし。なに? 次はメリアに密入国? 頑張って」
「ええと……ホーネットにも手伝ってもらえると……助かるんだけど……」
「そう言うと思った。OK、手伝ってあげる。知り合いのブローカーもいるし」
「ありがとう!」
あっけらかんと答えるホーネット。
そんな彼女に微笑みを向けるヤサカ。
ヤサカの微笑みに対し、ホーネットは恥ずかしそうに顔を背けた。
ベレルからの脱出方法は決まったも同然だ。
レイヴンとコトミはファルたちを励ます。
《メリアへの亡命、うまくやれよ。まあ、お前らなら心配ねえだろうがな》
《頑張ってね! 私たちは、あなたたちの帰りを待ってるわ!》
「はい!」
ファルたちへの心配よりも、信頼の方が大きいレイヴンとコトミ。
続いてレイヴンは、ホーネットに話しかけた。
《ところでホーネット、久しぶりに顔ぐらい見せてくれてもいいんじゃねえのか?》
「レジスタンスを捨てたあたしの顔なんか見て、なんかあるの?」
《お前の仏頂面が拝める》
「はあ? うるさい! 絶対に顔なんか見せないから!」
《ヘッヘッヘ。変わらねえな。元気そうで何よりだ。じゃ、無事を祈ってるぜ。また会おう》
可笑しそうに笑うレイヴンは、それだけ言って通信を切った。
ホーネットの家で聞こえるのは、テレビの音だけ。
そんな中、ホーネットは小さな声で呟いた。
「相変わらず、バカなんだから」
その呟きがレイヴンに向けられたものであるのは確実だ。
まだレジスタンスにいた頃のホーネットが、レイヴンとどのように接していたのかは、想像に難くない。
*
メリアへの逃亡を決定してから一夜が明けた。
硬い床でまともに眠れなかったファルは、気だるい体をひきずりラムダのワゴン車に乗り込む。
ワゴン車の運転手はホーネット。
ファルとヤサカ、ティニー、ラムダ、ミードンは後部座席で息を潜めた。
いつどこで警察やアレスターと出会うか分からない現状、目立つような行動はご法度である。
雨の中、早朝からファルたちが向かうのはヘレンシュタット。
エレンベルクから数十キロ離れた中都市で、ベレルとメリアの国境の街だ。
そこに到着しない限り、メリアへの密入国はできない。
「密入国専門のブローカーって、どんな奴なんだ?」
エレンシュタットへと向かう道中、ファルはホーネットにそう質問した。
これにホーネットは、面倒くさそうに答える。
「あたしも直接会ったことはないからよく知らない。ただ、結構な数の部下がいるみたいだし、噂だと武器の違法取引もやってるから、そこそこの大物なんじゃない?」
「随分とテキトーだな……」
「あたしに大物ブローカーの知り合いがいることを、まずは感謝しなさいよ。文句は言わない」
「はいはいどうもありがとう」
「あんたの感謝だってテキトーじゃない……」
口を尖らせるホーネットは、明らかに不満そうだ。
やはり彼女は、未だファルに敵対心を抱いているようである。
それはファルも同じなのだが。
ファルの質問とそれに対するホーネットの返答は終わった。
今度はヤサカがホーネットに質問する番だ。
「そのブローカー、私も知ってる人かな?」
「ううん、多分知らない。レジスタンス抜けてから知り合った人だから。でも大丈夫、そのブローカーがヤサカに牙を剥いたら、そんなmother f○cker、殺すから」
「言葉が汚いよ。それに、殺しちゃダメ」
「じゃあ半殺し」
「もう、ホーネットはすぐに暴れようとするんだから……」
ケラケラと笑うホーネットと、苦笑いを浮かべるヤサカ。
なぜだろう、ファルへの対応と違い、ホーネットは楽しそうだ。
「ホーネットさんは戦いが好きなのか? にゃ?」
助手席からホーネットに話しかけるミードン。
可愛らしいネコに話しかけられ、ホーネットは口元を緩めながら答えた。
「ゲームで戦うのは好き。それがどうしたの?」
「おお! 戦いが好きなのか! なら、ホーネットさんは戦の女神様なのだ!」
「め、女神!?」
「その通り! このミードン、ブロンドヘアーが美しい戦の女神様に出会えて、嬉しいのだ! にゃ!」
「な、何よ、いきなり女神なんて……」
「あれあれ? ホーネットさんが照れてます! 女神って言われて照れちゃってます! ネコに褒められて赤くなってます!」
「う……うるさい!」
「意外と乙女」
「う・る・さ・い!」
賑やかな車内だ。
なんとも平和な光景である。
これが逃走中でなければ良かったのに、とファルはしみじみと思う。
だが、しばらく道を走っていると、ホーネットの表情が強張った。
彼女は車を路肩に停め、後部座席に振り返る。
「最悪。検問」
「検問か……参ったな……」
「他に道はないの?」
「この道に検問があるなら、他の道もダメ」
「そっか……」
いきなり難題にぶつかってしまった。
なんとかして検問を抜けなければ、ヘレンシュタットに到着することすらできない。
大問題である。




