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ここゲーム世界ですし、死んでログアウトするのが目的ですし  作者: ぷっつぷ
第9章 ここ教会というより恐怖の館ですし
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ミッション9—1 エレンベルクの掲示板

 決闘の疲れか、ホーネットが帰った後、ファルは再びベッドの上で眠りに落ちた。

 そんな彼が目を覚ましたのは、日付が変わって雨が降る午前8時ちょっと過ぎ。


「8時か……もう少し寝たいとこだが、すぐにヤサカに叩き起こされるだろうしな……」


 ファルの朝は遅い。

 ヤサカの朝は早い。

 すぐに叩き起こされることを考えて、ベッドを降り立ち上がるファル。


 背伸びをし、大きなあくびをしたファルは、隣のベッドにラムダが眠っているのを発見した。

 どうやらラムダはずっと、一緒の部屋で眠っていたらしい。

 

 スヤスヤと眠るラムダの寝顔は、いつものテンションの高い表情のままだ。

 ファルは前々から思っていたのだが、やはりラムダは黙っていれば美人である。


「この見た目で、男のいる部屋で熟睡か。無防備なヤツ」


 気持ちよさそうに眠るラムダを起こさぬよう、洗面所へと向かったファル。

 その時であった。


「むにゃむにゃ……ヴェノムは速いです~……むにゃむにゃ」


 どんな夢を見ているのかが容易に想像できる寝言ともに、ラムダが寝返りを打った。

 と同時に、ラムダの体を覆っていた布団がはだける。


「ヌオワ!」


 思わず変な声が出たファル。

 当然だ。はだけた布団の中から出てきたのは、全裸のラムダだったのだから。


「……え? なんでコイツ……全裸なの? え? いや、俺は身に覚えがないぞ。別に昨夜なにがあったわけでもないぞ……ないよな? え?」


 あたふたとするファルだが、その視線はラムダから離れない。

 頭から足の先まで、普段は見えない箇所まで、ラムダの美しい肌が全て見えるのだ。

 視線が離れるわけがない。


「……おお? ああ、ファルさんよ、おはようござい――ふわあ」


「お、おはようございます。ラムダさん」


「今日は雨ですね。雨の日は雨の日で、楽しいこといっぱいですね!」


「確かに、俺は今すごく楽しんでいることを否定できない」


 目を覚ましたラムダは、ベッドを降りて立ち上がる。

 ラムダの巨乳と魅力的な腰のラインに、ファルのファルもたち上がってしまった。


「うん? どうしたんです? なんで前屈みになってるんです? というか、さっきからなんでわたしのことをジロジロ見てるんです?」


「いや……その……」


「ああ! 分かりました! わたし今、全裸なんですね!」


 そう言ってから、自分の体を確かめ、自分が全裸であることを知るラムダ。

 普通は順序が逆じゃないかと思うファルだが、その答えはラムダが口にする。


「実はわたし、裸族なんですよ! 多分、昨日の夜に目が覚めた時、服を全部脱いで、そのまま寝たんだと思います!」


「おいお前! いくらなんでも無防備すぎるぞ! 男がいる部屋で服を脱ぐとか、裸族っていうより痴族だぞ!」


「仕方ないじゃないですか! ファルさんの存在感が薄すぎて気づかなかったんです! 潜伏でも使ってたんですか!?」


「使ってないから。傷つくからやめろ!」


「まあまあ、良いじゃないですか! 童貞ファルさんには一生の思い出になりますよ!」


「童貞言うな! つうか、お前はそれで良いのか!? 羞恥心はないのか!?」


「間違いは起こってないんですから、別に良いです!」


「もうすでに間違ってるよ! お前の頭が間違ってるよ!」


 無邪気な笑みを浮かべて両手を腰に当てたラムダ。

 もはやラムダの価値観についていけないファル。


 朝からのラッキースケベに、ファルは絶賛狼狽中だ。

 こんなところをヤサカとティニーに見られてしまったら、非常にまずい。


「ファルくん、ラム、もう8時過ぎだよ」


「にゃ! 起きるのだ! 勇者の朝は早いのだ!」


「眠気の霊に負けちゃダメ」


 ファルとラムダがいる部屋に入ってきたヤサカとティニーの2人。

 2人は前屈みのファルと全裸のラムダを見て、固まった。

 こんなところをヤサカとティニーに見られてしまったので、非常にまずい。


「ファ、ファファ、ファルくん! 君がそんな人だとは思わなかったよ! やっぱり、ラムと一緒の部屋にするべきじゃなかった……!」


「あれは、ラムダ女神様の誕生! すごいのだ! 名画が現実になったのだ!」


「トウヤ、淫乱の霊に取り憑かれてる。除霊する」


「誤解だヤサカ! ミードンはなんの話してんだ! ティニー! ロケランをこっちに向けるな! やめろ! あ、あああああぁぁぁ!!!」


 きっと今日は、ファルにとって散々な1日になるのだろう。


    *


 雨の中、エレンベルクの街を歩くファルとヤサカ、ラムダ、ティニー、ミードン。

 ラムダの説明のおかげで誤解は解けたが、どうにもファルと女性陣との距離が遠い。

 ファルの側にいてくれるのは、ファルの肩に乗っかるミードンだけだ。

 

「ミードン、俺は悪くないよな? 悪いのは無防備すぎるラムダだよな」


「その通り! 神様(ファル)は悪くない! にゃ!」


「ありがとうミードン。未来の英雄は可愛いなあ」


「にゃ! ご褒美に美味しいご飯が食べたいのだ!」


「すまんなミードン。ベレルには美味しいご飯がないんだ」


 たわいのない会話を繰り広げるファルとミードン。

 対してヤサカたちは、今日の任務についての会話をしていた。

 

「ねえティニー、エレンベルクの掲示板はこっちの方だっけ?」


「そう。広場から少し離れてる」


「こっちの掲示板には、どんな依頼があるんでしょうかね? 気になります! 夢と希望に溢れていてほしいです!」 


「掲示板の依頼内容によっては、ベレルのみんなの状況が分かるかもしれないしね」


 ベレルに住むプレイヤーの意識や動向はどうなっているのか。

 掲示板を見れば、それがある程度までは想像できる。

 そしてそれが、次のプレイヤー救出作戦へとつながるのだ。


 ティニーの案内に従い、エレンベルクの掲示板へと向かうファルたち。

 4人と1匹は、雨のため人通りの少ない広場を抜け、大聖堂の隣、市庁舎の側面にやってきた。

 エレンベルクの掲示板は、ここにある。


「あれ。あれが掲示板」


「おお! あの大きな木のボードが掲示板ですか! 江京の掲示板と違って、なんだかファンタジーっぽいです!」


「なんだか、冒険者ギルドみたいだね」


「ファンタジー気分、高まる」


 掲示板を見て、それぞれに感想を述べるヤサカたち。

 ファルは、あの掲示板の前でレオパルトとともにクエストを探していた過去を懐かしんでいた。


 雨だというのに、掲示板の前には人だかりができている。

 集まる人のほとんどはプレイヤーであろう。

 彼らは一体どのようなクエストを受けようとしてるのか、ファルも彼らに混じり掲示板を眺めてみた。


「なになに……『森で狼の監視。報酬1日800マーク』『壁の塗り替え。報酬500マーク』『街のはずれの小さな教会の補修。報酬400マーク』『露天の手伝い。1時間13マーク』。う~ん」


「夢と希望はあります! でも、小さい夢と希望です!」


「霊能者の仕事、ない」


「なんだかベレルのみんなも、ゲーム心を忘れちゃってるかもしれないね。ファルくんはどう思う?」


「あ、ついに俺に話しかけてくれた。そうだな~……八洲よりはファンタジー感があるクエストが多い気がするけど、それは土地柄って感じだし、ヤサカの言う通りベレルのプレイヤーも現実感覚で生きてるかもしれないな」


「そっか、ファルくんもそう思うんだ」


 意見が一致したファルとヤサカ。

 ほとんどのプレイヤーは、やはりイミリアが現実だと認識しているのだろう。

 この様子だと、八洲のプレイヤーたちと同じく、まずはプレイヤーのゲーム心を呼び覚まさせるところからはじめる必要があるかもしれない。

 

 しかしそんな中で、ファルは1枚のクエスト募集の張り紙に興味が湧いた。

 そのクエストだけは、他のクエストと一線を画している。


「おい見ろ、これ。『教会の地下ダンジョン探索。報酬はダンジョンで発見した宝』だってさ」


「おお! これですよ! こういうのですよ! こういうのを待ってたんです!」


「へ~、ベレルにはゲーム心を残したプレイヤーがいるんだね」


 ダンジョン探索という、ゲーム以外では絶対にありえない文言。

 そんなクエスト募集の張り紙にファルたちが注目していると、彼らの背後に1人の男が近づき、話しかけてきた。


「気になるか? 〝ダンジョン探索〟。一緒にやらないか? 〝ダンジョン探索〟を。せっかくの〝ゲーム〟だ、一緒に〝ゲーム〟をしようじゃないか」


 まるでファンタジー世界の住人のような格好をした、能面で顔を隠す男。

 妙に楽しそうに話すその口調も相まって、どことなく怪しい雰囲気を醸し出す男。

 だが間違いなく、彼はゲーム感覚の持ち主だ。

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