ミッション8—5 決闘 I
ヤサカの説明によって、ホーネットがとんでもない人物であることが分かった。
ホーネットは日本語が得意な日本在住のアメリカ人で、本国ではプロゲーマーだというのだ。
プロゲーマーだけあって、ステータスも戦闘能力もヤサカ以上だという。
対してファルとティニー、ラムダのステータスはホーネットを凌ぐが、チートでかさ上げしたものに過ぎない。
戦闘経験も少なく、チート無しの決闘で勝てる可能性は低い。
おそらくこれでは勝負にならないので、ホーネットにはハンデがついた。
ファルたちは準備段階でのチート使用を許可され、また勝負は3対1、ホーネットが使える武器は剣1本となったのである。
これでも勝てるかどうかは怪しいところだが。
決闘場所は、エレンベルクの街から少し離れた草原。
日が傾きつつある中で、ファルたちは決闘の準備を進めていた。
「ティニー、お前はともかくSMARLを撃ちまくれ。いいな」
「やった。エヘヘ、SMARLハッピー」
「ラムダは対空砲の水平撃ちで対抗するんだ」
「おお! 派手ですね! 楽しそうです! 35ミリ砲弾をバラ撒いちゃいますよ!」
「それと、バギーを1台用意してくれ。俺が使う」
「分かりました!」
「頼んだぞお前ら。相手は剣1本しか使えないんだ。近づかれないように戦えば、さすがに勝てるだろ」
「あの! 質問いいですか?」
「なんだ?」
「ファルさんはどうやって戦うんです?」
「俺はあれだ。バギーにティニーを乗せて走り回るだけだ」
「ファルさんよ、楽しそうですね! その役目、わたしがやりたいぐらいです!」
「トウヤ、私を落とさないで」
「任せとけって。それに、きちんと作戦も考えておいたからな」
「作戦、あるの?」
「ああ、一応な。まあ見てろって」
準備は終わり、待ちくたびれた様子のホーネットの前にやってくるファルたち3人。
ファルと、SMARLを抱えたティニーはバギーに、ラムダは自走対空砲に乗っていた。
ガチガチの重武装に、剣1本を担いだホーネットは苦笑い。
ファルたちとホーネットが睨み合う、大きな岩が転がった草原に、風が吹く。
ホーネットは苦笑いを浮かべたまま、ファルたちに言った。
「自走対空砲まで出してきたんだ。そんな準備したって無駄なのに。どうせあたしには勝てないんだから」
「いやいや、油断はするなよ。俺は宮本武蔵という剣の達人を参考にしているんだ」
「巌流島の決闘でしょ、知ってる。勝負に遅刻してあたしの集中力を削ぐつもりだったんでしょ」
「やばい。こっちの作戦がバレてるぞ」
「トウヤ、頼りにならない」
《どうするんです? 作戦Bはないんですか?》
「ええと……おいホーネット! 昔、アメリカ西部のフォート・グリフォンって街で――」
「今度はOK牧場の話? どうせあらすじを長ったらしく話して、あたしの集中力を削ぐつもりだったんでしょ。そういうの良いから、早くはじめよう」
「クソ! どうしてだ!? なんでバレた!?」
「トウヤ、やっぱり頼りにならない」
出鼻を完全にくじかれたファルは、頭を抱えてしまう。
万全の状態のホーネットに、勝てる気がしない。
だが救いもある。
決闘を見守るヤサカとミードンの応援だ。
「ファルくん、頑張って!」
「神様なら勝てる! にゃ!」
天使と可愛いネコに応援されて、やる気が出ないはずがない。
ファルは気を取り直し、バギーのエンジンをふかした。
決闘はすでにはじまっている。
はじまっているのだが、ファルたちの出方を探っているのかホーネットは動かない。
ファルは小さくため息をついた。
「こういう理不尽な決闘って、金髪イケメンから申し込まれるものと思ってたけど、まさかブロンド美少女から申し込まれるとはな」
「美少女? それ……あたしのこと言ってる……の?」
「他に誰がいる?」
「あ、あたしが美少女……! そんな……美少女なんて……」
まさかのファルの言葉にモジモジとするホーネット。
彼女は顔を赤らめ、恥ずかしげに言い放った。
「ど、どうせそうやって、あたしの集中力を削ぐつもりなんでしょ! 別に……分かってるんだから……」
「その通り!」
「え!? その通りなの!?」
「ティニー、ラムダ、今だ! やれ!」
作戦C『ホーネットを照れさせ集中力を削ぐ』はうまくいったようだ。
唖然としているホーネットに対し、ファルの呼びかけに応じたティニーとラムダが攻撃を仕掛ける。
自走対空砲から毎分550発の発射速度で撃ち出される35ミリ弾。
SMARLの持ち替えによりリロードの時間を省かれ発射されるロケット弾。
一切の手加減がないティニーとラムダの攻撃が、ホーネットに一斉に襲いかかった。
地面はえぐられ、土煙が舞い、ホーネットの姿は見えなくなる。
いくらプロゲーマーでもこの攻撃には耐えられない。ファルはそう思っていた。
「あたしの集中力を削ぐなんて、やるじゃん。でも残念、力押しであたしに勝てるわけない」
凄まじい発射音に紛れ、どこからともなく聞こえてきたホーネットの声。
身の危険を感じたファルは、直ちにバギーのタイヤを回した。
バギーが発車した直後のことだ。
先ほどまでファルがいた場所に、ホーネットが剣を突き立てている。
「チッ」
獲物を逃がした獣の舌打ちに、背筋が凍るファル。
作戦Cの成功は、早くも無に帰した。
一方でSMARLのことしか頭にないティニーは、バギーを運転するファルに言い放つ。
「いきなり発車しないで。SMARLの狙いがずれる」
「あそこで発車しなかったら、俺もお前も今頃は串刺しだぞ!」
「む……串刺しは嫌」
「だったら、奇跡的にホーネットの殺気に気がついた俺に感謝するんだな!」
「トウヤの背後霊、ありがとう」
「背後霊に感謝するのかよ!? というか俺、背後霊いるのかよ!?」
決闘中にしては呑気な会話。
2人がこうしていられるのは、ラムダが自走対空砲を走らせ、撃ちまくり、ホーネットの動きを止めてくれているからだ。
一番感謝すべき相手は、ラムダなのかもしれない。
しかし、やはりホーネットは強い。
剣1本しか持たぬ彼女は、おかげで異常な素早さと機動力を得ている。
自走対空砲の攻撃すら、ホーネットに当たる気配がない。
バギーで草原を走り回るファルは、戦場を見渡した。
どうすれば、ホーネットを倒すことができるのだろうか。
「ティニー! SMARLでホーネットの進路を攻撃しろ!」
「ホーネットから逃げ場、奪う?」
「そうだ! 逃げ場を奪えば、ラムダがホーネットを蜂の巣にしてくれる!」
「分かった」
今できることは、これしかない。
ファルはバギーの速度を少しだけ緩め、その間に、ティニーはSMARLの照準をホーネットの進路に合わせる。
照準を合わせた瞬間、ティニーは引き金を引いた。
ロケット弾は目的地にまっすぐと向かい、ホーネットの進路を塞ぐように着弾、爆発。
これにホーネットは足を止める……ことはなかった。
ホーネットは爆発の衝撃に耐え、うろたえることなく、スキル『炎耐性』を使い炎の中を突っ切る。
文字通りの強行突破に、ファルとティニーは驚きを隠せない。
「なんだアイツ!? ターミ○ーターかよ!?」
「シュ○ちゃんもびっくり」
「クソ……こうなったら……」
「こうなったら?」
「挟み討ちで潰すしかない!」
「無謀」
「無謀で結構! 正攻法で勝ち目なんかないからな!」
エンジンをふかし、ホーネットを正面に据え、バギーで突撃を開始したファル。
ホーネットの後方にはラムダの自走対空砲、正面にはSMARLを抱えたティニーを乗せたバギー。
この状況で、ホーネットは笑みを浮かべている。
ホーネットは唯一の武器、たった1本の剣をバギーめがけて投げつけた。
投げられた剣は空気を切り裂き、バギーのタイヤに突き刺さる。
「うわ!」
タイヤがパンクし、横転したバギー。
ファルとティニーはバギーから投げ出されてしまった。
視界が一回転し、地面が近づく。
不幸なことに、投げ出されたファルの着地地点には、巨大な岩が転がっていた。
ファルは真っ逆さまに、頭から岩に落ちる。
このまま頭を岩にぶつけてしまえば、ファルはただでは済まない。
目を瞑ったファルは、無事を祈るだけ。
数秒後、ファルは体全体に衝撃を感じ、思わず目を開ける。
するとファルは、地面に仰向けに倒れていた。
「あれ? 岩はどこに?」
間違いなく、頭から岩に落ちたはず。
しかし岩はどこにもない。
「トウヤ、どこ?」
「ファルくんが消えちゃった!?」
「これが……神様の起こした奇跡!? にゃ!」
「アイツ、どこに隠れたの?」
ティニーやヤサカ、ミードン、ホーネットは、完全にファルを見失った様子。
対してファルからは、彼女らの姿が見えている。
岩があったはずの場所に岩がない。
ファルの姿は誰からも見えず、ファルからは皆の姿が見える。
「これ……まさか……」
そう、ファルは今、*いしのなかにいる*。




