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ここゲーム世界ですし、死んでログアウトするのが目的ですし  作者: ぷっつぷ
第7章 たまには虫取りも悪くないですし
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ミッション7—3 メリアムカデから逃げ切れ

 体長2メートルの大ムカデ——メリアムカデに追われて、阿鼻叫喚するファルたち。

 通常サイズのムカデですらインパクトのある見た目をしているというのに、それが2メートルにもなれば、化け物以外の何物でもない。

 モザイク加工してくれるとありがたいぐらいだ。


 ティニーがここにいれば、嬉々としてSMARL(スマール)を撃ち込みメリアムカデを粉々に吹き飛ばしていたことだろう。

 それが叶わない今、ファルたちは必死の形相で逃げることしかできない。


 ただし、ヤサカだけは反応が違う。

 虫好きの彼女は、メリアムカデに追われながら笑っている。


「メリアでも滅多にお目にかかれないメリアムカデが、八洲で見られるなんて奇跡だよ! これもきっと、ファルくんの虫取りステータスのおかげだね!」


「俺のせい!? あれ俺のせいなの!?」


「ファルお兄さんのせいですの! ファルお兄さんがあのムカデを呼び寄せたんですの! ファルお兄さんがまたレイヴンおじさまを殺したんですの! うわぁぁん!」


 レイヴンが捕食された光景を思い出し、さらに号泣するシャム。

 ファルは自分の虫取りステータスの高さを呪った。


 メリアムカデから逃げる最中、シャムの側に1人の男が出現する。

 革ジャンにグラサン姿の男、レイヴンだ。

 レイヴンがリスポーンしてきたのだ。


「いや~虫に捕食される気分は最悪だったぜ。ったく、ステータスガタ落ちだ」


「レイヴンおじさん、生き返った!」


「あれ? レイヴンさんってログアウト条件揃ってなかったんですか!?」


「俺はティニーの道具もラムダの乗り物も使っちゃいねえ。俺はレジスタンス代表として救出作戦を見守る義務があるからな」


 腹から響くレイヴンの低い声は、なんとも頼もしい。

 レイヴンはファルたちに背を向け、メリアムカデの前に立ちはだかった。


「こいつは俺が止める! その間にお前らは――」


 言い終わる前に、レイヴンはメリアムカデに頭をかじられ、捕食されてしまった。


「瞬殺された! 格好つけたのに瞬殺された!」


「レイヴンおじさぁぁぁん!」


「みんな、レイヴンおじさんの覚悟を無駄にはできないわ!」


「いや、もう無駄になってますよ。メリアムカデを1秒も止められてなかったですよ」


 死亡エフェクトに包まれるレイヴンをかじりながら、ファルたちを追うメリアムカデ。

 ファルたちは変わらず逃げるだけだ。


 逃げる最中、林の中から1匹の蝶がヤサカの前に現れる。

 太陽の光を反射した、青く美しい羽で、おしとやかに、優雅に宙を舞う蝶。

 そんな蝶を見て、ヤサカの表情が変わった。


「八洲蝶!」


「は!?」


「ファルくんファルくん! 八洲蝶だよ!」


「このタイミングで!?」


「捕まえよう!」


「よし! 待て! 空飛ぶ金!」


 ファルとヤサカの頭の中から、メリアムカデの存在は抜け落ちたらしい。

 2人はメリアムカデに構わず、八洲蝶が飛び立っていった林の中に突撃した。

 コトミとシャムも2人を追って林へ、当然メリアムカデも林の中へ。


 山道とは違い、林の中を走るのは一苦労だ。

 戦闘慣れしたヤサカはまだしも、ファルたちは草木に足を取られ、走る速度が大幅に落ちている。

 

 背後には、すぐそこまで迫るメリアムカデ。

 ここで、シャムが木の根につまずき転んでしまった。


「いやぁぁ! ムカデ怖いよぉぉ!」


「シャムちゃん!」


 今にもメリアムカデに捕食されようとしているシャム。

 さすがにこの状況で、ヤサカが八洲蝶に心を奪われたままとはいかない。

 ヤサカは咄嗟に拳銃を握り、メリアムカデに向けて発砲した。


 数発の9ミリ弾がメリアムカデの体に食い込み、メリアムカデの動きを鈍化させる。

 しかしメリアムカデは止まらず、シャムを捕食しようと動き続けた。


 拳銃をアサルトライフルに持ち替え、なんとしてでもシャムを救おうとするヤサカ。

 その時、シャムのすぐ側に、あの男がリスポーンしてきた。


「俺は何度でも蘇るぜ! メリアムカデ! てめえに俺たちのシャムは殺させねえ!」


 レイヴンだ。

 彼はメリアムカデの前に立ちはだかり、宣言する。


「てめえの餌は、俺とコイツだ!」


 何度でも蘇るということは、何度でも死ぬということ。

 レイヴンは再びメリアムカデに捕食されてしまう。

 ただし今回は、ピンの抜けた手榴弾と一緒にだ。


 レイヴンを捕食した直後、メリアムカデの頭は手榴弾によって飛び散った。

 頭部を失ったメリアムカデの巨体は、地面に崩れ微動だにしない。


「おじさん……また助けてくれた……うわぁぁぁん! レイヴンおじさぁぁん!」


「よしよし、大丈夫よ。レイヴンさんはいつでも、シャムちゃんの側にいるわ」


「コトミお姉さぁぁぁん!!」


「レイヴンさんも、たまにはカッコイイこと、するんだな」


「うん。レイヴンさんはとっても勇敢で、優しい人だからね。私たちレジスタンスの代表は、レイヴンさん以外では考えられないよ」


「ようお前ら。俺の捨て身の攻撃を前に、感動しちまったか? あんまり褒められると、さすがに照れるぜ」


「あれ、もうリスポーンしたんですか」


「おじさん? レイヴンおじさぁぁぁん!!」


「シャム、無事そうで何よりだ」


「バカバカバカ! 心配したよぉ!」


「おいおい、言っただろ。俺は何度でも蘇るってよ」


「うわぁぁぁん!」


「良かったわね、シャムちゃん」


「よかったよぉぉ!」


「あんまり泣くなよ。ほら、ピクニックを続けようぜ」


「ええ、一緒に景色が綺麗な場所を探しましょう」


「うん!」


 泣きべそをかいて、レイヴンに抱きつくシャム。

 そんなシャムの頭を撫でるレイヴン、微笑むコトミ。

 3人は親子ではないはずだというのに、その温かい光景が、3人を親子同然の姿に映していた。


 安心からか、それともレイヴンたちを眺めてか、ファルとヤサカの表情に笑みがこぼれる。

 メリアムカデを撃退し、再び平穏な時が訪れたのだ。

 

 さて、ファルたちは虫取りを再開した。

 虫取りを再開した直後、ファルの目の前を、目を見張るほどの美しい蝶が横切った。


「ファルくん! 八洲蝶!」


「おっと、逃がすか! 俺の金になれ!」


 八洲蝶を狙って虫取り網を振り回すファル。

 ところが八洲蝶は、ひらりひらりと虫取り網をかわし、ファルを嘲るように、優雅に宙を舞う。


「クソ! こいつ!」


 ムキになったファルは、さらに虫取り網を振り回す。

 ヤサカもファルと一緒になって、虫取り網を振り回した。

 だがしかし、八洲蝶は捕まえられない。


「俺の虫取りステータスでもダメなのか!?」


「ファルくん、右から攻めて!」


「よし!」


 八洲蝶の右側に回り込み、八洲蝶を追い回すファル。

 相変わらず虫取り網に八洲蝶が入る気配はないが、ある1本の木に八洲蝶を追い詰めた。

 

 木の背後から、ヤサカが飛び出す。

 彼女は八洲蝶を捕まえようと虫取り網を勢いよく振り下ろした。

 捕まえた! と確信するファルとヤサカ。


 ところが、八洲蝶は華麗な宙返りを披露し、ヤサカの虫取り網を回避。

 ヤサカの虫取り網は、虚しく空を切り、地面に叩きつけられただけ。


「手強い!」


「伝説の蝶々は、捕まえるだけでも一苦労だね」


 諦めるわけにはいかない。

 ファルとヤサカは、八洲蝶をどこまでも追い回す。


 もしやアレスターを倒すよりも苦労しているのではないか?

 そう思ってしまうほどに、八洲蝶は捕まらない。

 虫取り網を振っても振っても、八洲蝶の華麗な動きには勝てない。


 しばらくして、八洲蝶がまるで挑発でもするかのように、ファルを誘った。

 これにヤサカは不信感を抱き、足を止める。

 一方でファルは、チャンスとばかりに八洲蝶へと突撃した。


「いい加減に捕獲されろ!」


 虫取り網を大きく振り上げ、八洲蝶に飛びかかったファル。

 飛びかかってから気がついた。

 どうやら八洲蝶、崖の先を飛んでいたようである。


 ファルは崖から飛び出してしまったのだ。

 現在、ファルの足元に地面はない。


「あ……やばい……」


「ファルくん!」


 崖から地上に真っ逆さまのファル。

 彼は崖下の木の葉を突き抜け、枝に頭を打ち、気を失った。

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