ミッション4—5 ダンジョンギミック
坑道を進むと、道が左右に分かれる丁字路にぶつかった。
耳をすませば左右どちらからも銃声が聞こえるため、プレイヤーたちは二手に分かれたのだろう。
ファルたちはとりあえず、なんちゃら理論に従い右の通路を選ぶ。
通路にはモンスターの死体が転がり、土壁は青い血に彩られ、おどろおどろしい。
大量に散らばる薬莢を見る限り、ここでも激しい戦闘があったことが分かる。
「プレイヤーたちは、モンスターの襲撃を切り抜けたみたいだな」
「みんな、モンスター相手でも戦えるみたいだね。全員無事だと良いんだけど……」
「死んでもリスポーンする。だからみんな無事」
「そうだ、ティニーの言う通り。ここはゲーム世界だ。ゲーム感覚で考えれば、多少は死んだって問題なし」
「たぶんファルくんとティニーの言ってることが正しいんだけど……なんだかなぁ」
苦笑するヤサカ。
ファルとティニーは気にせず、歩を進めた。
モンスターの死体に足を取られながらしばらく進むと、3人は広い空間に到着した。
大型バスが数台は置けそうな広さの、トロッコなどが散乱した空間だ。
空間の真ん中では、オークの死体を前にレオパルトら15人のプレイヤーが地べたに座り、休憩している。
ヤサカとティニーは、怪我したプレイヤーの治療に向かった。
一方でファルは、レオパルトにここまでの経緯を聞く。
「よおレオパルト! 無事か!?」
「ファルか。お前たちこそ、よく3人で無事にここまで来たな。よくモンスターの襲撃を耐えたな」
「超絶完璧凄腕最強美少女ヤサカと陰陽師ティニーがいるんだ。余裕はないが、なんとかなったよ。レオパルトたちは大丈夫だったか?」
「道中、分かれ道でデスグローチームと二手に別れた後、ゴブリンとガーゴイルに襲われた。これに2人が錯乱、誤射で3人死んだ。死んだ3人はすぐリスポーン。錯乱した2人を落ち着かせて、ゴブリンとガーゴイルを倒した」
「誤射で3人死亡か……で、あのオークは?」
「この部屋にいたモンスターだ。体力は多かったが、耐久力は低かった。遠距離武器で一方的に攻撃、簡単に倒せた。1人も殺されることなく、倒せた」
「へえ、やるな。経験値は?」
「戦闘に参加した全員に500」
「中ボスってところだな」
あっさりとオークを倒したレオパルトたちに感心するファル。
ここはそれほど厳しいダンジョンではなさそうだ。
怪我をしたプレイヤーもあまり多くないようで、ヤサカとティニーはすでにプレイヤーたちの治療を終えていた。
治療を終えたティニーは、キョロキョロと辺りを見渡す。
そんな彼女に、ヤサカは質問した。
「ティニー、どうかしたの?」
「行き止まり。先がない」
「……ホントだ。この部屋で行き止まりみたいだね」
先へ続く道がないことに気づいたヤサカとティニー。
するとレオパルトが答える。
「オークを倒したら、床にスイッチみたいなものが現れた。そこには『両手を塞げ。さすれば首が開かれる』と書いてあった」
謎のメッセージ。
レオパルトの言葉を聞いて、ファルは胸を弾ませながら言った。
「それ、完全にダンジョンギミックだろ! 謎解きだろ!」
「たぶんそうだ」
「じゃあ、謎解きだ。ええと、両手ってのは……たぶんスグローが向かった先にもここと同じ部屋があって、同じスイッチがあるんだろう。で、この部屋と向こうの部屋のスイッチを押すと、どこかの扉が開いてボス空間に行ける、ってところだろうな」
「僕もそう考えた。だからこの部屋のスイッチの上に、岩を置いておいた。あとはデスグローたちのところに向かえば良い。向こうの部屋でスイッチを押せば良い」
「さすがレオパルト。おい! ヤサカ、ティニー、スグローのところに行くぞ!」
「少し頭痛がしてきた。僕たちはもう少し、ここで休憩してて良いか? 遅れて行って良いか?」
「ああ。ゆっくり休んでてくれて構わないぞ」
「ファルくんは休憩しなくて大丈夫?」
「大丈夫だ! さあ、早く行くぞ!」
単純なギミック。
ボスを倒し、金銀財宝を手に入れるためにも、ファルは早速デスグローたちのもとへと向かう。
向かう前に、1匹の迷子のゴブリンがファルたちの前に現れた。
ファルはひとつ思いつく。
「ゴブリンか……。なあ、そのゴブリン、誰か捕まえてくれ」
「私がやる」
「よしティニー、頼んだぞ」
ゴブリンも1匹では小動物程度の強さ。
ティニーは容赦なくAMR82の銃床でゴブリンの頭を殴り、ゴブリンを気絶させた。
気絶したゴブリンを、ファルはおもむろに触れる。
「お、やっぱりコピーできた。次は増殖させてみるか……」
コピーNPCと違い、知能の低いコピーモンスターがファルたちに襲ってくる可能性もある。
ファルはマグナム銃を握りながら、おそるおそるコピーゴブリンを増殖させた。
「「ギャビヤ! ギャビヤ!」」
増殖させた2匹のコピーゴブリンは、なんとも言えぬ奇声をあげながら、しかしファルたちを襲おうとはしない。
試しにファルは、命令してみる。
「ゴブリンたち、俺たちを護衛してくれ」
「「ギャビヤッヤ! ギャビヤッヤ!」」
命令に従ってくれているのかどうか、いまいち分からない。
いまいち分からないが、ファルたちが歩くとコピーゴブリンも後をついてくるため、少なくとも下僕的存在ではあるのだろう。
「俺、まさかの召喚士にジョブチェンジ!」
「トウヤ、いいな」
「モンスターもコピーできるんだね。ということは、モンスターはNPC扱いなんだ」
「これからは、サポートは俺と俺のゴブリン部隊に任せろ!」
俄然テンションが上がったファル。
3人はそのまま2匹のコピーゴブリンを連れ、丁字路へと向かった。
丁字路に到着すると、先ほどは進まなかった通路を歩く。
通路の先からは、未だ銃声が鳴り響いていた。
奥に部屋があるのならば、デスグローたちはとっくに到着しているはずだが、中ボスがまだ倒せていないのだろうか。
さらに歩くと、いよいよファルたちは広い空間に到着する。
ところが、ファルたちは広い空間に足を踏み入れるのを躊躇してしまう。
広い空間内部では、巨大なメガビートルが暴れていたからだ。
「側面から攻撃する!」
「正面から攻撃だ!」
「遠距離攻撃!」
「おい! 誰を撃ってんだ! 危ないだろ!」
「ごめん! わざとじゃないから許して!」
「ヤバイぞ! メガビートルのツノが――うわあ!」
一目で分かる。デスグローチームは連携が取れていない。
加えて、メガビートルは耐久力が高いのか、威力の低い銃弾は弾いてしまっている。
「みんな、いったん退却!」
ひどい有様のデスグローチームを前に、ヤサカはすぐさま指示を出した。
ヤサカの到着に気づいたプレイヤーたちは、ヤサカに従いメガビートルから距離をとる。
ただし、デスグローを除いて。
「俺様の邪魔をするな! こんなモンスター、俺様がすぐに倒してやる!」
無敵チートがデスグローの脳みそを停止させているのだろうか。
無謀にも1人でメガビートルに突っ込むデスグロー。
ファルは大きなため息をつき、マグナム銃をデスグローに向けた。
「ティニー、あのバカを撃て。俺も撃つ」
「分かった」
デスグローに照準を合わせた2人は、無感情に引き金を引く。
2人の放った銃弾はデスグローに直撃した。
「ああん!? てめえ! なにしやがんだ!」
地面に倒れ、痛みに耐えながらファルへの怒りを爆発させるデスグロー。
おかげでメガビートルはデスグローに気を取られている。
この隙をヤサカは逃さない。
「今がチャンス! みんな! 一斉攻撃!」
ヤサカの言葉とともに、プレイヤーたちはメガビートルを攻撃。
無数の銃弾がメガビートルに殺到し、メガビートルは退く。
ところが、メガビートルに与えたダメージは決して大きいとは言えない。
どうやら腹部への攻撃以外は、有効なダメージを与えられないようだ。
2匹のコピーゴブリンも、メガビートルに瞬殺されてしまう。
ちなみに、なんとなくだがヤサカの表情が緩んでいる気がする。
メガビートルを前にして、表情を緩ませるようなことがあっただろうか。
「こりゃ、メガビートルをひっくり返すなりしないとダメだな」
「そうみたいだね。でも、どうやってひっくり返そう……」
悩むファルとヤサカ。
この間にもデスグローが1人でメガビートルの注意を惹きつけているため、考える余裕はありそうだ。
しかし、ゆっくり考えているほどの余裕はない。
その時であった。
通路の奥から、けたたましいエンジン音と、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「大きなカブトムシですよ! カブトムシ! モンスター狩りの時間です!」
4輪バギーに乗ったラムダが、テンションを爆発させ登場したのだ。




