ミッション3—3 ぱっと見ただの悪人
クエストがはじまると、クエスト終了までの3時間、ファルたちは暇を持て余した。
例外はラムダで、彼女はゴミ拾いクエストに参加、クエストを楽しんでいるようである。
クエスト終了を待つ間、ファルとヤサカ、ティニー、クーノは近くのカフェで休憩だ。
アイスコーヒーを飲むヤサカは、外を眺め呟く。
「プレイヤー救出、うまくいくと良いんだけど……」
「大丈夫。参加者、もうみんなチート使用者」
「ティニーの言う通りだ。参加者全員、ティニーがチートで出したトング、軍手、袋を使ってゴミを拾ってる。あいつらは知らずうちに、チートに手を汚してるんだ」
「クーノたちィ、なかなかの悪人だねェ」
3人の言葉を聞いて、苦笑いを浮かべるヤサカ。
救出作戦の成功を信じるしかない、とでも言いたげな表情だ。
そんな彼女の表情に心を奪われたのは、クーノであった。
「クーノ? ちょっとクーノ? なんで胸を揉むの!?」
「揉みやすいからだよォ。手触り最高ゥ」
「あうぅ……こんなところでやめてよ……」
「こんなところだからこそだよォ。やっぱりィ、ヤサちゃんは良い表情するねェ」
「みんなも……見てるから……!」
顔を赤くし恥ずかしがるヤサカを、きっとファルは何日でも見ていられるだろう。
せっかくなら、クエスト終了までクーノにはヤサカの胸を揉み続けていてほしいものだ、とすらファルは思う。
そうすれば、時間なんてあっという間に進むだろうに。
「ファルくん、君が考えてること、なんとなく分かってるからね! また道徳ステータス下がるよ!」
「変態ステータスは上がるねェ」
「トウヤ、エッチ」
「是非もなし」
さて、こんなことをしている間に3時間が経過する。
クエスト参加者27人は再び掲示板前に集い、ヤサカたちにゴミ袋を渡した。
ゴミの量の判定基準は重さだ。
ヤサカとクーノはゴミ袋を次々と秤の上に置き、記録を確認する。
10分程度の作業が終わると、ヤサカは参加者たちに伝えた。
「結果が出ました! 優勝は――『フリーター』チームです! フリーターチームの4人には、1人100万圓、計400万圓の報酬をお渡しします」
チーム名が何やら悲しいが、優勝者は決まった。
優勝チームであるフリーター4人は、高額収入に涙を流して喜んでいる。
次にヤサカは、特別報酬についてを参加者たちに伝えた。
「今回は2人のプレイヤーが『キノコの生えたチェスシリーズ』を発見しました。2人にはそれぞれ50万圓をお渡しします」
特別報酬を受け取る2人は、静かに喜んでいた。
というか、1人はレオパルトであった。
「優勝は逃したが、まあまあ楽しかったな」
「たまにはこういうクエストも悪くないな」
「ゴミを拾い街を清潔に保つ。それが大事なことなのです」
「ああああ様、明日もゴミ拾いをしましょう!」
「なんか、今日の古橋地区やたらゴミが多くなかったか?」
「俺も思った。嵐でも起きたのかってぐらいゴミまみれだったよな」
クエストが終わり、優勝者も決まり、参加者たちは好き勝手に喋りはじめている。
そんな中、笑顔のラムダがファルたちのもとにやってきた。
「今日は楽しかったです! このクエスト、またやってほしいです!」
「ラムダ、良い知らせと悪い知らせがある」
「なんですか?」
「まず良い知らせだが、このクエストは明後日もやる」
「おお! 嬉しいです! 楽しみです!」
「悪い知らせは、明後日のクエストにお前は参加できない」
「……ええ!! なんでですか! ひどいです!」
「落ち着け。とりあえずヤサカの話を聞け」
「ヤーサの話、ですか?」
涙目で首をかしげるラムダは、掲示板の前に立つヤサカをじっと見る。
すると同時に、ヤサカはクエスト参加者たちに向けて、あることを伝えた。
「本日のクエスト参加者の皆さんにお願いがあります。実は、今日と同じクエストを明後日にもやる予定です。だけど、次はもっと大規模なクエストにしたいと思っています。そこで、皆さんに手伝ってほしいことがあります」
黒く長い髪を風になびかせ、一生懸命にお願いするヤサカ。
なんとも美しいその見た目に、男性だけでなく女性も、ヤサカの言葉に耳を傾ける。
「できる限りで良いです。このクエストの宣伝をお願いします! そして、明後日のクエストの日、今日のクエストに参加した皆さんには、ここの近くにある倉庫で、クエスト準備の手伝いをお願いします!」
そう言って、頭を下げたヤサカ。
するとクエスト参加者たちは、一斉に答えた。
「分かった! 手伝うよ!」
「私たちにできることなら、どんなことでも」
「任せろ! 高額報酬のお返しだ!」
「わたしも手伝います!」
ヤサカの心からのお願いが通じたのか、みんなが優しいのか、その両方なのか。
クエスト参加者全員が、ヤサカのお願いを手伝うと言ってくれた。
今のところ、救出作戦は順調である。
盛り上がる掲示板前。
作戦が順調に進んでいることに一安心するファル。
そんな彼に、レオパルトが話しかけてきた。
「ファル」
「レオパルトか。特別報酬おめでとう」
「運が良かっただけだ。それより、ファルは明後日のクエスト準備、参加するのか? 参加しないのか?」
「明後日は参加する」
「そうか。今日は頭痛がひどいから、先に帰る。積もる話は明後日な。じゃあ」
「ああ、お大事に。じゃあな」
別れを告げるファルとレオパルト。
ファルはその後、クエスト準備のためヤサカたちとともに古橋の倉庫へと向かう。
*
前回のゴミ拾いクエストから2日後の早朝。
第2回チーム戦ゴミ拾いクエストの準備のため、古橋のとある倉庫に、ファルとヤサカ、ティニー、ラムダ、コトミ(寝坊したクーノの代わり)は集まっていた。
ファルたちの他に、レオパルトをはじめとする23人のクエスト参加者も集まっている。
ただし聖人ああああチームの4人は、本日多忙のため不在だ。
「どうも、クエスト準備に集まってくれてありがとうございます」
前回のクエストを楽しんでくれたプレイヤーたちを前に口を開くファル。
彼はこれから、クエストの真実を参加者たちに伝えなければならないのである。
「まず、これから何をするかを教えます。この前のクエストで疑問に思った方もいるかと思いますが、なんであんなにゴミが大量に落ちていたのか。その種明かしをすると、あれです」
そう言ってファルが指差した先に、プレイヤーたちが注目する。
ファルが指差した先には、謎の呪文を唱え、空き缶や空の食品トレーなど、大量のゴミを生み出すティニーの姿が。
「実はあのゴミ、全部あの陰陽師が召喚したものです」
「なん……だと……」
「陰陽師なんて職業あったか?」
「というか、あれってサモナー的なやつだよな」
「この世界にも、ファンタジー要素があったんだ……」
あっさりとファルの嘘を信じ込んだプレイヤーたち。
きっと彼らにも、この世界がゲーム世界であるという認識が少しは残っているのだろう。
そうでなければ、ゴミを召喚する陰陽師という説明を信じるはずがない。
ファルは説明を続けた。
「この召喚されたゴミを、街中にばら撒いてもらいます」
「……もしかして、このゴミ拾いって自作自演?」
「その通り、自作自演です。自分でゴミばら撒いて、クエスト参加者に拾わせていたんです。今日は古橋地区へのゴミのばら撒きを皆さんにもやってもらいます」
なかなかにひどいことをしている、という自覚はある。
だがこれも、プレイヤー救出のためだ。仕方がないのだ。仕方がないのだ。
今回はログアウト条件その2『世界に迷惑をかける』の段階である。
つまり、プレイヤーたちにゴミをばら撒かせるという迷惑行為をやらせることで、少しでもログアウト条件を揃えようという狙いがあるのだ。
なんとしても、プレイヤーたちにはゴミのばら撒きをやってもらいたい。
「警察に見つかったらまずいよな……」
「いくらクエストのためでも、ちょっと……」
プレイヤーの食いつきが良くない。
やはり彼らはゲーム感覚を忘れ、現実感覚で生きているようだ。
ならば、餌で釣るしかない。
「ついでに、ゴミばら撒きをやってくれた人には2万圓の報酬があります」
「よし! やるぞ!」
「今日のクエスト参加者を、私たちが喜ばせるのよ!」
「陰陽師! どんどんゴミを出してくれ!」
なんとも現金な奴らである。
ゲーム感覚だろうと現実感覚だろうと、金の誘惑は何にも勝るのだ。
とはいえ、これで救出作戦は次の段階へと入った。
早速、ゴミをばら撒くためにラムダが車を用意し、プレイヤーたちは出発の準備をはじめる。
しかし、たった1人だけファルに抗議するものが現れた。レオパルトだ。
「なあファル、お前がクエスト主催者だったとは驚きだ。だけど、あれってチートだろ、チート。お前、何か企んでるな?」
さすがはファルの友達。
レオパルトはファルの嘘を見抜いているようである。




