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ここゲーム世界ですし、死んでログアウトするのが目的ですし  作者: ぷっつぷ
第22章 これゲリラライブですし
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ミッション22—1 ゲリラの集い

 カミによるプレイヤーへの敵対宣言から16日。

 NPCたちのプレイヤー狩りは順調(・・)に進み、この16日間で約4700人のプレイヤーがログアウトした。


 これで救出されたプレイヤーの合計は1万3409人である。

 つまり、ゲーム世界に残されたプレイヤーの人数は311人とファルたちサルベーションの15人。

 ここから救出の見込みがないディーラーを除けば、310人と15人だ。


 そして本日午前、260人の救出作戦――大規模クエストが敢行される。

 このクエストのため、ファルとヤサカ、ティニー、ラムダ、そしてサダイジンの5人は江京に来ていた。


 5人がいるのは、江京の繁華街である渋丘(しぶおか)

 その渋丘の象徴であるスクランブル交差点の近く。

 道端に停められたジープの中だ。


「クエスト参加ははじめてなんだぞ。楽しみなんだぞ!」


「厳密には参加じゃなくて、見学だろ」


「同じことだぞ。クエストステージにいるプレイヤーは、みんなクエスト参加者なんだぞ」


 ジープの後部座席で、ファルとヤサカに挟まれちょこんと座る、魔導師姿のサダイジン。

 彼女は目を輝かせ、クエストのはじまりを楽しみにしていた。

 

 対照的なのはファルである。

 ファルはおそるおそる窓の外に視線を向け、休日の渋丘に溢れるNPCたちを観察し言った。

 

「今のところ、NPCたちは大人しいが……」


 一体ファルが何を懸念しているのか。

 それを知るヤサカは、苦笑いを浮かべながら口を開いた。


「警官NPCや兵士NPCだけじゃなくて、老人NPCから子供NPCまでプレイヤーに襲い掛かるようになったからね……」


「プレイヤーと気づかれたその瞬間に殺される世界。瀬良(カミ)の考える第2の現実は、随分と殺伐とした世界だ」


瀬良(カミ)兄に友達がいない理由、これで分かったんだぞ?」


「嫌という程。おかげで秋川さんなんか、惨殺されかけたからな」


「そうだね。秋川さん、不信任決議案が全会一致で可決されて、直後に国会議員NPC全員に殺されかけたんだから。キョウゴさんたちがあの場にいなかったら、秋川さんは無事では済まなかったはずだよ」


「ま、死んでも良かったんだがな。どうせいつかは死んで、ログアウトされなきゃいけないんだし」


瀬良(カミ)兄もおバカさんなんだぞ。プレイヤーを虐殺しても、プレイヤーは喜ぶだけなんだぞ」


「そ、その通りなんだけど……その言い方だと……なんかなあ……」


 すでに秋川は八洲の内閣総理大臣ではない。

 全NPCがプレイヤーを排斥するようになった今、秋川が総理を辞めさせられるのは当然のことだ。

 国会で惨殺されてもおかしくはなかったのだが、秋川の力を借りたいとキョウゴたちが守ったおかげで、彼はまだイミリアにいる。


 とはいえ、総理を辞めた秋川は普通のおっさんと化した。

 普通のおっさんプレイヤーが、ゲームを楽しんでいるだけなのだ。

 そんな彼も、今日のクエスト参加者の1人として、渋丘のどこかにいるはずである。

 

「ところでティニー、さっきから何を見てるの?」


「これ」


 ヤサカに問われたティニーは、じっと見つめていたタブレットの画面をヤサカに見せた。

 モニターに映っていたのは、とあるプレイヤーの1人称視点。

 4人組ゲーム実況者ガスコンロの生放送アーカイブだ。


「昨日の生放送か」


 ティニーと同じくガスコンロファンの1人であるファルは、ガスコンロの動画に興味津々。

 クエスト前だというのに、食い入るような目で動画を見つめた。


 動画の中では、警官に扮したガスコンロの4人が警察署内を歩いている。

 昨日の『ベイガス警察署撹乱クエスト』に参加中なのだろう。

 警察署の正面から堂々と攻撃を仕掛けているあたり、ガスコンロらしい。


《敵多すぎ!》


《そりゃそうだろ! 正面から突っ込めばよ!》


《一気に敵を倒せる武器とかないの?》


《投擲武器あるだろ! 投擲!》


《あ! そうだ! 火炎瓶持ってるの忘れてた》


《忘れるなよ! 早く使え!》


《よし、火炎瓶投げるぞ!》


 数十人の警官NPCが封鎖する警察署前に、視点主であるビーフが火炎瓶を投げた。

 ところが投げ方が悪く、火炎瓶は低い位置を飛ぶ。

 しかもこういう時に限って、ミラクルが起きるのだ。


 低空を飛ぶ火炎瓶を遮るように、警察のトラックが警察署前に立ちふさがる。

 結果、火炎瓶はトラックにぶつかり、ガスコンロの4人の目の前に炎が広がってしまった。


《熱い熱い!》


《これ死ぬって!》


《お前! やりやがったな!》


 炎に巻かれた3人は、唯一無事なビーフを非難する。

 だが加害者であるビーフも、被害者である3人も、大笑いしていた。

 3人は大笑いしながら、炎に焼かれ死亡エフェクトに包まれたのである。


 1人残されたビーフは笑いが止まらない。

 そんな彼も、直後に警官NPCにヘッドショットを決められ死亡した。

 

 こんなに楽しそうな死に様は珍しい。

 ファルもつい、笑みをこぼしてしまう。


「ガスコンロの4人らしいログアウトのされ方だ」


 そう言うファルにティニーも同意したらしく、彼女も楽しげな無表情を浮かべていた。

 ガスコンロは無事(?)に、イミリアからログアウトされたのだ。

 次に彼らの動画を見るときは、現実世界でのことになるだろう。


 動画の中でちょうどガスコンロが死んだ後である。

 渋丘のスクランブル交差点に1台の大型トレーラーが現れた。

 大型トレーラーは交差点の真ん中で動きを止め、他の車からクラクションを鳴らされている。


「今日の主役が来たみたいだね」


「いよいよクエスト開始だぞ」


「ラムダ、ティニー、暴れるなよ。今日の俺たちは、クエストを見学するだけだからな」


「善処する」


「少しぐらいなら、暴れても良いですよね?! 戦車で一発ドーンするぐらい、良いですよね?!」


「戦車で一発ドーンは少しぐらいの暴れっぷりじゃないぞ。難しいのは分かってるが、お前らはおとなしくしてろ」 


「うう……耐えてみます! イッちゃわないよう努力します!」


 ティニーとラムダの暴れん坊スイッチが押されなかったことは、いまだかつて一度もない。

 不安だ。

 

 一方でサダイジンは、クエスト開始を今か今かと待ち構えている。

 彼女はファルの膝の上に乗り、外を眺めようと一生懸命だ。

 サダイジンの全体重がのしかかった脚は少し痛いが、この程度は沙織で慣れているため、ファルにとっては問題ではない。


「だぞ! はじまったんだぞ!」


 無邪気に叫んだサダイジン。

 彼女の視線の先には、大型トレーラ。

 その大型トレーラーの荷台側面が、ゆっくりと開いていく。


 開かれた大型トレーラーの荷台には、巨大なスピーカーと複数の照明に飾られたステージが用意されていた。

 ステージに立つのは、ヨツバとヒヨコである。


「みんな~! 驚きましたか~? ヨツバです~!」


「ヒヨコですッ!」


「今日はね~、ゲリラライブでプレイヤーのみんなを~、楽しませてあげようと思っているんです~!」


「みんなが楽しく笑ってくれるよう、ヒナ、頑張りますッ!」


 はじけるような笑顔を浮かべた、アイドル衣装に身を包むヨツバとヒヨコ。

 2人の挨拶が終わると、大型トレーラーに備え付けられたスピーカーから大音量で曲が流れ出す。

 ぷりてぃースターズのヒット曲『スクランブル』だ。


 渋丘のスクランブル交差点ではじまるヨツバとヒヨコのゲリラライブ。

 それに対しNPCたちは、ヨツバとヒヨコに敵愾心を隠さない。

 

「よそ者がいたぞ! 追いだせ!」


「ステージから引きずり落とすんだ!」


「私たちの前から消えて!」


 カミによって、全プレイヤーのNPC支持率はマイナス値となっている。

 今やプレイヤーたちは、プレイヤーと気づかれた時点で、NPCの敵なのだ。

 命すらも保証されないのだ。


 スクランブル交差点をごった返す大勢のNPCたちは、ヨツバとヒヨコを襲おうと大型トレーラーに群がる。

 と同時、大音量の音楽とNPCたちの喧騒の中で、複数の男の声が響き渡った。


「ヨッツーー!! ヒヨーー!! 可愛いよぉぉーー!!」


「衣装似合ってるぅぅーー!!」


「スランブルぅラブぅぅーー!!」


 NPCに紛れていたプレイヤーたちが、喉を壊すことも厭わずに叫ぶ。

 そんなプレイヤーたちの中には、前八洲総理大臣秋川の姿も。


 彼らはティニーから渡された武器を手に、ヨツバとヒヨコへの愛を胸に、ヨツバとヒヨコに襲いかかるNPCたちを攻撃した。

 レジスタンスとサルベーションを除く、すべてのプレイヤーをログアウトさせるための最終大規模クエスト『アイドル護衛クエスト』のはじまりだ。

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