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ミッション2—4 迷惑行為は真似しないように

 仮説の検証開始から約30分。

 一眼レフカメラを抱えたストロボがファルたちのもとに帰ってきた。

 ほどなくして、直角に折れ曲がったレンチを手にしたアマモリも、すっきりしたような表情をして帰ってきた。


「コンクリートに『天誅』の文字を刻んでやったぞ! このクソイミリアめ!」


「よ、よかったですね……」


「良い写真が撮れたぞ。ほら」


 テンションが沸騰中のアマモリは放っておこう。

 ファルたちは、ストロボの撮った写真を見ようと集まる。

 

「おお! すごいです! 小阪城の雄大さが写真からでも分かります!」


「この写真、綺麗」


「見たことないエフェクトがかかってる写真があるな」


「僕のアビリティ『写真家』の効果だ。普通の人よりも多くのエフェクトを写真に施すことができる」


 イミリアでは、全プレイヤーが好みのアビリティをひとつだけ得ることができる。

 おまけにアビリティの種類は数千にも及ぶらしく、知られていないアビリティも多い。

 ついでにファルのアビリティは『潜伏』だ。よく言えばステルス、悪く言えば影の薄い奴。


「あれ? この写真は……」


「これはベンチに座るヤサカさんとファルさんの後ろ姿ですね」


「い、いつの間にそんな写真撮ってたの!?」


「おお! この写真良いじゃないですか! まるでカップルみたいじゃないですか!」


「なに言ってんだ!?」

「なに言ってるの!?」


「ニヘヘ、正直な感想を言ったまでです」


 まるでカップルだなんて、何やら照れる。

 ヤサカも困ったような表情をしながら、頬は真っ赤だ。


 このままラムダにからかわれては、照れから何かが爆発してもおかしくはない。

 ファルはそう考え、ティニーが話に乗る前に話題を変えた。


「ともかく、仮説の検証を続ける。ええと、これでストロボさんとアマモリさんはチートを使った扱いになるはず。そこで、まずは2人を殺してみよう」


「話だけだと、物騒」


「気にするな。ストロボさんとアマモリさん、パーティー登録は済んでますか?」


「俺はヤサカお嬢とパーティー登録済みだ」


「僕も同じく。万が一でも、ヤサカさんの近くにリスポーン可能だ」


「……あの、死んだらステータスが大幅に減ると思いますけど、大丈夫ですか?」


「プレイヤー救出のためだ。問題ない」


「最初から覚悟はしている」


「分かりました。じゃあ、ここだと目立つのでこっちに」


 ファルたちは、公園の中でも人気(ひとけ)の少ない場所に向かう。

 周りにNPCのいない公衆トイレ裏に到着すると、早速ティニーがロケランを構えた。

 

「私のSMARL(スマール)で除霊する」


「やめろ! 目立つからやめろ! サプレッサー付きの拳銃とかないのか?!」


「ある。でも派手な方が良い」


「ダメだこいつ……爆破の霊に取り憑かれてる……」


「私がやるよ。ちょうど良い武器があるから」


「任せた、ヤサカ」


 ヤサカはサプレッサー付きの拳銃を手にすると、銃口をアマモリの眉間に突きつけた。

 次の瞬間、ヤサカは引き金を引き、静かな乾いた音と同時にアマモリが死亡する。

 流れるようにヤサカは銃口をストロボに向け、引き金を引き、ストロボも死亡した。


 2人の死体が死亡エフェクトのキラキラに包まれ、消えていく。

 それから20秒ほど経ってからのことだ。


「すまん。リスポーンできちまった」


「チートを使うだけじゃダメみたいだ」


 ヤサカの背後に元気そうなストロボとアマモリが立っていた。

 2人は無事にリスポーンし、ログアウトはできなかったようである。


「トウヤ、どうするの?」


「まあ、想定はしてたことだ。仕方ない、次の検証をはじめる」


「ファルさんよ、次の検証は何をするんですか?」


「チート使用だけじゃ強制ログアウト対象にならないなら、追放対象になるぐらい、チート使用者がゲーム世界に迷惑かける必要があるのかもしれない。だから――ゲーム世界に迷惑かけまくる!」


 力強く宣言したファルに、なぜかラムダも乗っかり「おー!」と叫んでいる。

 ヤサカは苦笑いを浮かべながら質問した。


「迷惑をかけるって、どのくらい迷惑なこと?」


「それは……ストロボさんとアマモリさんにお任せで」


 つまりは人任せ。

 これに対し、ストロボとアマモリは異論なしのようだ。


「じゃ、いくつかスプレー塗料をくれ」


「僕には自撮り棒を」


 なぜだろう。妙にやる気のある2人。

 ティニーは彼らの求める道具を出現させ、手渡す。

 

 自撮り棒を受け取ったストロボは、どこか街中へと消えていった。

 一方で4色ほどのスプレー塗料を受け取ったアマモリは、公園内の博物館の前に立った。


「こんなクソ世界には、こうしてやる! このクソがぁぁ!」


 大口を開けて叫ぶアマモリは、多くのNPCの注目を浴びながら、博物館の壁にスプレー塗料を吹きかける。

 数人のNPCはアマモリを止めようとするが、アマモリは落書きをやめない。

 結果、博物館の壁には、カラフルなポップ体の『天誅』という文字が、でかでかと書かれることとなった。


「分かりやすい迷惑行為だな」


「アマモリさん、よっぽどイミリアが憎いんだろうね」


「NPCたちの白い目が怖いです!」


「ああいう人、嫌い」


 それぞれ感想を述べているファルたちは、4人ともアマモリから距離を取っていた。

 あんな奴と一緒にされたくない、という思いが一致したのである。


 アマモリの迷惑行為を――遠くから――眺めるファルたち。

 ラムダは辺りをキョロキョロとしながら、口を開いた。


「ストロボさんはどこで何を? どんな迷惑行為をしているんでしょうか?」


「さあな。でも自撮り棒でできる迷惑行為と言ったら……」


「自撮り棒を振り回す」


「おお! それは迷惑です!」


「それか、盗撮」


「おお! おお! 大迷惑です!」


 勝手に盛り上がるラムダとティニー。

 そうしている間に、ストロボが涼しい顔をして帰ってきた。

 特にこれといった迷惑行為をしてきたようには見えない彼に、ファルは首をかしげる。


「ストロボさん? どうしたんです?」


「迷惑行為をしてきたぞ」


「え!? いつの間に……。どこで何を?」


「これを見てくれ」


 そう言ってストロボがファルたちに見せたのは、彼のスマートフォン。

 スマートフォンの画面には、イミリア内のSNS『ツイスター』に投稿されたとある写真が並んでいる。


 『床が冷えてやがるぜ~』という文字とともにコンビニの床に寝転ぶストロボの写真。

 『空気穴~ww』という文字とともにコンビニの商品の箱に穴を開ける笑顔のストロボの写真。

 『南極体験』という文字とともにコンビニの冷凍庫に頭を突っ込むストロボの写真。

 

「これって……」


「迷惑行為を自撮りして、SNSに投稿した。バカみたいなコメントと一緒に」


 さりげなく説明するストロボ。

 これにヤサカは衝撃を受けたようだ。


「まさかストロボさんがこんなことをするなんて……」


「おいヤサカ、それはストロボさんに失礼だぞ」


「そ、そうだよね。これはプレイヤー救出のための検証だもんね」


「意外と楽しかったぞ」


「あれ……? やっぱりストロボさん――」


「ストロボさん、俺のフォローが台無しなんですけど」


 誰だって裏の顔は持っているさ。

 だからストロボさんのためにも、この話はここまでだ。

 

 ファルたちは、1人で盛り上がるアマモリを置いて、再び人気(ひとけ)のない公衆トイレ裏に向かう。

 ストロボのツイスターは大炎上。これは確実にゲーム世界に迷惑をかけたはず。


 公衆トイレ裏に到着すると、あとはストロボを殺すだけ。

 今度も早速、ティニーがロケランを構える。

 構えるが、ヤサカがストロボの頭を撃ち抜く方が早かった。


「これでどうなるかだな」


「そうだね。ストロボさん、無事にログアウトできてると良いね」


 しかしストロボは、ヤサカの後方にリスポーンしていた。

 さらに、なぜかアマモリもヤサカの後方にリスポーンする。


「アマモリさん!? 死んだんですか!?」


「ああ、油断した」


「何があったんです?」


「近くのNPCにスプレー吹きかけたら、NPCたちに押さえつけられて、窒息死しちまって。ったく、凶暴なNPCめ……これだからこのクソ世界は……!」


「明らかにアマモリさんの方に非があると思うんですけど」


 何はともあれ、ストロボとアマモリはリスポーンしてしまったのだ。

 どうやら未だ、イミリアは2人を強制ログアウトするほどのプレイヤーではないと認識しているらしい。


「はぁ……今回もダメだったか……」


「たぶんですけど、迷惑行為が甘すぎるんですよ! もっと大変なことしないと!」


 ここに来て、ラムダは嬉しそうにそう言う。ティニーはSMARLを構える。

 きっと2人はロクでもないことを考えているのだろう。

 だがファルもヤサカも、この2人の考えが正解である可能性を、捨てきれないのだ。

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