ミッション20—7 【バトル:ロスアン】コンドル I
穴のあいた最下層から階段を探し出し、階段を上ったファルたち5人。
5人はコンドル内部の廊下で、足を止めた。
コンドルの内部は、想像していた以上にSF感が強い。
近未来的な、飾り気のない灰色の、仄かな明かりに照らされた廊下は、まるで宇宙船の中のようだ。
物珍しそうに辺りを見渡し、男の子のロマンをくすぐられるファル。
すると、ファルのスマホに1通のメールが届いた。
メールの送り主は、サダイジンだ。
『コンドルの設計図だぞ。船内の地図代わりになるはずだぞ』
そんな文章とともに送りつけられてきた、非常に詳細な図。
コンドルの内部構造が一目で分かるような設計図だ。
製作者でなければ絶対に手に入れることのできない、機密文書中の機密文書である。
スマホをスクロールし、ファルは設計図を読み込む。
ヤサカたちもファルの周りに集まり、スマホの画面を眺めていた。
「コンドルを破壊するには、火薬庫を爆破するか、機関部を破壊するかだね」
「どっちも楽しそうです! できればどっちもやりたいです!」
「That's impossible. どっちもは贅沢すぎ」
「幽体離脱をすれば、できる」
「なあティニー、お前は幽体離脱なんかできるのか?」
「できない」
「だよな。じゃあホーネットの言う通り、火薬庫と機関部両方の破壊は無理だ」
「え~!? せっかく派手な大爆発が見られると思ったのに……!」
口を尖らせるラムダだが、中身のない彼女の言葉は聞くだけ無駄だ。
それはティニーも同じである。
彼女らの意見は、稀にある核心を突いたもの以外、基本的に無視するに限る。
話し合いはファル、ヤサカ、ホーネットの3人でするべき。
3人はその共通認識のもとで、話し合いを進めた。
「破壊力を考えるなら火薬庫の破壊、確実性を考えるなら機関部の破壊だけど?」
「だな。火薬庫壊しても、エンジンが無事だったから墜落は免れました、ってなる可能性があるもんな」
「超高速移動で逃げられちゃうかもしれないしね。コンドルを確実に墜落させるなら、機関部を壊した方が良いと思うよ」
「よし、決まりだ」
「Next. どうやって機関部に向かう? 戦闘用ドロイドがウヨウヨしてるから、ステルス行動は無理だけど? というか、もう見つかってると思うけど?」
「そうなんだよね。どうしようかな……」
「戦闘用ドロイド?」
「コンドルを防衛するドロイドだよ。一体一体は強くないんだけど、大勢で攻めてくるから、厄介な敵なんだ」
「そんなもんまでいるのか。だとしたら……」
再び地図と睨めっこするファルたち3人。
ティニーとラムダは話し合いに飽きたのか、廊下を走っていたお掃除ロボットで遊んでいた。
しばらく考え、ヤサカが答えを出したらしい。
ヤサカは口を開いた。
「戦闘用ドロイドは数が少なければ強くない。だから、3手に分かれて機関部に向かうのはどうかな?」
そう言って、ヤサカは設計図を指し示し説明をはじめる。
「コンドルは大きいから、階層も多いんだ。でも、階層と階層をつなげる階段が少ないんだよ。ほら」
ヤサカの言う通りだ。
全長1000メートル、全高180メートルのコンドル内部は何階層にも分かれるが、階段やエレベーターは5カ所程度しかない。
「だから、3手に分かれてそれぞれ違う階層を進めば、ドロイドの合流を少しは防げると思うんだよ。階段を壊しちゃえば、なおさらね」
「それ、良いと思う」
「俺もヤサカの案に賛成だ」
全会一致の賛成。
話し合いは次の段階に。
「それじゃあ、どんな組み合わせで3手に分かれようか?」
「ホーネットは単独で良いだろ」
「あんたに言われなくてもそうする気だった」
「ひとつ決まりだ」
「戦闘力や火力で考えると、ファルくんとラムは、私かティニーと一緒の方が良いね」
「確かに。ただ……ラムダとティニーを一緒にするのはヤバイ気が……」
「そうだね……」
ジト目をしてティニーとラムダを眺めたファルとヤサカ。
答えは決まったも同然か。
しかし、話し合いの内容がティニーとラムダにも聞こえていたようである。
お掃除ロボットで遊んでいた2人は、顔を見合わせ、何やら頷く。
そして2人は胸を張り、ファルたちに言った。
「私、ラムダと一緒に行く」
「わたしもティニーと一緒が良いです!」
異論は認めぬ、と言わんばかりの2人。
ホーネットは首をかしげ、2人を説得しようと前に出た。
「アクティブ2人がコンビで行動とか、不安しかないんだけど。それに、別に2人でコンビを組む必要性はないでしょ?」
「必要性、ある」
「そうです! 必要性は大ありです!」
「はっきり言うね。じゃあ、その必要性を教えて」
「簡単なことですよ! わたしとティニーがコンビを組めば、必然的に、ファルさんとヤーサがコンビになるんです!」
「……あ!」
「すべては、ヤサカのため」
「……分かった。ラム、ティニー、2人でコンビ組んで」
どうやら説得されたのはホーネットの方だったようである。
彼女がティニーとラムダの味方になってしまったことで、ファルとヤサカの意見は通らない。
結局、ファルとヤサカ、ティニーとラムダ、ホーネット1人という組み合わせで、ファルたちは3手に分かれた。
3手に分かれたところで、廊下の奥から何かが走ってくる。
必要最低限の骨格のみで組み立てられた人型ロボットだ。
「戦闘用ドロイドが来たよ!」
そう叫び、武器を構えたヤサカ。
一方でファルは拍子抜けしてしまった。
竿のような細い腕で武器を構え、骨のような細い足をバタバタと動かして走り、むき出しの配線を揺らすドロイド。
バットで殴れば簡単に破壊できてしまいそうな見た目である。
はっきり言って、弱そう。
「あれが戦闘用ドロイド? 小学生が工作の授業で作った人形じゃなくて?」
戦闘用ドロイドというのは、もっと厳つい見た目だと思っていた。
あるいは、もっと不気味な見た目だと思っていた。
まさか、人体模型よりも弱そうな見た目だとは思ってもみなかった。
ところがそんなファルの思いは、一瞬で吹き飛ばされる。
必死で走る戦闘用ドロイドは、次から次へと増えていった。
まるで巣を突かれたアリのように、際限なくドロイドが増えていく。
最終的に、コミケもびっくりのドロイド大集団が出来上がる。
「よし、逃げよう!」
弱っちいドロイドも数百体となればどうしようもない。
本能的に危機感を感じたファルたちは、話し合いの通りに3手に分かれて走りだす。
ホーネットは階段を上ることも下ることもせず、数百体のドロイドに追われながら廊下を駆けて行った。
ティニーとラムダは、ティニーがSMARLを1発撃ち込み、階段を下って機関部に向かう。
ファルとヤサカは、階段を上り機関部に向かって走った。
階段をのぼり、上層の廊下にやってきたファルとヤサカの2人。
どうやら上層でも、戦闘用ドロイドは待ち構えていたようである。
2人は階段を上りきったところで、十数体のドロイドと鉢合わせてしまったのだ。
「ファルくん! しゃがんで!」
とっさのヤサカの叫び。
ファルは条件反射で体を屈める。
ファルが体を屈めると、ヤサカはアサルトライフル――MR4をドロイドめがけて乱射。
5・56ミリ弾に撃たれたドロイドたちは、あっという間に壊れていく。
だが、ドロイドはその脆さを数でカバー。
30発の弾丸をすべて使っても、ドロイドの数は減らない。
ヤサカはリロードは間に合わぬと判断し武器を持ち替えるが、ドロイドたちはそれよりも早く、武器を構えていた。
スキル『シールド』を使えば、この危機を乗り越えるのは難しくないだろう。
問題は、一度使ったスキルにはクールタイムがあること。
できればまだ、シールドは使いたくない。
そんなヤサカの思いをファルは理解している。
彼は屈んでいる間にコピーNPCを5体ほど出現させ、自分たちとドロイドの間に立たせた。
「ナイスだよ! ファルくん!」
「今だ! 逃げるぞ!」
コピーNPCを盾にドロイドから逃げるファルたち。
コンドルの機関部までは、あと300メートルほどだ。