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ここゲーム世界ですし、死んでログアウトするのが目的ですし  作者: ぷっつぷ
第20章 これ天下分け目の戦いですし
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ミッション20—6 【バトル:ロスアン】超高層ビル

 ファルたちは、ダウンタウンにそびえる高さ330メートルのビルにいた。

 戦闘の影響でエレベーターは動かず、1階から屋上まで階段を上るという、地獄の行進の最中だ。


「まだか……まだ屋上には到着しないのか!?」


「トウヤの霊力、減ってる」


「まだ戦闘前なんだけど。こんなとこで疲れないでよね」


「うるせえ! ラムダ! なんか全自動階段上り機的な乗り物はないのか!?」


「バギーやバイクを使って階段を上る! ってのはどうですか!?」


「すまん、変なこと聞いた俺が悪かった」


 冷や汗を垂らすファル。

 危うくラムダのおかしなテンションを爆発させるところであった。

 ファルは反省し、黙々と階段を上っていく。


 とはいえ、疲れたのは事実。

 息を切らし、無理やりに足を動かすファルだが、そんな彼を支えてくれるのはヤサカだ。


「もうすぐで屋上だよ! ファルくん、頑張って!」


「ありがとうヤサカ。お前に慰められると、もう少し頑張れる気がする」


「も、もし辛かったら……おんぶしてあげても……良いよ?」


「いや、大丈夫。ヤサカにはコンドル破壊のための体力を残していてもらいたい」


「……本当に、大丈夫?」


「……大丈夫じゃないかもしれん。おんぶしてくれ」


「い、いい、いざおんぶするとなると、なんだか気恥ずかしいよ……」


 赤い顔をしながら、満更でもなさそうにファルに背中を向けたヤサカ。

 一方ファルは、これで疲れずに済むと喜び、躊躇なくヤサカの背中に乗っかろうとする。


 ここで、ホーネットがファルの腕を掴み言った。


「あんたさ、男でしょ? 女の子におんぶに抱っことか恥ずかしくないの?」


「恥ずかしくないね! 今時は男女同権の時代、男が女におんぶされて何が悪い!」


「Oh my God……。あとヤサカも、あんまりファルを甘やかさないの」


「む……ホーネットの意地悪……」


 ヤサカは頬を膨らませ、ホーネットに抗議する。

 彼女のこの行動は、ホーネットの想定外であった。


「あれ? 意地悪? あたし……何か悪いことした……?」


「ヤサカの楽しみ、潰した」


「ホーネットさんよ、やっちまいましたね! ファルさんとヤーサの、せっかくの密着タイム、ぶち壊しちゃいました!」


「ラム!? ファルくんがいる前で――」


「あ……そういうことか……。ヤサカ、ごめん」


「ホーネットまで!」


 図星をつかれて慌てたヤサカは、ファルをおんぶすることをやめてしまった。

 こういうところは妙に頑固なヤサカ。

 結局、屋上に到着するまで、ファルはヤサカにおんぶしてもらえなくなってしまったのである。


 330メートル分の階段を上り終え、ビルの屋上までやってきたファルたち。

 見上げると、そこにはコンドルの船体が。

 

「近くで見ると、威圧感がすごい……」


「サダイジンちゃんから教えてもらった方法を使っても、どうやってコンドルの中に入れば良いかな?」


「それはあたしに任せて。ラム、軽自動車の用意」


「軽自動車ですね! まさかこの私が、軽自動車を出す日が来るなんて、驚きです!」


「ティニーはフライパンとC4爆弾、お願い」


「うん」


 コンドルとヴォルケの激しい攻撃に、扶桑の防御壁も長くはもたないだろう。

 なるべく早急にコンドルを破壊するためにも、準備は急ぐべきだ。


 ラムダは1台の軽自動車を用意し、ティニーは大量のフライパンとC4爆弾を用意する。

 そしてファルたちは、軽自動車の底にフライパンを敷き詰め、同時に車内のシートをすべて取り外した。

 大量のC4爆弾は、屋上の床に並べておく。


 サダイジンに教わった潜入方法の準備は終わった。

 加えてホーネットが、ワイヤーを手にしながらファルたちに言った。


「このワイヤー、体に巻きつけておいて。できるだけキツくね」


「全員をワイヤーで繋げるのか。なんのために?」


「覚悟しておきなさいよ」


「は、はい」


 ドスの効いた声で忠告するホーネットに、ファルは一瞬だけ体を硬直させた。

 一体、ホーネットは何をやろうとしているのか。

 事前に知っておいた方が良いのだろうが、ファルは怖くて聞くことができない。


 言われた通り、ワイヤーを体に巻きつけるファルたち。

 これでファルたちは、全員が数珠つなぎ状態だ。


「よし、これでオッケー。巻きつけたぞ」


SMARL(スマール)も、巻きつけた」


「もう簡単には解けませんよ! ワイヤーが切れない限り!」


「ラムダ、余計な一言で恐怖を増させるのやめろ」


「みんな、準備完了したみたいだね」


「OK, じゃあ、バックドアから車に乗って」


 この場は完全にホーネットに仕切られている。

 今度もホーネットの言う通り、ファルたちはバックドアから軽自動車に乗り込んだ。


 シートの外された、何もない空間と化した軽自動車。

 バックドアは開けっ放しである。

 そして、ティニーの手にはC4爆弾の起爆スイッチが握られていた。


「起爆まで、10秒」


「一瞬で数百メートル吹っ飛ぶんだ! 掴まれよ!」


 ファルの叫びに応え、掴めるものに掴む5人。

 舌を噛まぬようにするのも重要だ。


「――3、2、1、起爆」


 心底楽しそうな無表情で、スイッチを押したティニー。

 その瞬間、大量のC4爆弾が軽自動車の下で一斉に爆発。

 爆発の衝撃で、軽自動車の底に敷き詰められていたフライパンは粉々になる。


 粉々になったフライパンのおかげで、軽自動車は無傷であった。

 だが、爆風は軽自動車を軽々持ち上げる。

 バグ技であるためか、物理演算の狂った軽自動車は、空高く打ち上げられた。


「「「「「うおおおおお!!!」」」」」


「すごいです! 今までで最高のスペクタクルです! 興奮しすぎてイっちゃいそうです!」


「本当にイっちゃう! あの世に逝っちゃうって!」


「景色、綺麗」


「どうしてティニーは呑気でいられるんだ!?」

 

「お、おお、落ち着いてファルくん! こ、こういう時は、芋虫さんの可愛さを思い出せば、だ、だだだ、だ、大丈夫だよ!」


「ヤサカこそ落ち着け!」 


 一瞬にして数百メートルの高さまで打ち上げられた軽自動車。

 その中で必死の形相をするファルとヤサカ、呑気なティニー、楽しそうなラムダ、一言も喋らぬホーネット。


 あと10メートルほどでコンドルに触れられる、というところで、軽自動車は落下をはじめた。

 惜しくも軽自動車は、コンドルのもとまで届かなかったのである。

 それでも問題はない。


 アンカー射出機を手にするホーネット。

 彼女は開けっ放しのバックドアから、コンドルめがけてアンカーを射出した。

 射出機とワイヤーで繋がったアンカーは、見事にコンドルの船体に突き刺さる。


「車から手を離して!」


 ホーネットがそう叫び、ファルたちは彼女の叫びに従う。

 軽自動車を掴んでいた手を離すと、ファルたちはバックドアをすり抜け、軽自動車だけが地面に向かって落ちていった。

 地面に落ちていく軽自動車を眺め、宙にぶら下がるファルたち。


 船体に突き刺さったアンカーと、そこから伸びるワイヤー、そしてファルたちを結ぶワイヤーが、彼らを宙にぶら下げているのだ。

 コンドルの砲撃がかすめるようなこの状況に、ファルは気絶寸前。


「死ぬ! これ死ぬ!」


 ゲーム世界なのだから、死んだところでログアウトされるだけ。

 それでも、ファルは現在、死の恐怖を味わっている。


 ホーネットはあくまでも冷静だ。

 彼女はワイヤーを巻きつけ、ファルたちを連れて少しずつコンドルに近づいていく。


 アンカーの突き刺さった場所まで到着すると、ホーネットはファルたちと繋がるワイヤーを振り出した。

 おかげで、ファルたちは振り子のように揺られる。


「何してる!? 落とす気か!? 殺す気か!?」


「あんたは黙ってて! ティニー! C4爆弾をコンドルの船体に貼り付けて!」


「分かった」


 振り子と化したファルたちは、その勢いでコンドルの船体に触れる。

 触れる瞬間、ティニーはC4爆弾を設置。

 すぐに重力に負け、コンドルの船体から離れるファルたち。


 振り子として反対側のコンドルの船体に到着した時、ホーネットが叫んだ。


「起爆!」


 すぐさま起爆スイッチを押すティニー。

 直後のC4爆弾の爆発により、コンドルの船体に穴があいた。


 再び重力に引っ張られ、ファルたちはコンドルの船体から離れていく。

 しかしその勢いで、コンドル船体にあいた穴に近づいていく。

 

 コンドルの破片が散る中、振り子状態のファルたちは、穴の中に勢いよく飛び込んだ。

 そしてそのまま、ヤサカがコンドル船内の出っ張りに掴まる。

 ホーネットはアンカーを外し、落ちながらも再度アンカーを射出、コンドル船内にアンカーを突き刺した。

 

 アンカーを巻き上げ、コンドルにやってきたホーネット。

 なんとか、ファルたちはコンドル潜入を成功させたのである。

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