ミッション20—5 【バトル:ロスアン】ダウンタウン
メリア軍相手に、10数人のプレイヤーを率いて戦うホーネット。
彼女のその強さと、何よりその美貌に、プレイヤーたちは首ったけになっているようだ。
加えて、ヤサカとティニー、ラムダの登場である。
プレイヤーたちは戦いを忘れ、美少女たちにどよめいていた。
同時に、彼女らと親しげに会話するファルに対して、プレイヤーたちは厳しい視線を向けている。
「視線が痛い……俺、何か悪いことしたか?」
「あんたは常に悪いことしかしてないでしょ。ロスアンのこの惨状だって、あんたが関わってるんだし」
「むむむ……」
プレイヤーたちがファルに厳しい視線を向けるのは、それが理由ではない。
どちらかといえば、彼らの視線には妬み嫉み感が強い。
それでも、ファルはホーネットの言葉を否定できなかった。
このままホーネットにキツく当たられるのも辛い。
ファルはこれ以上、ホーネットと会話するのを止めた。
ホーネットとの会話を止めた途端、ファルの持つ無線機から低い声が聞こえてくる。
レイヴンだ。
《ファル、お前らって今、暇か?》
「何をもって暇かは分かりませんが、なんですか?」
《ちょっくら頼みてえことがある。お前らには、コンドルをぶっ壊してもらいたい》
「……え?」
《さすがの扶桑も、巨大空中戦艦2隻相手にすんのは骨が折れてな。クーノも補給で戦場を離れちまったし、頼めるのはお前らしかいねえんだよ》
「いやいや、え!? どうやって巨大空中戦艦を破壊するんですか!?」
《そりゃ、お前らが考えろ》
「ええ!? 無茶ですよ! 俺たちだけであんな……」
《大丈夫だ。実はこっちから、お前らの姿が見えてんだがな、そこにホーネットいるだろ。ヤサカとホーネットは、昔この扶桑を墜落させた化け物2人なんだぜ。奴らに任せておけ》
「そうは言っても……」
急に途轍もない指示を与えられ、右往左往するファル。
だが、ファルとレイヴンの会話を聞いていたヤサカとホーネットは、自信に満ちた表情。
2人ははっきりと、レイヴンに自分たちの意思を伝えた。
「あたしはやるよ。そろそろ、難易度高めのミッションをやりたかったところだし」
「私も。ホーネットと一緒なら、きっとできると思うからね」
堂々と言い放つヤサカとホーネット。
続けて、SMARLを抱えたティニーと、ワクワクが止まらないラムダが口を開いた。
「私の霊力、コンドルを超える」
「今、わたしたちの上にいるアレを壊すんですね! やります! やりたいです!」
大盛り上がりのティニーとラムダも、コンドル破壊に乗り気だ。
何も考えていないであろう点が難点だが、彼女たちはいつだって何も考えていない。
まだ答えを口にしていないのは、ファルだけ。
頭上で空を覆う巨大戦艦を破壊する任務だ。
少なくとも、一筋縄でいくミッションではないであろう。
《可愛い顔して恐ろしい小娘たちだぜ。で? ファルはどうするんだ?》
「…………」
考えるファル。
コンドルを破壊すること自体には賛成なのだが、今は作戦も決まっていない状態。
せめて確実な作戦だけでも思い浮かべようと、ファルは必死なのである。
「ファルくん、今回はティニーとラムもいる。ファルくんも加わってくれれば、絶対にコンドルを倒せるよ」
答えを迫るヤサカの言葉に、さすがのファルも腹を決めた。
ファルは大きくため息をつき、レイヴンに言う。
「分かりました分かりました。やりますよ、やれば良いんでしょ」
《ヘッヘ、その調子だぜ。んじゃ、あとは任せたぜ》
それだけ言って、レイヴンは無線を切ってしまった。
唖然としたファルは、思わず愚痴をこぼす。
「コンドル落とせなんて無茶ぶり言って、あとは全部丸投げって……」
「あんたのその気持ち、よく分かる」
「ホーネットは、いつもレイヴンさんの文句、言ってたもんね」
「あのオヤジ、テキトーすぎるんだよ。もうちょっと部下のことを――」
「おっと……ホーネットの文句がはじまっちゃったよ……。ファルくん! コンドルを落とす方法を考えようよ! ね!」
ホーネットの文句を力づくで阻止したヤサカ。
そんなヤサカを手伝うため、ファルもすぐさまヤサカの話題に乗った。
「そうだな。ええと……まずはどうやって乗り込むかだ。誰か、良い案はないか?」
「はい!」
「ラムダ、まともな提案か?」
「ひどいです! いつもまともです!」
「そうとは思えないが……まあいい。で? どんな提案だ?」
「わたしがヘリを用意します! それでコンドルに突っ込みます!」
「却下」
「ええ~! なんでですか!? いつもより真面目に考えたんですよ!」
「さらっといつも真面目じゃないの認めたな」
ラムダの提案は、いつもと比べれば確かにまともだろう。
ただ、今回は敵が強大すぎる。
なぜラムダの提案が却下されたのかを説明したのは、ヤサカだ。
「巨大空中戦艦は、近づいてくる航空機やミサイルを自動で撃墜する機能があるんだ。だから、ヘリコプターや飛行機に乗ってコンドルに乗り込むのは、無理なんだよ」
「え~! それじゃあ、どうしようもないじゃないですか!」
お手上げ状態のラムダ。
彼女のことは放っておいて、ファルは質問を続けた。
「他に良い案はないか? ……誰もないのか? ホーネット、なんか良い案を出せよ」
「なにその言い方!? すごい腹立つんだけど」
「提案はないんだな?」
「ない」
「はっきり言いやがって……!」
「提案、ある」
「お、ティニー、聞かせてくれ」
「サダイジンに聞く」
「ああ、そうだな。それが手っ取り早そうだ」
何もここにいる5人で答えを出す必要はないのだ。
ファルたちには、ゲーム製作者のサダイジンという頼れる味方がいるのだ。
巨大空中戦艦の設計者ならば、潜入方法ぐらい知っているだろう。
早速、ファルは携帯電話を手に取る。
連絡先はサダイジン。
《だぞだぞ、サダイジンだぞ。お兄さん、どうしたんだぞ?》
「巨大空中戦艦について質問がある」
《それならどんなことでも答えるんだぞ。それで、どんな質問なんだぞ?》
「戦闘中のコンドルに潜入する方法、ないか?」
《すごいことを聞くんだぞ。でも、答えはあるんだぞ》
「本当か!? 聞かせてくれ!」
《その前に、確認だぞ。できる限りコンドルに近い場所はあるのかだぞ? 例えば、高層ビルとかだぞ?》
「ある。狙ったようにちょうど良いのがある」
《それじゃあ、よく聞いてほしいんだぞ》
やはりサダイジンに連絡して正解であった。
彼女はファルたちが望む答えを持っていたのだ。
コンドルへの潜入方法を聞くため、ヤサカたちがファルの携帯電話に群がる。
おかげで、4人の美少女に囲まれたファル。
プレイヤーたちから怨嗟の視線を感じるが、知ったことか。
サダイジンは淡々と説明をはじめた。
《まずビルの屋上に、軽い車を用意するんだぞ。それと、大量のC4爆弾と大量のフライパンを用意するんだぞ》
「え? フライパン?」
《いいから聞くんだぞ。まずは車の底にフライパンを敷き詰めるんだぞ。隙間があかないように気をつけるんだぞ。隙間があると死ぬんだぞ》
「マジかよ……」
《次だぞ。フライパンを敷き詰めた車の下に、大量のC4爆弾を仕掛けて、爆破するんだぞ。そうすれば、車は爆風で吹き飛んで、コンドルまで飛んでいけるんだぞ》
「すまん、話についていけないんだが」
不可思議な説明を聞いていて、ファルの頭は混乱中。
ヤサカもそれは同じだったようで、彼女はサダイジンに質問した。
「ええと……どうしてフライパンを敷き詰める必要があるのかな? それに、自動撃墜はされないの?」
《フライパンを敷き詰める理由は簡単だぞ。フライパンは爆発の衝撃を全部吸収するのに、爆風は通り抜けちゃうバグがあるんだぞ。だから、車の底にフライパンを敷き詰めれば、C4爆弾を爆発させても、車は壊れないのに爆風で空高く飛ぶんだぞ》
「そ、そうなんだ……」
《それで、自動撃墜に関する質問の答えなんだぞ。巨大空中戦艦の自動撃墜機能は、航空機やミサイルしか標的にしないんだぞ。爆風で空を飛ぶ車なんて、想定されてないから撃墜対象にならないんだぞ》
「ああ……言われてみればそうだね……」
細かいことを気にしても無駄だ。
ファルたちは、そう悟った。
「まったく……不具合の多いゲームだ……」
《これだけの規模のゲームを、たった数人で作ったんだぞ! 不具合が多くて当たり前なんだぞ! むしろ、この程度の不具合しかないと褒めて欲しいんだぞ!》
「はいはい、すごいすごい」
イミリアは決して完璧な世界ではない。
だからこそ、コンドルに潜入する方法があったのだ。
今回はイミリアのくだらない不具合に感謝である。