ミッション20—2 【バトル:ロスアン】港
よく晴れた早朝。
メリア西部の大都市ロスアンに、八洲陸軍1個大隊が上陸した。
その上陸部隊に紛れ、ファルたちもロスアンにやってくる。
ライアン・マウンテン基地が破壊され混乱したメリア軍は、八洲軍の上陸を阻止することはできない。
とはいえ、1個大隊にロスアンの占領を許すこともない。
ファルたちを含む八洲軍は、ロスアンの港にある倉庫で足止めされていた。
「ファルさんよ! せっかく上陸して、せっかく港を占拠したんです! 早く攻め込みましょうよ!」
「落ち着け黙れ戦争狂。準備が終わるまで待てないのか? つうか、戦車やら装甲車やら攻撃ヘリやらの準備はどうした?」
「あ! 忘れてました!」
「忘れるな!」
「すぐに用意します!」
カジュアルな敬礼をして、兵器の準備を開始するラムダ。
大きくため息をついたファルは、メニュー画面に表示される『兵士NPC』の連打を再開する。
1秒に2体の勢いで生み出される大量のコピー兵士NPCたち。
すでに500体は増殖させ、倉庫内はコピー兵士NPCで埋め尽くされていた。
これでもまだ、作戦――クエストに必要な数には達していないのだ。
生み出されたコピー兵士NPCたちは、歩兵科や機甲科、砲兵科、航空科などに分けられる。
そしてティニーから、武器を受け取るのだ。
「みんな、これで除霊、頑張って」
「なあティニー、俺の気のせいか? SMARLを持ってる兵士がやたら多い気がするんだが?」
「気のせいじゃない。SMARL中隊、作ってる」
「ロケランだけで編成された中隊とか、恐ろしすぎるだろ」
「霊力の為せる業」
破壊力だけは抜群のコピー兵士NPCたちが、次々と完成していく。
思わずファルは苦笑いしてしまった。
時計を確認すると、時間は9時を過ぎている。
上陸から4時間も経過したようだ。
ファルは、倉庫の高台からスナイパーライフルのスコープを覗き、辺りを見渡すヤサカに声をかけた。
「ヤサカ、外の様子はどうなってる?」
「メリア軍の包囲は強まってるけど、住民の避難がまだ終わってないみたい。八洲軍は港の防衛のために、配置についたみたいだね」
「クエスト開始時刻まで、なんとかなりそうか?」
「それぐらいなら大丈夫だと思うよ」
「なら安心だ」
ヤサカが大丈夫と言うなら、大丈夫なのである。
大規模クエスト開始まであと1時間。
クエストで良い結果を残せるよう、ファルたちは準備を急いだ。
しばらく準備を進め、時間は10時5分前。
倉庫内は、ファルが増殖させた1000人以上のコピー兵士NPCで缶詰状態となった。
ラムダが用意したのは、戦車40輌、装甲車100輌、自走榴弾砲20輌、攻撃ヘリ5機、輸送ヘリ10機などなど。
また、ティニーのおかげで400人以上のコピー兵士NPCがライフルと機関銃で武装。
さらにSMARLを装備したコピー兵士NPCが150人もいる。
一方で、補給兵や衛生兵は皆無だ。
ファルたちが用意したのは、全員が戦闘要員。
コピー兵士NPCには補給も医療も必要ないのが理由である。
3人のチートで大規模な戦闘集団が生み出された。
ただし、今回の戦闘に参加するのは、これだけではない。
《だぞ! 大規模クエスト【バトル・ロスアン】に参加予定のみなさん! おはようございますなのだぞ! クエスト主催者のサダイジンなのだぞ!》
携帯電話のアプリ『クエストサーチ』の特設サイトに映る、女海賊姿のサダイジン。
軽快なBGMが緊張感を和らげる。
《クエスト開始まで5分なんだぞ! そこで、クエスト内容をざっくりおさらいするんだぞ!》
サイダイジンがそう言うと、某アニメの美少女フィギアと、某SF映画の兵士のフィギアが登場した。
どうやら人形劇でクエスト内容を解説するつもりらしい。
《クエスト参加予定のみんなには、指定された武器が配られてるはずだぞ。その武器を使って敵を倒せば、ポイントが加算されるんだぞ。溜めたポイントによって、クエスト後の報酬が変わってくるんだぞ》
映像では、美少女フィギアがライフルで兵士フィギアを叩きのめし100ポイント獲得するという、雑な人形劇が繰り広げられていた。
同時に、ポイントごとの報酬が表示されている。
《それで、気になる敵なんだぞ。今回の敵は、メリアとベレルの軍・警察全般なんだぞ! 容赦なく攻撃しちゃってほしいんだぞ! 殺されてもポイントは減らないから、無謀な攻撃も大歓迎なんだぞ!》
兵士フィギアに『メリア軍』やら『ベレル軍』やらと書かれた紙が貼り付けられる。
そんな兵士フィギアを、やはり美少女フィギアはタコ殴りにした。
タコ殴りにされた兵士フィギアの首が取れたところで、映像が変わる。
映されたのは、アメシア大陸の地図だ。
地図には複数の兵士フィギアが立っていた。
《クエスト開催場所はロスアンだけど、それ以外の場所で戦っても構わないんだぞ。もしクエストと同時進行してる、八洲軍のロスアン占領が成功すれば、全員に特別報酬もあげちゃうんだぞ!》
美少女フィギアと戦闘機の模型が、地図上の兵士フィギアをなぎ倒していった。
さらに、アメシア大陸の地図に火をつけ燃やすという過激なパフォーマンス。
灰になる地図と溶けるフィギアを軽快なBGMで包み込む映像からは、どことなくサダイジンの闇を感じる。
《これからクエストに参加したいプレイヤーは、今すぐ指定された武器を取りに行くんだぞ。武器の入手場所は、特設サイト内に書いてあるんだぞ》
ここまで説明して、映像には再びサダイジンの姿が。
サダイジンは模造刀を掲げ、この映像を見るプレイヤーたちに呼びかけた。
《だぞ! 時間なんだぞ! みんな、クエストを楽しむんだぞ!》
映像が終わると、時計の針はちょうど10時を指した。
大規模クエスト【バトル・ロスアン】の開始である。
「クエスト開始時刻だ! コピー兵士NPCたち! 倉庫を出てロスアンに進撃しろ!」
「「「「「「「「「「「「「「「「了解!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
拡声器を使ったファルの命令に、一斉に応えるコピー兵士NPCたち。
大量の兵士が、装甲車が、戦車が、続々と倉庫を飛び出し、ロスアンへと向かっていく。
攻撃ヘリや輸送ヘリも回転翼を回し、戦闘準備完了だ。
「俺たちも倉庫を出るぞ」
「うん。クエスト、楽しもうね」
「除霊の時間」
「お楽しみの時間です! わたし、なんだか興奮しちゃいます!」
コピー兵士NPCたちとともに、倉庫の外に出たファルたち。
すると、海の方角から轟音が聞こえてくる。
晴れているにもかかわらず、雷鳴のようなその音に、ファルたちは海を眺めた。
水平線から現れる、太陽を背にしてこちらに向かってくる複数の影。
その影の正体が、八洲海軍の艦艇であるとファルたちが気づいた時、ファルたちの頭上を20機の戦闘機が飛び抜けていく。
八洲空軍の戦闘機部隊だ。
戦闘機部隊の中には、『フクロウのエンブレム』をつけた20式戦闘機の姿もあった。
クーノもまた、八洲空軍に紛れてクエストに参加しているのである。
大地が揺れるほどのエンジン音を鳴らし、ロスアン上空にやってきた戦闘機部隊。
そこに攻撃ヘリや輸送ヘリも加わり、ロスアンへの総攻撃がはじまった。
「ラムダ、一気にロスアンのダウンタウンまで行きたい。いつものジープ、用意してくれないか?」
「ジープですね! 任せてください!」
言うが早いか、ファルたちの目の前にジープが出現した。
ファルたちはそのジープに乗り込み、それぞれに武器を手にする。
「出発しますよ!」
ラムダは元気よく叫ぶと、アクセルを踏み込む。
ジープはあっとう間に加速、港を駆け抜けていった。
目的地はロスアンのダウンタウン――戦場のど真ん中である。