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プロローグ

 壁にかかるモニターの中には、右から左へと流れていく文字の向こう側に、興奮を隠しきれぬ4人の男たちがいる。

 モニターの外には、モニターの中にいる4人と同じ姿の男たちが、ヘットギアを被ったまま、ソファに横たわり微動だにしない。

 モニターの外にいる司会者は、モニターの中にいる彼らに話しかけた。


「さて! 皆さん待望のフルダイブ型VRMMO『イミグランツ・フロム・リアリティ』通称イミリアの日本先行サービス開始から1時間! 人気ゲーム実況者のガスコンロの皆さん、ゲーム世界の方はどうなっていますか?」


《はーい! こちらガスコンロのビーフです! もう、こちらは何もかもが驚くことばかりですよ!》


《どうもキリーです! ホントすごいですよ、このゲーム。まず、自分がゲーム世界に入っていることを忘れちゃいます! な、ヒラヒラ》


《だな。ゲーム世界で食事して、美味しいって感じられるとか、すごいよな》


《NPCのおっさんが汗臭かったりするからな》


《マジでトングの言う通り。オープンワールドのマップの広さは900万平方キロメートルですよ! これ全部がリアルなんですよ!》


「なるほど、ガスコンロの皆さんの興奮度からして、ものすごく楽しくリアルなゲームであるのは、嫌というほど感じます」


《司会者さんもこのゲーム体験すれば、こうなりますって》


「残念ながら私、抽選落ちしてしまいまして」


《お、ってことは今、司会者さんは俺たちに嫉妬中ってことですね》


《このままデスゲーム化したら、司会者さんは幸運だな》


《たしかに。ネット小説とかで腐るほどあるもんな。突然ログアウトができなくなって――》


 楽しそうに会話をする男たちを写していたモニターは、突如として暗闇に染まった。

 何かの不具合だろうか。司会者はなんとかその場を繋げようと必死だ。


「あれ? おかしいですね。どうやら通信が切れちゃったようです。通信回復まで、しばらくは私のジョークでも聞いて――」


 だがその後、通信が回復することはなかった。


    *


『読買新聞20X3年6月4日 IFR大規模障害、製作者による意図的なもの』


 6月1日にサービスが開始されたVRゲーム「イミグランツ・フロム・リアリティ(IFR)」において大規模な障害が発生し、ゲームをプレイしていた1万3828人がログアウトできず、全員が今日までゲーム内に取り残されている事件。警視庁は、IFRの制作会社セーラー社長瀬良久秀の自宅から犯行声明が見つかっており、今回のIFR大規模障害が瀬良による犯行であると断定した。なお、瀬良自身もゲーム内に取り残されている模様。プレイヤーの強制ログアウトは、ヘットギアに仕組まれたなんらかの装置によって脳神経が破壊されプレイヤーの生命を脅かす可能性があるとして、警察は被害者家族に注意を促している。


    *


『毎朝新聞20X3年12月14日 IFR事件の死者増える』


 IFR事件発生から半年、事件の死者が後を絶たない。すでに91人が死亡したものの、強制ログアウトにより20人が生還していることから、被害者家族が強制ログアウトを試みるケースが続発してるのが背景。また事故によりヘッドギアが外れたり、電力が失われたことで死亡したプレイヤーもいる。強制ログアウトによる死亡率は80%前後と依然高く、警察や企業は細心の注意を払うよう注意を呼びかけている。


    *


『産政新聞20X4年2月12日 事件の解決はなお遠い』


 昨年6月から続くIFR事件だが、特別捜査本部によるIFRのプログラム解析が行き詰まっている。IFRのプログラムに関しては、製作者であり、ゲーム内に取り残されている瀬良、斎藤、13歳(事件当時)の少女により独自に作られた、非常に複雑なもので、全てを解析するのに3年は要するとされている。ゲームに閉じ込められた人々の救出はまだ先になりそうだ。


    *


『本経新聞20X4年5月18日 VR規制関連法が衆院本会議で可決』


 IFR事件を受けて政府与党が進める「VR規制法案」と「ゲーム開発規制法案」が衆院本会議で与野党の賛成多数により可決された。来月中にも成立する見通しで、これによりゲーム開発に大幅な規制が設けられることとなる。ただしゲーム業界や産業界からは、ゲーム市場やVR市場を萎縮させる法案だとして反対論が根強い。


    *


『本経新聞20X4年7月2日 VR市場に危機感』


 昨年から続くIFR事件、各社のVR発売自粛が響き、VR機器の売り上げが大幅に落ち込んでいる。トライパイン社の二本松代表取締役は「事件によって世論のVRに対する見方は大変厳しい。VR発売禁止の話まで飛び出している。政府による規制法の成立も相まって、今後のVR市場は厳しさを増すだろう」と話している。


    *


『毎朝新聞20X5年6月1日 事件発生から2年、被害者家族の苦しみ』


 IFR事件発生から今日で2年が経つ。未だ事件の解決は見えず、被害者家族は苦しんでいる。ある被害者家族は「事件に巻き込まれた子供の世話を見続けるのは精神的に辛い。経済的にも余裕がない」と苦労を語った。被害者家族を支援する団体は「被害者家族は限界だ。警察は早く事件を解決してほしい。政府も補助金を出す以外に何もしてくれない」として、国によるさらなる補助と事件の早期解決を望んでいる。


    *


『読買新聞20X5年6月15日 IFRプレイヤー救出作戦はじまる』


 IFR事件特別捜査本部は、30人の警察官と8人の技術者、7人のプロゲーマー、5人のIFR経験者、計50人で編成された救出部隊をゲーム世界にログインさせ、ゲーム世界に取り残されたプレイヤーを救出する作戦が開始されたと発表した。新たにログインする50人は強制ログアウトが可能で、二次災害はないと捜査本部は強調している。だが5人のIFR経験者はいずれも未成年であり、また作戦内容も不明瞭なため、警察内部や政府内部、世論から反発の声も上がっている。

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