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第16話 予想外

 レイナートの研究室ではおよそ4ヶ月を掛けて論文をまとめ上げ最高幕僚部の論文検討委員会に提出した。2週間後には審査が終わり公開された。それから3週間余り。


 公開された論文は軍内部でかなり話題になり、しばしの間、レイナート率いる第101研究室には肯定・否定も含め、様々な声が寄せられその対応に忙殺された。


「女に戦争ができる訳がない。無駄な論文に金も時間も浪費するな」


 という、相変わらず、女性蔑視を隠そうともしない老提督ら。


「ようやく読むに値する論文だったわ」


 一方で、女性士官たちからは肯定の声が多かった。


 だが一番多かったのは要するに疑問であった。すなわち「本当に徴兵された女性新兵でも使えるのか?」というものであった。


 論文作成にあたってはまずアンケートを実施しその集計に時間を費やした。

 すなわち、徴兵され従軍した女性兵士へ直接アンケートを送り回答してもらった。当時徴兵で集められた女性はおよそ1万2千人、ほぼ全員が後方に配属され現在は50歳前後となっている。その彼女たちに当時を振り返ってどうであったか、を率直に述べてもらった。


 また、リンデンマルス号の全乗組員にもアンケートを実施した。前線部隊として最も男女比が均衡していた戦艦である。その意識はどうであったか。他との違いはあったのか、を把握するためである。


 他方、現在前線部門に配属されている女性兵士にもアンケートを送った。これは志願兵のみだが膨大な数に上る。また自由にコメントを寄せてもらった。実はこの集計に一番時間を要した。


 さらにディステニア戦役時代に新兵訓練所で教導官をしていた者にもアンケートを実施した。特に新兵訓練所は、志願兵、徴募兵の双方の訓練を行っていた。そこにどういった違いがあったか、を調べるためである。


 そうして得られた結果を、ある具体的な会戦に当てはめてシミュレートしたのである。

 比較的大規模で長期に渡った侵攻作戦。そこに動員された兵力を細かく調べた。そうして全兵員における女性の比率を10%、20%と、10%刻みで50%まで変えて、その結果を予測したのである。

 またその女性兵士における志願兵と徴募兵の比率も同様にシミュレートした。


 徴兵された女性兵士の実戦配備。実のところ、これに関してはイステラ軍自体が豊富な事例を有している訳ではない。だからこそレイナートたちがその研究を行ったのだが、それは統計的な推論であることは否めず、したがって、自分達にも確固たる自信があった訳ではない。ただ希望や憶測を極力排してまとめ上げたということだけは明言できるものであった。


 その要点は、

一、徴兵された兵士に対しては、国防意識を含め、兵士としての意識の醸成を要する。

一、志願兵・徴募兵にかかわらず、新兵訓練は十分に行うべきである。

一、兵士に関しては、その資質、能力は個々に判断すべきであって、性別を判断材料として優先するのは無意味である。

一、性差による能力の違いは認めるものの、訓練また後の配属先によってそれは十分にカバーし得る。

という極めて常識的なものであった。


 よって、論文を読んだ人に対しては、あとはご自分で判断して下さい、という半ば投げやりな回答しかできないのも事実だった。


 そんなある日、レイナートはシュピトゥルス大将に呼び出された。


「スマンが、私のオフィスまで出向いて欲しい」


 そう言われてレイナートは首を捻った。

 自分が最高幕僚部に異動となってからは、シュピトゥルス提督の指示・命令系統から外れている。まさか提督のことである、世間話で呼び出すということはないだろうから、勤務時間中にも関わらず呼び出される理由がわからなかったからである。


「スマンな、足を運ばせて」


 そう言って提督はレイナートを出迎えた。

 ソファに座らされ、コーヒーのもてなしを受けて嫌な予感がした。まさかまた、ロクデモナイことを命じるんじゃないだろうな、と。


「貴官の提出した論文、読ませてもらったがよくまとまっている」


「それは恐れ入ります」


 レイナートは警戒心を解かずに、それでも一応は頭を下げた。


「私のところにも色々と質問が来たぞ」


「提督のところへ? 何でまた?」


「まあ私がイステラ軍全軍の艦艇の統括責任者だからだろう、コメントを求められたよ」


 シュピトゥルス提督は今では統合作戦本部戦術部長であり、まさに、イステラ軍が保有する全艦艇の管理責任者となっていた。

 各方面司令部はそれぞれが保有する艦艇については掌握している。だが、当然ながら他の方面司令部のものまではその限りではない。

 だが誰かがそれを把握していなければならない。それを担当するのが中央総司令部統合作戦本部の戦術部であり、ここでは戦闘艦艇、後方支援艦艇の全てを、その乗組員まで含めて掌握している。


「女性を、しかも徴兵で集められた兵士を戦闘艦に乗せるのか? 使い物になるのか? 戦術部はそれを許すのか? とね。

 まあ、過去の徴兵では女性兵士は後方勤務ばかりだったからな。前線部門の、しかも実戦部隊への配属という話にはどうしても抵抗を受けるのだろう」


「それは仕方ないでしょうね」


「徴兵制度が導入されなければこんな議論は無用なのだがな。まあ徴兵制度の復活など二度と起きてほしくはないのだが、こればかりはな」


 シュピトゥルス提督の言葉にレイナートも頷く。

 それは政府が決定することで軍が主体的に決めることではない。


 レイナート自身、志願兵ならいざしらず徴兵された女性を実戦部隊に配属するというのは、やはり抵抗を感じる1人である。

 だがそれは差別意識ではないつもりである。


 軍隊とはつまるところ、国家の暴力機関として敵を殺し、破壊するためのものである。国防のためのものでもこれは変わらない。

 敵が攻めてきたら国土と国民を守るためにこれを撃退しなければならない。その時、1人も殺さず、何も壊さず、というのは無理である。

 それが女性本来の性、すなわち「産む」ということと乖離していることから感じる違和感である。

 だがそれを差別だと言うのであれば沈黙せざるを得ない。


 そうして戦争を始めるのは政府であって軍ではない。

 不幸な事故で偶発的な戦闘が起きるというのは、緊張の高まった国境付近では珍しくない話である。だがそれは単なる戦闘であって戦争ではない。

 戦争とは、政府が国家の意志として、軍に命じて行うものである。それは文民統制の軍であれば尚更である。

 もしも軍が政府の意向を無視して独自に戦争を始めるならば、それは最早正しい国家のあり方ではない。


 そうして軍人は、自分達の出番が少なければ少ないほどいいと思っている。

 自分達が暇を持て余して遊んでいられるような社会、軍隊を必要としない世界こそが本来のあるべき姿だと考えている。

 それからすれば、軍人ほど平和主義者はいないのではないか? とレイナートは思う。


 だが現実の世界、社会は軍隊を必要としている。そうして時にそれは、自ら志した者だけでは不足し、国が強制して国民に参加させる必要を生じる。それが徴兵制度であり、しかしながらそれは最小限度であるべきである。


「だが、状況はしばらくは好転しそうにもない。となれば、そうも言ってられん」


 シュピトゥルス提督の言葉にレイナートは言葉が出ない。


―― 嫌な時代になったな……。


 そう思わざるをえない。


「ところで」


 そう言って提督は話題を変えた。


「近々、最新鋭の新造戦艦が就役の予定だ」


 そう言って提督はテーブルの上の小さなリモコンを操作した。

 するとテーブルの上に三次元立体映像が映し出された。


「これは!」


 レイナートが思わず目を瞠った。それは見間違うことのない独特のフォルム。正八面体を横倒しにして押しつぶし、引き伸ばした形状。


「リンデンマルス号!?」


 レイナートは目の前をゆっくりと回る三次元映像から顔を上げて提督に尋ねた。


「そうだ。

 最新鋭、リンデンマルス級戦艦一番艦、リンデンマルス号だ」


「リンデンマルス級? 一番艦? 

 まさか、もう既に量産化が決定しているのですか?」


 驚くレイナートに提督は苦笑いをした


「いや、実はまだ、予定の段階だ」


「……」


 いささかがっかりのレイナートだった。


 イステラ軍において、全ての兵器は兵器研究所で開発される。もちろん民間の軍事産業が提案するものもあるが、それは軍の要求が前提にある。


 戦闘艦艇の場合、極稀に惑星の衛星上ということもあるが、多くは惑星上空に設けられた船渠で建造される。

 戦闘艦艇は巨大で質量も大きく、大きな重力を持つ惑星上では、反重力発生装置を作動させないと艦体が自重で押し潰されてしまう。だが建造途中でそのようなことは不可能であるからである。

 そうして船渠は宇宙に浮かぶ本格的な造船場であり、宙空ドックはそれを簡素化させたものと言える。


 そうして完成した艦艇は試験運用部隊に引き渡され出航、実際に宇宙を航行し初期問題点の洗い出しが行われる。

 およそ3ヶ月から6ヶ月かけて試験航行が行われ、改修を必要とする大きな問題がないとされれば今度は実地運用試験に回される。

 これは実戦部隊に配属され哨戒任務や艦隊戦演習を経験するのである。そこでも問題無しとなれば量産化への最終判断が下される。

 そうして軍内部で量産化が決定されると、改善されるべき初期問題を列記した改善提言書を添えて量産計画書が軍務省に提出される。


 量産計画書を受け取った軍務省では、国防計画に基づいた調達計画案を作成、連邦最高評議会国防委員会に提出する。

 国防委員会はその調達計画案と量産計画書を最高評議会に上程、最高評議会総会の審議を経て承認・可決されると実際に量産化が開始する。

 そこで艦の正式名称が決定されるのである。


「この最新鋭艦は、そもそも、貴官が艦長を務めたリンデンマルス号の後継艦として開発が進められた。

 リンデンマルス号をいつまでも現役に留めて置くこともできんからな」


「確かににそうですね」


 今何故この話を? と思いつつも、興味のある話なので如才なく頷くレイナートである。


「ところが思うように開発が進まなくてな」


「それはそうでしょうね」


 最新鋭艦には最新技術が搭載される。その開発が遅れるのはよくあることである。


「それで旧リンデンマルス号の退役に間に合わなかった。間に合えば旧艦も爆破処理されずに済んだだろう」


 退役を先延ばしにして出撃、最後は自爆処理という悲しい結末を迎えた旧リンデンマルス号だった。それを思うと心が痛む。


「特に外装パネルが当初予定より大幅に遅れてな」


「外装パネルが?」


「そうだ。エネルギー変換効率を格段に向上させた新型。これが遅れたのだ」


「新型の外装パネル?」


 レイナートが一層興味を持つ。


「そうだ。兵器研究所の試算によれば29%の効率アップに成功したということだ」


「それは凄い!」


 荷電粒子砲や重力制御関連の装置の性能アップは目覚ましいが、外装パネルのみが遅れていた。したがってそれが本当ならイステラ軍の装備はまた格段に進歩向上するのは間違いない。


「そこで貴官に話だ。貴官にこの最新鋭艦の実地運用試験を頼みたい」


「はい?」


 そこで意外な話が飛び出してきた。


「……あの……、自分は今は最高幕僚部所属では……?」


 最高幕僚部は参謀部門。実地に艦艇を運用するのは畑違いである。


「ああ。なので作戦部に戻ってもらう」


 作戦部は艦艇を実際に運用する部門である。ただし中央総司令部の場合、それは基本は儀典用や基地間を移動する連絡艦のみで戦闘艦はない。


「いや、さっきも言った通り、この最新鋭艦はリンデンマルス号の後継艦として開発された。したがって試験終了と同時に旧艦と入れ替えの予定だった。

 ところが開発が遅れたのでな、貴官を完成まで遊ばせて置く訳にもいかんし、それで最高幕僚部に出向してもらったのだ」


「……出向ですか?」


 出向だと元の部署に籍を残したまま、ということになる。


「いや、正式な転属だったから貴官の籍は今のところまだ最高幕僚部にあるぞ?」


「……はあ」


「まあ貴官の最高幕僚部への転属は反対意見も多くてな……」


「それは一般科ということでですか」


「まあ、端的に言うとそういうことだ」


 相変わらずの官僚主義!


「そこで貴官の研究室には新たな3桁番号を与えたのだ。実務の研究室、お飾りの研究室、どちらにも説明をつけられるようにな」


「……」


 何をか言わんやという気分になってきたレイナートである。


「そういう意味からすると貴官の研究室の提出した論文は嬉しい誤算だった。いや、誤算という言い方は失礼だな。私はできると信じていたし……」


「……」


 何も言う気がしなくなってきた。


「とにかく貴官の論文で、軍内部には女性の徴兵問題について議論する下地ができた、と上層部は判断している」


―― どこの上層部だ、一体それは……。


「それと貴官にもう一つ命令がある」


「……何でしょうか?」


 不貞腐れ気味で尋ねるレイナートに対しシュピトゥルス提督はにこやかに言った。


「知ってる通り我軍の部隊運用は艦隊単位が基本。旧リンデンマルス号は独立艦として一部隊を構成したが、今度は違う。

 貴官には、その最新鋭艦を旗艦とする中央総司令部直属の新設特務艦隊司令に就任してもらう」


「特務艦隊司令?」


 また変なことを命じられそうだという、嫌な予感しかしない。


「そうだ。女性の実戦部隊への投入、その検証を目的とする特務部隊だ。

 部隊名はValkyries of Lindenmars。これが艦隊名にも採用される。

 要するに貴官が作成した論文。それを自ら実証してみせろということだ」


 嫌な予感は当たっていた。


 そこでシュピトゥルス提督は再びリモコンを操作した。

 三次元映像が消え、今度は文字ばかりの文書が映し出された。


「それが部隊の編成書だ。

 どうだ、画期的だろう?」


 そう言ってニヤリと笑った提督を尻目に、レイナートは空間に浮かぶ文書を凝視した。

そこにはこう記されていた。


『部隊名(艦隊名):Valkyries of Lindenmars

 司令:レイナート・フォージュ中将

 部隊構成:戦闘艦5、後方支援艦1の6隻編成とする。

 一番艦:リンデンマルス級戦艦(艦長:コスタンティア・アトニエッリ大佐)

 二番艦:アレンデル級(後期改良型)戦艦(艦長:クローデラ・フラコシアス大佐)

 三番艦:ガラヴァリ級(後期改良型)空母(艦長:アニエッタ・シュピトゥルス少佐)

 四番艦:アレグザンド級(改良型)巡航艦(艦長:エメネリア・ミルストラーシュ中佐)

 五番艦:パニシオン級突撃揚陸艦(艦長:エレノア・シャッセ大尉)

 六番艦:新造後方支援艦(艦長:アリュスラ・クラムステン大尉)


 目的:最新鋭艦(リンデンマルス級戦艦)の量産化に向けた運用実証試験。

 女性艦長の新規登用。その検証と問題点の抽出。

 徴募女性兵士の実働戦闘部隊への実地投入試験。その検証と問題点の抽出。


 以上、部隊の特殊性に鑑み、当該部隊は司令を除き全て女性によって編成するものとする』


 レイナートは絶句した。目も点になっている。ツッコミどころ満載なのだが唖然としてしばらく口も利けなかった。

 だがシュピトゥルス提督はお構いなく続けた。


「差し当たって最新鋭艦の引き渡しは6ヶ月後を予定している。可能であればそれまでに部隊の編成を終え、出撃可能状態に持っていくように」


「閣下!!」


 目を見開いて大声を出したレイナートに、シュピトゥルス提督は「何かな?」と静かに応じた。


「何ですか、これは!?」


「む? 聞いてなかったのか? 部隊の編成書……」


「それは聞きました! 中身の話です!」


「何か問題でも?」


 シュピトゥルス提督は白々しいまでに惚けた。


「最新鋭艦の運用試験はまだいいです。女性艦長というのもまだ許せます。というより今までいない方がおかしかったくらいですから。

 ですが、部隊員が全員女性とはどういうことですか!?」


「どういうことも、こういうことも、そういうことだ」


「あり得ないでしょう!」


「何故だ? 貴官の論文にも、異性の目を気にして言いたいことが言えない、という女性兵士は多いではないか。であれば女性だけなら問題はあるまい?」


「ですが、それなら女性艦長の件は? 要するにこれは部下の男性との軋轢を懸念してのことでしょう? だったら男性兵士がいないと検証に……」


「だが、新兵を山ほど抱えた上に、最新鋭艦の運用試験をするのだ。問題は少しでも少ない方がいいのではないか?」


「ですが……。

 それにその新兵です! 志願兵だけ集めても仕方ないでしょう? 第一、アレルトメイアと開戦後、新規志願者は皆無と聞きましたが?」


「そうだな。

 だが心配はいらん。実は既に試験徴兵が始まってる」


「試験徴兵?」


 耳慣れない言葉に聞き返す。


「そう、本格的な徴兵制度復活の前の試験的な徴兵で、20代前半女性を千名徴募した。現在訓練中だがその全てを貴部隊に配属する」


 何と手回しのいい! と感心している場合ではない。


「そんな試験的な徴兵なんて、政府が許したんですか?」


「ああ。まあ、形の上は志願だがね」


「えっ!?」


「まあ、昔で言う『一本釣り』というやつだ。何らかの理由で軍のサイトにアクセスした記録を辿り、その人物が条件に合う女性だった場合に入隊を持ちかけた。一応拒否は認める説明はしたが、全員が素直に入隊に応じたよ」


 話を聞くだけで一体どれほどの法を犯しているものやら。


「そんな騙すような真似で!」


「騙す、とは人聞きが悪いな。

 まあ、多少の粉飾表現はあったようだが」


「それを騙すというのでは!」


「どこがだ?

 前線部門から後方部門まで様々な職種。女性だけの安全で清潔な職場

 衣食住全てを支給。給与も正規徴募兵に支給する予定よりも多少は色を付けてある。

 希望者には資格取得の道もあり、昇進は努力次第。

 それに……」


「それに?」


「指揮官は将来有望、ハンサムで若い独身男性。どこにも嘘はあるまい?」


「……」


 二の句が継げなかった。


―― 何だ! その「将来有望でハンサムで若い独身男性」というのは!


「冗談はさておき、この部隊の目的はどれも優先度が高い。

 だが最優先されるべきは、最新鋭艦の実証試験だ。軍としてはこの最新鋭艦の早期実戦配備を望んでいる」


 そう言われてもまだレイナートは恨みがましい目で提督を睨んでいる。


「もう一度これを見てくれ」


 そう言って提督は再び最新鋭艦の三次元画像を映し出す。そうして諸元表にクローズアップした。


「最新鋭艦の全長は850m。つまり旧艦よりは一回りも二回りも小さい。ということは艦の容積も減っているが、何よりも質量の減少が著しい。

 そうしてこの新型艦には反重力発生装置が搭載されている。つまり地上降下が可能だ」


「地上降下が」


 ようやくレイナートはまた話を聞く気になった。ただしまだ納得はしていないが。


「そうだ、それが何を意味するか。

 艦内から病院機能、工場さらに航空隊と陸戦部隊が除かれた。これによってスペースを確保したのだ」


「……要するに、通常の戦艦と同じ、と……」


「そうだ。ただし、外装パネルの効率アップのお陰で210cm2連荷電粒子砲を16基32門も擁する。火力の向上は現行艦の数倍に及ぶ」


「それはそうでしょう」


 相変わらずの大艦巨砲主義にしか聞こえない。


「兵器研究所は旧リンデンマルス号で致命的な失態を犯した。あまりにも色々なものを詰め込もうとして失敗したのだ。しかも計算ミスでだ。その反省によってこの最新鋭艦が生まれた。

 つまり1隻で1個艦隊に匹敵する単独艦、というコンセプトから、あくまでも艦隊という部隊行動を運用の基本とするということだ。

 部隊に空母と突撃揚陸艦が配されているのもそれが理由だ。つまり新しい艦に載せられないから別の艦を用意した、ということだと思えばいい。

 別に戦艦と巡航艦を用意したのは、まだこの最新鋭艦は1隻のみしか建造されておらず、それだけで部隊編成が出来ないからだというのはわかるな? また、最新鋭艦のみで構成など他からの非難轟々で収集がつかなくなるからというのも理解できるだろう。まあ、後方支援艦以外は全部中古艦であるのは申し訳ないと思うがね。

 それとその新造後方支援艦というのは、新たに開発された病院船と工場機能を有する工作船を合体させたものだ。

 つまりこの艦隊は、正規戦闘部隊内に後方支援部隊も持つという、全く新しい概念の部隊だ。その運用実証試験も貴官にやってもらいたい」


 シュピトゥルス提督はそう説明した。


 イステラ軍の通常艦隊は戦艦乃至空母3、巡航艦乃至駆逐艦3の併せて6隻で1個艦隊を構成する。そうして複数艦隊からなる作戦の場合には別途補給部隊と病院船が同行し、必要に応じて輸送艦隊が投入される。

 だが通常艦隊1個艦隊のみで作戦を行う場合、補給艦や病院船は投入されないのが普通である。したがって作戦行動が長期化した場合にのみ補給作戦が実行される。

 それが、かつてのリンデンマルス号並みの火力を持つ戦艦を擁する艦隊ならば総合火力が上がっているから、後方支援艦を部隊内に組み込むことは可能だろう。

 確かにこれは今までのイステラにはないコンセプトの部隊である。


「にしても、全員が女性というのは……。

 どう少なく見積もっても、この部隊は7千名以上になると思いますが?」


 レイナートはまだそこに拘っている。「ハーレム艦隊」などと揶揄されるのは真っ平ゴメンだからである。


「最終的には8千2百名を予定している。

 それに新任兵士の習熟が進めば漸次男性兵士と入れ替え、最終的には半々まで持っていく予定だ。要するに最初のうちだけだ」


「ですが……」


 なおも食い下がろうとうするレイナート。


 だがシュピトゥルス提督は冷たく言い放った。


「来週には正式な辞令が発効される。以後直ちに部隊編成にかかってくれ」

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