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第4話 天国からの手紙

 朝いい匂いに目をこすりながら下に降りるとケイちゃんが朝ごはんを作ってくれていた。

「おはよ。ケイちゃん。」

 寝ぼけ眼でダイニングの椅子に座ろうとして…忘れてた。後ろからギュッとされて、たちまち目が覚める。えぇパッチリと。

「ココ。おはよ。」

 ほっぺにチューもしっかり忘れずにしてから解放された。

 うぅ。いくらパパにされてたからって慣れない…。

「ケイちゃん。パパに言われたからってしなくてもいいんだよ?パパにはしてますって適当に言っておけばいいんだから。」

 そう提案してみても柔らかい微笑みを向けられた。

 う…眩し過ぎる。鋭い目つきも困るけど、その笑顔はもっと困る…。

「大丈夫。したくてしてるから。ココが可愛くて。」

 満面の笑みが逆に嘘っぽい。

「パパに言われたからでしょ?無理して言われても嬉しくない。」

 当然の抗議をしてみる。それなのにケイちゃんは涼しい顔。

「俺にとって喜一さんの言葉は絶対だから。」

「なんでそんなにパパのこと…。ていうかやっぱりパパに言われたからなんじゃない!」

 プリプリする私にケイちゃんは何通かの手紙や葉書を渡してきた。

「これココの。」

 もう!話そらされた!!


 ダイレクトメールが何通かと手紙が1通。宛先はひらがなで『さとうここあ』差出人は『さとうあいこ』お母さんの名前の愛子だ。

「あ!ママから!!」

 私の声にケイちゃんは怪訝そうな顔をした。

 ほらほら。そっちの方が素っぽい!

「ココのお母さんってもう亡くなってなかった?」

「うん。小学生の時にね。でも手紙は届くんだ。きっとお空に還る前に書き溜めておいてくれたんだと思う。それを定期的にパパが送ってるんじゃないかな?」

「へ〜」とケイちゃんは気の無い返事をした。

「子どもの頃は天国から手紙が来てるって思ってたんだけどね。」

 ケイちゃんにそう報告しながら手紙をあけた。手紙にはいつも見ているママの字が並んでいた。

「へへっ。ママの字だ。」

 嬉しくてつい顔がほころぶ。さっそく手紙を読み始めた。


『しんあいなる ここあへ

 げんきですか?

 きょうは ここあちゃんに つぎのことばを おくります。

 ありがとう をいっていますか?

 ありがとうは たいせつなことばです。いつもかおを あわせているひとにも はじめてあうひとにも ありがとうって おもったら すぐにいおうね。

 なによりも いまめのまえに いるひとに いちばんのえがおで かんしゃをこめて いおうね。

 ここあちゃんなら できるよ。だってここあちゃんは ままのじまんの かわいいこだから。

 あいをこめて ままより』


 手紙をギュッと胸に抱いて「ありがとう。ママ」とつぶやく。

 ケイちゃんが不思議そうに見ている気がして、ヘヘッと笑った。

「ママはいつも私を助けてくれるの。手紙にはママの温もりがいっぱいなんだ。」

「亡くなっても愛されてるんだね。」

 なんだか恥ずかしくなって、ヘヘッとまた笑ってしまう。

「あの…。ケイちゃんもありがとね。朝ごはんも…一緒に暮らしてくれることも。」

 ケイちゃんは居心地が悪そうに頬をポリポリと指でかいた。

「朝ごはんはまだ美味いかどうかも食べてないんだから分からないだろ?それに昨日は一緒に暮らしたくなさそうだったけど?」

「うん。昨日は驚いたから。でもパパはきっと私が寂しくないようにケイちゃんをうちに住まわせたんだろうなって。この家はママとの思い出がいっぱいだから…。」

 しんみりしてしまった空気を察してわざと元気な声を出す。

「ごめんね。湿っぽくなっちゃった。」

「いや。いいよ。俺こそ隠し子なのに…受け入れてくれてありがとな。」

 ケイちゃんのイメージとはかけ離れた「ありがとう」が妙にくすぐったかったけど、心がほんわかした。

 ママ本当だね。ありがとうって大切。

「さぁ食べよう。」

 ケイちゃんに促されて朝ごはんを食べることにした。


 ケイちゃんは料理人志望ってだけあって、ご飯はとても美味しかった。

 でも今日のケイちゃんはどこか変だった。

「可愛いね。ココ。」を事あるごとに連発して。

 だからそれは嘘っぽいです。

 そう思うけど訴えても不毛だと分かっているから受け流すことにした。

 パパの言ったことは絶対なんておかしいよ〜。いつか指摘しよう。いや今もしてるんだけどね。


「ココは春休みだろ?俺もそうだからどこか行こうか。」

 大学の春休みは長い。3月になるまでに大学の友達とは卒業旅行に行ったり散々遊んでもまだまだある。

 3月は家族の為に空けておきなさいって言われて、こっちに来たのにパパはこの有様。家族の為にってケイちゃんのことだったのか…。

「今日は従兄弟の家に挨拶に行こうと思ってるんだ。帰ってきたし、これからこっちで暮らすんだってまだ私からは話してなくて…。」

 食器を洗っているケイちゃんの手伝いをしながら今日の予定を報告する。

「従兄弟?」

「そう。電車でちょっと行ったところに住んでるの。」

「ふ〜ん。」

「だからケイちゃんも今日は自分の好きなことしてよ。」

「あぁ。」

 気のない返事に大丈夫かなと思いつつ片付けを済ませるとお出かけの準備をした。


 部屋に戻った佳喜は、ふぅと息を吐いた。

「単純で単細胞。天国から手紙なんてあり得ない。」

 馬鹿にした言葉とは裏腹に優しい顔でハハッと乾いた笑いを上げた。

「俺に、一緒に暮らしてくれてありがとう。とかどうかしてる。」

 頭をクシャクシャすると佳喜は出かける準備を始めた。


 お出かけの準備を済ましてリビングに行くとケイちゃんもいて、昨日のバッグを背中に斜めがけしてる。ケイちゃんもどこかに出かけるみたい。

「じゃ行こうか。」

「へ?」

「従兄弟の家。」

「え?」

「俺、お兄ちゃんだし。一緒に行く。」

「えぇー!」

「ダメなの?」

「ダメ…じゃないけど。」

「じゃ決定。」

 ダメじゃないけど。ダメじゃないけど。従兄弟ってパパ以上に…。はぁ。

 言っても無駄そうだなと思って何も言わないことにした。後で大変そうだなぁと思ったけど。

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