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魔法の言葉(千文字小説)

作者: 小出元春




 外は雪がちらつき、私はストーブを焚きながら夕食の準備をしていた。急に電話が慌しく私を呼ぶ。電話に出ると相手は警察を名乗り、旦那さんが事故にあったと話した。警察が私の動揺を少しでも小さくしようとする話し声は私の耳から段々と遠くなり茫然とするほかなかった。夫は私達が病院に着くよりも少し前に私とお腹にいるこの子を残して息を引取った。


 お通夜は翌日に行われたが、参列して下さった方々に頭を下げるのが精一杯で目元を常に拭っているような状態だった。私と彼の両親も急なことにショックを受けていたが、私よりも気丈に振舞い、参列して下さった方々に対応していた。私や彼の友人は御悔みの言葉と併せて親身に言葉を掛けてくれた。


 「無理はしないでね、助けが必要ならいつでも言って」と。


 葬儀が終わり、今まで彼と暮らしていたアパートに戻ると全てが無気力に行われた。お腹の子の為に食欲が無くてもなんとか食べ物を口に運び、お腹を満たす。

 それでも彼の残していった物が目に入るだけで不意に涙が零れ、唯でさえ少なくなった気力が二三日で潰えた。蛇口から出る水が重みと硬さを持ち、片や床や壁は寒天のように柔く弱々しくなった。

 日に日に洗濯物が溜まり、カーテンを閉め切った部屋は余計に暗くなった。この暗く荒んだ部屋で動いている物は、時計とキッチンカウンターで揺れるダンシングフラワーだけとなった。


 彼が先立ってから十日が経ち、少しずつ溜り始めた気力を使って体を動かす。部屋の掃除と遺品の整理をするうちに、押入れの中から中学校の卒業アルバムが出てきた。アルバムの中には制服を着た、まだ幼い私と彼が写っている。また懐かしさに打たれて泣きそうになるが、ページを捲る。寄せ書きのページまで捲ったところで彼らしい優しい文字と蓮華草の花が現れた。卒業式当日、四月から他県に引っ越す私と彼のやり取りがふと思い出される。


 「さよならとかバイバイって言うとホントに会えなくなるんだって。だからこういう時はこう言うんだよ


 『またね』って」


 耳が赤くなった彼は照れながらその三文字と名前だけをアルバムに書いてくれた。その後、私達は偶然にも同じ大学へ進学し、付き合って結婚に至った。

今度は私の番だ。挟まっていた蓮華草を持って彼の骨壺の前に座る。

「何年何十年待たせちゃうか分からないけど、この子と一緒に精一杯生きるわ。少し寂しいかもしれないけど私達を見守っていてね。それじゃ



 『またね』


久しぶりの投稿です。

みんな元気にしてるんかなぁ……


最後まで読んで戴き、ありがとうございました。

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