ある雪の日の日記
****年 十二月 十四日
きょうは、ゆきがふりました。でも、つもらなくて、つまらなかったです。たださむいだけでした。手がとってもつめたくて、いたかったです。
けれど、となりのいえのお姉ちゃんは、はだしに、そでのないワンピースなのに、平気そうでした。
どうして平気なのと聞いたら、わたしはさむさをかんじないのと言っていました。
なんでと聞いたら、しんでるからと言いました。
どうしてそんなうそをつくのかわかりません。だって、手がとってもあたたかかったからです。
手はあたたかいからしんでるはずはないよって言ったら、あなたはすごいのねと言われました。かんけいないことを言われていやな気もちがしました。
それを言うと、かんけいあるわ。とお姉ちゃんは言いました。
なにが? と聞こうとしたら、もういなくなっていました。
ぼくはあきらめてかえりました。
***
あ、日記だ。懐かしい。小学校の頃につけていた物だ。
僕は時々、物置を漁り、『懐かしアイテム』を探す。要は暇潰しだ。
パラパラと捲りながら、斜め読みをする。
『****年 十二月 十四日
きょうは、ゆきがふりました。でも、つもらなくて、つまらなかったです……』
これは書かれてある通り、隣の家に住んでいたお姉さんの話だろう。けれど……。
彼女は、亡くなっていたはずだ。たしか、夏の日に。
これが起こったのは……****年だから、小一だ。
えーっと、たしかお姉さんが亡くなったのって、幼稚園の頃だった、よな……。
……。
数分のパニック状態。
――――あああああああああああああああああああああああああ!!――――。
落ち着きを取り戻しました。
謎を謎のままにしておくと体に悪いと聞いた(何処で)ので、一つずつ可能性を潰していこう。
さて、これはやっぱり幽霊なのだろうか。
それとも、他の、その人と同じ位の年の人が、人を騙そうとしてやったことなのか。
それか、僕の幻覚か創作。
幽霊について考えるときりがないので、他の可能性から考えてみよう。
まず、人を騙そうとした可能性については、無いと思う。
裸足にノースリーブのワンピースという恰好で雪の降る外に出たならば、手は冷たくあるべきだからだ。それに、わざわざ寒い雪の日にやる意味も分からない。
となると、僕の幻覚か創作。
うーん……。
僕は、嘘を吐けない人種だ。
顔には現れないのだが、声のボリュームが調整できなくなったり、言葉遣いも変わってくる。
日記の様に文字に表すにしても、筆跡や言葉の選び方とかが変わるはずだ。だが、そう言った形跡はない。
だから、幻覚かな……。
はい、幽霊?
ゆゆゆ幽霊の存在なんて、いまだに、信じているのかい? ぼぼぼ僕は、根拠のない事を信じるのは、どうかと、おおお思うけれどねねねね!
ととと兎に角、ここここれは幻覚なんだよ!
そう、幻覚だろう。
うん、幻覚だ。
幻覚だ……。
幻覚だよお! 絶対! げ・ん・か・く!
それか、夢! うん、これは夢日記だよ! と、日記の他のページをめくると、こう書いてあった。
『****年 十二月 十五日
きょうは、こわいゆめを見ました。あんまり覚えてないけど、ものすごくこわかったです……』
こう書いてあるという事は、十四日の話は夢ではない、という事だ。それに、僕は夢の中の出来事は覚えていられない性質だったっけ……。
……ってことは、幻覚だ。
そう、幻覚だろう。
幻覚だ。
絶対に幻覚だ。
幻覚だ。
幻覚。
……。
***
一人、自分に幽霊なんかいないと言い聞かせる君に、わたしは届かないと分かっていても呼びかけてしまう。
ああ、変わってしまったんだね、と。
幽霊は、人の目に見えるとき、死んだその時の状態を保ったまま現れる。髪の毛一本一本のかたちや、来ていた服の皺や、体温までも……。
君はあの頃は、幽霊の存在を見る事が出来ていた。けれど、もう見えない。
わたしは君の目の前にいるけれど、気がつかないもの。
あの雪の日、君は幽霊のわたしに触れて温かいと言った。
だから死んでいないと言った。
この子なら、わたしのことが見えるから、わたしを成仏させてくれると思っていた。
人間の魂は、未練の有無に拘わらず、絶対に一度は幽霊となる。
その後すぐに彼岸に行くことが出来ればいいのだが、そこに行くまでの道筋はすぐに消えてしまうので、少しでも此岸に留まれば、霊能力を持つ者に助けられもしない限り、迷った魂は永遠に成仏できなくなってしまうのだ。
けれど、今のこのご時世、幽霊が見える人なんて、ほとんどいなくなってしまった。霊能者も自称ばかり。
だから、わたしは希望を持つ事が出来た。
それなのに……。
――その希望は絶たれてしまった。
もう、永遠を過ごす覚悟をしなくてはならないのだろう。
おそらく、この世界が霊的に壊されるまでは……。




