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ある雪の日の日記

作者: 黎井誠
掲載日:2016/11/25

 ****年 十二月 十四日


 きょうは、ゆきがふりました。でも、つもらなくて、つまらなかったです。たださむいだけでした。手がとってもつめたくて、いたかったです。


 けれど、となりのいえのお姉ちゃんは、はだしに、そでのないワンピースなのに、平気そうでした。


 どうして平気なのと聞いたら、わたしはさむさをかんじないのと言っていました。


 なんでと聞いたら、しんでるからと言いました。


 どうしてそんなうそをつくのかわかりません。だって、手がとってもあたたかかったからです。


 手はあたたかいからしんでるはずはないよって言ったら、あなたはすごいのねと言われました。かんけいないことを言われていやな気もちがしました。


 それを言うと、かんけいあるわ。とお姉ちゃんは言いました。


 なにが? と聞こうとしたら、もういなくなっていました。


 ぼくはあきらめてかえりました。



 ***



 あ、日記だ。懐かしい。小学校の頃につけていた物だ。

 僕は時々、物置を漁り、『懐かしアイテム』を探す。要は暇潰しだ。

 パラパラと捲りながら、斜め読みをする。


 『****年 十二月 十四日

 きょうは、ゆきがふりました。でも、つもらなくて、つまらなかったです……』


 これは書かれてある通り、隣の家に住んでいたお姉さんの話だろう。けれど……。

 彼女は、亡くなっていたはずだ。たしか、夏の日に。

 これが起こったのは……****年だから、小一だ。

 えーっと、たしかお姉さんが亡くなったのって、幼稚園の頃だった、よな……。


 ……。

 数分のパニック状態。

 ――――あああああああああああああああああああああああああ!!――――。


 落ち着きを取り戻しました。

 謎を謎のままにしておくと体に悪いと聞いた(何処で)ので、一つずつ可能性を潰していこう。

 さて、これはやっぱり幽霊なのだろうか。

 それとも、他の、その人と同じ位の年の人が、人を騙そうとしてやったことなのか。

 それか、僕の幻覚か創作。


 幽霊について考えるときりがないので、他の可能性から考えてみよう。

 まず、人を騙そうとした可能性については、無いと思う。

 裸足にノースリーブのワンピースという恰好で雪の降る外に出たならば、手は冷たくあるべきだからだ。それに、わざわざ寒い雪の日にやる意味も分からない。

 となると、僕の幻覚か創作。

 うーん……。

 僕は、嘘を吐けない人種だ。

 顔には現れないのだが、声のボリュームが調整できなくなったり、言葉遣いも変わってくる。

 日記の様に文字に表すにしても、筆跡や言葉の選び方とかが変わるはずだ。だが、そう言った形跡はない。

 だから、幻覚かな……。

 はい、幽霊?

 ゆゆゆ幽霊の存在なんて、いまだに、信じているのかい? ぼぼぼ僕は、根拠のない事を信じるのは、どうかと、おおお思うけれどねねねね!

 ととと兎に角、ここここれは幻覚なんだよ!

 そう、幻覚だろう。

 うん、幻覚だ。

 幻覚だ……。

 幻覚だよお! 絶対! げ・ん・か・く!

 それか、夢! うん、これは夢日記だよ! と、日記の他のページをめくると、こう書いてあった。

 『****年 十二月 十五日

 きょうは、こわいゆめを見ました。あんまり覚えてないけど、ものすごくこわかったです……』

 こう書いてあるという事は、十四日の話は夢ではない、という事だ。それに、僕は夢の中の出来事は覚えていられない性質だったっけ……。

 ……ってことは、幻覚だ。

 そう、幻覚だろう。

 幻覚だ。

 絶対に幻覚だ。

 幻覚だ。

 幻覚。

 ……。



 ***



 一人、自分に幽霊なんかいないと言い聞かせる君に、わたしは届かないと分かっていても呼びかけてしまう。

 ああ、変わってしまったんだね、と。

 幽霊は、人の目に見えるとき、死んだその時の状態を保ったまま現れる。髪の毛一本一本のかたちや、来ていた服の皺や、体温までも……。

 君はあの頃は、幽霊の存在を見る事が出来ていた。けれど、もう見えない。

 わたしは君の目の前にいるけれど、気がつかないもの。

 あの雪の日、君は幽霊のわたしに触れて温かいと言った。

 だから死んでいないと言った。

 この子なら、わたしのことが見えるから、わたしを成仏させてくれると思っていた。

 人間の魂は、未練の有無に拘わらず、絶対に一度は幽霊となる。

 その後すぐに彼岸に行くことが出来ればいいのだが、そこに行くまでの道筋はすぐに消えてしまうので、少しでも此岸しがんに留まれば、霊能力を持つ者に助けられもしない限り、迷った魂は永遠に成仏できなくなってしまうのだ。

 けれど、今のこのご時世、幽霊が見える人なんて、ほとんどいなくなってしまった。霊能者も自称ばかり。

 だから、わたしは希望を持つ事が出来た。

 それなのに……。


 ――その希望は絶たれてしまった。


 もう、永遠を過ごす覚悟をしなくてはならないのだろう。

 おそらく、この世界が霊的に壊されるまでは……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変面白かったです! 謎めいた物語に序盤から一気に引き込まれます。 さらにラストはすごく切なくて……正直嫉妬してしまう作品ですね。 あと作者さんの文体は独特で、惹かれるものがあります。
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