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〜1〜

初めまして、闇繋 真央です。

オリジナル小説投稿は始めてなので、文章力など、物足りないものがあるかもしれませんが、ご了承ください。

ーーこれから、どうする?


ーーそう言われましても……まだ『自分のやりたいこと』は、見つかりそうにもありません。


ーーでも今は、この繋いで貰った手を離したくない……私達が知れなかった事を、もっともっと知りたい……そんな気がします。


ーーそっか。それじゃあ……一緒に来る?


ーーはいっ!!


ーー嫌だって言われても、無理矢理付いて行くつもりでしたけどね。絶対に離させませんよ!


それは、降り積もる雪の中で静かに交わされた約束。

誰も知らない、三人だけの……誓いの言葉。



■□■□■□




「……はぁ。で、その建物の解体を依頼したいと」


「えぇ。お願い出来ますかねぇ?」


一人の青年と羽振りの良さそうなスーツを着た男性が机を挟んだソファーに向かいあって座っている。

スーツを着た男性の傍らには屈強なガードマンが控えているところから見ると、男性はよほど地位の高い存在なのだろう。

対して青年の方は半袖Tシャツに半パンといういかにも庶民らしい服装だった。

別に置かれた仕事机の近くの窓は半分程開けられ、飾られた風鈴が吹き込む風によって、風情な音を響かせる。

その音がひと段落着いた時、男性は隣に置いた鞄から資料を取り出し、机の上に置く。


「これが、依頼の建物になります」


「『セレブホテル・イースター』……ふぅん」


青年が手に取った書類には、いかにも頑丈そうな黒い建物の写真があった。

周りに移った他の建物と比べても、抜き出て高い。

ページをめくっても、一流ホテルも唖然とするような豪華絢爛なアメニティや施設が移っていた。


「我が国の主要人物を泊めておくためのホテルだったのですが、最近になってオーナーが破産して、手放すことになって……それで我々が買い取ったのです」


「んじゃ、一般ホテルとして運営したらどうだ?」


「何かと維持費がかさばるもので……上の方で廃棄が決定しました」


「……だったら、こういうのは大工さんに頼んだ方がいいんじゃないの?」


パサッと書類を机を上に放りながら、青年は尋ねる。


「頑丈な金属で作られてますので、そこらの重機では壊せそうにないのです」


「だから『エンジェル』に頼むと……」


「えぇ」


男性は静かに笑みを浮かべつぶやく。


「マナを扱えるエンジェルなら、この案件も楽に解決出来るかと」


「……他にもエンジェルを所持する会社はあるだろ? なんでうちに……」


「……仮にも要人を護る施設ですから、要人警護のためにマナを防ぐ防壁も最高のものを用いています。半端なエンジェルでは壊せないのです」


「うっわ、めんどくせぇ……あぁ、だからうちか」


「こういうのは慣れてますでしょう?『雇われ屋』さん」


「……くそったれ」


男性の不敵な笑みに、青年はボソリと呟く。

青年の職業は『雇われ屋』。

金さえもらえれば何でも行う、いわばよろず屋だ。

ただ、よろず屋と違う点はエンジェルと呼ばれる者が一人以上いることだ。

エンジェルとは、マナを扱える人の総称である。

『御使い』という意味であるその言葉は、人間との差別用語でも使われている。

集団意識の高い人類は、かつては同じ人だとしても、自分と違う存在を畏怖し、壁を作った。

そのような点からも、雇われ屋には大概面倒な仕事を押し付ける人しかいない。


「で、どうなさりますか? 報酬は勿論はずみますよ。それとも、怯えて尻尾巻いて逃げ出しますか?」


「いちいち煽るなよ、腹立つな……で、どうする? お二人さん」


青年は誰もいない仕事机に声をかける。

……この男は誰と話してるんだ?

彼以外の誰もがそう思った。


「……う、受けてみても……いいと、思います」


真白(ましろ)がそう言うなら、私も異議はありません」


その時、仕事机から声が聞こえた。

恐らく、机の裏に隠れてずっと聞いていたのだろう。

声音からして、その正体は青年よりもまだ若い女の子。

それも、中学生ぐらいの……。


「……いや、これは失敬。ここは孤児院だったのかな? 子供に依頼を頼むつもりはないのだが……」


思わず、男性の顔が引きつる。

傍らのガードマンに至っては笑いを堪えようと必死だ。


「いや、これでいい。この依頼、『雇われ屋オーパナージ』が請け負った」


「……ほぅ。では、期日は」


「用意を終わらせたらすぐに行く。そんで、さっさと終わらせる」


「…………」


青年が不敵に笑い、男性が顔をしかめる。

先程とは真逆の光景が繰り広げられる。


「……対した自信ですね。それでは、先に現地にてお待ちしています」


「あいよ〜」


ソファーから立ち上がり、男性とガードマンが去って行く。


「……ふぅ。もう出てきても大丈夫だよ〜」


ひと段落つくように背もたれにもたれた青年は再び仕事机の方に声をかける。


「ほら真白、早く出てよ。つっかかってるんだから」


「そ、そんなに押さないでよ黒奈(くろな)ちゃん」


今度は声と共にガタガタと仕事机から音が響く。

その音は次第に大きく、激しくなっていく。


「は、はわっ!」


「ちょ、わぁ!」


やがて、ガタンとひときわ大きな物音と共に、仕事机の椅子が倒れた。


「あーもうっ、そんな狭いところに二人で入るから……大丈夫?」


「あうぅ……ごめんなさい」


「もうっ、隼斗(はやと)さんの仕事机が狭いからですよ!」


「……えっ、まさかの俺のせい?」


青年、隼斗が仕事机のほうに向かうとそこには二人の女の子がもつれた感じで倒れ込んでいた。

二人で仕事机の中に潜り込んでいたのだ。

一人は白いワンピースを着た少し小柄な女の子。

もう一人は黒いジーパンに白いプリントTシャツを着た、カジュアルな感じの女の子だ。

二人とも、中学生あたりだろうが少し幼い顔つきが残っている。


「全く、真白ちゃんはもう少し人見知りを直さないと……」


助けに行こうと二人に近づいた隼斗は、あることに気づいて動きを止める。

恐らく仕事机から脱出する際に乱れてしまったのだろうか。

所々で二人の太ももやうなじが露になっている。

そして……同じく乱れた襟からちらりと見える、幼さ残る控えめな膨らみも。



「……見えてるよ」


「ふえっ? ……わ、はわっ!」


「わっ、ほんとだ!……って、何でそんな冷静に見てるんですか」


「いや、そんなつもりは……お、俺も着替えてくるから!」


二人が服装と整えている間に隼斗は二人をリビングに置いて、逃げるように一人隣の部屋に入る。

仕事場兼三人の住まいになっているここで隼斗が唯一落ち着ける場所となっている自分の部屋だ。

ベットと机とクローゼットだけという殺風景な部屋でも隼人にとってはありがたい。

隼斗は脱いだ服をベットの上に放り投げると、急いで仕事服に着替える。

あんまり待たせると真白に本気で泣かれ……もとい、二人に怒られるからだ。


「……この仕事をやり始めて、もう一ヶ月か」


とある施設で二人に出会い、とある事情で一緒に暮らすようになってから一ヶ月。

早いようで遅いような一ヶ月。

当初程の不安はないとはいえ、まだ社会に慣れていない二人をずっと護り続ける。

決意を新たにし、隼斗は仕事着に着替え終える。

黒を基調としたロングコートを羽織ったその姿は、裏地がついていない夏用とはいえ、梅雨明けというこの季節にしては暑すぎる格好だ。

だけど、隼斗は特に気にすることもなく、傍らに置かれた剣を腰に差し、部屋を出る。


「……そろそろ、行きますか?」


「早く終わらせましょう!」


隼斗が部屋を出ると、服装を整えて終えた二人が隼斗を待っていたかのように立っていた。

隼斗はこくりと首を縦に振り、玄関に向かう。


「さぁて、ミッションスタートだ!」


「……何かそれ、どこかで聞いたことある……」


「あはは……」


後ろについてきていた二人の苦笑を尻目に、隼斗は扉を開けた。


■□■□■□



一時間ぐらいで指定された現場に着いた三人は、圧倒的な存在感を放つ依頼の建物を並んで見上げていた。

要人が泊まりに来ていることだけあって、黒光りする壁には傷一つさえ見当たりそうにないぐらい綺麗に磨かれ、輝いている。

壊してしまうのがもったいないぐらいだ。


「おぉ〜っ、思っていた以上に大きいなぁ〜」


「屋上が、霞んでみえますね……」


「こういうところに、泊まってみたかったですね」


「……黒奈ちゃん、だからってこっちを見られても……」


「あっ、いや、そのようなつもりは……」


しゅんと落ち込む隼斗に原因を作った黒奈が慌ててフォローを入れようとする。

確かに『雇われ屋』の収入は少ない方だ。

余程のことがない限りは、自らで雇っているエンジェルに任せる。

得体も知らない、他所のものに任せられない。

そんな人々の思いが、雇われ屋の存在を許そうとしない。

だから雇われ屋にくる依頼は、よっぽどの難題か個人での依頼しかなく、その数も少ない。

それは隼斗達の所も例外ではなく、週に2回依頼がくればいいぐらいだろう、といった状態に陥っている。

そんな隼斗達にとって目の前のようなホテルに足を踏み入れることすらおこがましい。

黒奈がそうぼやくもの、仕方ないことだ。


「お待ちしておりました」


落ち込む隼斗を二人で慰めていると、背後から声が聞こえた。

三人が振り返ると、そこには依頼人が先程のガードマン二人を連れてやって来る姿が見えた。

その姿が見えた瞬間、真白は隼斗の後ろへと隠れるように回り、ギュッと隼斗が着ているコートの裾を掴む。

隼斗は若干の呆れを感じながらも、依頼人の方に体を向ける。


「待たせたな。さて、依頼の方に取り掛かろうか」


「ええっ、ですがその前にお一つだけよろしいですか?」


「なに?」


「……暑くないですか?」


「……ほっとけ」


自分でも気になっていたとはいえ、まさか依頼人に服装を指摘されるとは。


「よろしければ報酬の方、お金の他に『夏服』も追加いたしましょうか?」


「いや、やめて! それぐらい俺も買えるから!」


「だ、大丈夫ですよ隼斗さん。服の買い物でしたら私達も付き合いますから」


「たまには、自分のために贅沢してもいいですからね?」


「なんか余計な心配させてるよ!!」


後ろからこちらを覗き込む真白と本気で心配してこちらを見る黒奈の方は純粋に言っている感じなので怒ろうにも怒れない。

まさか、普段からそんな感じで見られていたとは……。


「……もう無理だ。今日頑張れる気がしない……」


「そうですか。それでは依頼の話をいたしましょう。時間が惜しいですので」


「絶対わざとだろ、あんた……」


飄々と話に入ろうとする依頼人に頭痛を感じつつも、隼斗は気持ちを切り替える。

そうしないと、やっていけない。


「資料でもご覧いただきましたが、今回お願いするのはこちらの建物です。周りの建物は壊さないようにお願いいたします」


「んっ、了解……んじゃ真白ちゃん、頼んでいい?」


「や、やってみます……」


「そんなに緊張しないで。ただ単に壊せばいいだけだから」


「は、はい! 頑張ります!」


今まで隼斗の後ろに隠れていた真白はおずおずと前に出る。

依頼人にも笑みが消える。

その顔からは戸惑いが見て取れた。

本当に彼女がするつもりか?

あまり運動のしない私よりも華奢な体躯で?

どこかの令嬢を思わせるような白いワンピース姿で?

ついさっきまで、私と目さえ合わせられなかったあの臆病すぎる性格で?


「あ、あの……」


いろいろと考え事をしすぎたせいで、ぼーっとしていた。

そのせいか反応が遅れたのだろう。

依頼人がはっと我に返ると、目の前に時々目線を逸らしながらもこちらをみる真白の顔があった。


「……何か?」


「す、すみません。……あの、危ないですから、少し離れてもらっても、よろしいですか……」


「はぁ。わかりました」


調子が狂う。

そう思いながらも傍らのガードマンに声をかけ、一定の距離をとらせる。

隣を見ると隼斗達も建物と真白から距離を置き、様子を伺う。


「み、皆さん。始めても、よろしいですか?」


「……ええ」


「いいよー」


みんながある程度距離を取れたことを確認すると、真白は目を閉じて意識を集中し始めた。

その時、辺りの様子が変わった。

景色自体が変わった訳ではない。

ただ、思ったことを述べると重くなった(・・・・・)

主に真白の周りを中心に。


「マナを練っているのか……? しかし、これほどとは!」


確かにこれならこの建物を壊せるだろう。

幼い少女がこれほどなマナを持つとは思っていなかったが、これならあの少年が自信をもっていうのもうなずける。

きっと壊せるだろう。

そう依頼人は確信できた。

そして、同時にこうも思う。

その破片を集めて何処かに売れば、収益も増え土地も手に入る。

まさしく一石二鳥だ。

明るい未来のビジョンについつい顔をにやけさせてしまう。

間も無く、真白はゆっくりと右手を上げる。


「行きます……ていっ!」


やがて、真白があげていた右手を振り下ろした。

その途端、真っ白な光の奔流が建物を襲う。

と同時に、離れていた隼斗達でさえ吹き飛ばされてしまうのではないか思う程の衝撃が襲いかかる。


「ぬっ……!」


とっさに依頼人を覆った屈強なガードマン二人でさえ、苦しそうに顔を歪める。

その衝撃は徐々に弱くなっていき、やがて静かに消える。

残ったのは、辺り一面を霧のように覆う砂埃だけになった。


「みなさん、お怪我はありませんか!?」


砂埃の中から、真白が慌てて向かってくる。


「すみません! ある程度の力の加減はしたのですが……」


「……いえ、お気になさらず」


「大丈夫だよ。皆ちょっとびっくりしているだけだから」


「そうですか? よかった……」


安堵の表情を浮かべる真白の頭を、隼斗は優しく撫でる。

真白は嬉しそうにその感触に身を寄せる。

隣で黒奈が少し頬を膨らましていたが、隼斗は気にしない。

やがて、あたりの砂埃が晴れてきたので、皆が建物の方に向く。


「……なっ!?」


そこにあったのは、小さなクレーターだけだった。

圧倒的な存在感を放っていた建物を姿は|破片≪かけら≫もない。

そう、ただの一片も。

依頼人達はただただ口をあんぐりと開けるしかなかった。

防壁は常に作動しているはずだ。

現に、前に頼んだエンジェルの攻撃は防壁に塞がれていた。

だったら、どうして……?


「それにしても真白、随分派手にやったわねぇ〜。ここまでする必要なかったんじゃないの?」


「で、でも、強力な防壁が作動してるって言われたから……生半端じゃダメかなって思って……」


「と思ったらあっさり壊れた、と……」


「うん……ちょっとだけびっくりしちゃった」


「ま、それでも依頼は達成できた。問題はないと思うよ」


「報酬ははずむ、って言われてましたよね……いくら入るかな?」


「……黒奈ちゃん、目がキラキラしてるよ」


「これで少しでも貯金が増えれば、ゆくゆくは旅行の方も……」


「あっ、それは私も行ってみたい! 色々なところ行って、色々なもの見たいなぁ」


「いや、それは……申し訳ないけど、ほとんど生活費に消えると思うよ」


「そ、そうですよね……すみません」


「まぁ、そんなの夢のまた夢ですよね……。大丈夫です! 今の生活でも十分に満足ですから!」


「そう言わせるのが本当に申し訳ない……んっ?」


隼斗が二人の視線から逃れる様に目を背けたとき、ちょうど依頼人の姿が見えた。

依頼人は目線を建物の方を向いたまま微動だにしない。


「お〜い。びっくりする気持ちもわかるが、そろそろ戻っておいで〜 」


「……そうだ、そういうことか。そうじゃないと辻褄が合わない。絶対にそうに違いない……ブツブツ」


「お〜い、聞こえてる〜?」


「……はっ! し、失礼しました。」


隼斗が声をかけたり、目の前で手をヒラヒラさせていると、ようやく依頼人は目線を隼斗の方に向ける。


「で、何で驚いてんだ? 依頼の方は解決したはずだろ?」


「も、もしかして……何か、消してはいけなかったものも消してしまいましたか?」


真白がおそるおそる問いかける。

もし、何か大切なものを壊していたら……。

最悪の場合、誰かを殺して(・・・・・・)いたら……。

真白の背中から形容し難い悪寒が襲いかかる。

どうか、どうかそれだけはーー


「あ、いえ。それはあり得ませんので、ご安心を」


「そ、そうですか……よかったぁ」


最悪の展開は回避できたことを、真白は心の底から安堵する。


「んじゃ、何に驚いてんだ? なんか、顔も真っ青だし」


「いえ、これ程の質量の建物を一瞬で転移させるとは思えなくて……」


「はい? 転移なんてさせてないよ?」


「……はい?」


隼斗の発言に依頼人は再びポカンとなる。


「い、いや、だって、そうしないと、建物が破片もなく、壊れるなんて……」


「だからぁーー」


狼狽する依頼人を隼斗は頭を掻きながら遮る。


「真白ちゃんの神力(マナ)物体を転移させる(・・・・・・・・)能力はない。それに、さっき真白ちゃんが言ってたろ? 消したって」


「はぁ……!?」




「言葉通りだよ。依頼通りに『原型もなく消し飛ばした』。ただそれだけだ」




「ーーーー!!」


ついに依頼人の口から声が出なくなった。

隼斗は当たり前のように言っているが、マナが使われた攻撃を防ぐ防壁は最高のものを用いられている。

余程の力がなければ壊すことすら不可能だ。

ましてやそれを、原型もなく消し飛ばした?

ありえない!


「そんな……そんなことが……」


足下がふらつき、倒れそうになる。

ガードマン二人が慌てて駆け寄り、その体を支える。


「そんなことができるなら……それほどのマナを所持しているなんて……化け物か何かなのか……?」


「……っ」


ぽつりと呟かれたその言葉に、真白と黒奈は目を伏せてうつむく。


「……おいあんた。そんな言い方はーー」


「隼斗さん、いいんです」


「……でも」


「私達も、わかってますから。自分たちが、どのような存在なのかも」


「……くそっ」


隼斗が何か言おうとするのを二人は静かに止める。

全てを悟ったような二人の顔を見ると、隼斗は自らの惨めさを痛感させられる。


「あなたの言うとおり、私達は確かに普通ではありません」


真白と黒奈はゆっくりと依頼人に近づく。

傍にいたガードマンは依頼人の前に立ち、壁になる。

その行動は、二人を表情をさらに暗くする。


「私達は、エンジェルが持っている平均最大所要神力へいきんしょようしんりょくを、大きく上回ってるの」


「ですので、人間でもなければ、エンジェルとも言い難いのです」


「……つまり」


「人間も、エンジェルも超えた存在、それはーー」


黒奈が言い切ろうとしたその時、ガードマンは突如依頼人の背後に回る。

そのあとすぐ、乾いた銃声が二発響いた。

そして、ガードマン二人がうつぶせになって倒れる。

その背中にはそれぞれ真っ赤な血と銃弾に撃ち抜かれた跡がある。


「……えっ?」


「うそ……」


「こ、これはもしやあなた達が……」


「んなわけねぇだろ! これは……」


全員が息をのんで周りを見る。

そこには、いままでいなかった集団が四人を囲むように次々と別の建物の陰から現れる。

各々に剣やこん棒、更には銃等、多種多様な武器を持っている。

そしてその先頭には、真新しい硝煙が銃口からでた銃をもった男が不気味な笑みを浮かべていた。

その右手首には真っ黒な髑髏のペイントが着けられている。

後ろの男達も同じようなものを着けている。


「おやおや、これで邪魔者はいなくなると思っていたのですが……残念です」


「あ、あなたたちは……?」


「くくくっ……こんにちは、我々はDM社のものです」


「DM社……?」


DM社。

隼斗達もテレビで聞いたことはある。

世界各国あらゆるところに出没し、破壊活動を繰り返す犯罪集団だ。

一説には、国一つを滅ぼしたとまで言われている。

そういわれる理由にはやはり『エンジェルを味方にしている』という噂の存在が大きい。


「あの殺人集団が、一体何の用で……?」


「我々の目的は世界一の硬さを誇る鉱石、『カタライト』の奪取……だったのですがねぇ」


「『カタライト』……?」


隼斗が聞きなれない名前に首を傾げる。

その様子をみた依頼人がそっと隼斗の耳元に顔を寄せる。


「あの建物に使われている鉱石の正式名称です」


「あぁ、なるほど……ま、ついさっき、壊したばかりだから、もうないのだけどな」


その説明に隼斗はうなづき、ふたたび前の集団に告げる。

それを、男性はただ笑って受けながす。


「いえ、我々も様子を見ておりましたから。それに関しては把握済みです」


「でしたら……?」


「今さっき、あなた方をみて目的が変わりました。我々の目的はあなた方の勧誘です」


「勧誘……?」


「えぇ、正確にはあなたが所持しているエンジェルを」


「所持……」


その言葉も気に入らない。

まるであの時の言葉を、あの時の思いを否定している。

隼斗は腹の底から何かがふつふつと沸き上がるのを感じた。


「エンジェルを商売道具として利用しているのでしたら、同じようなことでしょう?」


「エンジェルだって『人』だ。所持とか利用とか、そういった『物』みたいに見てんじゃねぇよ」


「……くくくっ。そうですか、それは失礼。私としては、エンジェルなんてただの『道具』ですから」


「……俺、あんたとは絶対仲良くなれねぇわ」


「奇遇ですね、私もそう思ったところです」


「ってことで、勧誘の話は無しで。そんな風にエンジェルをみている奴に、うちの大切な子達を預けようとも思わねぇ。ま、そもそも誰にも渡す気にもならんけど」


「正式な依頼とし、相応の報酬を支払うと言っても?」


「俺をそこらの金の亡者と一緒にすんな」


「そのようですね。それでは……力づくで」


男性が指を鳴らすと、男達はニヤニヤとこちらに近づいて来る。


「隼斗さん……」


「どうするんですか……?」


後ろにいる二人が心配そうに見つめてくる。

……答えはもう決まっている。


「倒すしかないでしょ。ガードマンさんの敵討ちもあるし」


隼斗は腰に差していた剣に手をかけたまま、隼斗は敵に向かって突っ込む。

そして、集団にもう少しでぶつかるところまで来ると、手に置いた剣に力を込め、鞘から抜き取る勢いで一気に切り払う。

先頭の集団が一気に切り払われたのを見て、後続に続いていた集団が怯んで動きを止める。

その様子をみて、再び笑みを浮かべる男性。


「ほう……なかなかやりますね。あなたもうちに来ませんか?」


「やなこった!!」


続いて隼斗は、怯んでいた後続の集団の中に潜り込み、周りにいる敵に次々と刃を振り回す。

さながらそれは、夜叉のように。

だがしかし、決して相手を殺さずに。


「っ! 危ない」


「!!」


その時、怯みから立ち直った敵の一人が隼斗の背後に回り込み、がら空きの背中に斧を振り下ろそうとする。

依頼人が真っ先に気づき声をかけるも、既に刃が迫っていた。

間に合わないと悟った依頼人は、目を瞑りこれから起こるであろう惨劇を見ないようにする。

しかし、依頼人に聞こえた音は肉が裂ける音ではなく、何か硬いものに当たったような甲高く響く音だった。

依頼人がおそるおそる目を開けると、隼斗の背中に何か大きなものが覆い被さっている。


「あれは……盾?」


輝くように白いそれは隼斗を守るための盾だった。

弾かれた一瞬の隙に隼斗は後ろの敵を蹴り倒し、依頼人や真白達がいるほうへと戻る。


「ごめん! 助かったよ、真白ちゃん!」


「もうっ! 隼斗さんはいろいろと無茶をしすぎです!」


「でも、ある程度は敵の数を減らせた。これで退いてくれれば……」


「ある程度? 一体どの程度なのでしょうね」


男が指を鳴らすと、建物の影からさらに人がわらわらと湧き出してきた。

その数は最初に襲われた時よりも多い。


「ま、まだこんなに伏兵を……」


「……まじかよ畜生」


依頼人と隼斗、それぞれが苦虫を噛み潰したような表情で呟く。

その時、隼斗のコートの袖が引かれた。

隼斗が振り返ると、そこには隼斗をジッと見つめる黒奈の顔があった。


「……黒奈ちゃん、どうかした?」


「……私が、やります」


「いや、でも……」


「黒奈ちゃん……」


「あの人達を追い返せばいいのですよね? 任せてください」


「……わかった、頼む。こっちは俺に任せて欲しい」


心配そうに見つめる真白に微笑みかけ、黒奈は一歩前に出る。


「なんだぁ、ガキが出てきたぞ」


「お子様が俺たち相手に何ができるんだぁ?」


「ガキはお家に帰っておねんねしていた方がいいと思うよぉ〜」


先ほどまで、自分たちを圧倒していた奴が下がり、代わりに貧弱な子供だ出てきた。

建物を壊したあの子供ではない、もう一人の。

そのことが彼らに余裕だという空気を与える。

彼女のことを何一つ知らない故の、余裕。


「隼斗さん、もしかしたら私、多少やりすぎてしまう(・・・・・・・・)かもしれません……」


「……程々にね」


ーーそりゃ怒るわな。

隼斗は胸の内でそう思った。

黒奈の怒りがこちらにこないようにするには、こう言うしかなかった。

いや、こうとしか言えなかった。


「……隼斗さん。黒奈ちゃんから神力(マナ)とは違う、禍々しいものを感じるのですが……」


「うん。それ、たぶん俺が感じてるのと同じだと思う」


背中越しでもわかる。

あいつら絶対許さない、と言った感じの気迫が黒奈から出ていることを。


「警告します。怪我をしたくなければ、おとなしく逃げたほうがいいですよ。あ、それか今から警察に言って自首するか」


「お嬢ちゃん、今の時代に警察なんてあってないようなものだよ」


「そういうことは軍の人にいわない

とねぇ〜」


「ま、そんなガキを相手にするわけもないんだけどなぁ!」


ゲラゲラと大笑いする男達を、黒奈はじっと見つめ続ける。

それは、先ほどまで隼斗達を見ていたときとは明らかに違う冷たい目だった。


「……まぁ、私も軍には期待してません。もちろん、あなたたちにも」


『んだとごらぁ!!』


冷たく言い放ったその言葉は、笑っていた男達の怒りを一気に沸点まで持ち上げた。


「警告はしましたからね。後で後悔しないでくださいよ」


「上等だ!! ガキのくせに生意気なこと言いやがって! この社会の厳しさっていうやつを、その身体に刻み込んでやるよ!」


男達が雄叫びをあげながら突っ込んでくる。

四方八方から襲いかかってきており、逃げ場は全くと言っていいほどない。


「ちょ、ちょっと! 助けなくて良いのですか!? このままじゃ、あの子がーー」


「大丈夫だ」


狼狽する依頼人の言葉に被せて、隼斗が振り返って言う。

真白の方も心配そうな目では見ているが、隼斗の時のように助けようとはしない。


「とは言いましても……!」


「黒奈ちゃんもエンジェルだ、と言えば安心するか?」


「それでも数が多すぎます!」


「安心しろ。見ていれば分か……る?」


隼斗が向き直った時、黒奈はちょうど神力(マナ)を練り終わっていた。

黒奈がバッと両手を振り払った途端に、黒奈の周りに真白と同じ色の光の剣が姿を表す。

その数、おおよそ百本(・・)

いくつもの剣が黒奈を囲むように並べられ、切っ先を男達の方に向ける。

男達は大量の剣に驚き、動きを止める。

そして、慌てて踵を返して逃げ惑う。

いや、慌てているのは男達だけではない。

様子を見ていた真白が何かに気づいたかのように慌てて隼斗達の前に立ち、先程よりも一回り大きい光の盾を顕現させる。

そして、黒奈の周りを回っていた剣が一気に放出される。

いくつもの剣が逃げ惑う男達に襲いかかり、その体にぶつかる。


「あわわわ……」


「ひぃ、ひぃ、ひぃ!!」


「大丈夫だよー。こっちには来ないから、安心してー。俺達に刺さることはないからー」


そのうちの何本かが真白が展開していた盾にぶつかり、甲高い音を立てる。

依頼人は背を向けて丸くなり、ガタガタと震えている。

それを隼斗が落ち着かせようと話しかけ続ける。

……言葉が若干固くなったのは、隼斗もまた、若干だが動揺していたからだろう。

やがて攻撃が収まり、隼斗の視界で立っていたのはエヘンと胸を張った黒奈だけだった。

周りにいた男達は疼くまって、それぞれに当たったところを手で押さえ、傷みにこらえる。

あれほどあった剣はスッと姿を消していた。


「隼斗さん! どうでしたか?」


ピョコピョコという効果音が着いてもおかしくないぐらいに軽く飛び跳ねながら走ってきた黒奈が、笑顔でこっちに向かってきた。


「え、いや、その……」


「黒奈ちゃん! いくらなんでも、こっちに飛ばしてどうするの!?」


隼人が何か言うまえに真白がズイッと隼斗の前に出て、黒奈を責める。


「いや、だって囲まれてたんだもん! こうしないと私がやられてたし!」


「頭上から降らすとか、いろいろ方法はあったでしょう!? どうして周りを巻き込む方を選んだの!?」


「そ、それは……い、いいじゃない

! ちゃんと飛ばす前に真白に防いでって言ったでしょ!」


「言うのが急すぎるよぉ! びっくりしちゃったよ!」


「……あの、二人とも」


「……大丈夫よ。 もし当たっちゃったとしても、刀身は潰してるから、何か硬いものが当たったぐらいしか……」


「あんな勢いで飛んできたら、誰だって痛いと思うけど!?」


「はいはい、二人とも落ち着いて!」


「はうっ!」


「あうっ!」


ヒートアップする二人の頭に隼斗は軽くチョップを振り下ろす。

チョップをくらった二人は両手で頭を押さえながら、涙目で隼斗の方を見る。


「隼斗さぁん……」


「痛い……」


「結果的に敵の無力化という本来の目的は達成できたから、真白ちゃんもそんなに責めないの。黒奈ちゃんも、次は気をつけてね」


「はい……」


「すみません……」


隼斗に怒られてしゅんとなる二人。

そんな二人の頭を隼斗は今度は優しく撫でる。

それだけで二人の顔に笑顔が戻る。


「いやぁ、素晴らしい。これ程の力とは……くくくっ」


その時、不気味な笑い声が聞こえた。

皆が声がする方に振り向くと、先程のDM社の男が変わらない笑みを浮かべていた。

その身体には、黒奈が放った剣が当たった傷痕は見られない。

恐らく全て何らかの方法で回避、もしくは防いだのだろう。


「さすがに、もう伏兵は持ってないよな……」


「えぇ、まさかあの数を全て撃退してしまうとは。驚きですね……くくくっ」


「驚いてるなら、その余裕の笑みをやめろよ……」


「どうやら今日はここまでの様です。最後にお名前を教えていただければ」


「雇われ屋、オーパナージ。御子神(みこがみ) 隼斗だ」


「『オーパナージ』……なるほど。私はDM社幹部、陽無(ひのなし)狼牙(ろうが)と申します。また遊びにきますね。今度は私のエンジェルと共に……くくくっ」


最後まで笑みを絶やさずに男性、もとい狼牙は姿を消した。


「……陽無、狼牙」


「……また、会うことになるのでしょか?」


「……恐らくね。あの目は諦めた目じゃない」


狼牙の存在は隼斗達の記憶に大きく根づくことになるだろう。

いずれ、現れる敵として。

今は脅威が去ったことに三人は警戒を解く。


「さて、これでーー」


隼斗は依頼人の方を向き……言葉を止めた。

隼斗達が狼牙の方に向いている間に依頼人は別のところに向かっていた。

血が溢れ、瞳孔を開いて倒れているガードマン達の方に。

苦痛に歪んだその目を依頼人は指で瞼を落としてあげる。


「ごめんなさい……私たちの、せいで」


「もっと、私たちがしっかりしていれば、こんなことには……」


依頼人が振り向くと、真白と黒奈が瞳を濡らしながら近づいたきた。

後ろでは、隼斗がその様子をじっと見つめている。

そんな二人に依頼人は静かに笑い、再び倒れたガードマン達を見つめる。


「……いえ、彼らも承知の上です。彼等は私を護るという使命を果たし、息絶えたのです。……我々が、前を向いて歩いていかなければ、彼等の意思が無駄になってしまいます。それにーー」


依頼人はその場で立ち上がる。

そして、自分から二人に近づき、その細い肩に手を置く。


「いくら強すぎる力を持っていたとしても、それで物事全てを解決できると思っていたら、それは自惚れが過ぎるというものですよ。だって、それが人間(にんげん)なのですから」


依頼人は二人にむかって、静かに微笑んだ。

そこには、先ほどのような怯えはない。

真白と黒奈の本当の気持ちに、気づいたからだろう。

その力の裏側に秘めたーー優しさを。

だからこそ、二人は嬉しさと共にこう思う。

その優しさにーー甘えすぎてはいけないと。


「……いえ、先ほども言いました通り、私達は人間ではありません」


今にも綻びそうな顔を必死に押し殺し、真白は静かに首を振る。


「私達は『オーバーエンジェル』。エンジェルを超えたエンジェル……人間とは、程遠いのです」


続いて、黒奈が静かに言った。

依頼人もこれ以上何も言うことができずに、ただ黙する。

いや、正確にはーー何も言えなかった。


「ーーいつかは」


その沈黙を今まで黙って様子を見ていただけの隼斗が破った。

二人に近づき、ポンと頭に手を置く。

二人はキョトンとした顔で隼斗の方に向く。


「あんたの言葉に、素直に喜べるようになってくれる。俺はそう、信じてる」


その言葉は、二人を無表情にするにはあまりに難しい言葉だった。

二人は、嬉しそうに隼斗に身を寄せる。

その様子に再び依頼人は静かに笑う。


「それは……私も、信じてみても、よろしいですか?」


「……ご自由にっ」


依頼人の問いかけに、隼斗はぶっきらぼうに返す。

その語尾がうわずっている辺り、本当は嬉しいのだろう。


「んじゃ、俺たちは帰るか。依頼は終わらせたし」


「はいっ」


「了解です」


「今回はありがとうございました……って、ちょっとちょっと!」


帰ろうとする隼斗達を依頼人はあわてて止める。


「なにぃ、まだなんかあるのぉ?」


隼斗がけだるそうに振り返る。


「いや、報酬のほうは……」


「あぁ、それか……それならいいや」


「はぁっ!?」


隼斗は一度真白と黒奈の方を向いた後、目線を倒れたガードマンの方に向ける。


「大切な部下だったんだろ? だったら、そいつらを壮大に送り出してやれよ」


「あっ……」


隼斗の言葉に、依頼人は言葉を詰まらせる。


「……では、お言葉に甘えさせていただきます」


「おうっ!」


依頼人の言葉に隼斗は笑顔で答える。




「そんじゃ……再雇用を、お待ちしています」




今度こそ、依頼人に背中を向けて歩き出す。


「……隼斗さん、それかっこいいと思ってます?」


「いいでしょ。昨日の夜に考えたんだぁ。こういう決め台詞って憧れだったんだ」


「正直にいいますと……その、そこまでいいのかと言われますと……」


「ダサい」


「く、黒奈ちゃん! そんなはっきり言っちゃあ……って、隼斗さんっ!? 何処に行くのですか!?」


「分かってたよ、クサい台詞だってぇ!」


「ちょ、ちょっと待ってください! 私的には50点ぐらいでしたよ!」


「……100点満点で?」


「……1000点満点で」


「真白ちゃんがいじめるぅぅ!!」


「は、隼斗さん、待ってくださ〜い!!」


こうして三人は夕日の中に消えて行った。

……最後まで、決まらないまま。


「……さて」


その様子を見送ってから依頼人は、周りを見渡す。

倒れるガードマン。

未だにうずくまる男達。

ぽっかりと穴があいた地形。


「……これ、どうしよう」


依頼人はただ呟くしかできなかった。

その時、着ているスーツからけたたましい音が響く。

依頼人は慣れた手つきでスーツのポケットから携帯電話を取り出し、通話ボタンを押す。


「もしもし」


『ようやくお気づきになりましたか……何処におられるのですか? 何も言わずに出て行きますから、ずっと探していたのですよ』


通話口から女性の声が聞こえてくる。

いや、女性と言うよりかはもっと可愛らしい……少女のような。


「えっとね、前に言ってた雇われ屋さんに依頼を頼んでみたの」


『前? ……あぁ、前に

紫杏(しあん)さんが言っていた……?』


「そうそう、いやぁ〜驚いたよ。まさか『ホテル・イースター』を跡形もなく消しちゃうなんて思ってもなかったよ」


『私でも、防壁を突破して傷を入れるぐらいが精一杯でしたのに……噂通りの恐ろしい力です』


「彼女達は自らのことを『オーバーエンジェル』って言ってたなぁ……」


『エンジェルを、超えた存在ですか……』


「……でも、僕は彼女達が好きだよ」


『へっ?』


依頼人の言葉に電話の相手は戸惑う。


『あそこのエンジェルも私とあまり歳は……ゴホン、少し待っていてください。今すぐに逮捕状を用意しますので』


そして、慌ててわざとらしく咳払いしてから口調を戻す。


「ちょっとまって〜まだ何もしてないよ〜」


『その発言だけでアウトだと私は思います』


(あや)ちゃんが思っているような事じゃないよ〜。彼女達はあくまでその力を欲の為じゃなく、善の為に使いたがっている。美しいと思うよう。少なくとも、僕は嫌いじゃない」


『……まぁ、それは、ええ、確かに』


「あ、でも応援は欲しいかなぁ。部下が二人やられたし、その犯人もいまのびてるから」


『そうでしたか。すぐに応援を呼びます。……あのっ、大丈夫でしたか?』


やはり憎まれ口を叩いていても大切な人なのだろう。

自然と、電話の主は心配する時だけ声が甘く聞こえる。


「大丈夫だったよ〜アフターサービスも完璧だったよ、あそこの雇われ屋は」


『そうですか……後日、正式にお礼を申し上げないといけませんね』


「まぁね〜。その辺りはヨロシク〜」


『……大輔(だいすけ)さん。仮にも日本軍司令部長という偉いお方なのですから、たまには真面目に仕事してください』


「……は〜い」


そして彼は通話終了ボタンを押し、携帯を再びスーツのポケットにしまう。


「まぁ、これからも頑張って欲しいね……オーパナージの皆様方」


静かにほくそ笑む。

そして、この現場を誰かに見られた際の言い訳を考えながら、応援を待っていた。

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