僕のこれから
はっとした。
まさか、と思った。
「色鉛筆・・・」
思い当たる節はある。
ありすぎるほどにあった。
今日一日だけでも・・・ポケモン、色鉛筆、虹・・・そして、色とりどりの創作料理
そんなわけない、と思おうとする。
だけど・・・
この目では、見てないはずのものなのに、脳裏にくっきりとその光景が、景色が、料理が、美しい鮮やかな色彩で浮かび上がってくる。
そりゃそうだ。
だって、僕の代わりに、みんなが見ていてくれた。
一生懸命、伝えていてくれていた。
つたない言葉で、色で、料理で・・・
今、記憶の中の、
全ての言葉が、想いが、
一つの線となって繋がって行く。
なんてこった。
「まぢか・・・」
瞬間、体が熱くなる。
「じゃ、あいつらもか・・・」
すぐ身近にある幸せがどうとかこうとか、言ってる場合ではない。
・・・おまえっ、いい歳してるくせに!
わかってる。わかってる。
・・・ぜんっぜん気づいていなかったじゃないか!
自分の鈍感さに唖然とするほかない。
なんてことだ。
熱くなった両手を握りしめる。
夕方、甥と姪に強く、強く、握られたその手のひらを、ぎゅっと握ってみる。
そしてまた開いてみる。
まだ感触が残っている。
暖かい、小さくも力強い手の感触を。
あんなに色鉛筆にこだわったのも・・・
ポケモンをしつこく説明してきたのも・・・
背中がじっと熱くなる。
胸の底から、じりじりと熱い炎が頭に向かって登ってくる。
「くっそ、子供のくせに・・・」
似合わない悪態を心で呟いてごまかそうとしても収まらない。
感情の津波がもうすぐそこまで来ている。
「くっそ、くっそ!」
ここは公衆の面前なのだ。
でも、もう手遅れなのである。
気づいてしまった。
その余りにも、余りにも暖かいものに。
今まで、自分がどんなに守られてきていたかということに。
感動がない?
・・・嘘だった。
慣れた?
・・・全部嘘だった。
ただ、怖かった。
感動という感情のざわめきから逃げていたいだけだった。
感動から、喜びから逃げれば、
目を失った悲しみからも逃げれる気がしていた。
だけどもう、
完敗である。
もう無理。不可能。
表面張力ぎりぎりで決壊を押しとどめていた涙が、
つつーっと一滴、手のひらにこぼれ落ちた。
今、
心の暗闇で、ゴロゴロと転がっていた石が、
とまった。
ただの小石同士が、強大な荒波に抗ったのだ。
その小石は、もはや心を埋め尽くすほどの大岩だった。
帰ったら・・・
帰ったら二人を抱きしめよう。
思いっきり抱きしめよう。
そしたら、きっと二人とも、びっくりして逃げ回るだろう。
が、その前に
「ちょ、ちょっとトイレ」
うつむきながら急いで席を立つ。
つづく




