とある僕の朝
しとしとと降る、雨の音にまぎれて、かすかに海鳴りの音が聞こえる。
「サッパーン」
みたいな波がぶつかる派手で小粋な音ではない。
引き波が、海岸の小石を深い海の底に引きづり寄せる際に鳴る、
「ザザザザザ―、ゴゴゴゴゴ―ッ」
そんな、おどろおどろしい、黒々とした音が、かすかに聞こえる。
ごつごつとした、拳くらいの大きさの石ころ同士が、その圧倒的な海の力に、無力ながらも肩を組み合い、何とか抗おうとしている。でも、その努力空しく、結局は、みんなもろともに海の底に引きづりこまれていく。
海の奥へ
海の奥の暗闇に
ゴロゴロ、ゴロゴロと転がって行く。
そんな絶望的な光景が、瞼の裏に浮かんでくる。
「あぁ、実家に戻ってきていたんだった・・・」
はたと目を覚まし、見慣れたような、見慣れないような天井の木目模様を眺めていると、寝起きで断線気味の回路が徐々に繋がり始める。
この海鳴りの音を聞くと、実家に居ることの安堵感よりもむしろ、幼いころ、共働きだった両親が不在の夜、布団にもぐって不安に押しつぶされそうになっていたあの頃を思い出す。
歳の近い姉も一人いたが、一緒に居るのが幼い弟一人では、僕なんかよりさぞかし不安であったことであろう。
そんなわけで昨年の暮れ、とある事情で仕事を辞めた僕は、今、故郷の実家に戻り、母と姉夫婦と共に暮らしている。
云わば居候中である。
そう、僕は今、『ニート』です。
つづく