幼き記憶は、幻想の如く。
「た、ただいま」
「ああ」
俺もシャワーを浴びて、部屋に戻る。既にクレアは戻っていた。
ワインをグラスに注いで、少しご機嫌のようだ。
「ん」
ん、って。グラスを此方に差し出されても困るんですが。俺、まだ未成年だし。
あ、この国の法には問題ないのか?
「あ、頂きます」
興味本位からグラスを受け取り、ワインに底が隠れる程度に注がれる。
ソムリエ的に、匂いをかいでみる。……うん、さっぱり分からんな。
「うー」
なんだか向こうで唸ってるんですが。
一口味わう。あ、普通に美味い。葡萄酒か?
「んー?」
此方をチラチラ伺うクレアの目が危ない。もう酔ってるのか。
お酒をに弱いのかな。
「もう一杯だけ貰おうかな」
そう言ってワインのビンを手に取る。が、思ったよりも軽い。
見ると、8割以上なくなっていた。
「飲み過ぎでしょう」
それぞれのワインに半分ずつ注ぐ。
もう一口。うん、美味い。だが、アルコール度数ってどの程度なんだろう。
「うぅ……」
呻きだしたよ。これはそうとう酔ってるな。ベッドに寝かした方がいいかな。
ぐったりするクレアの隣に屈み、お姫様抱っこで抱える。
「な、なかなかの重量ですねっ!」
おおよそ、女性の方に言ってはいけない暴言を吐きながら、そっと移動してベッドに寝かす。
先程から呼吸が荒い。俺が抱えたせいで、服も多少はだけてる。つまり……
「エロい」
視線が胸の谷間に吸い寄せられる。
「こ、呼吸が荒いんだ。べ、別にやましい意味はないんだからね!」
誰に言い訳しているのか検討も付かない事を述べて、ソッと一番上のボタンを外す。すると、更に谷間が見える。
ゴクリ……
それが自分が唾を飲んだ音に気付くのに数秒かかった。
……もうちょい、あけてもいいよな? 息苦しそうだし。
「……」
ドクンドクン、と胸が高鳴る。心なしか、心拍数も上がってる気がする。
「ん?」
「ひっ……」
パチッとクレアの目が開いた。数秒間見詰め合う。
既に手は第二ボタンの10cm手前まで接近しており、十人いれば十人とも同じ答えが返ってきそうな状況だ。
……終わったな。俺、死んだわ。
なにかを悟ったような気分に陥りながら、せめてもの抵抗として体を少しずつ体を引く。
「ジュリ……アス?」
淡い唇から、ボソリと漏れた名前。
そして、背後から物凄い力でクレアに引き寄せられた。
このまま圧殺させる気か!?と思ったのだが、引き寄せるとクレアは眠ったのか力が抜けた。
大きな胸に顔を埋めている現状。にも関わらず、くだらない妄想は沸かなかった。力の抜けたクレアの手を解き、顔を上げる。
クレアは一筋の涙を零していた。
「泣かせちゃダメじゃないか」
自分を戒めるように言った。持っていた布で、涙を拭ってやる。すると、わずかながらクレアの表情が楽になった。呼吸も安定している。
「うぇ……」
視界が突然ぐにゃりと歪んだ。
あの酒は、後から酔いが来る酒だったのか。
グラグラ揺れる視界の中、なんとか椅子に座る。
「グチャグチャですね……」
ゆっくり瞼は閉まる。
あぁ、今日が終わった。
誰かが俺の名前を呼んでいる。
「…………」
上手く聞き取れない。どうやら俺は誰かに抱かれているようだった。
大きな胸が顔の横にあるのが分かる。優しく頭を撫でられた。
「…………!」
見上げたらしく、視界が上を向く。
(!?)
「………!!」
「……、…………。……」
俺が何かを喋る。『顔が真っ黒に塗りつぶされた何か』に。
2013/09/09 誤字を修正しました。
2013/09/23 致命的な間違いを修正しました。