宿屋の騒動
『作るのには一日かかるけぇな。明日まで待っちょれ』
とジジイに言われて俺たちは暇を持て余していた。
「クレア。どこか行きたい場所とかある?」
「いや、特に」
うわー、これデートとかでよくあるんだよなー。
適当にブラブラするといっても、結局時間を余して気まずくなる。
さて、俺はそんなヘタレではないはずなので、どこに行くか思考を巡らす。
「商店街の方に行ってみますか」
「うむ」
クレアをエスコートする形で商店街へ向かう。
「コナタ殿。そちらは商店街ではないぞ?」
「……」
なぜエスコートするはずの俺が、クレアにエスコートされているのだ!?
ヘタレなのか? 俺ってヘタレ!? いや、ただ道を知らなかっただけだ。……そういうことにしておこう。
「このマントとかいいですね」
「みかわしの服か」
スベスベしていて、肌触りも良い。ある程度の攻撃なら滑って外れるそうだ。
「うーん。値段が少し割高の気がするな」
「素材を持ち込みで作ってもらえないかな。原料は……、スベリ草とソフトスパイダーの糸か」
スベリ草はあるが、ソフトスパイダーの糸はまだ手に入っていないな。そもそもソフトスパイダー自体出会った覚えが無い。
「クレア、どう思います?」
クレアの方を見ると厳しい目つきでどこかを見ていた。
「どうかしましたか?」
「……腐ってるな」
視線を追った先は裏路地へと繋がっている。
「クレア?」
「ん? ああ、確かにな」
何が確かにな、だよ。誰もそんなことを聞いてないわ!
完全に他の事を考えていたな。一体どんなことだろう……。
疑問に思いながらも後ろ髪を引くみかわしの服に別れを告げ、他の場所へ見て回った。
しかしその後、クレアは先程のような事はしなかった。
日も落ちて周囲が暗くなる。
所持金を考えると野宿するのが手だが、二日連続は厳しい。それにクレアには戦いっぱなしだし、あれじゃゆっくり休めたりはしないだろう。寝るといっても仮眠程度になってしまうに違いない。
「今日は宿屋に泊まりますね」
「分かった」
既に夕食(城下町のレストラン)はとってあり、気分的にはもう寝るだけである。
目に付いた安そうな宿屋を見て回り、ある一軒に落ち着いた。
「亭主。一日いくらです?」
「あー。一人20銅貨だな。相部屋なら30銅貨にするぞ」
「馬鹿ですか。彼女を見て、よくそんな事が言えますね」
「ありゃ、訳ありかと思ったんだが」
「男と女を一緒に並べるとか、危険あり過ぎでしょ」
「構わん。相部屋にしろ」
「ほら、彼女もそう――」
「「え!?」」
店の亭主とハモったじゃないか。
「訳ありか……」
「こらテメェ、遠い目をするんじゃねぇ!」
一通り亭主をシバいた後、クレアに向き直り、
「クレア、何言っているんですか?」
「問題ない。私はそういうのに興味は無い」
――俺が少なからずあっちゃったりするんですけどねぇ!?
「こんな所で無駄なお金を使う必要も無いだろ」
「い、いや。お金の事は――」
「こうゆう所での節約が、のちのち役立つんじゃないか?」
……今思ったが、どうして俺は女と寝るのを拒否し、女は俺と寝たがるんだ。もしかして……誘われてる!?
「まぁ、そこまで言うなら仕方ないか」
そんな訳無いと確信しつつも、どこか心で期待する俺。
「どうも」
『特別な部屋に案内してやる。本来は40銅貨だがサービスだ』とか言う亭主にお金を払い部屋の鍵を手渡されて、目的の部屋へ進む。
どうも俺の足取りが軽い気がするな。
「ここか」
鍵と同じ番号のプレートが掛かった部屋を見付けてドアノブを捻る。
ギィィィィ……
木の軋む音が聞こえて、扉が開く。
中は割と小奇麗だった。小部屋に電球とテーブル、椅子が三脚。後は多少大きめのベッドが一つ……一つ!?
「……」
チラリと隣にいたクレアを見る。微塵も動じた様子も無く、普通に鎧を脱いでいる。
「ふぅ……」
「――ッ!?」
脱ぎ終わったクレアは軽装だ。そりゃ布一枚ぐらいの。
今まで鎧を着た姿しか見たことが無かったが、素顔のクレアは初めて見た。
無茶苦茶綺麗じゃねぇか!?
「私はシャワーを浴びてくる」
そう言っておいてあったタオルを手に取り、シャワー室へと向かった。
一人になった。
「本気で間違いとか、起きないよな!?」
嬉しいのか悲しいのか、良く分からない絶叫が部屋に響いた。
2013/9/8 題名を変更