思わぬ味方
飛び出た私たちに対し、年長者三人が咄嗟に腰へ手を掛け――そして武器が無い事に気付いて動揺した。それ以外の男は何も出来ず、ただあるがままを待っている。
「貴様ら、何者だ?」
誰も武器を持たず、腰には包みを下げている。私の問いに答えず警戒の色を見せる年長者三人に対し、最も幼い年頃の男が言った。
「あ、この人! 勇者様が連れていた人だよ!」
その一言で場の雰囲気が変わった。年長者が武器が無いにも関わらず、腰を低く落としていつでも飛び掛かる準備をしている。また、先程まで何も出来なかったはずの残った男らも隠すことなく明確な殺意を見せつけてきた。
年長者の一人が先走らないように、予め釘を刺す。
「動くな、この男が死ぬぞ」
「ひっ!!?」
牽制に動じたのは残った三人だった。やはり年長者に動揺の色は無く、ただ虎視眈々と隙を伺っている。
「私は貴様らには心底うんざりきているのだ!」
怒りを込めてそう言い放った。頭の中でコナタ殿が『いや、そんなことをハッキリ言ったらダメでしょう!?』と言ったが、知った事ではない。
そのまま言葉を続けようとした時だった。
「……どうしたの?」
メデューサがひょっこり顔を出して来た。最悪のタイミングだ。普段は出てこない割に、間の悪い時に出てくる。
私は慌てて制止した。
「メデューサ殿! 早く中に戻ってくれ! こいつらは命を狙ってるぞ!」
「メデューサ様! 中にお戻り下さい! こいつは敵です!」
そう言われた張本人は不思議そうに首を傾げた。それに加えて、私も首をひねった。もちろん、目の前にいる男達もそうだ。お互いを見合わせ、取り敢えず男の拘束を解いて向こうへ蹴飛ばす。それを若者らが群がって介抱する。
あくまで警戒を解かず、話しかけた。
「どういうことだ?」
「こっちが聞きたい」
睨み合ったまま、言葉を交わす。
「お前達村人は、メデューサ殿を殺そうとしているのだろう」
「確かにそうだが、我々ではない。逆に問うが、勇者はメデューサ様を殺す依頼を村長から受けたのではなかったのか?」
「それは違う。真の目的はそれではなく、正式な依頼人は村はずれに住む老婆からだ」
脳内で、コナタ殿が『ねぇ、なんで言うの!? 馬鹿なの!?』と頭を抱えているが知ったことではない。
「あぁ、ノエル婆さんからか」
納得したように年長者が頷いた。同じく首を縦に振った若者らは「信用出来るのでは?」と意見する。どうするか迷いを見せる年長者は難しい顔をしたが、やがてその口を開いた。
「詳しく話をする必要がありそうだ。メデューサ様、これをどうぞ」
男達は持ってきた包みをおいてメデューサの前で開いた。そこにはまだ腐臭のしない死にたてのポイズンラットが数匹、全員の分を足せば二十匹近くにもなる。メデューサはそれを受け取り「ありがとう」と呟いた。その声に最も幼い少年は「わーっ!!」と目を輝かせた。それ以外の男も少し嬉しそうに笑った。
「さて、長居は出来ない。この後はこのお方とお話しすることもある」
「えーっ。隊長、ボクまだ見ていません!」
「ダメだ。今日はここらで引き下がるべきだ。何より、村の連中に我々がここにいることを知られてはマズイ」
「そうですね」
不満げな少年を周りが窘める。ポイズンラットを受け取ったメデューサに一礼すると私に目配せをして下山しだした。私もメデューサに振り返り、別れを告げる。
「すまないメデューサ殿。日を改める」
「…………はい」
わしゃわしゃと髪が触手のように揺れ動き、ポイズンラットを抱えてるせいで触れない両手に代わって手を振る。私はそれに手を振り返して男たちの後を追った。
「我々と貴方が一緒に下山するのはマズイ。我々は違う道から下山する、貴方はそのままいつもの道で下りて下さい。決して、我々の事を村人に話さないようにお願い致します」
「分かった。どこで落ち合う?」
「少し遠くに居を構える富豪の家を知ってるか? 今夜そこに来てくれ」
「了解した。コナタ殿にも話を付けておく」
「お姉さん、バイバイ」
別れ際に少年が手を振るのにつられて、私も手を振り返した。
思わぬ援軍を得た私の足取りはとても軽い。きっとコナタ殿も驚くに違いない。今日、どこで何をしているのか分からないが宿に戻って来るのが楽しみだ。