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これでも勇者ですが、何か?  作者: 『螺旋 螺子』
彼が勇者ですか? 「はい。あの人と同じオーラがします(エキドナ談)」
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接触

 コナタに村の事を任せて、私は一人でメデューサがいる祠がある村はずれまで歩いていく。前回はポイズンラットの襲撃の裏側で、堕悪烈怒狼だーくれっどうるふの陰謀を気にかけて慌ただしく進んだのだが、心を落ち着けて歩いてみると良い雰囲気の明るい森だった。

 その森を抜けた先にある小さな原っぱ。岩壁に面しており、その中に祠が建っている。


「おや?」


 てっきり巣穴の中で一日中過ごしているのかと思っていたのだが、祠前の拓けた原っぱにメデューサは座っていた。森から出る形となる私の場所はメデューサには見えないらしい。私は声をかけようと思ってその恰好に気付く。

 メデューサは片膝をついて頭を垂れ、両手を合わせている。それはさながら、一心に何かを祈っているように。

 長く紅の髪は地面に垂れ、顔も見えない。それでも、僅かに見える口元は何かを熱心に唱えている。それからどれくら経ったかは覚えていない。何となく邪魔してはいけない気がして、ずっと見ていたのだ。

 祈りが終わったのか一息ついたように立ち上がったメデューサは私の視線に気づいたようだ。


「――ッ!?」


 それだけ熱心に祈りを捧げていたみたいだ。私の姿を目に捉えた瞬間、直ぐに祠の方へと引き返した。


「ま、待て!!」

「!!!」


 思わず飛び出た荒げた声に、メデューサは体をびくりと震わせ動きを止める。


「メデューサ! ほら、私だ。つい昨日、老婆と共に来ただろう?」

「……」


 そういうとゆっくりと体を動かして、こちらの方を見た。モザモザと顔を隠す前髪が勝手に起き上がり、触手のようにうねりだした。ようやく見えたその顔は、ひどくやつれて見える。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……ええっと」


 そのままノーリアクションで私の方を凝視するメデューサに狼狽える私。本当なら巣穴の外から声を掛けるつもりだったのだが、予想外の出来事に戸惑っている。緊張を隠すつもりでわざと声を荒げた。


「わ、私の名はクレア=アンティクリス。昨日、共にいた男はアモウ=コナタ殿だ。アリジリーナ王国国王ベンディクト=アンフォンス陛下の勅命の下、勇者として活動をしている。私はその剣だ!」

「剣? 私を、斬るの?」


 それは。

 遠くにいるはずのメデューサが発した消え入りそうなほど弱弱しい声。にも関わらず、まるで私の耳元で囁いたかのように聞こえた。

 思わぬ誤解に狼狽えた私は、慌てて弁明を図る。


「そ、それは違うぞ! メデューサ殿を世話をしてくれる老婆がいただろう? あの方に頼まれたのだ、メデューサ殿を助けてくれっ、と」

「……そう」


 メデューサは小さく呟いた後、自然な調子で祠の方へと引き返していく。一瞬私は止めようかと思ったが、祠の中に入っていくメデューサに慌てた様子も無い。


「そっちに行っても良いか?」

「…………どうぞ」


 どうやら思っていたよりも警戒されていないらしい。私は祠の方へと歩いて行った。覗き込んだ祠は手を入れると途中で透明な壁があるかのように空中で手が止まる。


「これが、結界か?」

「そう。心の綺麗な者だけ通れる」

「何、本当か?!」


 思わず素の声で叫んでしまった。祠の奥は小さな洞窟となっているようで私の声が大きく反響した。

 しまった、驚かせてしまった――という私の心とは裏腹にメデューサはくすくすと小さく笑った。


「嘘」

「えっ? な、なんだ嘘なのか……」


 私は心の汚れた人間なのかと悲しくなったじゃないか――と言葉を続けようとして私は我に返る。

 なんだかんだでコミュニケーションが通用している。今更の事実に目を丸くする私にメデューサは首を傾げた。会話の主導権を握られたようで、少し悔しい。


「話を戻すぞ。私はメデューサ殿を助けに来たのだ。どうか、そこから出てきてはくれないだろうか?」

「……………それは、出来ない」

「何故だ? 不安にさせてしまうかもしれないからコナタ殿には口封じするように言われていたのだが、実はメデューサ殿はこの村人から命を狙われているのだ」

「…………知ってる」

「その上、堕悪烈怒狼だーくれっどうるふと呼ばれる悪者が、絶対服従スクラーヴェメーカーという魔具を使ってメデューサ殿を捕まえようとしているのだ。メデューサ殿を手中に収めれば、大変な事になる!」

「それは…………困る」

「だろう? 私はメデューサ殿のお命とその身をお守りするために来たんだ。だから――」

「………………人間は、悪い人ばかり」


 小さなメデューサの呟きは私の胸を貫いた。何かを言い返そうとして、私は口を閉じる。言い返せないのだ、何も。


「そうかもしれぬ。メデューサ殿は今まで人の悪意に晒されてきた。そんな時に突然現れた私の話を信じろと言うのも無理な話だな……」

「冗談」

「へ?」


 そしてまた、メデューサは悪戯に笑った。からかわれたのをムキになって問い詰めようとしたその時だった。


「あ、そろそろ――」

「しっ!」


 何かを言いかけたメデューサの口を黙らせる。今、何かの気配を感じたのだ。それも一人や二人ではなく、おおよそ十人単位で。まさか、コナタ殿の説得が失敗したか? あるいは、独断での派遣か?

 まるで隠そうともしないのは自信の表れか、もしくはずぶの素人か。

 私は透明な壁があるギリギリの所まで姿を隠して気配を殺す。メデューサは不思議そうな顔をして私の背中を見た。

 接近してくるのが分かる、大半が腰を下ろすのが見えた。その内の一人がこの祠に向かって静かに近寄ってくる。ここに派遣されたということは、何らかの結界を破る術者を用意出来たということだ。いくら私が手練れと言えど、十人を一斉に相手取るのは骨が折れる。最悪、その者を無力化出来ればメデューサ殿の命は守られる。


「メデューサ――」

「ふんっ!!!」


 差し出された手を掴んでこちらへ引き寄せる。背後を取り、その首元へ剣を突き付けた。


「貴様ら、何者だ!!!」


 呆気に取られて動けないまま、私の前に姿を晒したのは七人の男。若いのは高校生ぐらいから、中年の大人まで。しかし、携帯しているのもは私の想像とはまるで違った。

 故に、私はもう一度問う。


「貴様ら、何者だ?」

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